ETC、Suicaの普及のように「キャッシュレス」は当たり前のものに! キャッシュレスの広がった先の未来を議論する〜メルペイ青柳×ヤフー小澤×VISA安渕×金融庁・有泉×マネーフォワード辻

本記事は、G1サミット2019「日本がリードする次なるキャッシュレス社会」の内容を書き起こしたものです。(全2回 前編)

辻庸介氏(以下、敬称略):昨年11月に開催されたG1経営者会議でもキャッシュレスのパネルがありまして、キャッシュレスのサービス提供者、利用するお店、そしてメガバンクの立場から多様なご意見をいただきました。そこで大きな話題になったのが、PayPayの100億円キャンペーンのお話でしたが、そのあたりも含めて、今回はまず小澤さんに口火を切っていただきたいと思います。

小澤隆生氏(以下、敬称略):100億円キャンペーンでは本当にいろいろなことがありました。できれば1ヶ月ほど続いて欲しかったのですが、10日間で終わりました。今回どかんとやらせていただいたところ、ポテンシャルはあるじゃないかと実感しました。「使いづらい」とか、いろいろな声はいただいた一方で、やっぱり分かりやすいメリットがあると皆さまは使うんだなと思いました。

辻:キャンペーンでは、400万人がキャッシュレス決済を利用したと伺っています。

小澤:そういうことです。なので、全国民の皆さまがキャッシュレスを利用するようになるまで、あといくら使えばいいか計算できました。4000万人が利用するようになるには10回実施すればいいのです。金額にある程度の目算がついた、かもしれませんね。

辻:こういう話を聞くと、決済のベンチャーを起業しなくて良かったと、心の底から思います(会場笑)。では、続いて青柳さん。キャッシュレスのサービスを提供する側として、今考えていらっしゃることをまずはざっくり伺いたいと思います。

なぜメルカリがキャッシュレスのサービスを始めたのか?

青柳直樹氏(以下、敬称略):我々は後発のメリットを最大限活かしてうまくやっていきたいと思っています。今は銀行さんも多様な決済サービスを持っているし、ヤフーさんもLINEさんも楽天さんもあります。そのなかで我々はどんなやり方をすれば使われるのかということを、本当に、日々考えてきた1年数ヶ月でした。

辻:なぜメルカリがメルペイをやるのかというメリットの部分で、まだ少し腹落ちしていない方はいるように思います。そのあたりも少し教えていただいていいですか?

青柳:そこは「新たな価値を生み出す世界的なマーケットプレイスをつくる」という会社のミッションに立ち返る部分だと思っています。メルカリがあることによってモノの流動性が高まるということで、ある種、メルカリは流動性のイノベーションを起こしてきたと考えているんです。それをさらに高めて、よりなめらかな社会をつくろうと思うなら、モノの移動には必ずお金が絡むので、そこをやるのは必然だったと思っています。お金の流動性という問題に取り組むことでメルカリ自体もより使いやすくなるし、きっとメルカリだけではできなかったサービスもできるようになる。それで、今はかなり大きな赤字を先行投資として出しながらもやっている状態です。

辻:メルカリさんの月間流通量ってどれぐらいですか?

青柳:直近の開示では月間で400億円、四半期では1000億円を超える状態です。今開示している数字ではMAUがおよそ1200万人ですから、これで四半期の流通額で割ると1人あたり約1万円。それが今は仮想的なウォレットのなかにある状態で、その大半は出金されています。一部はメルカリのなかで再利用されているんですが、そうしたお金を世の中に流していくことでキャッシュレスにしていきたい。今は大半のお金が銀行に流れているんですが、そこで「こんなところでも、あんなところでも、オンラインでもオフラインでもお使いいただけますよ」という形にしていきたいと思っています。

我々のほうでも今は年間5000億円ぐらいのお金が生まれていて、その10%を手数料でいただいている状態です。ですから残り4500億円をどう使っていくのか。まあ、それで4000億円ぐらいが世の中に流れていけばキャッシュレスの入り口には行けるのかもしれないと思っています。

辻:1人が毎月1万円をATMでメルカリさんに入れてくださるといったイメージですよね。

青柳:そうですね。キャッシュインについては各ペイメント事業者さんが苦しんでいるところだと思います。でも、例えばコンビニ等身近なお店で使えるなら毎日行くことが分かっているから数万円チャージするのも躊躇しないですよね。そんな風に、そのペイメントが本当にどこでも、そしていつまでも使い続けることができるというのが大事なんだと思います。

辻:ありがとうございます。続いては安渕さん。VISAというとフィンテック業界ではグローバルで圧倒的な存在感を持っていますが、ユーザーさんからすると少し距離があるビジネスモデルでもあるように思います。その辺も踏まえ、VISAではどういうことをやっていらっしゃるのかというのを、新しい取り組みも含めてご紹介いただけたらと思います。

なぜVISAカードは世界中どこでもすぐに使えるのか?

