キャンペーン終了まで

割引情報をチェック!

メルカリ社長、スマートニュースCEOが語る!日本のベンチャーが世界で勝つために必要な戦略とは?〜小泉文明×鈴木健×高宮慎一

投稿日:2019/09/24更新日:2019/09/25

本記事は、G1ベンチャー2019「日本のベンチャーが世界で勝つための戦略」の内容を書き起こしたものです(前編)

高宮慎一氏(以下、敬称略):今日は我々世代のトップとして、今マフィアになりつつある2社にご登壇いただきました。たまたま今回のG1ベンチャーが開催されるタイミングで、2社とも「海外でうまくいっています」といったリリースを先週出していましたよね。そのあたりも踏まえて、まずは海外展開が今どんな状況かというお話を伺いながら、海外展開をするうえでのKSF(キーサクセスファクター)を紐解いていけたらと思います。では、小泉さんから。

全米ローンチ翌年にトップ3、直後オペレーションが壊滅的状況に

小泉文明氏(以下、敬称略):はい。メルカリは2013年2月につくった会社ですが、翌2014年9月にはアメリカでの事業をスタートしました。で、それから紆余曲折あって凸凹はしていますが、直近1年間ぐらいはだいたい年率で70%成長をキープしています。月間の流通高はアメリカで40~50億円ぐらい。日本は今500億円に届かないぐらいですから、伸びてはいるものの、まだアメリカではゼロが1つ小さいんです。チームとしてもジョン・ラーゲリンというFacebookのVPだった人材が去年ヘッドに加わって以降、すごく順調に伸びています。

高宮:未上場の頃からUSではいろいろ試していらしたと思います。当時考えていたことのなかで、実際にアメリカでうまくいったことといかなかったこと、あるいは今大きく伸びてきたことって、どんなことがあるんでしょうか。

小泉:僕らはそもそもミッションに「グローバル」という言葉を入れています。特にガラケーからスマホに変化するタイミングで会社をつくったこともあって、「スマホになったらグローバルに行かざるを得ない」と。それで最初からグローバルを意識していました。で、アメリカでのローンチ当時は日本と同じアプリでデザインもほとんど変えず、言語を英語にしたうえで決済と物流の会社だけアメリカに最適化させて、かなりスモールに出しました。

そういうなかで僕らは1度、マーケティングで大ヒットをつくったんですね。アメリカでローンチした翌年夏にバイラルキャンペーンがヒットして、一晩で一気に全米トップ3に入りました。もうSnapchatとInstagramの次というぐらいで、僕は当初「バグが起きた」「なんか乗っ取られたんじゃないか」って(笑)。まったく信じなかったんですけれども、「どうやら本当らしい」と。それで、当時は日本でも急拡大していたフェーズだったし、「これはアメリカでもいける」と思い、そのタイミングでマーケティングもさらに思い切って踏み込みました。それで3週間ほどトップ10をキープしました。僕らのようなC2Cビジネスはどんどん数字が積み上がるから、「これで少しずつニ次曲線に入るんじゃないか」と考えて思い切り踏み込んだんです。

でも、それで何が起きたか。カスタマーサポートがパンクして結果的にその後のオペレーションが壊滅的な状況に陥りました。企業体としてそこまで体力がなかったのに、「お金がある」ということで踏み込み過ぎてしまったんですね。

そういうことがあったから、その後は半年以上、最低限のものを除いてマーケティングをほぼ止めました。当時、カスタマーサポートは大部分を第三者であるフィリピンの会社にやってもらっていたんですが、それを縮小して、アメリカに自前のカスタマーサポート拠点をつくりました。そうして少しずつオペレーションを改善していった、と。その間、流通高は下落傾向です。でも、そのタイミングでチームを組成し直したりして、その後もう一度伸びていって現在の成長につながっているという流れですね。ですから1度はかなり痛い目を見ています。

高宮:ありがとうございます。では、続いて健さん。日本との兼ね合いも含めて、現在はどういった考え方で海外に出ているのかを教えていただけますか?

