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AI、ビッグデータの時代に学ぶべきこととその学び方

投稿日:2018/05/16更新日:2020/02/27

ビジネススクールで教えている 武器としてのITスキル』の座談会Part2をお送りします(Part1はこちらから)。今回は、特にビッグデータやAIに造詣の深いグロービス経営大学院の教員、鈴木健一(グロービスAI経営教育研究所=GAiMERi所長を兼務)と武井涼子(専門分野はマーケティング)に話を聞きました。

日本のマーケティングは15年遅れ

嶋田:データやAIを使った経営トレンドに関して、最近気になったニュースはありますか。

武井さん武井:象徴的なこととして、アメリカのセールスフォースという会社の動きがあります。最近、ついにアドビも抜いて世界最大のマーケティングサービスの会社になりました。彼らがちょうど1年前の春、「アインシュタイン」というAIを開発したのですが、それがたったの半年くらいで多くの大企業に導入されるようになった。昨年、同社のマーケティングのヘッドに話をうかがう機会があったのですが、どんな大企業のデータでも、1日あればすべて解析できるということです。

マーケティング関連のデータはもちろん、担当者の人事関連のデータもアインシュタインに入れると、何かしらのアウトプットが出てくるようになっている。それが非常に短期間に実用化されたというのは非常に象徴的だと思います。

嶋田:なるほど。

武井:日本企業でも、「データがあるのでどう使えばいいのか教えてほしい」という相談がよく来ます。データというものに対する関心の高さは間違いなく高まっています。ただ、日本の企業が遅れているのは否めません。たとえば私が知る限りでは米国の企業などは、昔からサービスデザインからR&D、セールスの最前線に至るまでマーケティング・リサーチの結果に基づいて判断する文化がすでにあり、そこにデータやAIが出てきたことで、新しい技術を用いてサポートをする体制が出来はじめている。元からデータは取ってでも使うのが当たり前だったところに、データが簡単に取れる環境が整ったことで、今はむしろ取れるデータの所属や匿名性の問題などに強い関心が集まっています。

ただし、どの企業でも悩みはあります。これだけ情報処理能力が上がったのに、取れるデータも飛躍的に増えてきたため使われるデータの比率はむしろ下がっている。必要なデータの取捨選択と、データごとの連携には苦しんでいるようですね。

嶋田:マーケティングに関して言うと、日本企業とアメリカ企業では何年くらいの差がある感じでしょうか?

武井:日本が15年遅れといったところでしょうか。10年ほど前に様々な企業がマーケティング・システム統合に大きな投資をした印象がありますが、日本ではまだそうしたシステムの導入がされていない企業も多いですね。そもそも、伝統的にマーケティング部門が弱く、マーケティング・リサーチに適切に投資をすることが少ないように思います。

その結果、実は専門職的要素の色濃いマーケティングのプロが育つ環境ではなかった。あまり調査をしないことから、マーケティングに勘と経験が使われることも多く、結果としてマーケティングデータに関する情報リテラシーが低いという問題もあります。アメリカで人材不足という場合、コンピューター・エンジニアリングの博士取得者クラスが足りないという話であることが多いのに対し、日本はそれ以前のマーケティング担当者のレベルでつまずいている。

鈴木:武井さんの専門であるマーケティングやウェブの分野などではかなりAIによるデータ活用が進んでいますが、一方で難しい分野もあります。たとえば自然言語処理なんかはコンピューターに意味を理解させるという点ではまだまだ困難があり、長い文章の意味を解釈するのは非常に難しいです。いずれにせよ、何をAIにさせるべきなのかをしっかり考えることが大事です。クリティカル・シンキングでいうところのイシューの設定が正しくできないと、結局何もできない。適切なデータの前処理なんかもできませんしね。データさえ集めれば何とかなるというのは危ない考え方だと思います。

敷居は下がっている

鈴木:最近の動きでいえば、データロボット(機械学習自動化プラットフォーム)などのツールがどんどんでてきたのは面白い動きですね。コードレス(自分でコードをかかずにプログラミングなどをすること)、かつクラウド上でいろいろな分析ができる。もう少しすればデータサイエンティストでなくても、ビジネスサイドの人間がいろいろな分析をして意思決定に活かせるようになるかもしれない。いまは「プログラミング勉強しなくちゃ」のようなことを言っているけど、コードレスの動きがもっと進めば、ハードルは一気に下がる可能性はあります。ビジネスサイドに人間が課題意識をしっかり持って考えることができれば、「じゃあどんなデータが必要なのか」ということも考えやすくなるでしょう。

嶋田さん嶋田:日本で注目されている企業はありますか。

武井:マーケティングへのデータ活用ということでよく例に上がるのはエアラインとか一部の銀行でしょうか。

鈴木:昔から腰を据えて組織的にデータ分析に取り組んできた企業、ということでは大阪ガスが有名ですね。河本薫さん(データサイエンティスト・オブ・ザ・イヤー初代受賞者)がずっとそれを率いていた。

