【未来の年表・河合雅司氏】少子・高齢化時代にビジネスパーソンが考えるべきこと 

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前編に続き、ベストセラー未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』や未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること』(近日刊行)の著者・河合雅司氏に、人口減少がもたらす未来や、ビジネスパーソンとして意識しておくべきことについて伺いました。聞き手はグロービス経営大学院 教員の金子浩明です。(全2回)

少子化スパイラルは止められないのか

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金子:少子化のメカニズムを考えてみると、産むことのできる人が少なくなっているだけでなく、婚姻率も低下していて、かつ結婚してからの出生率も低下している、と。これがぐるぐる回って「少子化スパイラル」のようになっています。一口に少子化と言っても、異なる問題が複合して起きているため、止められそうな感じがしません。

河合:出生率の低下には、婚姻時期の問題もあります。30代後半あるいは40代の声が聞こえた頃に結婚をして子どもを産みはじめる場合、自分たちのライフステージを考えると何人も子どもを持つということはなかなかできません。子供が大学を卒業する頃に自分の夫は定年退職しているでしょうし、40を超えると肉体的にも子どもをつくることが難しくなります。

金子:どこから手を付けていけばいいでしょうか。

河合:女性の数が減るということ自体は変えられません。過去の少子化のツケを今払いはじめている時期なので。少子化問題の要因の多くは結婚に関することなんですね。日本では結婚と出産がワンセットですが、これは東アジアの国々の特徴です。「できちゃった婚」という言葉があるように、順番が違ったとしても結婚と出産というのがほぼセットなんです。

その婚姻にはいくつかのハードルがあります。まず、収入が安定しないため結婚に踏み切れない人たちが増えている。これは失われた20年の、まさに宿痾(しゅくあ)みたいなものです。そして出会いもなかなかない。それと、やはりライフスタイル自体も全般的に晩婚のほうへ進んでいます。

「自分はずっとシングルで生きていきます」と決めている人に「結婚せよ」と言うわけにいかないし、「自分たちは子供を持たない人生なんだ」という夫婦に「子どもをつくれ」とも言えないわけで。むしろ、少子化対策とは、結婚したいのにできないとか、子どもが欲しいのにつくるだけの余裕がない、あるいは2人欲しいのにひとりで我慢しているとか、そういう人たちにとっての阻害要因を解決し、なくしていくことだと思います。

とりわけ、ここ10~15年で少子化がぐっと進んだ理由は働き方にあります。男性の雇用が壊れてしまったというのがひとつ。正規で就職しても昇給や昇進がはっきりしなくなってきて、人生設計できない面もある。夫婦ともに精一杯働いて、それで何とか家計を支えているというケースも増えてきました。そうした夫婦は奥さんが妊娠して仕事を辞めたならば収入が半減するし、子供が増えればさらにお金も必要になる。だから「子供を持たない」といった話になっていくので、やはり働き方の部分をもう一度見直さないといけない。

そのうえで、ある程度は人生設計を立てることができるぐらいの収入を得られるようにする。また、女性が育休を取得したあとにきちんと復職でき、次の職が見つかるようにする。そんな風にして、安心して出産から乳幼児の子育てまでできるような環境をつくらないと、この課題はクリアできないと思います。

金子:この問題は根が深いと感じます。先生の本を読みながら、これは大気汚染などの環境問題に似ているなと思っていました。経済学に「共有地の悲劇」という法則があります。ある牧草地が共有地だった場合、各々の農民は自己の利益を最大化しようとして、多くの牛を放牧します。結果として牧草地は荒れ果ててしまい、その結果全ての農民が被害を受けることになるという話です。少子化の問題も、各企業と各個人が各々の利益を最大化しようとした結果、国民にとっての共有資産である「次世代の働き手」が減ってしまったのだと思います。

たとえばバブル崩壊後、企業は私のような団塊ジュニア世代の新卒採用を控えました。その時に非正規でキャリアをスタートした人は恐らくその後もずっと同じようなキャリアを重ねざるを得ない人が多かったと思います。ただ、それは企業としては合理的な選択であって、「うちは不況だから採らない」というだけの話だったわけです。

