本記事は、G1ベンチャー2019「エンタメ・スポーツで稼ぐ〜日本のエンタメ・スポーツ産業が世界で勝つための戦略〜」の内容を書き起こしたものです。(全2回 後編) 前編はこちら>>
久志尚太郎氏(以下、敬称略):僕は2025年以降の日本がすごく楽しみなんです。「超いろんなことが起こるんじゃないの」って。カジノのようなものをきちんとマネージメントまたはコントロールできるという実例が出てくると、今まであり得ないと思われていたことが次々起こるように思うんですね。そこでお伺いしたいことがあります。
2020年にオリパラがあって、2025年には万博があってカジノ(IR)もできるということで、今はかなりいいマイルストーンが敷かれている状態だと思います。そこで、皆さまは「2025年以降にどんなことが起きる」と考えていらっしゃるか、あるいは何を起こそうとしていらっしゃるかということも伺いたいと思っていました。
自分たちが持つコンテンツを「新たなプラットフォーム」で横展開する
中川悠介氏(以下、敬称略):今、僕らは人をマネージメントしていますが、今後はスターをつくるということとプラットフォームを掛け合わせたりしたいと思っています。たとえば、今はテレビや雑誌に出るという形で営業をして、それで広告が来てCMをもらうというのがざっくりしたビジネスモデル。でも、そこで自分たちが持つコンテンツを横展開したら、そこから何かつくりだすことができるんじゃないかな、と。たとえば「KAWAII MONSTER CAFE」。原宿というのは‘Kawaii(かわいい)’という言葉がキーワードになっていて、もともと増田セバスチャンというアートディレクターの方がそういうことを発信していたわけですね。「KAWAII MONSTER CAFE」もそれを活かしたカラフルポップなカフェで、もうテーマパークに来たのかと思うようなお店です。
そういう展開が最近はすごく増えてきましたし、先日は我々も、増田セバスチャンがプロデュースした保育園をつくりました。「未来はカラフル!」といったコンセプトの企業主導型保育園です。そういったビジネスは今まで芸能の世界になかったんですが、そこで新しい業態と組んでプラットフォームをつくったり、新しいコンテンツをつくったりするような展開が今後は増えると思います。いま人気のVtuberとかも僕らのようなリアルのコンテンツを持つところと組んでいけば新しい展開ができるんじゃないかと思うんですよね。
久志:そういうものをやるにあたって、テクノロジーの部分はどんな風に補完しているんですか? たとえばDeNAと組まないのはなぜかな、と。
中川:組みたいです(笑)。今までお話しできる機会がなかったから今日をきっかけに。とにかく、芸能界って閉鎖的だと思われているように感じますが、僕としてはテクノロジーを広めるときは僕らが持っているようなコンテンツが絶対に必要になると、いつも思っていたんですよね。実際、新しいサービスをつくっているようなスタートアップの方にはよく相談をいただきます。「これ、インフルエンサーの方に使ってもらえませんか?」って。でも、それで「使って欲しい」「じゃあ使おう」で終わってしまう関係を超えて、何か一緒にビジネスをつくっていくような関係にしていくことが今後は大きな課題になると思っています。これ、芸能界の皆が思っていることだと思うんですよね。
久志:2020年や2025年、日本のエンタメコンテンツは世界に広がっていたり、世界で「ヤバいね」と言われるような魅力的なコンテンツになっていますかね?
中川:今でこそK-popが世界的に人気だと思いますが、日本人の作りだすクリエイティビティというか、音楽やアニメーションをつくる技術はすごいと思うので、その部分をもっと出していく必要があると思います。ただ、正直、日本のなかで儲かっちゃっている人が多いので、そこは課題なのかなとも感じています。
バーチャル空間でのみ「人格」や「存在意義」がある人が出てくる
守安功氏(以下、敬称略):前提として、まず2025年や2030年には少子高齢化が絶対に進んでいますよね。移民というドライバが若干あるとしても、出生率が変化したとしても、人口構成は10年単位では変わりませんから。そこで広がる労働力不足という社会課題に対して、AIやロボティクスの領域で生産性を引き上げるということに我々も取り組んでいます。当然、自動運転車のようなものも2025年には確実に走っている筈なので。ただ、それによって生産性が改善して労働力不足が解消される一方で、「働かなくてもいいんじゃない」ということで余暇も増えると思うんですね。その余暇が増える人たちにどんなサービス等を提供していくのか。そこがエンタメ業界として考えるべき部分なのかなと思っています。
そのうえで、これは会社としても考えていることですが、今後は「バーチャル空間のなかだけで生活をしていてもぜんぜん楽しい」ということが起きるんじゃないかと思っています。今は「引きこもり」のようなマイナスイメージで受け取られることも多いんですが、そうではなく、バーチャル空間のなかで人格もあって存在意義もある。そういう世界が2025年頃からどんどん出てくると思っています。で、その先はというと、2050年ぐらいまでには自分の脳みそがバーチャル空間に移植されて、体は滅んでも自我自体は未来永劫続くみたいなことに、僕が死ぬまでに実現して欲しいな、と。そういう方向に行くと思っています。
久志:よく分かります。たぶん現時点で皆さんもほぼ「スマホのなかにいる」状態だと思うので、それがさらに進化するというのはイメージしやすいのかな、と。次原さんはどうですか?