安渕聖司氏(以下、敬称略):キャッシュレスという言葉が、この1年間、たとえばグーグル検索でも大変な勢いで伸びていますよね。キャッシュレスの機運が高まっていることはすごくいいことだと思いますし、いろいろなものが出てくるのは大変ありがたい。PayPayのお話を含め、世間でこれだけキャッシュレスが話題になるのは実に素晴らしいと思います。

VISAカードというのは皆さんご存知だと思いますが、VISA自身は1枚もカードを発行していません。発行しているのは、日本以外ではすべて銀行。日本では銀行さん、そして世界的に見ても特殊な存在であるカード会社さんが発行しています。まず、消費者がカードに加入しますよね。その先にカードを発行する銀行もしくはカード会社さんがいます。で、その反対側にはいわゆる小売の方がいらして、カードの提示を受け、現金がなくても商品やサービスを提供してくれるわけですね。こちらは業界で加盟店と呼ばれています。それから加盟店管理会社というのがあって、そちらが加盟店とやりとりをするわけですが、そうしたフローの真ん中にVISAがあって、お金が流れていくということになります。

このなかで皆さんが何か買った瞬間は、お金は1円も流れていません。では、そのお金がどこからくるかというと、皆さんの口座から落ちたものが、発行会社さんからVISAのネットワークを通って加盟店管理会社さん、そして加盟店という風に流れていきます。我々はそのネットワークを担っている会社ですね。また、そのカードが世界中どこへ行っても使えるというブランディングを行っています。

皆さん、不思議に思ったことはないですか? たとえば、なぜ日本で発行したカードがヨーロッパで使えるのか。「なぜ、この人は私のことを知っているんだろう」と。VISAを出しているだけなのに。ここで何が起きているのか。ヨーロッパでもどこでも、皆さんがカードをスワイプしたりした瞬間、そのデータは、皆さんがカードを発行した発行体のデータベースに飛んでいます。そこで盗まれたカードではないかといったことをチェックしたり、あまりにも日頃の行動から離れた購買ではないかといったリスク指数を出したりして、その回答が1秒以内にヨーロッパなり現場なりに返されます。実際、カードが承認されるまでに一瞬の間がありますよね。で、承認されたということは、「これは日頃の行動から外れていないし、盗まれたカードでもない」と確認されたということで、そこで決済が行われるわけです。

ですから私も入って分かったんですが、想像以上にネットワークの会社なんですね。そのネットワークをどれだけ通っていただけるかが、実は我々の勝負なんです。ですから、その先がどんな形のキャッシュレスであれ、我々のグローバルネットワークを通っていただくためにさまざまなお手伝いをしていくという、そんな感じのビジネスモデルになります。

辻:今まで抱いていた謎がすべて解けました。一方、最近はキャッシュレスで直接やりとりをするようなモデルも少しずつ出ています。ある意味、VISAのビジネスモデルを脅かすようなプレイヤーも出ているように思うのですが、その辺はどうお考えですか?

安渕:せっかく大きなネットワークをつくったので、我々としてはその使い勝手を高めなくてはいけない。それで4年前にAPIを開放して「VISAのネットワークを使ってください。こちらにつないだほうが早いですよ」という形にしました。それぞれの国や地域、あるいは各種フランチャイズ等で独自のものをつくることはできます。ただ、先ほど青柳さんもおっしゃっていましたが、我々は「それをどこでも使えるようにするのであれば、私たちのネットワークに乗ったほうが良いのではないですか」とお勧めをするわけです。それで条件が合えば乗ってもらうということを積極的にやっていますし、そのためにフィンテック会社さんと協業したり投資したりして、今はいろいろなことをやっています。

ですから、そこは選択ということですよね。「自分たちのところで絶対にやっていく」というお話であればそちらでやっていくし、「じゃあ、VISAに乗ってみようか」ということであれば乗っていただく。そこはビジネスディシジョンなので、それによって得られるものや発生するコストを見ながら、それぞれの事業者さんが判断をなさるという話だと思います。

