前回に続き、『1分で話せ』の著者であり、企業でプレゼン指導をすることも多い伊藤羊一氏が、マイクロソフト社の伝説プレゼンターであり、『マイクロソフト伝説マネジャーの 世界№1プレゼン術』の著者でもある澤円氏にインタビュー。
伊藤:キーワードを考える上でも、体験を語る上でも、いろんなことに興味持って感性を磨くことが重要ですよね。これって、プレゼンをしたり、人とコミュニケーションしたり、新しいものをつくっていくのに不可欠なスキルだと思います。
澤:「アンテナを立てろ」って言い方をよくします。「ただし、そのアンテナは受信専用じゃない。発信もするんだ」と。アウトプット前提で行うインプットは質が全然違うので。だから、体験やインプットは、結果的にはどこかでアウトプットに繋がるという前提で全てやっています。
元同僚でフリーランスのテクニカルアドバイザーの及川卓也さんは、「アウトプットを続けると枯渇する。枯渇するとインプットがしやすくなる。隙間が空くから」っていう言い方をしていました。インプットしたことをいかに蒸発させていって、再びインプットをするための隙間、染みこませるようなエリアを作るかが、重要であると。
伊藤:そこを間違えると、インプットの質自体が低くなる。
澤:一方で、アウトプットすることを期待されていて、繰り返しオファーが来る人は多くありません。だから、油断すると同じ話を繰り返してしまう。それに対して問題意識を持たなくなったら終わりだと思うんです。アンコンフォータブルなところをどうやって探していくのか、それが自分にとっての課題です。
伊藤:先日、Life is Tech !の中学・高校生向けのプログラミング合宿でプレゼンをしたんです。ものすごい冷や汗をかいて、アンコンフォータブルな体験でした。だけど、「今まで大人に聞いていた答えと違う答えを言ってくれそう」って質問がどんどん来て。
澤:実は僕も今年の3月に中学校の卒業講演を頼まれたんです。テーマは何でもいいということだったんで、「小さいことは気にするな」って話をしました。「転んだらリセット。遅れたと思わないで、そこからもう1回ゼロスタートしたらいい」「他人と比較するな」と。
そうしたら、えらい喜ばれました。「なんで成績が悪いんだ」って失敗にフォーカスされがちな子どもたちにとって、言って欲しい言葉だったのでしょうね。あとから親御さんからもメッセージが来たんですよ。「息子があんなに嬉しそうに学校であったことを話したのは初めてだ」って。泣きましたね。
伊藤:大人になっても、親になってもなお、「他人と比較しない」マインドセットを持つことは難しいんですよね。
プレゼンは生き様である
伊藤:あるカンファレンスで「人をどうやって巻き込むのか」って質問されたんです。そのとき「コミュニケーションやプレゼンって生き様だから、年がら年中自分で考えているこの一瞬を燃やすために、自分の生き様を見せればいいんだよ」って言いました。今この瞬間のこの話って、時間と空間を共有して、自分の人生を今100%燃やす、そうするとプレゼンの言葉も自然と力が入るし、話す言葉の意味に魂がこもる、と思うんです。
澤:プレゼンは生き様ですよ。どう生きているかっていうのを表現した結果がプレゼンテーションなので。自分が生きていないことに関しては言いようがないですからね。だから、さっきの「他人と比べない」っていうのと、自分の人生をちゃんと生きていて、その生き様を表現しているってなったら、何を言われたってべつに堪えない。もちろん攻撃的な尖った言葉を言われれば凹むことあるかもしれないけど、根幹の部分は揺らがないですから。
伊藤:なぜ「生き様だ」って思うようになったんですか?
澤:「これをきっかけに人生が変わりました」みたいなものはないんですが、ちょっとしたきっかけはあって。先述したAwardはきっかけの1つですが、同時にノミネートされた日本人の1人が僕に声をかけてきたんです。「夫がチャリティー団体で募金を集めるためにビジネススクールみたいなことをやっている。そこに出てプレゼンを教えてほしい」って。社内向けにプレゼン講習をしたことはありましたが、社外で教えてくれって言われたのは、これが初めてでした。
そこで、外向けに講習をするためにコンテンツを作り始めて気づいたのが、「自分がやったこと以外は書けない」ということ。かつ、聞き手に響かせるためにはどうすれば良いか考えると、「テクニックじゃないな」と。最終的に一言で言うならば「生き様」なんですよ。どう生きたかっていう。とはいえ、自分が子どもの頃からの話をすると長くなっちゃうんで、それを抽象化していってプレゼンテーションに収斂させていって、「自分を表現するっていうことはこういうことなのではないか」っていう解釈を紹介したんです。
そうなると、普段から自信を持って生き続けるっていうことがすごく大事になるんですよ。自分に言い訳しないで良い生き方をしなきゃいけないっていうことです。
伊藤:自分が自信なくて日々キョドりながら生きていたら、そりゃプレゼンもキョドるわと。
澤:何をしているときが自分にとってものすごく自信を持って生きていると言えるのか、そういったところを言語化すると変わってくるんじゃないかなと思って。
主体になって伝えていく
伊藤:普段プレゼンのために何かトレーニングをしていますか?
澤:体幹トレーニングや空手をして、かなり意識的に体を鍛えています。プレゼンでは立ち方が大事なので、全身が映る所では必ず立ち姿をチェックし、自分の立ち姿の癖をちゃんと理解するようにもしています。
幸いなことに去年だけでも266回プレゼンの仕事をしました。その写真や動画が上がってきたら表情を必ず見るようにしています。さらに、僕は普通の人に比べると髪が長い分、鏡を見る時間が必然的に長くなるので、そのときにも表情筋がちゃんと動くかどうかなどチェックしています。
伊藤:澤さん自身は未来に対してどんなイメージを?
澤:正直、いろんな問題もあるし、明るくないこともあるかもしれないけど、少なくとも自分が関わっている、半径5mに関しては常にハッピーであり続けるって思う生活を全員がしたら、絶対世界は良くなるはずなんです。そのインフルエンサーになりたいと思っています。
よく「AIの発展によって人類の未来はどうなるんですか?」って質問を受けます。僕の答えは1つ。「それはあなたが決めることです。どうやってAIを使って人類をハッピーにするか、みんなが当事者意識を持って考えれば、明るい方向にしか行かないと思いますよ」と。AIにコントロールされないために、どうやったら人類がハッピーになるかを全員が真剣に考えて、ひとつの道具としてAIを使うならば、面白いんじゃないかと思います。
伊藤:最後に、プレゼンを頑張りたいと考えている読者に一言何かメッセージを。
澤:選ばれた人だけがプレゼンテーションをするっていうのではなくて、人はそれぞれに体験、面白いことがあって、何かしらコンテンツになるものを持っているはずなんです。それを他人と比較するのではなく、自分の中でどんどん純度を上げていって、とにかく伝えていくことを1回やってみてほしいです。それによって得られた成功体験をどんどん広げていく。最初のうちはコピーでも全然構わないけれど、自分が主体になって伝えるのを1回体験してほしいんですよね。それをみんながやると、面白いことがどんどん起きてきて、化学変化が起きるんじゃないかなと思うんです。
伊藤:ありがとうございます。
【まとめ】
・プレゼンで人をハッピーにする
・自分の体験を語る。体験だけが人を動かす
・受信と発信のアンテナを立てる
・プレゼンは生き様である
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【関連書籍】