武井:先日、あるアメリカのウェブベースのグローバルサービス企業のプロモーション・ヘッドの友人と話をしました。彼女の会社はまさにデータありきでプロモーションを行っているのですが、データのクレンジングに苦労しているとのことでした。データのことがよくわかっている企業ですらそういう状況であるように、データを適切に動かしていくには実務上の意外なハードルがたくさんあるのです。そこで感じるのは、どのレベルまで実務を理解してデータを使いたいと話しているのか、ということです。「できることとやれること、そのためにやらなくてはいけないこと」が分かっているレベル感が企業によって大きく違うという点ですね。よくわかっている会社もあれば、「データさえ取ればなんかできるんじゃないか?」というレベルの会社もある。

嶋田:悩んでいる部分のレベル差が大きいわけですね。

武井:マーケティングデータの活用法としてカスタマイズがあるわけですが、顧客は自分用にカスタマイズされたサービスにはより多くのお金を使うという調査もあります。アマゾンなどはそこがすごい。勘と経験では勝てないわけです。

ただ、鈴木さんが言うように、世の中はコードレスの方向に向かっている。最近はウェブを作るのも簡単にコード書かないでできるサービスも出てきていますから。ビジネスを分かっている人が、今回この本に書いたようなこと、たとえばデータの種類や扱い方などを理解できれば、技術の進化によって、別にプログラミングやコンピューターサイエンスの知識がなくてもそれを活用できる機会はどんどん広がると思います。

鈴木:AIを機械学習と捉えるなら、機械が得意なことをしっかり理解し、それを踏まえて仕事を与えると生産性があがる。まさにテクノベート・シンキングです。機械学習というものがどんなものなのかをまずは正しく知ることが必要です。インプットからアウトプットが出てくる流れは一見複雑ですが、意外とシンプルな事柄の積み上げですから。

バランスの良い知識・スキルの習得が遅れている

武井:今回はテクノロジーの話をしていますが、それ以前にマーケティングの全体像を知らないという人も多いですね。それではデータの扱いだけ知ったところで効果的な活用はできません。たとえば真にブランド戦略を理解している経営者などはまだ少ないのではないでしょうか。そこにいきなりAIを用いたプロモーションだけ持ちこもうとしても機能しません。

嶋田:当然ながら、経営学に対する全般的な知識の習得も必要ですね。

鈴木:その上で、AIは個別化のためのツールという理解も必要かと思います。全体像を見据えたうえで、自分のビジネスの中でどのように個別化して活用できるかという視点が必要です。

武井:今回この本にも書かれているとおり、たとえばアルゴリズム等がどのようなものなのかを知っているだけでも、自分のやりたいことがシステム部門に適切に針路を与えるものなのか否かを判断しやすくなると思います。

鍵になるのは「体感値」

鈴木:個人的には、やはり体感値が大事と思います。本などを読んで「わかっている」というレベルと、多少なりとも自分で手を動かして「できる」というレベルは全然違う。

嶋田:それを忙しいビジネスパーソンがやってみるとしたら、どのようにやってみるとよいですか?

武井:マーケティングであれば自分でマーケティング・リサーチをやってみて、そのデータを分析してみるといいと思います。無料のオンラインアンケートツールの「サーベイモンキー」でも一度使ってみるといい。ウェブサイトに「Google Analytics」を入れるのだって簡単です。その結果を見て分析するのもいいでしょう。

鈴木:素朴にAIに触ってみるというなら感情(センチメント)の分析などをしてみると体感値にはなるでしょう。何でもできるというわけではないですが、コードレスの時代ですから、たとえばマイクロソフトの「Azure」を使ってブロックダイアグラム的に機械学習を組んでみるなど、できることはいろいろあります。

たとえばAzureだとAPIを発行することもできるので、簡単なレコメンデーションなんかはできますね。グロービス経営大学院の研究プロジェクトでも、何も知らない学生にAzureを使ってリコメンデーションの仕組みを作ってもらうなんていう課題もありました。実際にそれを会社が使うかどうかは別としても、簡単な「お遊び」以上の体験をすることは難しくはありません。

現時点では、そうしたことを知っている人は少ないし、自分で手を動かした人はもっと少ない。だからこそ、一般のビジネスパーソンにとってはチャンスとも言えます。

武井:一度そうしたことをやってみると、理想と現実の差なども分かります。そうしたこともぜひ体感してほしいですね。

1人だけでは始めない

武井:特に業務に関わることは1人でやらないことが大事だと思います。たとえば今は個人情報の保護だけでもものすごい問題が起きる可能性がある。1人だけでは始めない、しかし小さくは始める。この感覚が大事です。小さな成功を積みながら、組織でできるという感覚を掴んでいくことが大切です。それが積み重なると、リアルな「データを使った経営」ができるようになる。その際、スポンサーとオーナーをつけることが大事です。組織のオーソライズはやはり必要ですね。