辻:ありがとうございます。では、続いて有泉さんに国の立場からお話を伺いたいと思います。なぜ皆がキャッシュレスを取りにいっているのかというと、ユーザーのデータを取りたいのだと思います。そのあたり、中国でもアメリカでもヨーロッパでも、今はどんどんインターネットにボーダーができているという現状も踏まえつつ、国としてどんなことを考えていらっしゃるかをお聞かせください。

消費税増税の反動減対策としてキャッシュレスを推進

有泉秀氏(以下、敬称略):キャッシュレスは本当に盛りあがってきていますし、「ソサエティ5.0」と同様、これが大きな流れになれば素晴らしいと思います。一方で、メガバンクの方とキャッシュレスについてお話をしていると、「現金管理のコストが減ります」とか「取引が効率化します」といったお話になることが多い。でも、それだけだと寂しいんですよね。ですから、「コストを節約して、それでトップラインについてはどんな風になさるんですか?」と聞くと、急にお話が出てこなくなったりして。イノベーションの種は多いと思うので、それをビジネスでどう活かしていくかを考える必要があるんだと思っています。

たとえば昨日行われたAIのセッションでは、「今まで画一的だったマス層へのリーチアウトが今後はテーラーメイドになっていく」とのお話がありました。そういう話は消費者にとっても分かりやすい。消費者の利便性が高まって消費が活性化し、それで国の経済も強くなっていくんだと思います。

一方、この会場の方々はその重要性を強く認識していると思いますが、少なくとも伝統的な金融機関では、決済というのはどうしてもバックオフィス的なものとして捉えられています。でも、本当は非常に重要なインフラなわけですよね。キャッシュレス比率に関してはいろいろな統計の取り方があって、日本の場合は銀行口座の自動引き落としのような形での決済もかなり多いから、翁(百合氏:株式会社日本総合研究所理事長)さんが指摘している通り、実際の比率は国が発表している2割よりは本当はもう少し高いんだろうなという気がします。

いずれにしても「キャッシュレス比率を現在の2割を10年後には4割にしよう」という旗を振るのは国の大きな役割なので、そこは一生懸命やっていきたいと思っています。キャッシュレス化を進めていくという部分では、これは皆さまの税金になりますが、およそ3000億円で、消費税の反動減対策としてキャッシュレス推進に使わせていただくことを考えていますので、ぜひ活用していただければと思います。

あと、辻さんのご質問にあったデータの話というのは非常に難しいところがあります。個人情報と法人関係の情報は、ある程度は分けて考えないといけないのかなと思いますが、そこは欧州にしても中国にしても情報戦略があるわけですね。そのなかで日本がどういう立ち位置をとっていくのか。これは国としてよく考えていかなければいけない話だと思います。

辻:消費税増税時に3000億円を補助するという話はどこまで決まっているんでしたっけ?

有泉:3000億円については、1つは消費税対策としてのポイント還元や割引ですね。消費税引き上げそのものに働きかける対策です。で、2つ目はキャッシュレス決済に必要な端末購入費の支援。特に中小事業者の皆さまにとっては固定費が負担になるので、そこを支援させていただく形です。そして3つ目は加盟店の手数料ですね。やはりこの手数料が少し高い面はあるので、そこも国が少し補助をしようということで予算の措置をしています。

辻:ありがとうございます。では続いて、有泉さんに今少し触れていただきましたが、キャッシュレスによって未来はどうなるのかというお話も伺ってみたいと思います。AIセッションで松尾(豊氏:東京大学大学院工学系研究科特任准教授)先生は、「エレベータができて何が変わったか。エレベータがあることによって大きなビルが建てられるようになって、それでいろいろなことができるようになった」というたとえ話をなさっていました。まさにキャッシュレスもそんな感じなんだと思います。キャッシュレス自体はツールに過ぎませんし、「キャッシュレスが広がったその次の未来は何か」というのが大事ではないかな、と。そこで、まずはその未来を完全に見通しているであろう小澤さんに伺ってみたいと思います。

キャッシュレスは、デジタル化における「当たり前」の進化

小澤:完全に見通している私からすると(会場笑)、いくつかあります。キャッシュレスについてアンケートを取ると「現金で大丈夫じゃないか」という方が結構いらっしゃるんですね。「現金のほうがお金を使っている感覚がある」と。また、とにかく不便は感じていないと。でも、昔はETCってなかったじゃないですか。自動改札機ってなかったじゃないですか。その頃は高速道路で1回止まって紙を渡して、それでお金を払うのが当たり前だった。ETCなんて想像がつかなかったから、不便だとか便利だとかいうこと自体も感じていなかった。

