本記事は、G1ベンチャー2019「日本のベンチャーが世界で勝つための戦略」の内容を書き起こしたものです(後編) 前編はこちら>>
高宮慎一氏(以下、敬称略):それでは、メルカリにおける海外展開のKSF(キーサクセスファクター)と、それを支える経営組織についても伺ってみたいと思います。
メルカリ、スマニューの海外展開における組織体制
小泉文明氏(以下、敬称略):組織という点ではジョンがCEOですし、CTOもCFOもCMOもアメリカにいます。我々は今、バーチャルホールディングスっぽい考え方をしているんですね。それで日本の事業にも日本のCEOがいるし、CTOもCMOもいるという感じです。その上に僕や山田(進太郎氏)のような、HQ(ヘッドクォーター)というか、グローバルを見るメンバーがいるという体制にしています。
そんな風にして、今後は拡大していくに伴って、それぞれの国や拠点に経営チームをつくっていきます。そういうやり方でないと、先ほど言ったようにかなりローカルに依存したビジネスだから、立ちいかなくなったりスピードが出なくなったりするなと。最低限のところは僕らHQで見ますが、たとえばジョンからしたら、お金と人材の行き来をどうやって確保するかという以外では、あまり僕らのことを意識することもないような経営だと思います。
高宮:お金の話以外でHQがグローバルに横串を通すべきものって何になるんでしょうか。
小泉:「人」の部分はあると思いますね。たとえば日本には約40カ国から社員が来ているんですね。今、エンジニアリングチームは30%ぐらいが海外からのメンバーで、その比率は今後も少しずつ高まると思います。特にAI等について日本で良いエンジニアを採用するのは不可能に近いと思っていますので、どのようにグローバルなタレントを確保していくのかと。あと、今はUSの開発の一部を日本でも行っています。シリコンバレーの会社でもCTOがインド人であればインドでつくっているのと同じように、僕らも日本のエンジニアリングチーム、あるいは日本で開発することの良さをそこで生かしながら、開発の競争力を高めているという形になります。
高宮:開発では日本を生かしつつ、他の部分はローカルに権限をかなり委譲している、と。
小泉:そうですね。たとえばトランプ政権になってから、アメリカのビザが発給しづらい状況になっていますよね。それでグローバルに良いエンジニアがかなり溢れているというか、アメリカに行けないということで、ありがたいことに日本行きが結構喜ばれているんです。それで僕らは去年もIIT(インド工科大学)から新卒を30人ほど採用しました。インドの新卒人材はインドから出たいんです。だからバンガロールにあるUS企業の支社もそれほど魅力的ではない、と。そこで僕らはインドにてハッカソンをしたり、いろいろとブランディングもしつつ、IITから優秀なメンバーを取るということをしてきました。
高宮:日本ならではの強みということで、今は意外と海外から優秀な人材を取りやすいということですが、スマートニューはどうですか。
鈴木健氏(以下、敬称略):それはかなりありますね。うちの開発チームは、ほぼ全ポジションで日本語ができなくてもOKにしました。それで今は世界中から応募が殺到しています。直近6ヶ月では、入社を決めたエンジニアのうち85%が非日本人というところまで来ています。今後もそうした比率はどんどん高まっていってもおかしくないな、と。やっぱり「日本が大好き」という方は世界中にたくさんいるし、東京で働きたいというエンジニアの方も多いので。
高宮:何かほかに、日本ならではの生かすべき強みというのはありますか?