一方、結婚や出産に関しても、「できるけどしない」という人が私の周りには結構多い。「自分のキャリアに子どもや結婚を介入させたくない」という人もいれば、「子どもに自分たちの時間を奪われたくない」という夫婦もいます。それぞれ誰にも迷惑をかけていない。ただ、トータルで見てみると、「共有地の悲劇」のようになってしまっている。

河合:そうですね。結局、そうした一人ひとりの積み重ねが、日本社会の総人口を減らしていくのでしょう。

少子化によって社会の活力が失われる

河合:総人口が減るということはマーケットが縮むことでもあります。でも、重要なのはそれによって国力が縮むことなんですね。経済力があって初めて軍事力もつくし国際的な発言力もつく。たとえばWTOで国際ルールをつくっていくような場面でも、国の総合的な力が、自分たちに有利なルールづくりをできるか否かに関わってくる。そう考えると、今は自分で自分の首を締めながら皆がそれぞれ利益を追求しているわけで、「それで本当に社会が回るの?」と、皆で考える必要があります。

子どものいない社会というのは豊かな社会ではないと思うんですよね。次の世代は自分の未来であって、自分が生きられない時代まで生きていく人たちです。自分たちだってそういう期待を受けながら、親の世代に大切にしてもらって皆大きくなってきた。そういうことを考えると、他の世代への思い、あるいは世代の循環というものは、実は自分自身を高めていくことにもなるはずなんですね。

社会が成熟化・高度化して複雑になると、そうした「生き方論」のようなものに皆が関心を持つ時期がくるんだと思います。そのとき、この国をもう一度、子供がたくさん生まれてくるような状態に戻すことができるのか否か。できなければこの国はなくなっていくんだろうと思います。それはもう歴史的な役目を終えたということで。

金子:子どもが少なくなると、若者文化のようなものも育たなくなると感じます。たとえばSMAPがあれほど人気を集め続けていたのは、おそらく団塊ジュニアがいたからだったと私は思っているんですね。この世代の購買力や影響力が消費にすごく影響していた。一事が万事、同じようなことが商品や技術の開発でも起きている気がします。どうしても高齢化が進むと新しいものが生まれにくくなっていく。

河合:商品やサービスの開発について、消費する側も供給する側も発想がワンパターンなっていく。そうなると、この国は決して豊かになれません。

金子:著書では「高齢者と捉える年齢をあげる」というご提案もなさっていました。なるべく老人にならないように頑張るしかないんでしょうか。

河合:これからは働かざるを得ないと思うんですね。働けば社会の支え手になるし、社会のお荷物とならず済む。長寿になってどんどん高齢化の時期が延びていくと社会であれば、それを支える現役時代というものも、ある程度長くしていくことが必然になると私は思います。

労働人口減少時代のビジネスパーソンに求められること

金子:労働人口減少に対する見極めは、今後、MBA等を学ぶようなビジネスパーソン一人ひとりにも求められてくるように思います。

河合:日本の場合、どうしても高齢者に対応しながらのイノベーションになっていくと思うんです。そういう意味ではこれから世界中で高齢化が進むので、技術開発や商品・サービス展開にあたり、日本のノウハウが活きてくる。ですから、そのノウハウ自体をライセンスにするようなビジネスも伸びると思います。そこで少子高齢問題の解決をしながら日本の新しい成長産業をつくっていけるように思います。

金子: 20代から団塊ジュニアぐらいの、いわゆる働き盛りのビジネスパーソンがそうした問題に個人で取り組むとしたら、何を学ぶべきでしょうか。

河合:今後はある程度高齢者と一緒に社会を形成していくことになる。半分が高齢者という社会ですから。なので、今までの「効率性」とは別の尺度で価値をつくっていかなければいけないと思います。体もそれほどテキパキ動かせないし、俊敏に判断もできないという方々が、マーケットのなかで相当な部分を占めるわけですよね。そう考えると、今後は世代を越えたコミュニケーション能力がすごく問われるようになると思います。

