フォトクリエイト白砂晃氏「プロフェッショナル経営者として、進化する映像美を届けたい」

MBAの真価は取得した学位ではなく、「社会の創造と変革」を目指した現場での活躍にある――。グロービス経営大学院では、合宿型勉強会「あすか会議」の場で年に1回、卒業生の努力・功績を顕彰するために「グロービス アルムナイ・アワード」を授与している(受賞式の様子はこちら)。2019年、「創造部門」で受賞したフォトクリエイトの白砂晃氏に、MBAの学びをどのように活かしたのか聞いた。(聞き手=橋田真弓子、文=滝啓輔)

日本にはなかったビジネスモデルで起業

知見録:受賞おめでとうございます。感想を教えてください。

白砂改めてグロービス経営大学院のパワーを実感しています。授賞式会場の浜松に1500人もの在校生と卒業生が集まっている。しかも、アジアでナンバーワンを目指すような優秀な社会人ばかり。みなさんのパワーをいただく一方で、われわれアルムナイも、そのパワーをエンハンスできるよう、今後も頑張りたいと思いました。

知見録:これまでの道のりについて振り返っていただけますか。

白砂:新卒でNTTに入りました。ただ、1年もしないうちに、当時上場直前のサイバーエージェントに移りました。ベンチャーが大きく成長をとげるのを体感できたのはよかったですね。

また、シー・エー・モバイルという子会社の立ち上げに関わったのですが、そのときに黒字倒産しかけて。「黒字でも倒産することはある」「キャッシュフローについてよく理解していないといけない」…そんなファイナンスの基礎を社長の近くで学べたことは、振り返ると大事な経験だったと思います。

知見録:当時のサイバーエージェントは、かなりハードワークだったのでは?

白砂:そうでしたね。毎日早朝に出社して、終電で帰るような生活が続いて。でもそこまで仕事に没入できたのもいい思い出です。

それだけ忙しくても、定期的に「ビジネスのネタ探し」はしていました。夜、仲のいい同僚10人くらいで集まって、「新しいビジネスあった?」って、毎週のように議論するんです。そこで気になった企業は、直接フランチャイズの説明会に顔を出してみたり。

知見録:そんな中、フォトクリエイトのビジネスモデルにも出合った?

白砂:そうなんです。当時、富士通で勤めていた高校の同級生が、シリコンバレーに4か月ステイして帰ってきたので、早速、会社に来てもらって、「ちょっとシリコンバレーの情報教えてくれないか」と。

すると、アメリカには、プロカメラマンが撮影した写真をネットに掲載して販売するビジネスモデルがあると言うんです。「それは日本にはないな」って思いました。その頃のデジタルカメラはまだ図体も大きくて、シャッターを押してから撮れるまでにタイムラグがあったのですが、将来は絶対もっとコンパクト化するだろうと。NTTにいましたからインターネットが高速化するという確信もあり、「日本でも絶対できるから、やろう」と起業を決めました。

知見録:そして、サイバーエージェントに入社して2年後に起業された。

白砂:とはいえ、当初は自分たちのできること、モバイル広告の営業だったり、システム開発の受託だったりで食っていて、写真販売事業を始めていなかったんです。さすがにこれはまずいと思って、本腰を入れてサイトをつくって販売を開始したのが2003年です。

まず力を入れたのが「社交ダンス」の写真販売でした。プロのカメラマンが撮った写真に価値を感じるのは、経済的にも時間的にも余裕がある人たちだろうと思って、絞り込んだ領域です。

ところが、社交ダンスをやっている人の多くが60代以上だったんです。みな、インターネットをうまく使えなくて、こうなったら「現地販売だ」と、会場に行って画面で写真を見せながら販売していたんですよ。それでも確実に写真が売れていって、うれしく思うと同時に、「やっぱり写真の価値ってあるな」と事業を拡大していく決心がつきました。

東京マラソンで起きた一大トラブル

知見録: どのように事業を拡大されたんですか?

白砂:ひたすらローラー作戦です。カメラマンの確保で言ったら、たとえばスポーツの大会に行って、現場にいるカメラマンをリクルーティングする。このとき、あえてスーツを着ていくと、大会関係者に見えるんですよね(笑)。そこで直接声をかけて、当社でも撮影してくれないかと。その過程で、人脈のあるカメラマンにも出会えて、あとは口コミでどんどんネットワークが築けました。

一方で、撮影をさせてもらえるイベントの開拓もしないといけない。こちらは色々なスポーツの業界誌を買って、行われている大会を全部調べ、その主催者に直接電話して。「僕らはこういう商売をやっているんです。協賛金も払うので会場に入れてもらえませんか?」と頼むと、嫌がられることもまずなかったですね。

知見録:ただ、そうするとなかなか利益が出ないのでは?