アメリカ版スマニューは「バランス良く情報を届ける」ことで全米トップ10に

鈴木健氏(以下、敬称略):スマートニュースがスタートしたのは2012年の6月15日だから、ちょうど7年たったところです。我々もDay1からグローバル展開を目指していました。それで2014年初頭から準備をはじめて同年10月にはアメリカ版をリリースしたので、あちらで事業を展開しはじめて5年になります。アメリカでは去年2018年が最も大きく成長した年になりました。1年間でおよそ5倍に成長しています。アメリカにParse.lyというメディア向けGoogle Analyticsのようなサービスがあるんですけれども、そのReferrer(参照元)ランキングで英語圏のトップ10に入りました。そのときの11位は米国Yahoo!。彼らを抜いてスマニューが10位になったんですね。で、我々の1つ上がBingで、その上がPinterestというところまで成長してきました。

この1年間でそうした成長を遂げた大きな理由の1つに、アメリカ社会全体で吹いている追い風があります。ソーシャルメディアでニュースを見るというのは極めてバランスの悪い情報取得方法ということが、2016年の大統領選を境にアメリカの社会問題になっていたんですね。リベラルと保守の分断という社会的問題はもともとあったんですが、それがアメリカ人の意識にのぼった。そのなかで、スマートニュースが以前からずっと続けていた「バランス良く情報を届ける」というアプローチやアルゴリズムが認められ、今はかなり追い風が吹いているという状態です。

それで先日、アメリカでの急成長を受けてグローバルな開発体制に移行するというプレスリリースを出しました。社外取締役には「プレイステーション」の父と呼ばれる久夛良木健(くたらぎ・けん)さんに入っていただいています。8年間でゼロから1兆円のビジネスをつくった人であり、僕らが高く掲げている目標についても「当り前でしょ」なんていう、目線の高さを持っている方なんですね。そんな久夛良木さんに指導を仰いでいくほか、取締役CSOにはDeNA ChinaのCEOだった任宜(にん・ぎ)さんという方、Vice President of EngineeringにはFacebookニュースフィードのインフラ責任者だったYoulin Liさんという方に入っていただきました。

さらに、東京、ニューヨーク、サンフランシスコという既存の3拠点に加えて、パロアルト、福岡、上海にもR&Dセンターを開設して、よりグローバルな開発体制への移行を進めています。あと、6月1日付けで今までの浜本(階生氏)と私による共同CEO制から、私の単独CEO制に移行して、浜本は取締役COO兼チーフエンジニアとなりました。グローバルでやっていくにあたって意思決定を早めるという目的で、このような体制に移行しています。

高宮:経営だけでなく、プロダクトづくりの体制もグローバルで横串を通す形にした、と。

鈴木:そうですね。うちの会社は‘Global One Product, Global One Team’というポリシーを掲げていて、たとえばプロダクトの責任者はJeannie Yangというアメリカの方になります。「Smule」という、グローバルで5000万MAUぐらいの音楽アプリをつくった人で、今は彼女がサンフランシスコから東京のチームを見ている形です。Youlin Liもサンフランシスコとパロアルトの両方に勤務していて、アメリカから日本の開発チームを見ています。

高宮:伺ってみると、グローバル展開のタイミングや背景は2社で微妙に違うと感じます。スマニューは日本でプロダクトがスタートしたDay1からグローバルを志していた一方、メルカリも当然マインドは最初からグローバル志向だったと思いますが、事業展開は「日本で先行してから海外へ」という形だった、と。その辺の違いはどこから来ているんでしょう。

メルカリのプロダクトが日米で全く異なる理由とは?

