テクノベート時代の個人と組織の関係は?―『ビジネススクールで教えている 武器としてのITスキル』教員座談会 

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前編に続き、ビジネススクールで教えている 武器としてのITスキル』の執筆者座談会の様子をお伝えします。前編は、個人が意識すべきテクノロジーの進化について主にお伝えしました。後編のテーマは、テクノベート時代に個人は組織とどう向き合うべきかです。(全2回)

デジタルトランスフォーメーションの時代、個人は会社とどう付き合うべきか

嶋田:さて、多くのビジネスパーソンは会社という組織の中にいます。その中にいる人間は、「自分としてやりたいこと」と「会社の意向」の折り合いをどうつければいいのでしょうか? 見方を変えれば、「会社の使い方」のようなものはどのように変わっていきそうでしょうか。

君島:これまで多くの方は会社に依存しすぎていました。言われたことを言われたとおりにやるということです。ただ、これは変わりつつあります。会社の方も、それでは競争力が維持できないことに気がついてきた。会社の意識や制度が変われば、それまで指示待ちだった人も変わっていかざるを得ないと思います。それをいち早く実現できた人はどんどんフリーランス化して会社と対応な関係で仕事をするようになると思います。2030年頃にはかなり日本も変わっていると思います。

川上:テクノベート時代に必要なデジタルトランスフォーメーション(本書の2章スキル11「テクノロジーが与える影響を予測する」を参照)を進めるには、キャリアデザインなども含め会社の制度を変えないと仕方がない。社外ネットワークを作る力、コラボレーション出来る力などがもっと評価されるべき。実際、そうした人々の方が成果を出すようになる。会社も個人も同時並行で変わっていくことが求められるでしょう。

嶋田:ちなみに、そうした観点から最近注目している企業などはありますか?

川上:そうですね、ある空調機器メーカーなどは、このままいくと「空調機器というモノ」を売っているだけでは、家やオフィス全体を制御するソフトウエアを提供するIT企業にやがて主導権を握られてしまう。そこで「どうすれば空気をキレイにできるか」に関するイノベーションを必死に模索しています。こうした会社は変わる可能性が高いですね。自動車関連業界なども、自動運転等に絡んでグーグルやウーバーなど異業種からの参入組に目をつけられているわけですが、そうした業界は死に物狂いで変化を模索しています。

嶋田: ITのメッカであるシリコンバレー系のベンチャー、メガベンチャーと競争している会社などは、リアリティのある危機に直面しているわけですね。だからこそ会社も個人も変わろうとする。

川上:そうですね。ちなみに、その空調機器メーカーで私が話をした人は、もともと外部でその企業をお手伝いしていた人なのですが、結果的にクライアント企業に入社してしまった。そういう人も増えています。デジタルマーケティングの業界などではそれが当たり前なのですが、どんどん組織や業界をまたいで移動する人が増えています。テクノベート時代には、他の組織に飛びこめない人は価値を認められにくくなるでしょう。

嶋田:今はまだそういう人は少ないかもしれませんが、おいおい閾値を越えれば一気に増える可能性は有りそうですね。

梶井:具体名は出しにくいのですが、ある大手エレクトロニクスメーカーも外部から経営人材を登用してどんどん変わろうとしていますね。商材の特性もあるのでしょうが。

君島:一方で、これもある電機系の会社ですが、製品・サービスはかなりITの先端を行っているのに、社員の会社に対する態度や関係が驚くほど昔のままというところもありますね。

嶋田:なるほど。その辺りに日本の大企業の課題がありそうですね。

梶井:その一方で、テクノロジーを勉強して「このままではまずい」と思って、社内でちょっとしたプロジェクトを起案して予算を獲得するという話も聞くようになりました。30代くらいの方が多いですが、会社をうまく活用して新しいことをやろうという人は増えていると思います。難しいのは旧来のパラダイムで成功体験を積まれてきて、変化を嫌うようになってしまった方、50代くらい以上の方が多いでしょうか。弊社の研修部門の人間に聞くと、いかにそうした人に喝をいれるべきか、という企業様からの相談もよくあるようです。

新時代のシニアの役割とは

君島:正直、50代くらいの方にデジタルトランスフォーメーションの先頭に立ってくださいというのは難しいと思います。彼らに期待したいのは支援ですね。役割分担とも言えます。

嶋田:支援しないまでも邪魔はしてほしくないですね(笑)

君島:既存の組織の「言葉」も分かって、新しい取り組みの意義も分かる、つまり、既存の組織のロジックを使って新しいことをやる人を守ってくれるといいですね。

嶋田:そのためには、20代も30代も40代も50代以上も、バランス良くテクノロジーのこと、テクノロジーがビジネスや組織に与える影響を学んでほしいですね。そして先ほど話があったように、テクノロジーを使って何をしたいか、社会に貢献できるのかをしっかり考えることが必要ということでしょう。