今はダイバーシティということがすごく言われていて、外国の方々と、文化や言葉あるいは思考メカニズムの違いを超えて互いに理解していこという努力をやってきているわけです。それに加えて今後は、国内における人口構成の違いまで含めたダイバーシティも必要になる。若い人と高齢者で。あるいは高齢者と高齢者のダイバーシティというのもあります。我々は65歳以上を高齢者と呼んでいるわけですが、100歳に届く人たちも今後は増えるわけで、100歳と65歳って、親子ほどに違いますから。

そうした文化的・社会的背景もまったく違う人たちを、今は「高齢者」とひとくくりにしています。でも、そこで「高齢者といっても人によって欲しいものや考え方は違う」ということをよく考える必要がある。そうしたことをもっと学んでいかないと、次のビジネスパーソンはなかなかマーケットが読めなくなってしまうと思います。

団塊ジュニアに課せられた試練

金子:私の世代は、バブル崩壊後の就職氷河期の影響で20代前半ぐらいには苦労しました。2024年には団塊世代が75歳以上になっていくので、親の介護問題を含めてダブルケアになるというお話も著書にはありました。就職氷河期で不遇、ダブルケアで不遇。そして自分たちが老人になったら2042年問題で今度はお荷物になっているという、実に不遇な世代であることを認識しました。愚痴を言っても始まらないので、我々はまず個々人として何を心がけるべきなのか。また、団塊ジュニア世代という集団として、どうすれば次世代に対して迷惑をかけずにいられるのでしょうか。

河合:ひとつは健康寿命を延ばす努力ですよね。40代であれば、今から生活習慣を改めていくことで健康寿命は伸びます。高齢者は何もできない”お荷物の存在”ということではありません。とはいえ、体力的にできないことが増えるから皆のお世話になるケースが増えるわけです。だから、その時期をなるべく短くする。先ほどのお話と同じで、働かざるを得ないなら、いやいや働くのでなく積極的に働けるような自分でいることが大事なんだと思います。

最近はリカレント教育という言葉も出てきましたが、自分自身を鍛え直していく。能力をつけていくとともに、少なくとも70~75歳ぐらいまでは健康でいること。そういうことは心掛けでできることですよね。

団塊ジュニア世代は数が多いわけですから、新しいムーブメントを起こしてもらいたいんですよね。団塊世代は良い意味でも悪い意味でも戦後の日本を引っ張ってきたし、ブームメーカーのようなところがありました。彼らが絶えず新しいことにチャレンジして新しい日本の生活シーンをつくりあげてきた。でも、団塊ジュニアのほうはというと、働き方がバラけてしまったこともあって団塊世代ほどエネルギーがないんです。

ですから団塊ジュニアにはもう少し、自分たちの世代の「新しい格好良さ」みたいなものを次の若い世代に見せていって欲しいと思います。「もう前の世代と我々は違うんだ。格好良い年寄りになってやるぜ」というように。

金子:目指すはイチロー選手のような存在ですかね。44歳で現役メジャーリーガーというのは、80代で現役ビジネスパーソンのような感じです。

河合:あるいは、「東京でなく地方都市のどこかで新しいことをやっているやつが格好良い」とか。団塊世代や我々のような50代半ばとなった世代が、「24時間働けますか?」というのを格好良いと考えていたことに対するアンチテーゼとして、さらっと仕事を済ませてアフター5を過ごす。そのうえで、「たしかに先輩と比べると収入は少ないけれども、豊かさでは俺たちのほうが絶対に上だよね」というようなモデルをつくりあげていく。そういうことを次の世代に対して見せていってもらいたいんです。そうしたら、その人たちはまた次の世代に同じようなことをやってくれるはずなので。

まだ団塊ジュニア世代の皆さんは40代ですから、体力的にもいろいろなことができるし、時代だって変わります。決して明るい未来ばかりじゃないけれども、そのなかで新しいモデルを打ち出していくというのが団塊ジュニア世代にできることだと思います。