カレンダーに書けるようなリアルな「ワクワクする未来」をつくりたい
次原悦子氏(以下、敬称略):私がデジタルな人間じゃないということもあるので。もちろん今のようなお話もそれはそれで絶対ありなんですが、逆にもっとリアルなものが来るんじゃないかなと、私自身は思っています。たとえば今年、皆さんは覚えていないかもしれないけれどもラグビーW杯があるじゃないですか。それにオリパラ、そしてカジノ法案に万博。いろいろと賛否両論はあるにせよ、分かりやすい未来ってやっぱり大事じゃないですか。どれほどの経済効果があるのかは終わってみないと分からないけれど、とにかく「オリンピックが来るんだぞ」といったワクワク感で、少なくともこの数年の日本は楽しいのだと思うんです。そこで間接的な経済効果もいろいろあると思いますし。
でも、今は2025年というと「10人に1人は認知症になっている」とか、そういう悲惨なことしかネットには書いていなかったりします。ですから、私も2025年に向けてすごくワクワクしているけれど、万博のさらに先でも、もっと分かりやすい未来を今後数年かけてつくっていきたいな、と。それがオリパラじゃないとしたら何なのか。皆がカレンダーに書けるような、ワクワクするような未来の予定をつくっていきたいし、それに携わりたいなと思っています。
久志:ありがとうございます。では、そろそろ会場全体でディスカッションしたいと思いますが、最初に堀義人さん。堀さんはプロバスケット事業をやっていらっしゃるじゃないですか。堀さんの場合は地元の応援という側面が強いかもしれませんが、堀さんはスポーツビジネスをどんな風に捉えていて、そこにどんな未来が待っているとお考えですか?
堀義人氏(グロービス経営大学院 学長):チームとしての売上はプロ野球が60~150億円で、Jリーグが15~70億と聞いています。で、バスケは数千万から最大で17億。個人のテニスやゴルフを除くとチームとして事業が成り立つのはこの3種目で、他の種目はプロスポーツとして現時点では難しいように感じます。そのなかでも今後伸びていくと思うバスケに僕は賭けているんですね。野球はほぼ12球団による寡占状態ですし、Jリーグは1チーム20数名必要ですから、(選手の数を考えても)バスケは参入しやすいのかな、と。また、アリーナさえあれば運営できるので、小回りが効く意味でも水戸のような規模の都市では今後バスケが広がっていくのではないかなと考えています。
そのうえで今後どうなるかといえば、東京都やオリンピック委員会と川淵三郎キャプテンとのあいだで「なぜアリーナをつくらないのか」といった議論があった通り、アリーナとスタジアムが首都圏で最も大きな課題になると思います。僕はエンタメとスポーツだけがアリーナを満杯にできると考えているんですね。ですから、その両者で空間を共有していこう、と。最近では両者が溶け合っていて、たとえばハーフタイムにエンタメのショーがあったりするし、今はそこにオンラインも融合しています。そうしたスポーツおよびエンタメの世界に経営者、特にネット系を含めたスタートアップの方々が入り込んで、ゲーム・コマース・その他本業と融合して成長していく余地はすごく大きいと思うし、その辺に興味があります。
久志:ありがとうございました。では、会場からご質問を募りたいと思います。
Q1、「5G×スポーツ・エンタメ」という観点で考えていることは?