鈴木さん鈴木:改めて基本的な部分に着目すると、知識と体感値を臆せず身につけることがやはり大事と感じます。知は力なり、ですね。幸い、学ぶための膨大なリソースが最近はあります。ウェブ上にはいくらでも無料の解説や動画があります。それはぜひ活用したいですね。英語が得意ならさらにいいです。世界的権威が喋っている動画などもたくさんありますから。

また、先ほどの1人で始めないという話と絡めると、やはり仲間がいる方が学びやすくなります。最近はいろいろなコミュニティがあります。探すのも簡単です。どんどん参加して活用するといいと思います。仲間はたくさんいます。

そうして学びを深めていくと、AIやデータも意外と基本はシンプルということがわかってきます。そこで改めて、人間ならでは出せる価値に気付くこともできる。先ほども言った課題設定や枠組みの設定などもそうですね。その意味で、グロービスが重視しているクリティカル・シンキングなどは改めてしっかり身につける必要があると思います。

テクノベート時代の学び方を身につけよう

嶋田:とはいえ、まだAIやデータに対して食わず嫌いの人は多いです。

鈴木:食わず嫌いになる理由の1つは、AIについていうと、ニュースで取り上げられるのが「アルファ碁」や「グーグル翻訳」のように手品的にすごいものが多いからかもしれません。手品だって種明かしをされれば実は基本はシンプルなのに、見かけだけで驚いてしまう。

武井:確かにそうですね。もちろん訓練は必要かもしれませんが、基本がわかれば、あとは何とかできるはずなのに、勝手に距離感を置いてしまっている。

鈴木:AIも、原理は非常にシンプルという点は知ってほしいですね。

武井:やりたいことがある人ならば、AIを使ってこんなことができないかな、などと考えてみるのもいいかもしれません。最先端を追いかける必要などはないですから。

鈴木:問題は、そうした課題意識のない人でしょうか。

武井:ただ、この本の読者について言うと、本を手に取ったというだけで、すでに他者に一歩先んじている。その上で、身の回りを見まわしてみると、すでに機械学習が活用されている部分も多い。そこでいろいろ考えてみるといいでしょう。本で最低限の知識は学んだのだから次は行動に出てほしいですね。そして体感値を積み上げていくことが効果的だと思います。

今の時代、本やウェブを読んだり見ただけでは学んだということになりません。ぜひ手を動かし、インタラクティブに学ぶ姿勢を持ってほしいと思います。今日始めないと、明日始める人には負けてしまいます。その際、良い「師」がいるといいのですが、この本はそうした師の代替になると思います。何年か経つと古くなる部分もあるかもしれませんが、当面はこれを1つの指南書として、どんどん手を動かしてみてほしいですね。

嶋田:一刻も早くテクノベート時代の学び方を身につける必要があるわけですね。Part1でも結局は自分でやってみないとわからないという話が皆さんから出ました。自戒も含め、新しい学びのスタイルをぜひ身につけたいですね。本日はありがとうございました。

  • 鈴木 健一

    グロービスAI経営教育研究所 所長/グロービス経営大学院 教員

    東京大学大学院工学系研究科修了、米国シカゴ大学経営大学院修士課程修了
    野村総合研究所を経た後、A.T.カーニーにてマネージャーとして経営コンサルティング業務に従事。メーカー、通信事業者の新規事業戦略、マーケティング戦略、オペレーション戦略などの分野で幅広いコンサルティング経験を有する。グロービスでは2006年の大学院設置認可と開学、さらに2008年の学校法人設立など、開学から2016年3月まで10年にわたり事務局長として大学院運営にたずさわってきた。現在は専ら教員として、ビジネス・アナリティクス、クリティカルシンキングをはじめとする論理思考系科目の科目開発、授業を担当するほか、2017年2月より新設したグロービスAI経営教育研究所(GAiMERi)の所長としてAIの経営教育への応用について研究開発を進めている。

  • 武井 涼子

    グロービス経営大学院 教員

    東京大学卒業後、(株)電通に入社、主に自動車会社のコミュニケーション戦略の立案を行う。その後、外資系広告代理店においてブランド戦略、インタラクティブ戦略等を経験。またFIFAマーケティングと大手ベンチャー企業で、スポーツ&マーケティングと経営企画に携わったのち、コロンビア大学でMBAを取得。帰国後は、マッキンゼーを経てウォルト・ディズニー・ジャパンに転職。マーケティングと事業開発を行う。現在、グロービス主任研究員およびグロービス経営大学院大学教員。東洋大学講師。執筆著書『ここからはじめる実践マーケティング入門』 (ディスカヴァー21社)は日本説得交渉学会学会賞を受賞。 その一方、二期会に所属し、国内外のオペラやコンサートに出演する声楽家でもある。日本歌曲の世界への普及を志す「Foster Japanese Songsプロジェクト」では国連本部などでの活動を、Wall Street Journalにも取り上げられた。Forbes Onlineオフィシャル・コラムニスト。

聞き手・執筆

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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