同様に、「現金がなくなれば、これほどラクになる」というのはいくつでも予測できるんですが、大事なのは、今はたまたまそういう世界が見えていないということなんです。Suicaなんて本当に便利じゃないですか。切符を買って改札で切ってもらう必要がないわけで。でも、切符を切るのが当たり前だった頃は、それが不便だと思わなかった。

じゃあ、キャッシュレスが進んだらどうなるか。今はコンビニで買い物をして564円だったら1064円を出したりします。あの計算、なくなるんですよ(会場笑) 1000円札だけ出したら436円が返ってくるわけですけど、キャッシュレス時代になれば「お釣りって何?」ってなります。「昔は“お釣り”というものをもらっていたんだよね」って。現金を介在しているからそうなっているんです。それが、キャッシュレスになれば「昔はそういうことがあったな」となる。そんな風に、今は当たり前だけど、少し先には当たり前じゃないということが必ず起きる。その意味では、キャッシュレスというのは、デジタル化における「当たり前」の進化なんです。

安渕:いろいろな国へ行ったとき、今は外貨両替をしますよね。そんなものはすぐなくなって欲しい。なぜ、どこかの国へ行くたびにいちいちそんなことをしないといけないのか。それで家には小銭を含め十数カ国の通貨があるわけですよ。「これどうすんの?」と(会場笑)。そういうことがすべてなくなったらどれほどいいか。あるいはキャッシュレスによって店舗もスっと通ることができて、どこへでも自由に入れるようになったら、たぶんメンタルの部分も変わってライフスタイルも変わります。それがキャッシュレスの本質なんだと思います。

「キャッシュレス社会」とは購買データをサーバに経由させる社会のこと

小澤:リアルの小売よりeコマースのほうが絶対に強い点が1つあります。それは来店している方のデータを、eコマースはリアルの何百倍も取ることができる点。リアルのほうはそれが取れません。eコマースでは、辻さんが何かお買い物をした際、「この商品を買うのは○回目です。前回はこれを買いました」といったデータが貯まって、それに基づいて「次はこういうのはどうですか?」と、お店の内容ごと変えてしまうことができる。リアルの小売も会員カードを出していただければ分かりますが、それがない限り、何回目のお客様か、その場では分かりません。なので、仕方がないから来店1回目のお客様だろうが100回目のお客様だろうが、チラシというものを撒くわけです。

クレジットカードでもなんでもそうなんですが、キャッシュレス社会というのは購買データをサーバに経由させる社会のこと。本当に重要なのは「一般のお店はデータの宝庫」ということなんです。それに合わせて効率的なマーケティングやカスタマーサポートができる。ヤフーはその点も一生懸命提供していこうと思っていますし、データをサーバに経由させると効率化が進むというのは、明々白々な良さだと思っています。

辻:一方で、キャッシュレスに関する公正な競争と、国でやるべき部分というのはどのように整理していらっしゃいますか?

有泉:たとえばGAFAとの関係について、ヨーロッパはすごくはっきりしていて、3つの政策ツールを使って牽制しているわけですね。1つ目は「競争政策」、2つ目は「デジタル課税」、そして3つ目は「情報に関する政策」です。情報の重要性も強く認識されていて、それでGDPRみたいなものが出てくるわけですけれども、その背後にあるのは「情報を制するものは世界を制する」といった発想に近いんだと思います。

中国も情報政策を大変重視しています。これはファーウェイの問題にもつながる話ですが、やはり中国では中央政府との関係が重要になるわけですね。GAFAではそれぞれの企業に情報が蓄積されていきますけれども、中国は国家全体として情報をどのように蓄積して、使っていくかということを考えているわけですね。そうしたなかで日本がどんなポジショニングを取るのかというのは、今まではあまり議論されていませんでした。

そこで考えてみると、今後は個人情報をうまく活用してビジネスチャンスを広げていく考えがある一方、日本では個人情報保護がそれなりにかっちりしています。その一方で、法人関係というか、ビジネス関連情報をどこまで、誰と共有できるようにするかというのは、今後よく詰めていかなければいけないと思います。

先般、総理がダボスで「Data Free Flow with Trust」とおっしゃいました。基本的には「データは世界を流れていくべきだ」と。ただ、‘with Trust’ですから、そこをどう考えるのか。グローバルな情報利用に関して、どんな情報が自由に流れるべきで、それをどのように活用していくのか。そういうお話なんだと思います。今はようやくそうしたエリアの議論がなされるようになってきた状態だと思います。(後編に続く)

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