白砂:そうですね。まずはこちらの持ち出しになるので、赤字の大会もあれば黒字の大会も出てきて、事業を拡大すればするほどキャッシュフローが悪くなってしまう。ただ、写真の掲載期限を2か月から1か月に短縮するなどして、キャッシュフローを改善したんです。

知見録:では、早々に黒字に転換できた?

白砂:いや、実際には6年間、2008年ぐらいまでは赤字でしたね。もっと言うと、債務超過もしていたんです。周囲からはかなり心配されました。ただ、何をすべきかは分かっていて、赤字の大会全部から手を引こうと。当時、500くらいのスポーツの大会に関わっていたのですが、その半分の撮影を見送らせていただきました。「感動をカタチにしてすべての人へ」という理念を掲げているので、社員からは反対もありましたが、会社継続のためには必要な決断でしたね。

知見録:東京マラソンにも入り込んでいます。スタート時からの関係ですか?

白砂:ええ、東京マラソンが開催されることは3年ほど前から知っていたので、ずっと営業をかけていました。注目される大会だったので、ライバルもいたのですが、そこはなんとか勝ち取って。

でも、そのあとが大変だったんですよ。第1回の東京マラソン後に写真を公開したら、驚くようなアクセス数で、サーバーに負担がかかりすぎて、データが全部吹っ飛んでしまったんです。結局、専門の業者にデータを復旧してもらって事なきを得たのですが、予想外の手痛い出費でした。ただ、あれで本当にデータが失われてしまったら、その後の成長はなかったはず。それを考えれば、以降は比較的順調に来たと言えるのではないでしょうか。

知見録:他にも幼稚園や保育園向け、ウエディング向けのサービスなども手がけています。

白砂:もともと学校写真をやろうと思っていたんですけど、1枚ごとの利益率が、どうしても低い。ですから、優先順位を下げていました。最初スポーツから入って、さらに音楽系で吹奏楽とか、あるいは祭りとか、そういう領域から手をつけていこうと。ただ、そうこうするうちに、学校写真を始める競合が出てきたので、初心を思い出して、自ら先頭に立って学校に営業をかけて、一気に事業を立ち上げました。2006年のことです。

プロフェッショナル経営者にあこがれて

知見録:その後、2008年には債務超過もありましたが、ついに黒字に転換します。そこでグロービスに行かれるわけですか?

白砂:はい、タイミングとしては、2009年に黒字転換し、一息ついたのもあって、総合的にビジネスを学びたいとグロービスに通うようになりました。ただ、それ以前に、ファイナンスについての知識だけでもまずはつけないと、と思っていた時期があるんです。

以前、ベンチャー界隈ではよく知られている、ハイパーネット創業者の板倉雄一郎さんのファイナンスセミナーがあって、1泊2日、泊りがけで参加したんです。そこで原理原則はわかったものの、「まだまだ勉強が必要だな」と思ったんで、そこにいたメンバーと仲よくなって、定期的にファイナンス勉強会をやったんです。色々な企業の有価証券報告書を読み込んだり、ときにはIR担当に連絡して実際に話を聞いてみたり。もちろん、後年、グロービスで学ぶような本格的なものではなく、あくまで基礎でしたが。

知見録:では、グロービスではファイナンスを学び直したり、それ以外の領域についてゼロから学んだりしようと?

白砂:そうですね。加えて、実は「プロフェッショナル経営者」へのあこがれもありました。高校時代の同級生に、ホライズン・デジタル・エンタープライズ(現HENNGE)の創業者、小椋一宏という男がいるんです。彼は大学時代に起業しているので、僕からすると先輩経営者にあたる人。

そんな彼から、アメリカではゼロイチで事業をつくるアントレプレナーがいて、彼らがその後プロフェッショナル経営者にバトンを渡して、イチから10に、10から100に、100から1000にと企業がスケールしていくんだという話を聞いたんです。自分は「なんて合理的なんだ」とも、「日本では、そんな存在、聞いたことないな」とも思って、プロフェッショナル経営者を目指した先に、MBAがあったんです。

