多くの社会起業家がNOP法人で事業を始めることが多いなか、あえて株式会社を選ぶパターンもあります。そこで、今回は東日本大震災を機に宮城県山元町のイチゴ復興支援をスタートし、最先端施設で生み出した「ミガキイチゴ」やいちごスイーツ専門店「いちびこ」を手掛ける株式会社GRAの岩佐大輝氏にお話を伺いました。
農業でも資本市場で勝負したい
高原:NPOで始めてからなぜ株式会社を立ち上げたのか、教えていただけますか。
岩佐:実はNPOを立ち上げたときは、イチゴを生産する予定は全くなくて。「ミガキイチゴ」というブランドとストーリーを作ったうえで、既存の農家さんに栽培をお願いすることで、間接的に山元町のイチゴ産業を盛り上げようとしたんです。
でも、トラディショナルな産業には守旧派がいるもので、農家さんが違うブランドを売ることをよしとしなかった。だから、「自分たちがプレーヤーとして事例を作って地域をリードしよう」と、株式会社を作ったんです。
高原:250くらい法人パターンがある中で、株式会社を選んだ理由は。
岩佐:1つは権利関係が非常にシンプルだから。あらゆる資産が最終的には株に帰結するので、調達しやすいし、将来的にスタートアップのようにエクイティファイナンスもできる。農業でも資本市場で勝負できるようにしたくて、株式会社にしました。
高原:株式会社を作ったときに、「公共的なものだから」と多くの人に株式を持ってもらおうとする人もいます。NPOの人から「株を持ちたい」って言われたのでは。
岩佐:言われたけど、それは難しかった。3人で創業したんですが、株を持っている3人はハウスを作るときに数億円の連帯保証を抱えたんです。結局、その連帯保証を負って株を持つのか、みたいな話になって。さらに、無制限に株を渡すとガバナンスが難しくなる、とグロービスのクラスで学んだので。
NPOの役割とは?
高原:NPOの方は、今どんな役割を担っているのですか?
岩佐:一般論で言えば、NPOは株式会社でできない特定非営利活動をやることが大きな違いです。さらに、NPOは非営利で、NPOが生産したものは公共に帰するのがルール。その前提で税制優遇を受けています。
そう考えたとき、株式を持っている人がオーナーでいるのは難しいと思い始めて。そこで役割を完全に分けて、NPOはブランド全体の盛り上げやにぎやかしをやるといった緩い形にして、2013年頃からちょっとずつ切り離していきました。
ちなみに、NPOは人的リソースを集めやすい座組みなんです。いわゆるボランティアで、副業でもないから人材プールとしてとてもいい。そこで組織としてのフィット感を見たうえで株式会社へ転職し、主要メンバーとして活躍している人たちがかなりいます。
高原:農業以外の街づくりのとこでも、NPOはそれなりに活動をしてきましたよね。
岩佐:NPOがあって良かったのは、子供たちの教育や、街の盛り上げといったものを支援できたこと。まさに特定の利害がない立場のNPOのほうが動きやすい。
高原:株式会社はNPOのブランドを借りたほうがよいと思いますか。
岩佐:ミッションやビジョンをともにするならば、初期は一緒のほうがいいと思います。ただ、実際のところは、株式会社とNPOが同じ名前でいいのかという議論は何度もしました。NPOが何かやると「GRAの利益になるんじゃないか」という疑念が起きないよう、NPOの会計はかなり透明にしています。
高原:今だったらNPOの形で震災復興の活動をしますか。
岩佐:NPOは絶対作ると思います。基本的には震災復興は寄付・ドネーションで成り立つから、お金を税金に逃がしちゃいけないですよね。
NPOと株式会社のグループ経営の勘所とは?
高原:2つの価値観の違う会社を一体運営するのは難しくありませんでしたか。
岩佐:株式会社をつくったことで、東京でのキャリアを捨ててリスクテイクをする人が出始めて。NPOの人たちってどちらかと言うとボランタリーなので、そうした飯の種として来てくれた人との間に軋轢が生まれました。
ただ、NPOの人は他に収入があるとはいえ、人生で一番貴重な「時間」を活動に投じてくれているわけで。経営者として、そのことに対する感謝の気持ちに差はありません。例えば大企業から出向者を受け入れるときも同じで、飯の種とするメンバーとの見えない壁をどう取っ払うか、苦心はしています。
高原:実際、どう調整をしているんですか。
岩佐:株式会社で働いている人たちに対しては、外部から応援してくれる人がいるから成り立っているっていうこと、変な現場意識を持たないようにするっていうことを、何度も伝えました。農業だったら「生産するところ=現場」みたいな変な現場論があるけど、売っている人もアンバサダーしてくれている人も同じ現場だよねって。
NPOに関わる人たちにとっては、そこでの活躍を糧に履歴書に書けるようなキャリアがリスクなく作れることに価値があると思っていて。だから、NPOでやってもらったことの手柄は関わった方に全部渡して社会的な評価を得られるようにし、株式会社としてはいろいろ手伝ってもらったことが何かの実益になっていく、そういう循環を目指しています。
高原:社長の時間はどれぐらい配分していたんですか。
岩佐:当初は全く分けていませんでした。自分にとっては同じ時間だったから。それがちょっとずつ変わってきたのが、2014年に投資家からの資本を受け入れてから。数億円のエクイティ第三者割当増資を行ったんですよね。ベンチャーキャピタルを含む外部の株主が3社ぐらい入ってきたと。当然ながら、マネジメントの時間の使い方に対してここ数年は常にプレッシャーを受けています。
ミッションを実現するために
髙原:となると、新規事業を始める際はベンチャーキャピタルの理解を得る必要がありますよね。最近いちごスイーツ専門店「いちびこ」の3号店を桜新町にオープンしましたが、「いちびこ」はどのようにして立ち上げたのですか?
岩佐:2年前に山元町でNPO主催のイベントをしたのですが、そこへ来てくれた人から、「カフェやりましょうよ」って言われて。ただ、投資家は厳しいから、リテールをやったことのない企業にお金は出してくれない。だから声をかけてくれた人と僕で最初に資金を出して0→1をやり、うまく行きそうだとわかってから株式会社GRAに株を買ってもらったんです。
髙原:株式会社ではなかなか手が出せないことも、NPOの活動を通じて生まれてくるものがあるんですね。起業する際は「NPO」、あるいは「株式会社」と決めつけず、考えうる選択肢を丁寧に検討する必要がありそうです。
岩佐:大切なのはミッションです。例えばGRAのミッションは、農業を強い産業にして地域社会を豊かにすることで、スケールアウトしないと意味がない。家族を養うために農業をするなら、マーケットサイズが数億円でもいいけど、産業化するレベルになると、数千億円単位のものに張って、さらにたくさんの資本を使ってスケールアウトさせる必要があります。
一方で、山元町の人材育成や街づくりのように、人の気持ちに寄り添いながら、道筋を探りながら草の根でやっていくものや、寄付を中心に運営する場合には、税制優遇を受けられるNPO法人がフィットする場合もあります。
実は、震災が起きるまではIT企業を経営していたので、正直、リードタイムが長い農業は大変だと感じることも多々あります。ですが、株式会社とNPOそれぞれの力を活かしながら、ミッションに向けて走りぬいていきたいですね。