モータースポーツの最高峰、F1。ここで過去2度のチャンピオンに輝いたレーサー、フェルナンド・アロンソが今シーズン限りで引退することを発表しました。この引退発表には、たくさんのF1ファンから惜しむ声があがりました。というのもアロンソのレーサーとしての実力は他のレーサーに比べて決して劣っていたわけではなく、むしろ彼は今なお「現役最強」の呼び声も高かったからです。事実、彼はF1からは引退しつつも今後は別カテゴリへの参戦を宣言しています。
なぜ彼はトップクラスの実力を持ちつつもF1を引退したのでしょうか?そしてなぜF1引退後もレーサーを続けるのでしょうか?それにはF1内でのチームや別レーサーとの関係など、様々な事情が絡み合いますが、ここではアロンソの「キャリア・アンカー」という視点から考えてみたいと思います。
キャリア・アンカーとは?
キャリア・アンカーとは、キャリアを選択する際に考える評価軸や尺度のことです。平たく言えば、「キャリアを選択する上で大切にしたい・譲れないポイント」といえます。船の錨を意味するアンカー(Anchor)という言葉が表す通り、キャリア・アンカーはキャリアを舵取りする上でよりどころとなるものです。
キャリア・アンカーには8つの種類があると言われています。アロンソの場合、その中でも特に「挑戦を追い求める」ことをとても重視していたと考えられます。
アロンソは、2001年に当時史上3番目の若さでF1デビューを飾り、2003年には当時史上最年少での優勝を果たします。そして、2005年には当時史上最年少の年間チャンピオンにも輝きました。
こうして見ると、F1のキャリアの中で彼が常にレースに勝利することを求め、新しい「挑戦」をし続けていたことが分かります。彼にとっては、F1レースでの勝利、そしてその先のチャンピオンを目指すことがまさに、キャリア・アンカーだったのでしょう。
しかし、近年ではチーム事情も重なり、彼は「現役最強」の評価を受けつつも、レースで優勝争いをすることが難しくなっていました。これは勝利を目指し「挑戦」することをキャリア・アンカーとするアロンソにとって望ましくない環境であったといえます。
そんな中、彼は新しい「挑戦」の形を見つけます。それが、世界3大レース(※)の制覇です。過去にこれを成し遂げたのは、たった1名。その偉業を達成することは、彼にとってF1でのキャリアとは異なる「挑戦」であり、モチベーションの源泉となります。
だからこそ、アロンソはF1を引退しつつも、決してそれがレーサーとしての引退を意味するわけではないのです。むしろ、彼のF1引退は「挑戦」という一貫したキャリア・アンカーを持ちながら、自身のキャリアを選択したことの現れと捉えられるのです。
彼の「挑戦」に基づいたキャリア選択が、来年以降どんな形で結実していくのか。いちファンとしても注目していきたいと思います。
※F1の「モナコグランプリ」、インディカー・レースの「インディ500」、FIA世界耐久選手権の「ル・マン24時間レース」の総称。