インタビュー後記

河合さんへのインタビューを通じて気付いたことは、少子高齢化という問題は、「A.高齢者の増加」と「B.若年人口の減少」と「C.平均年齢の高齢化」の3つに分けて整理する必要があるということです。

A.高齢者の増加・・・高齢者向けの設備や人、カネ(国が負担する医療費)の不足。これはB.人口減少とは関係なく起こる

B.人口の減少・・・様々な設備が余る。特に余るのは、大都市圏以外にある設備(商業・娯楽施設や病院など)と若年層向けの設備(大学など)。そして、AとBの組み合わせがC.平均年齢の高齢化

C.平均年齢の高齢化・・・高齢者は増えても、それを支える世代が足りないのでAの問題が増幅される。これは、高齢者向けのサービスに限らない。総人口に占める労働者人口の比率が下がるので、様々な現場で労働力が不足する。

つまり、少子高齢化の問題とは、不足と余剰が同時に起こることだと言えます。これによって、様々な不都合が起こるということです。(下図参照)

人口減少

人口減少

こうした状況を把握した上で、この問題の難しい点は、大きく3つあると感じました。

1. いずれ余るインフラに対する出費が必要・・・地方の老朽化したインフラや、老人向けの設備など、人口減によって確実に使われなくなるものに対しても出費が必要。

2. 地方と都市部で問題が異なる・・・日本全体で老人は増えているが、地方の病院のベッドは既に余っている。都市部で不足しても、地方では余るということが起きている。

3. 少子化問題の解決に目途が立たない・・・10~20年前に第3次ベビーブーマーが起きていれば、「高齢者の増加」だけに対処すればよかった。しかし、ここまで問題が深刻化したのは子どもが増えないからであり、これに歯止めがかかっていない。

少子高齢化は、国民全体にとっての問題です。私自身も日本で暮らす日本人として、自分はこの問題に対して何ができるかを考えていきたいと思います。(金子浩明)

産経新聞社論説委員、高知大学客員教授、大正大学客員教授。1963年、名古屋市生まれ。専門は人口政策、社会保障政策。中央大学卒業。現在、内閣府「少子化克服戦略会議」委員、厚労省検討会委員、農水省第三者委員会委員、日本医師会「赤ひげ大賞」選考委員も務める。内閣官房有識者会議委員、拓殖大学客員教授などを歴任。2014年に「ファイザー医学記事賞」大賞を受賞。

著書『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(講談社現代新書)は46万部(2018年4月現在)を突破するベストセラーとなる。『未来の年表2 人口減少日本であなたに起きること』(講談社現代新書)が、5月中旬に発刊予定。

近著に『未来の呪縛  日本は人口減から脱出できるか』(中公新書ラクレ、4月10日刊行)。その他の主な著書に、『日本の少子化 百年の迷走』(新潮社新潮選書)、『地方消滅と東京老化』(増田寛也元総務相との共著、ビジネス社)、『中国人国家ニッポンの誕生』(共著、ビジネス社)、『医療百論』(共著、東京法規出版)、『AIで「未来の年表」はこう変わる』(共著、文藝春秋)などがある。

インタビュアー

東京理科大学大学院 総合科学技術経営研究科 修士課程修了
組織人事系コンサルティング会社にて組織風土改革、人事制度の構築、官公庁関連のプロジェクトなどを担当。グロービス入社後は、コーポレート・エデュケーション部門のディレクターとして組織開発のコンサルティングに従事。現在はグロービス経営大学院 シニア・ファカルティー・ディレクターとして、企業研究、教材開発、教員育成などを行う。大学院科目「新日本的経営」、「オペレーション戦略」、「テクノロジー企業経営」の科目責任者。また、企業に対する新規事業立案・新製品開発のアドバイザーとしても活動している。2015年度より、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)プログラムマネージャー(PM)育成・活躍推進プログラムのメンター。

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