メルカリはIPOにあたって業績予想を出さなかった初めての会社
小泉:「お金はしっかりある」と(会場笑)。グロービス・キャピタル・パートナーズさんも400億のファンドをつくりましたし。各VCもファンドレイズしていますが、日本のボリュームは必ずしも小さくはないと思っています。もちろん「アメリカと比較したら」というのはあると思いますが、グローバルで戦うための1社あたり100~200億のファイナンスという金額なら、日本でぜんぜん集まります。だからそこは悲観せずに。日本の投資家の方々にもきちんとお金を入れてもらいながら、どこまで踏み込んで経営できるか。僕らは創業以来1度も黒字になったことはないですし、IPOにあたって業績予想を出さなかった初めての会社ですから。そういうことをやりながら資本市場の方々に、ある意味ではスタートアップの成長の仕方を理解してもらう必要があるのかなと思っているんですね。だから、スマニューが上場するときは「メルカリだって業績予想出してないよ。あいつら赤字だったじゃん」みたいなことが言えるよう、ファーストムーバーとして良い影響力を発揮していきたいと思っています。
高宮:未上場、上場ともに日本の資本市場は意外と悪くないというお話ですかね。健さんはいかがですか?
鈴木:オペレーションやHowの部分って日本の方は強いですよね。実はグロースのためのオペレーションに関しては、シリコンバレーでもかなりアジアの方が担っているところがあります。そうしたHowの部分はすごく強いし、たとえばバグを出さないとか、守りの強さもある。ですから、グローバルではバランスを取っていきたいというか、攻めと守りで多様な人材が必要になりますし、そのポートフォリオとしてすごくいいと思います。
高宮:そうですよね。製造業のカイゼンで磨かれてきたマインドが、日本のモバイルエコシステムのなか、どんどんインターネットにも応用されてきた部分はあって、そこは世界でも圧倒的な強みにつながると思います。では、会場からも質問をいただこうと思います。
Q1、市場規模も踏まえつつ、世界を獲るという意味で「中国」をどのように見ているか?
小泉:中国については、僕らはライセンス関係までふまえると自前で出ていくのは結構難しいと考えていて、おそらくパートナーシップを組んで進めるという話になると思います。ただ、その優先順位は、正直、下げています。やはりアメリカを取らないとグローバルで成功するための足がかりがまったく築けないと思っているので、今はそこにフォーカスしよう、と。以前はイギリスをやっていたんですけれども、閉じました。サービスは伸びていたんですが、それ以上にやるならマネジメントの頭のなかも含めて、お金も人もさらに投入しなければいけなかったので。そう考えると少し時期尚早ということで、アメリカを勝ち切ることにフォーカスすべきだと考えました。そのうえでファイナンスを含め体力を貯める必要があると考えています。あと、中国ではメルカリのようなモデルも少しずつ出てきてはいますが、まだ「新品が欲しい」という状況なのかな、と。また、まだ偽物も相当に横行しているので、その辺に対応したアルゴリズムやAIを相当やらないと難しいと思っています。そういうことまで踏まえて、まだ少し先という風に見ていますね。
高宮:マルチナショナル型は優先順位を相当はっきりさせていると思いますが、ユニバーサル型はどうですか?150カ国でプロダクトが出ているんですよね。
鈴木:スマートニュースが今フォーカスしているのは日本とアメリカです。ここはずらすつもりもなくて、まず日本とアメリカでしっかり事業基盤をつくっていこう、と。一方、中国市場はおそらく世界で一番競争が激しいんですよね。ニュースアプリのカテゴリも中国は最も競争が激しくて、次に激しいのが日本。中国と日本に比べるとアメリカはそこまで激しくありません。新CSOの任は、元DeNA chinaのCEOとして、外資のインターネット企業で珍しく中国事業の立ち上げを成功させた経験がありますが、彼も中国市場の圧倒的な競争の激しさをよく分かっているので「その戦略は正しい」と。ですから、まずはアメリカにしっかりフォーカスしていこうと考えています。
高宮:一般化していいのかどうか分からないんですが、日本のベンチャーからすると「市場はでかいけど競争が激しくてマクロリスクがある」ということで、どうしても中国事業の優先順位は下がっちゃうんですかね。
小泉:やるのならアメリカと同じぐらい、もしくはアメリカ以上にやらないといけないので、企業体として体力を見極める必要があると思います。
高宮:グローバル経営への移行に伴う経営者個人の成長についてはいかがですか?