小泉:僕から見るとスマニューで大切なのはどのようにしてコンテンツを届けるかということだと思うんですが、メルカリはサービスのバリューチェーンに物流と決済が入るんですね。特に物流が入ると世界中で一気にデリバーするのが難しくなる。ですから、僕らとしてはまず日本でしっかりと足腰を鍛える必要があると考えていました。ただ、一方で最初からアメリカを狙っていたというのもあります。実は、僕らもC2Cのフリマアプリとしては結構後発なんですね。そこから一気に競合をまくって最後はフリル(現ラクマ)を抜くタイミングで、すでにアメリカのオフィスをつくろうとしていました。ですから、物流が入ることの難しさを最初から意識しながら入っていったというのはあると思います。

高宮:自社ビジネスモデルのローカル性をきちんと考慮したうえで、事業展開を考えていったという。

小泉:そうですね。ですからアプリも、たぶん健さんのところはデザインも共通しているところがあると思うんですが、僕らのほうは日米でまったく違います。たとえばアメリカの方々の宗教的なバックグラウンドまで反映した万人受けするUIということで、日本とはまったく違う形でやっています。だから開発チームもまったく別という感じですね。

高宮:アイコンも違うし、アメリカでは売り手のほうにだいぶ寄せてつくっていますよね。

小泉:その辺はユーザーインタビューも反映しているんですが、とにかく僕らとしては「使われないと話がはじまらないな」というのがあったので。日本のプロダクトを持っていったりもしたし、日本でのデザインやUIを捨てることについてはもちろん議論がありました。ただ、それをしないとアメリカには、他民族の国家には馴染まない、と。それで捨てるところを決めてからは動きもかなり早かったと思います。

高宮:マスターのソースコードも完全に分けているんですよね。

小泉:そうです。ソースコードを分けるときはすごい議論があったんですけれども、そこからやっていきました。だからCTOも別々ですし。AI等については同じような技術を使っているので、インフラというかベースは一緒の部分がかなり多いんですが、見せる部分はまったく違う表現をしています。

高宮:一方、スマニューのほうはグローバルでワンプロダクトということで、なぜそういう風にできたんでしょうか。

ワンプロダクトで通用するが、ローカル性は必要になる

鈴木:事業として、コンテンツの配信にそこまで重いオペレーションが必要ないというのはひとつあると思います。ローカルなパブリッシャーさんとのリレーションシップは必要ですが、それも4~5人のチームで基本的には立ち上がるので。GoogleもFacebookもそうですが、やはり情報を提供するようなサービスというのは、基本的にはワンプロダクトで世界に展開していっても、ある程度は通用するところがあるんですよね。ですから、我々もそういうやり方が正しいだろう、と。

ただ、最終的にローカル性も必要になるので、インフラまたはコアの開発基盤、あるいはUXのコンポーネント性といった部分には今かなり手を入れています。たとえば日本版にはクーポン機能がある一方、アメリカでは「ポリティカルバランシング」という、政治的にバランスを取るアルゴリズムがスマートニュースの売りになっているんですね。リベラルな人にも保守的な人にも同じニュースを出すというアルゴリズムで、それをユーザー体験として2.0にどうやってバージョンアップするかということを今はアメリカで議論しています。そんな風に、日本とアメリカでまったく違う部分もあって、後者を日本で展開する予定は今のところありません。社会が違えば、当然ながらプロダクトも違ってきますから。そのとき、同一の開発基盤あるいは1つのプロダクトのなかでユーザー体験の違いをどのように吸収していくのかという問題があります。

ただ、これもグローバルにおけるベストプラクティスがあって、アメリカではパターン化されているんですね。ですから、その知識や経験を持つ人たちにチームへ加わってもらって、どういうパターンでやっていけばそれをつくることができるのかを考えていく。それで、僕も今は毎日のディスカッションを通して「あ、こういうやり方があるんだ」と学びながらやっている感じです。

高宮:ひとくちに海外展開と言っても、全世界で横串を通すグローバルなモデルと、各ローカルでロジ等が微妙に違うものを積み重ねていくマルチナショナル的な戦略の違い、みたいなものがあるのかなと感じました。

