本記事は、G1サミット2019「日本がリードする次なるキャッシュレス社会」の内容を書き起こしたものです。(全2回 後編) 前編はこちら>>
辻庸介氏(以下、敬称略):では続いて、今日のテーマでもある「キャッシュレスで日本がリードする」という部分も伺ってみたいと思います。グローバルに展開するVISAの安渕さんから見て、日本がリードするキャッシュレス社会をつくるためには何が必要になるとお考えですか?「こんな取り組みが面白いのでは?」といったアイディアがあれば、併せて伺いたいと思います。
日本がキャッシュレス社会をリードするため必要なことは?
安渕聖司氏(以下、敬称略):1つは「金融のイノベーションは金融の外からくる」ということだと思っています。ですから、グローバルに通じるプラットフォームをつくっていくことが大事になる。グローバルに通じるプラットフォームは、サービス等でなんらかの価値移転を必ず伴うわけですよね。で、そこに決済のフローが生じる、というところから考えないといけません。金融や決済といった領域だけで狭く考えて、それを世界に広げていこうというのは、基本的には無理な話だと思っています。ユーザーがいないわけですから。だから、どんなユーザーに何を使ってもらうかが大事になるわけですね。
その意味で、メルカリのようなマーケットプレイスには存在感や将来性を感じます。多くの人に捨てられていたものが価値を生んだり、ショッピングの行動自体が変わったりしているわけですね。メルカリでのリセールを考えてモノを買うという風に、人の行動が変わる面もあって、そのデータがぜんぶ入っていく。そうするとモノをつくる側でもつくり方が変わったりします。そうした新しいプラットフォームやECプラットフォームみたいなところから、グローバルなキャッシュレスは生まれるんだと思います。
もちろん我々もいろいろなフィンテックさんとお話はしていますが、フィンテックだけではダメなんですよね。もう少し広い領域でスタートアップと一緒にやっていく必要がある。それで、たとえば会員が100万人いるようなプラットフォームがあれば、そこで何かできるんじゃないかとか、そういう考え方をしています。
辻:日本ではメルカリが一気に出てきて、今はグローバルで勝負しているわけですよね。それで、もしグローバルを取ることができたら価値移転のプラットフォームが日本だけでなく海外にも生まれる、と。そう考えると「日本がリードする次なるキャッシュレス社会」は、ひょっとしたらメルカリやメルペイから生まれるんじゃないかという期待もあります。
信用データと決済データの活用は、分けて考える必要がある
青柳直樹氏(以下、敬称略):とんでもない期待からきましたね(笑)。ただ、キャッシュレスの話から少し離れますが、私としては集客やマーケティングにおけるデータ活用という話を超えて、今後は信用データの扱いについて議論しなければいけないと思っています。積み重なっていく信用データと決済データの活用は、きちんと分けて考える必要があると思っています。決済の先にある信用データをどう扱うのか、日米欧で合わせるのか、日本独自の枠組みを作るのか、など、一会社を超えて議論すべき話だと思います。
ただ、その手前には「本当にキャッシュレスが来るのかな」という話もありますよね。今は「これからキャッシュレスがくる」という話になっていますが、「本当にコード決済って一般的に利用されるものになるのかな」と、懐疑的な人も多いと思います。そうした中で、消費税増税時に、キャッシュレス手段を使ったポイント還元を支援する事業が国で用意されており、これをうまくチャンスに結びつける必要がある。ただ、コード決済の規格統一だったり、地方への普及だったり、現状まだ議論の必要がある部分があるので、グローバルのお話もありつつ、まずは一事業者として、この半年ぐらいはその辺りをがんばっていきたいと思っています。
金融業界と非金融業界がビジネスレベルでも一体化してきている
有泉秀氏(以下、敬称略):情報というのは今まで、たとえば金融関係の情報は金融業界に、それ以外の顧客情報は金融以外の業界という風に、情報の利活用はそれぞれ業界ごとに区分されていたと思います。でも、情報化が進んできたことで、それぞれの情報を互いにうまく使ってシナジーを効かせ、ビジネスチャンスにするという動きがどんどん出てきました。たとえば保険サービスのなかでその人の健康状態が分かったりすると、健康・医療の面で「こうしたほうがいいですよ」といったアドバイスを提供したり、ということです。情報の垣根がどんどんなくなってきていますから、それをうまく使えばさらなるビジネスチャンスが生まれるのだと思います。
それともう1つ、今は金融と非金融が、データだけではなくビジネスレベルでも一体化してきていると思うんですね。たとえばオープンAPIや情報銀行といった話も出てきている。ビジネスのところでは、各金融機能を切り分けたうえで「ここの機能だけやってみよう」とか「これとこれを組み合わせよう」といった話がどんどん出てきました。
他方で、現在の金融行政を見てみると、銀行や証券会社といった業態に着目し、これを規制することによって金融システムの安定を図っているわけですね。でも、いろいろと新しいビジネスモデルが出てくるにしたがって、「現在の業態ってなんなんだろう」という、大きな問題意識が我々のなかでは出てくるようになりました。それで今は、「業態というよりも、どのような金融機能を果たしているかによって規制を考えよう」という感じになっています。決済とか、貸出とか、資産運用とか、あるいは保険のようなリスクの移転とか、そういう機能で考えよう、と。
辻:今後は金融と非金融、かつリアルとITが融合していくなかで、決済がストレスない体験になっていくとともに、リアルの活動と結びついていくんだろうと思います。それでどんどんプラットフォーム化していく、と。そう考えると多様なサービスを持つプレイヤーがキャッシュレスのインフラをつくっていくほうが、日本としては効率的とも思います。その点、ヤフーさんはキャッシュレスやEコマース等々、多様なサービスをやっていらっしゃるじゃないですか。そのなかで今後はどのようにプラットフォームを広げていこうと考えていますか?