鈴木:英語に関しては、アメリカ出張中は当然ほとんどのミーティングが英語ですけれども、僕の場合、すでに東京にいてもミーティングの半分が英語です。基本的には、英語しか話せない、日本語が話せないメンバーが1人でもいたら、英語のミーティングになります。それで僕も今は50%以上が英語ですね。ですから語学という意味では、特にマネジメントクラスでは移行が終わりつつあります。現場はもう少しかかりますけれども。
あと、今後のチャレンジに関しては、アメリカのベストプラクティスを知っている人たちをどうマネージしていくかがすごく重要になります。それと、僕はここ5年間、アメリカで23ぐらいの州を訪れて、およそ数百人の人たちに会っています。それで、どんなアプリを使っているのか、どんな情報を集めているのか、どんな生活をしているのか等々、1対1でヒアリングをしているんですね。こういうことをやっているシニアクラスの人はほとんどいないので、今は僕のほうがアメリカにおけるアプリ等の状況について詳しかったりします。ビッグデータでなく、僕のニューラルネットワークにインプットされた圧倒的なケーススタディがあるから、たとえば誰かの採用、または採用後のディスカッション等で何か劣後を感じるようなこともありません。
アメリカは極めて多様なんですよ。10~20人に会ったから分かるような世界ではない。だから僕は今も各州の歴史や地理に関する知識をどんどんアップデートしています。アメリカの歴史を知らないと分からないこともたくさんあるので。そういうものまでどんどんインプットしている人はアメリカでも少ないので、そういうところで自分の付加価値を出していきたいと思っています。
Q2、報酬を含め、CxOクラスをどのように採用しているか?
鈴木:僕が世界で勝つため参考にしているのは、レアル・マドリードです。それで彼らの試合をマドリードまで観に行ったり、FC今治までサッカーチームの経営の仕方を勉強しに行ったりしています。スマートニュースって、アスリート集団でなければいけないと思っているんですね。だから世界で戦える人材を集めることにコミットしていく必要がある。また、そうして集めた最高の人材が、最高のパフォーマンスを出せるだけの環境をしっかり用意することも会社の仕事だと考えています。で、それなら世界のトップタレントに最高のパフォーマンスを出してもらえるだけのオフィス環境や報酬も当然必要になると思います。
ただ、そこで間違ってはいけないのが、お金目的で来る人を採用しちゃいけないということ。我々はニュースという社会的公益性がすごく高い事業を営んでいます。だからミッションにしっかり共感できる人に入ってもらわないといけない。むしろ、そのミッションがあるからこそ入ってくれるという人材に対して、シリコンバレーの他社レベルから見ても遜色ない報酬を出すという、そういう考え方をしています。お金で釣ってはいけない、と。そのうえで、報酬はしっかりと業界標準に則って支払うという考え方になります。
高宮:グローバル展開も「勝算があるから」ではなく、「ミッションありき」ということで。
鈴木:そうですね。Day1から我々が掲げている「世界中の良質な情報を必要な人に送り届ける」というミッションに基づいてやっています。すると、そこにConsistency(一貫性)とIntegrity(整合性)が生まれ、それをやり続けていくことで共感してくれる人も出てくる。その結果として僕らは2016年以降、成長が加速しました。そこがブレて「お金目的の会社」と思われるとどうなるか。一番優秀な人は、お金じゃなびかないんです。「自分がこの社会に生まれてきて、成すべきことを実現したい」と考える。だって、そういう人は何をやったってお金は稼げるわけだから。お金だけを目的にしていると、本当に優秀な人は来ないですね。
高宮:最後は「結局はグローバルに共感を生むミッションが大事」という、いい話で終わりましたので、本セッション、これで終了にしたいと思います。ありがとうございました。
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