知見録:そういった、色々なタイミングが重なっての2009年の入学だと。

白砂:はい、これを機にプロフェッショナル経営者になれたらと思って入ったんですが…、上場を視野に入れ始め、忙しいことを理由に2010年には休学しました。ただグロービスのベンチャーキャピタルが当社に投資していることもあって、代表の堀さんに会うたびに、「絶対グロービスを卒業しろ」と発破をかけられて。また、自分の中高の先輩にあたるグロービス教員の山中礼二さんからも「戻ってこないか」と声をかけられていたんです。

結果的に、2013年の上場から2年後、2015年に復学しました。今度は2年で普通に卒業できたのですが、実はその過程で、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)からTOBを受けました。

知見録:そのTOBについても、話せる範囲で聞きたいです。

白砂:まず、CCCの増田宗昭社長とカメラのキタムラの北村(現)名誉会長のことからお話しさせてください。CCCの創業期にいち早くTポイントを導入したのが、カメラのキタムラだったこともあり、お二人にはもともと強い絆がありました。2013年ですが、今後のキタムラの展開を考えるうえで、増田さんがこれからはスマホの時代ということで戦略を立て、その流れの中で人づてに自分が呼ばれました。それが増田さんとのご縁で、写真業界の未来を踏まえた、キタムラの戦略を議論する関係になりました。

その議論の延長上で、2014年にCCCが当社の筆頭株主に。CCCは2013年に、しまうまプリントシステムというネットプリントの会社も傘下に入れて、キタムラとの関係も強かったので、いつかはネットも店舗も合わせた写真事業の合従連衡があるかもしれないと予期していました。それが2016年のフォトクリエイトのTOBにつながったんです(なお、2018年にはキタムラがCCCの子会社になり、2019年にはキタムラ・ホールディングスを新設。フォトクリエイトはその子会社となった)。

「同じ言葉」で話せる仲間がほしい

知見録:そんな大きな動きの中で、フォトクリエイト現社長の吉田メグさんや、他の社員の方もグロービスに入学し学ばれていました。何か意図があったんでしょうか?

白砂:長い目で見たとき、フォトクリエイト本体の仕事を彼らに任せるための投資という側面がありました。同時に、常に課題として感じていたのが、MBAに通ったあと、僕と「同じ言葉」で話せる人が周囲にいないなと。普段、自然と使っている専門用語、たとえば5Fとか、7Sといったフレームワークとか、DCFとか……、を社員にも理解してもらいたいという思いが大きくて。その後、学費の半額補助制度もつくったら、一気に受講する社員が増えましたね。

知見録:なるほど。他にもグロービスの意外な活用法はありますか?

白砂:たとえば、授業に出ているとき、他の生徒の発言を注視していましたね。それで、良さそうな人材だったら、会社に誘う。実際に、CFOとして入ってもらった人もいます。これは、経営者からしたら、とても魅力的な機会です。

また、もちろん、先生との付き合いも魅力です。「リーダーシップとメンタルヘルス講座」を受講していた頃は、当社でもメンタルヘルスの悩みを訴える社員が何人かいて。授業を受けてすぐに佐藤隆講師に顧問になっていただきました。以降、当社のメンタルヘルスマネジメントは適切と言える状態を維持しています。

テクノロジーの力で映像美をアップデートし続ける

知見録:最後に、フォトクリエイトの今後の展望について伺えますか? 

白砂:そもそも、フォトクリエイトは、時代のテクノロジーの波によって生まれた産業だと思っています。以前は、昔ながらの写真屋さんや、写真を年賀状にして届けるような仕事をしている人たちがいました。でも、僕らが参入する前に、軒並みつぶれてしまった。それって、デジカメやインターネットの誕生を、うまく活用できたかどうかの差だけなんですよね。

今後も同様に、進化するテクノロジーを、どう活用するかを考えていくしかないんです。映像美って時代とともに、どんどん入れ替わるんですよ。わかりやすい例でいくと、10年前の映画を見ると絶対「古い」って感じるはずなんです。映像美が変わってきているから。たとえば、画素数が上がっているとかね。加えて、昔はVRのようなものもなかったし、いまは小型カメラも性能がよくなってるから、以前では撮れなかったような画が撮れる。そんな映像美をどうつくっていくか。

そこができていれば、フォトクリエイトのもとに写真もカメラマンも集まる。もちろん、エンドユーザーの方々にも、「いい」と思われる映像美を提供できる。引き続き、映像美のアップデートを研究していきます。

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