守安:今日はゲームの話をしていませんが、5Gになって一番大きいのは「クラウドゲーミング」ですよね。グーグルは「Stadia」というプラットフォームを発表しました。ただ、それが欧米で秋にスタートしたとして、日本に入ってくるのはそのあとなので、日本企業がそこに取り組むのは遅れると思います。それで米国および中国の企業がプラットフォーマーになって展開していくことが増えると、日本企業は一層不利になる。そういうことを踏まえつつ、さらにはマイクロソフトとソニーが組んで何かやってくるというなかで、どういう立ちふるまいをするのか。本当はプラットフォームを獲りたいんですが、そこはもう我々には絶対無理なので。これはゲーム会社にとって喫緊の課題だと思っています。
一方、スポーツのほうは「5Gになったから云々」というのはあまりないかもしれませんが、現在のようなスマホやテレビでの観戦ではなく、それこそVR的な臨場感ある観戦の仕方が生まれたらいいなとは思いますね。本当は球場に行くのが一番なんですけれども、それに近い臨場感ある体験がネットで可能になってもいいんじゃないかな、と思います。
Q2、カジノが入ってきた時の「テーマパーク」のあり方について
中川:僕らも原宿という街でずっとやっていますし、原宿というのは1つのテーマパークじゃないかなと感じています。ですから、そこでテクノロジーも使って街全体で楽しく遊ぶ形がつくれないかなということは考えますね。一方で、テーマパークのプロデュースというか、自分たちでテーマパークをつくってみたいということは、エンターテインメント企業の1つの夢としてずっと持っています。実際、今は原宿に来る外国人の方々も「KAWAII MONSTER CAFE」とラフォーレとか買い物にちょこっと行く感じで、体験できる場所や遊べる場所は意外と多くない。そういう場所を増やしていけば、街としてもっと活性化するのかなというのは日々感じています。
守安:我々もテーマパークは検討したことがないので詳しくないんですが、たとえばディズニーランドやUSJは人が溢れていますよね。それに比べて、としまえんやよみうりランドって、立地はいいのに、なぜあんなに空いているんだろうとは思います。今はお客さんが来ないからお金もかけることができないというマイナスの循環になっている一方、ディズニーのほうは投資もできてお客さんもたくさん来る。でも、そうした好立地のテーマパークは、経営を変えるといったことも含めて何かやりようがあるんじゃないかと思っています。
久志:たとえばアメリカではスポーツとエンタメってセットじゃないですか。でも、日本のほうは今の遊園地のお話も含めて結構バラバラというか、スポーツはスポーツ、エンタメはエンタメ、TechはTechで、一緒にやることが極端に少ないと感じます。なぜそうなのか、あるいは一緒にやったらどういうものが生まれそうだとお考えですか?
守安:我々はインターネット産業からゲーム業界に入ったとき、ゲーム業界の「村の掟」というものを感じました。当然、野球はそれ以上にあります。掟と言っても、たぶんつくっている人たちはそう考えていないと思うんですね。ただ、狭い業界のなかでずっと同じことを考えているから、その人たちにとっては当たり前でも外側からするとまったく異質になっていて入り込めない、あるいは融合できない。これは、たぶん日本のいろいろな産業で起きていることだと思います。
次原:たとえば、今はジャパネットたかたさんが「長崎スタジアムシティプロジェクト」ということで、大きなスタジアムをつくって周辺も含めた地域創生の構想を掲げていらっしゃいます。そんな風にして少しずつ変わってはいるのかなと感じます。
久志:きゃりーぱみゅぱみゅが横浜スタジアムでいきなりライブをするのはまだ難しいということですか?
守安:ぜんぜんあります。始球式、やりましょう。
中川:ぜひ!以前、Bリーグのハーフタイムに、きゃりーが出たことがあるんですけれども、そのときは正直、驚きました。スポーツのことを舐めていたわけじゃないんですが、ハーフタイムのエンタメってそれほど注目されないのかなと思っていたんです。でも、ハーフタイムにきゃりーがサプライズで登場したら、もう試合と変わらないぐらいの熱狂になって。やっぱりスポーツで楽しんで興奮しているときはエンターテインメントもすごく盛り上がるんだなということで、本当に大きな可能性を感じました。
次原:あと、特に地方はハコモノにとてつもない金額をかけますが、海外では一時的な施設の技術もすごく進んでいるんですよね。それで30年以上も使えるような耐久性のある一時施設も多い。ですから、日本では「自分たちのものにしなくちゃいけない」と思って、とてつもない金額をかけますが、いっそうのこと「20年でおしまい」という風に割り切ってしまうのも良いのではと思います。そのうえでチームの人気に合わせてスタジアムを大きくしたりする。たとえば1stディビジョンに上がったらVIPルームをつくったり。ハコ自体が時代とともにどんどん変化するというような発想も必要になると思います。