キャッシュレス社会になると、決済手数料は取れなくなる
小澤隆生氏(以下、敬称略):まず、これは日本に限った話でなくて、キャッシュレスは絶対に起きるという大前提があるんですね。そこに議論の余地はない、と。コード決済が普及するかどうかというのは、最後に発生する支払い方法の問題なんです。お釣りの例ではないですが、現金はなくなったほうが身軽になると、決まっているわけです。それがSuicaみたいな方式になるのか、中国における顔認識のようなものになるのか分かりませんが、財布を出すよりは「どうも」とだけ言って店を出ていけるほうが、いいに決まっているじゃないですか。ETCやSuicaの例を思い出してください。キャッシュレス社会は、起きるんです。だから起きたときに何が起きるかという前提で話し合わなければいけない。
じゃあ、キャッシュレス社会になってどうなるか。我々の予見ですが、決済の手数料が取れなくなると思います。ただ、我々も手数料ゼロでやっていますが、やることはデータの移行だけです。ネットワークができてしまえば、どこかへお金を移すときの手数料は理論上はゼロになります。
そうなるとどこかでお金が生まれなきゃいけない。そこをビジネスポイントとしてどう積み上げていくか。人が動くところにチャージするのか、別途お金をお貸しするときに動かすのか。ご存知の通り、クレジットカード加盟店手数料なんていうのはたいしたことはないです。クレジット会社はお金をお貸しすることでビジネスモデルをつくっていたりするわけですね。
そのうえで当社に関する質問に戻りますと、当社は世界中のありとあらゆるトップレベルの会社と資本的な紐づけがありますから、我々はそこに決済とデータを紐づけるわけですね。それで、お金やデータが流れるとき、さまざまなビジネスモデルをつくりあげるであろう、と。そのうえで、加盟店さんのほうは送客時にお金を払うのが一番確からしいだろうと考えています。目の前でお金を動かす際に払うお金はどんどん少なくなっていきますから、「何に対してお金をかけられますか」と言えば、来店。または、そこへ集まってくるデータを活用した何かだろうと考えています。
そんな風にして、お金が生まれるところはシフトしていきます。ですから、しっかり付加価値のあるサービスをつくりあげていくうえで大切になるのは、どれほど良い出口、つまりお金を使う先を持っているか。まさにメルカリさんや我々だったり、お金を使う先としてのショッピングモールだったり、Uberだったりディーディー(滴滴出行)だったり。そんな、しっかりお金を使ってもらうサービスを我々は今後世界中に展開していくと思います。
辻:データのやりとりにはコストがほとんどかからない世の中で、キャッシュレスの手数料はゼロになっていく。すると各種サービスでマネタイズポイントをつくる企業が勝つようになる、と。その点で、ヤフーさんのように多様なサービスを持つ会社が強くなるという形なんだと思います。では、それを受けて安渕さんに、グローバルネットワークを持つVISAのような会社が今後どうなっていくかという点も伺ってみたいと思います。
安渕:小澤さんの話に続きますと、今後はネットワークも付加価値を高めないといけないし、もうその存在だけで稼げるビジネスモデルではないと、基本的には思っています。インターネットの出現で世の中もデータのフローも大きく変わっていますから、時代の変化に合わせて何ができて、どんな付加価値をつけることができるのか、考えないといけません。
そうなると、データのやりとりをする以上、やはりサイバークライムの問題を考えざるを得ません。サイバーのテロやリスクにどう備えていくべきかが、ネットワークにとって一番のチャレンジでもあり、オポチュニティでもあると思います。というのも、規模が中途半端ではないので。SWIFT(国際銀行間金融通信協会)も詐欺に遭いました。何十億というケタ違いの額が一発でやられるわけですね。あるいはATMアタック。30分で10億円が奪われたりします。ですからネットワーク側としては、そうしたサイバークライムをどんなツールで、どのように防御していくか。また、それをどのようにサービスとして提供していくかというのが将来の話として見えているところだと思います。
辻:ありがとうございます。では、会場からご質問を一問、受けたいと思います。
Q、メルペイは今後どうマネタイズしていくのか?
青柳:さまざまな可能性のなかで、今我々がどうするべきかと考えると、「なぜメルカリがキャッシュレスを?」という前段のご質問に戻ると思います。我々は2次流通の事業をずっとやってきたので、将来的には2次流通と1次流通をつなげて、そこをなめらかにしていきたい。そんな風にして、これまでの6年でメルカリが出してきたバリューを、より大きくしていくのがいいと思っています。
たとえば、キッズ用品をメルペイ決済で買ったのち、お子さんが大きくなって使わなくなった数年後、メルカリで適切な価格で売れる。そういうところで、いただいたデータや決済を使って利便性をより高めていく。先ほどの豊かさに関するご質問ともつながると思いますが、我々らしさが生きるところでやっていきたいと考えています。
辻:というわけで、時間になりましたので、ここで終了したいと思います。では、登壇者の皆さまに大きな拍手をお願い致します。ありがとうございました(会場拍手)。