ゴーン氏の逮捕は不当か否か?ピラミッドストラクチャーで整理して考える 

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日産11月20日、カルロス・ゴーン氏が金融証券取引法違反で東京地検特捜部に逮捕された。この事件は連日のように報道され、徐々にその全容が明らかになってきた。ゴーン氏の強欲さに対して「逮捕は当然」とする意見がある一方で、法律や会計の専門家からは「ゴーン氏の逮捕は不当」という見解も出されている。はたして、どちらの方が筋が通っているのだろうか。筆者は法律や会計の専門家ではないので、どちらの言い分も一理あるように思える。そこで、本稿ではここまで明らかになっている情報をもとに、ピラミッドストラクチャーで両者の主張を構造化し、比較してみる。そうすれば、素人の私でも複雑な問題の構造が理解できるはずだ。

ピラミッドストラクチャーを作る際は、最初にというお題(イシュー)を設定する。今回のイシューは「ゴーン氏を金融商品取引法違反で逮捕すべきか否か?」である。次に、イシューに答えるために取り組むべき論点を考える。今回の場合は、「どこまで日産の役員報酬に含むのか?」と「どこまで役員報酬を開示する必要があるのか?」という2つが論点(サブ・イシュー)になる。さらにこの論点は2~3の論点に分解される。こうして、イシューを起点として論点を構造化したものを、イシュー・ツリーという。以下は、今回のテーマにおけるイシュー・ツリーである。

カルロス・ゴーン

イシューツリーを作成したら、各論点に答えるために必要な情報を集め、メッセージを作成する。メッセージを作成する際は、単なる情報の整理ではなく、論点に答えることを意識する。例えば、「オランダ子会社が購入した海外不動産の無償利用は(日産の役員報酬に含むのか)?」という論点に対しては、役員報酬に含む・含まない、どちらかの方向性を示さねばならない。

このイシューツリーを使って、賛成側・反対側双方の主張を整理してみよう。

ゴーン逮捕:賛成側の主張

この主張は、日産側の会見および新聞報道をもとに作成している。大手新聞社はおおむね日産・検察側であり、逮捕に対して疑義を挟んでいない。

カルロス・ゴーン

こうして整理すると、ゴーン氏の強欲さが浮かび上がってくる。公開されている役員報酬以外に、退職後の報酬の約束、株価連動型インセンティブ、プライベートジェットや不動産の私的利用(家族同伴で)など、やりたい放題の印象を受ける。経営者が強権をバックに、ケリー氏と共謀して自分の報酬だけを釣り上げている構図が透けて見える。経営者として倫理的な問題がありそうだ。しかし、これは犯罪行為なのだろうか。ゴーン憎し、だけでは逮捕はできない。そこで、反対派の主張も見てみよう。

ゴーン氏逮捕:反対側の主張

ゴーン氏逮捕に反対側の主張には、前提条件が付く。それは「あくまで現時点(11/27,2018)でメディアに公開されている情報に基づいている」ということであり、新たな情報(例えば、ゴーン氏が海外の不動産業者からバックマージンをもらっていた、とか)があれば、当然その結論は変わる。筆者は法律や会計の専門家ではないので、以下のピラミッドストラクチャーは弁護士の郷原信郎氏の記事(*1)および会計専門家の細野祐二氏の記事(*2)を参考に作成している。

カルロス・ゴーン

反対派の主張をきちんと読むと、ゴーン氏の強欲さとは別に、逮捕するには容疑が不十分という印象を受ける。このままでは、海外メディアからの批判が強まることも予想できる。

今後を予測する

両者を比較すると、現状では反対派の主張の方が、筋が通っているように見える。しかし、それがいつまでも続くとは限らない。今後、どのような情報が出てくるのだろうか。

この原稿を書いている最中、11/27の朝日新聞朝刊に「ゴーン前会長の投資損17億円、日産に転嫁か 銀行容認」という記事が出た。記事によると、ゴーン氏が契約していた通貨のデリバティブ(金融派生商品)に08年のリーマン・ショックによる急激な円高で多額の損失が発生。その際、銀行からの求めもあり、損失を含む全ての権利を日産に移したという。しかし、その後は円安に転じたため17億円の損失は消えていると思われる。また、前出の郷原信郎氏によれば、「仮に犯罪が成立するとしても既に公訴時効が完成している」という。なお、仮にこの件で逮捕するならば金融証券取引法違反ではなく、特別背任容疑になる。ゆえに、このピラミッドストラクチャーの主張には影響しない。

いずれにせよ、決定的な情報が上がってこないまま、逮捕から1週間以上が経過している。この状況が続けば、陰謀説(西川社長らのクーデター、政府との密約など)を疑う声も強くなるだろう。なぜなら、ゴーン氏とケリー氏の2人を拘束している間に、取締役会はこの2人を代表取締役から解任し、さらに臨時取締役会で取締役からも解任しようとしているのだから。

勾留期間の11/30までにゴーン氏の自白(背任容疑など)を引き出すことができなければ、検察は西欧メディアからの批判を受けて、長期勾留を断念するはずだ。そうなれば、ゴーン氏の逆襲が始まるだろう。

そうすると、日産の現経営陣にとって最悪のシナリオも考えられる。

・ゴーン氏の逆襲が成功し、臨時株主総会でゴーン氏らの解任が否決される。
・ゴーン氏を含めて西川社長ら現経営陣が株主代表訴訟を受ける。社内問題によって、日産とルノー両社の株価を大きく下げたため。
・日産取締役はゴーン氏を含めてコーポレートガバナンス不全と株価下落の責任を取って辞任。
・ゴーン氏はルノー会長に留まる。それに伴い、ルノーは日産への支配力を強めようとする。

もちろん、ゴーン氏が自白して有罪となる可能性もある。また、日産で求心力を失ったゴーン氏は、その責任を追及されてルノー内でも立場を失う可能性もある。今後どうなるか、目が離せない。

*1 ゴーン氏事件についての“衝撃の事実” ~“隠蔽役員報酬”は支払われていなかった(Yahooニュース) 郷原信郎
*2「カルロス・ゴーン氏は無実だ」ある会計人の重大指摘(現代ビジネス)細野祐二

 

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