「成果が評価されづらい」
「無駄なことばかりやっていると思われる」
「人事としてのキャリアが見えない」――。
人事パーソンなら、一度は抱えたことのあるモヤモヤです。
本書は、こうした人事パーソンのモヤモヤを真正面から受け止め、事業成長を支える“人事のプロ”への道を示してくれる一冊です。
高まる経営の期待 vs. 短期では見えづらい人事の成果
人的資本経営、戦略人事、リスキリング――。
近年、経営から人事への期待は一段と高まっています。
しかし高い期待とは裏腹に、人事の成果は短期的には見えづらく、数値で効果を示すことも容易ではありません。
さらに、環境変化の影響を受けやすく、課題も企業ごとに異なります。
解決策が一様ではなく、課題解決も難しく、結果的に周囲から信頼を得るのも難しい――。
つまり、人事は「成果を出し、評価され、成長していく」循環が生まれにくい職種と言えます。
そんな構造的ジレンマの中にいるからこそ、冒頭のモヤモヤを抱えてしまうのも無理はありません。
どうすればこのモヤモヤを脱することができるのでしょうか。
成果を出す人事へ。まず持つべき「4つの視点」
こうしたモヤモヤから脱するために、著者が最初に提案するのは、意外なほどシンプルです。
それは――「知ること」。
- <事業>を知る (顧客は誰か、どう儲けているか)
- <組織>を知る (どの部署がどう機能しているか)
- <人>を知る (誰がキーパーソンか、何に困っているか)
- <歴史>を知る (なぜ今の制度や文化になったのか)
この4つの視点を持つことで、人事が抱える“モヤモヤ”を解きほぐすことができる、と著者は言います。
たとえば、こんな経験はないでしょうか。
新しい研修プログラムを設計したものの、事業サイドからの反応はいまひとつ。
「テーマ通りに開発したはずなのに、どこか噛み合わない……」
そんな違和感を覚えたことのある人事パーソンも多いはずです。
もしかすると、その原因は“<事業>を知る”という視点を欠いていることにあるのかもしれません。
事業の構造や収益モデルを理解しないまま研修を設計すると、内容はどうしても一般論や理想論に寄りがちです。
結果、研修後に「うちの現場とは違う」「成功事例ばかりで現実味がない」といった反応が返ってくる。
これは、多くの企業で見られる典型的なズレです。
これは研修に限った話ではありません。
採用、評価、配置、報酬――あらゆる人事施策も同じです。
人事が“事業”を知らずに動けば、どんなに正論でも施策は表面的になり、やがて「人事の論理」だけで完結してしまうのです。
本書では他にも、組織・人・歴史という視点で同様の重要性を見出しています。
これら事業・組織・人・歴史の視点で問題を見つめ、解決に取り組むことで、あらゆる人事施策を“経営に意味ある営み”へと変えていけるでしょう。
“人事のプロ”になりたければ、“人事”のプロになるな
そうは言っても「うちの経営はわかっていないんだ」。
こう思う人事パーソンもいらっしゃるでしょう。
その気持ちはよくわかります。
ときに無理難題を人事に押し付け、現場の状況も考慮せずに厳しい判断を下す経営。
そんな姿に、がっかりしたことのある人事パーソンも多いはず。
けれど、それは人事から見た一面にすぎません。
経営側から見ると、人事はこう映っているかもしれません。
――「人事は安易に人を優先し、浅く、簡単な選択をしている」と。
というのも、経営は経営で、人と業績の間でギリギリの判断を続けています。
だからこそ、人事の提案や行動が“現実を知らない理想論”に見えてしまうのです。
こうした状態が続くと、人事は「経営がわかっていない」と言い、経営は「人事は何もわかっていない」と言う“溝”が生まれます。
では、この“溝”をどう埋めるのか。
ここで本書が一貫して伝えているのは、明確です。
「人事は事業を理解せよ」ということ。
このメッセージを、評者である私はこう受け止めました。
「“人事のプロ”になりたければ、“人事”のプロになろうとしないこと」。
というのも、本書でも繰り返し強調されていますが、人事のプロの究極の目的は「人を生かして事をなす」こと。
であれば、「何を」「どうやって」はすべて手段にすぎません。
ところが多くの人事は、この“手段”から入ってしまう。
採用・労務・制度――どの分野も専門性を磨くほどに、「採用のプロ」「労務のプロ」「制度設計のプロ」としての枠に自らを閉じ込めてしまうのです。
それは“各領域のプロ”ではあっても、“人事のプロ”ではありません。
真の“人事のプロ”とは、目的から出発し、手段にとらわれない人。
「事をなす」ために最も効果的な方法を柔軟に選び取れる人。
そして、その出口が必ずしも“人事施策”でなくても構わないと考えられる人です。
私は、この起点の違いこそが、人事のプロになれるかどうかの分岐点だと考えます。
人を生かして事をなす――人事という志
人事の仕事は、制度を作ることでも、採用を成功させることでもありません。
それらはすべて「人を生かして事をなす」ための手段にすぎません。
この点に関して、『図解 人材マネジメント入門』など、人事領域で数々のベストセラーを世に送り出してきた坪谷邦生さんは、人事の本質をこう語っています。
「人を犠牲にしてでも、事をなす」は人事ではありません。搾取です。
「人は元気に生きているが、事がなされない」も人事ではありません。ぬるま湯です。
一人ひとりの力が十全に発揮され、組織の目的が成し遂げられる。
その状態を実現することが「人事」です。
本書は、こうした原点を思い出させてくれる一冊です。
人を見つめ、事を動かす。
その往復の中にこそ、人事という仕事の尊さがあると、改めて感じさせてくれます。
本書を閉じる頃には、“人事であることの意味”をもう一度問い直したくなるはずでしょう。
『「人事のプロ」はこう動く 事業を伸ばす人事が考えていること』
著:吉田洋介 発行日:2025/11/14 価格:2200円 発行元:日本実業出版社




















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