小泉:言ってしまえばアマゾンもグローバルでやれていないわけですよね。一方でFacebookはメディアとしてやっているということで、その違いは大きいと思います。

高宮:アマゾンでさえ世界では…。

鈴木:10カ国ぐらいですね。

高宮:たとえばワンプロダクトのような方向でやるとすると世界の競合とガチンコになりますよね。そのとき、日本から出ていく場合の勝ち筋ってどんなところにあるとお考えですか?逆に言うと今は何を強みにして海外のプレイヤーと戦っていらっしゃるんでしょうか。

アメリカではスマニューが日本の会社だと知らない人だらけ

鈴木:アメリカではNews Aggregatorと呼ばれるプレイヤーがいくつかあるんですが、このカテゴリのプレイヤーの多くはだいたい数年前にシャットダウンするか買収されるかして、閉じてしまいました。ごく一部生き残っているプレイヤーがあって、その1つがスマートニュースです。その意味では一巡してしまっているんですね。そうしたなかで2016年に大統領選があって、そこで大きなマーケットとなるホワイトスペースが急にできあがった。ですから、2016年時点で生き残っていたことによるメリットというのはあります。

一方、日本の会社ということに関して言うと、採用に関してもユーザーに関しても、アメリカで事業をしているなかで「日本の会社だから」というディスアドバンテージを感じたことは1度もありません。やはりシリコンバレーには極めてグローバルなカルチャーがあるし、日本の会社だからということで入社を避けられたりすることもないです。ユーザーにしてもそう。アメリカの人たちはソニーが日本の会社だと知らないですよね(笑)。同じように、スマートニュースが日本の会社だということを知らない人だらけです。

高宮:経営組織体制はいかがでしょう。グローバル展開でグローバルHQ的な機能とローカルオペレーションを分けるのは自然だと思いますが、ワンプロダクト戦略の場合、その辺はどんな考え方になりますか?

鈴木:今はプロダクトエンジニアリングも共通基盤も僕が日米両方で見ることができているから、問題はないかなと思っています。そのうえで、会社としては任と浜本を加えたトップ3で全体の意思決定をしているので、その意味でのヘッドクォーターは日本にあります。ただ、プロダクトやエンジニアリング自体はアメリカのメンバーが見ているので、全社員のうち半分ぐらいはアメリカにレポートラインを持っている形です。そちら側がグローバルなベストプラクティスを知っているので、そこを摺り合わせていくという方法で機能しています。

高宮:プロダクトについてはグローバルコンピテンシーセンター的な考え方で先進的なシリコンバレーに置く、と。で、ビジネス側は今も日本を中心にしているということだと思うんですが、今後は後者も少しずつ、アメリカ等市場の大きなところにスライドするんでしょうか。

鈴木:アメリカの人口は日本の3倍だし、広告市場の規模も10倍以上です。3倍と10倍の違いは何かというと、そのうち2倍ぐらいは物価の差ですね。で、さらに広告市場もアメリアのほうが1.5倍ぐらい成熟しているということで、合わせて10倍。そう考えると、最終的にはアメリカにおける事業のほうが大きくなってもおかしくないと思います。ただ、今はトランジションフェーズなので、そこの塩梅をしっかりコントロールしないといけない。日本側が事業の基盤を持っているのは事実なので、そこをしっかりとケアしながらトランジションしていこう、と。これは結構難しいプロセスでもあります。一気にアメリカへ移行すればいいというわけでは、必ずしもないので。 後編に続く>>

※動画版はこちら

新着動画

10分以内の動画コース

再生回数の多い動画コース

コメントの多い動画コース

オンライン学習サービス部門 20代〜30代ビジネスパーソン334名を対象とした調査の結果 4部門で高評価達成!

7日間の無料体験を試してみよう

無料会員登録

期間内に自動更新を停止いただければ、料金は一切かかりません。