久志:ありがとうございます。他にどなたかいらっしゃいますか?いなければ今度は小泉さんに振ってみたいと思います。「(メルカリがスポンサーとなっている)鹿島アントラーズはどうか」といったお話ですとか、ここまで議論を聞いたお感じになったことですとか。
小泉文明氏(株式会社メルカリ 取締役社長 兼 COO):スポンサー企業とスポーツまたはエンタメの関係について伺いたいことがあります。たとえば僕らのところには、実は野球の球団からもスポンサーをやって欲しいという話が毎年のように来るんですね。ただ、そうしたチームがあまりスポンサー慣れしていないというか、もともと親会社がいて、あまりスポンサーを活かして何か活動をしようというところがなかったのかもしれません。それで、ともすると「そんなことはできません」みたいな話になったりもして。守安さんから見て、野球のような産業と僕らのようなスポンサーが、もう少し「心地良い関係」というか、もう少しいろいろとアクティビティが行えるような関係となるためには、どんなことが必要になるとお考えですか。
守安:これは恐らく我々側がもっと努力をしなければいけないという話だと思うんですが、以前、驚いたことがあります。うちが今よりさらに儲かっていた2012~2013年頃、グローバル展開も今よりも大々的に行っていた時期だったんですが、いきなり僕のところにレアル・マドリードから背番号7番で「MORIYASU」ってプリントされたユニフォームが贈られてきたんです。
それで、なにかこう「スポンサーにしてやってもいいぞ」ぐらいの(会場笑)、上から目線なんです。ただ、「こんな特典もあんな特典も付ける」なんて言ってきて。だから、まず営業努力が半端ないんですよね。そのときは我々も真剣に検討しなかったので具体的に何ができるのかという話にまではいかなかったんですが、少なくとも、そうした見込みクライアントへのアプローチがぜんぜん違うんだろうなと思いました。
次原:それで思い出しました。昔、ある選手の契約交渉でオレゴンにあるナイキの本社に行ったら、決まってもいない交渉なのに本社にどーんと懸垂幕が垂れていたんです。で、その懸垂幕に‘Welcome to NIKE’の文字が、サニーサイドアップのロゴと一緒に入っている。もうそれだけでサインしないと帰れない、みたいな(会場笑)。海外はその辺のスポンサーに対するフォローが本当にすごいと思います。
観戦の仕方もそう。スポンサーメリットがすごく大きいんです。たとえばPGAのスポンサーはとてつもない金額になりますが、PGAはスポンサーにならないと入れないホスピタリティセンターを持っているんですね。そのセンターが、もう半端なくすごくて、入ること自体が大変なステータスになっています。実際、そこはスポンサーのフォローで使うから営業に直結するわけですね。そんな風に、単なる宣伝効果だけではないスポンサーメリットをつくっているというようなところでは、まだまだ見習うべき部分が多いいのかなと思います。
久志:ありがとうございます。堀さんに提言です。次回はプロ野球やJリーグといった既存産業の、お呼びするのがなかなか難しいであろう偉い方々もぜひG1に呼んでください。
堀:はい。プロ野球はなかなか難しいんですが、BリーグとJリーグはチェアマンがすでに来ていますので。いずれにせよ、プロ野球がDeNAと楽天とソフトバンクが入って相当変わったように、JリーグもBリーグもかなり変わってきたと感じます。エンタメに関しても、たとえばアリーナで行われるバスケはハーフタイムショーにかなり力を入れてきています。それでエンタメの世界の方を呼ぶことで、そのファンの方々も来て、その結果としてチームのファンも増えるというような結果になっているし、そうした変化は今後も増えていくと思っています。期待しています。
久志:ありがとうございます。中川さんには、ぜひこういう場に芸能人の方も連れてきていただいて、ご一緒に議論もできればと思います。では、最後に一言ずつお願いします。
次原:分かりやすい未来、つくっていきましょう。スポーツとエンタメ、盛り上げていきましょう。とりあえず今年はラグビーW杯がありますから、よろしくお願いします。
中川:今はエンタメとスポーツの融合も増えてきているし、そこに可能性を感じています。ぜひ、そういう領域で新しいビジネスをつくっていくことができたらと思います。
守安:2020年は横浜スタジアムでもオリンピックの野球ゲームが開催される予定で、我々は今それに向けてスタジアムの改修を行っています。席数は3万人弱のところを3万5000人にまで増やし、スイートルームもつくって今売り出しているところです。まだ若干名余っていますので(会場笑)、買っていただいたら「良かったな」と思っていただけるんじゃないかなと思うので、よろしくお願い致します。
久志:今日の結論は、すでにエンタメとスポーツは融合していて儲かっているし、さらに儲かり続ける、と。しかし、皆さま方のお力添えとテクノロジーが必要で、もっとコラボレーションを行う必要があるということだと思いますので、皆さま、引き続きよろしくお願い致します。今日はありがとうございました(会場拍手)。