君島:まさに「空気をどうすればキレイにできるか」を考えることが必要ですね。

「悩めるビジネスパーソン」に期待する態度・行動変容は

嶋田:本書の読者の多くは「悩めるビジネスパーソン」だと思うのですが、彼らにどのように変わってほしいですか。最低このくらいのことを皆がやり始めると日本が変わるよ、といったことなどあれば聞かせてください。

君島:自分が若い頃にやった成功パターンをそのまま若手に伝えないことですかね。現場で起こっている変化に敏感になり、その上で考えて指示を出すことが必要だと思います。

梶井:常識を疑うことでしょうか。たとえば毎日9時に社員全員がオフィスに来る必要が本当にあるのかとか。テクノロジーで実現できることをふまえると、これまで常識と考えてきたことをそのまま踏襲し続けるよりも、新しいやり方に変えたほうがより良い価値発揮ができるんじゃないかといったことを幅広く柔軟に考えることは必要でしょう。

川上:テクノロジーを使って面白そうなことをやってみることですね。組織のオーソライズを待つのではなく、遊び感覚で楽しくみんなでやってみるといいと思います。本書の中にも書きましたが(2章スキル8「業務の生産性をあげる」参照)、たとえばセンサーとIoTの技術を使ってトイレがいつ混んでいるかを知るとか、会議室が本当に使われているのかをチェックするといったことはすぐにできるし、それが実際に業務の生産性向上につながったりするわけです。

最初は笑われるようなアイデアでも、実際に効果が出たりするんです。「できない」「意味ない」などと最初から決めつけるのではなく、「こんな工夫したら面白いかな」と考えたり議論したりするといいと思います。

嶋田:遊び感覚は大事ですね。一方で、会社人としては達成目標もあれば、最近は働き方改革で「遊ぶ余裕」が持ちにくかったりする。そうした中で「うまく遊ぶコツ」のようなものはあるのでしょうか。

君島:遊び方がわからなければ、異質な人にまずは会ってみるといいでしょう。あと、本当に身近なところから始めるのもいいと思います。センサーの工作が苦手なら、最初はスマホアプリを使って自分の行動を調べるだけでも発見があって面白いと思います。営業担当者であれば、自分の働き方の癖などが分かるかもしれません。

梶井:ITが進化したおかげで、いまはタダ、あるいはかなりの安価でいろんなことができますからね。お小遣いの範囲でできることが本当に多い。無料のスマートフォンアプリでもいろいろと面白い実験ができますし、ハイスペックなクラウド上のサーバーを1日借りる値段だってかなり安い。

嶋田:個人レベルもそうですが、ちょっと予算のある管理職ならいろんなことが本来できるはずですよね。

梶井:そうしたトライを上司が面白がってくれるとさらにいいですね。あと、話は変わりますが、仮説を壊す勇気とか、過去のサンクコストに引っ張られない勇気も欲しいですね。どうしてもそれまでに学んだりやったことに引っ張られてしまう。

嶋田:それはひょっとすると「失敗を許容する文化」の話とも関わるのかもしれません。君島さんも本書の中で書かれていましたが(3章スキル15「新しい変化を創り出す」参照)、テクノベートの時代には失敗はつきものですから。

君島:先ほどの話に戻りますが、やはりいろんな人と会って知見を広めてほしいですね。「自分の世界は小さいんだ」と自覚することが非常に重要です。あるいは、「会社の中ではできなくても、その気になれば外でできるよね」と思えることが必要だと思います。

最初の一歩としてやってほしいこと

梶井さん嶋田:最後に、テクノベート時代に生きていく人々に伝えたいメッセージをお願いします。

梶井:冒頭にも言いましたが、怖がったり自分に関係ないと思ったりしないで、どんどん新しいテクノロジーに触れてほしいですね。世の中やテクノロジーの変化進化に終わりはありません。楽しく新しいことを吸収し続けないといけない時代なのです。続けるためにもぜひ楽しんでほしいです。

君島:人生100年時代ですから、50代の方とかにもどんどんテクノベートの世界を学んでほしいですね。いままでの貯金で人生終えようとしないことです。自分を偉いと思わずに、若い人と対等の立場で学ぶことが必要です。会社に振り回され過ぎず、自分を取り戻すことが必要ではないでしょうか。セカンドキャリを充実させる意味でもそうした姿勢は重要でしょう。

川上:シニアの方と話をしていてよく聞かれるのは、「これから私は何をすればいいのでしょうか」ということです。しかしそれは本人が決めるしかない。やはり指示待ちでなく自分で決めるということをしてほしいです。シニアに限りませんが、世の中がどう変わるかを人に聞くのではなく、どんな世の中になればいいかを自分の頭で考え、自分でどんどん動いて周りを変えていくといった気概を期待したいです。

嶋田:なるほど。いきなりすべてのビジネスパーソンがBTC人材になれるわけではないかもしれませんが、本書なども参考に、まずテクノロジーで何ができるのか、何が変わるのかを知ることはものすごく大事だと思います。その上で、自分らしさをどう出していけるのかを考え、実行できるといいですね。そうした人がどんどん増えると、日本のビジネスも変わっていきそうです。本日はありがとうございました。

 

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