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『人口減少社会の未来学』―答えのわからない問題にどう向き合うか

投稿日:2018/06/30更新日:2020/02/27

本書は、人口減少という問題について、「衆知を集めて対話する」ことを意図して編まれた論集である。編者の内田樹氏をはじめ、11名の論者の切り口、提言は多様で読み応えがある。

たとえば、池田清彦氏によるホモ・サピエンスの時代から現代までの人口動態をめぐる人類史では、10万年前から現代までを一気に駆け抜ける。「戦争の発生や文字の発明が人口減少問題にどう関係してくるのか?」と、もどかしく感じる向きもあるかもしれないが、すっと肩の力が抜け、頭が冷やされるような爽快感がある。

井上智洋氏の第一・二・三次産業革命と第四次産業革命の構造整理からは、これからの社会で知力がいかに大きな価値を持つかがよく理解できる。世界的にベーシックインカムやコミュニティ(共同体)が注目されている理由も人口問題と併せて腑に落ちる。

こうした理解を伴った上で現状を眺めると、「見え方」が変わってくるのが実感できる。現在進行形の問題解決策の事例として、平田オリザ氏による岡山県奈義町・兵庫県豊岡市の子育て支援・街づくりや、高橋博之氏の「東北食べる通信」を通じた生産者と消費者の新しい関係等が挙げられている。いずれも、社会が変わっていく方向性として希望を感じさせるものである。かたや、藻谷浩介氏やブレイディみかこ氏の論考からは、「空気」に流されず具体的な数字を通して現実と向かい合う重要性が読み取れる。

また、小田嶋隆氏の「経営者目線」批判は、その論調こそ「いやなオッサン」風だが、人口減少を単なる経済やビジネスの問題として扱うことの限界を投げかけている。平田氏が紹介していた東井義雄氏提唱の概念「村を捨てる学力、村を育てる学力」も同根だと思われる。これらは経営教育に携わる身として身につまされた。

学んだ結果、合理性や効率性を追い求めて「村を捨てる」教育ではなく、自身の属する共同体にその学びを還元し、共同体を豊かにするのが「村を育てる学力」だという。「村を捨てる学力」の延長線上にあるのが、「産む」「働く」「消費する」といった、人を機能としてのみ捉える「経営者目線」だと言えるだろう。グロービスの経営教育では、経営に関する知識を学ぶことと併せて、各人の「志」を育むことを重視している。それは夜郎自大な「経営者目線」への批判であり、「村を育てる学力」への挑戦だと考える。

ところで、同じ人口減少問題を扱った本としては、昨年刊行された河合雅司氏の『未来の年表』(講談社現代新書)が話題だ。人口減少がもたらす未来の日本のイメージを具体的に把握するには、『未来の年表』は大いに助けになるだろう。一方、本書は起こり得る未来のイメージや提言そのものに加えて、そうした予想図を冷静に受け止め、健全に批判し、備えについて考える上での姿勢のあり方について学び取ることができる。視野を広げたい、新しい視点に触れてみたいという方におすすめしたい。

人口減少社会の未来学
内田 樹(編集)
文藝春秋社 1,728円

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