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プロ棋士との誌上対局

投稿日:2005/06/07更新日:2019/08/22

4月のある日の午後、ダイヤモンド囲碁サロン(DIS)で一つの対局が ひっそりと行われた。僕は、毎週水曜日の夜に、このサロンに通いつめているが、その日はプロ棋士との対局であるため、昼過ぎに向かったのである(参照コラム:楽しい囲碁サークル

サロンに入ると、ストロボなどが既に設置されていて、カメラマン、ライター、雑誌社の方が待機されていた。入ってすぐ左の席に対局場ができていて、そこには女流プロ棋士の方が座っておられたのである。そうなのだ。僕が、初めてプロ棋士との誌上対局の取材に応じたのであった。

今までは、「実力が無い」、「あまりマスコミには出たくない」などと言って、対局取材は、丁重にお断りしてきた。しかし、昨年末に日本棋院の加藤正夫理事長が逝去されてからは、考え方を変えていたのだ。「囲碁の普及にもっとコミットしよう」、と決めていたのである。

実際、今年に入り、過去何度か開催した 「囲碁と経営を語る会」を復活させているのである。2月にこじんまりと実施し、本年6月24日(金)に大々的に開催しようと考えている。
第7回『囲碁と経営と語る』 ※

さらに、囲碁仲間が囲碁ブログを立ち上げ始めている。恐らくこのコラムにもトラックバックしてもらえるのではないかと思っている。数多くの方が、囲碁に興味を持ってもらえれば幸いだ、と仲間は皆同じように思っている。正直言って、 囲碁には、年配の方だけの娯楽にしておくには勿体無いほどの魅力がある。 なぜそれほど面白いかは、後述することにする。

話しを戻そう。この日は、雑誌「経済界」で2回にわたり掲載される囲碁の誌上対局なのである。恥をかいてはいけないと思い、特訓をしてこようと思ったが、なかなか時間がとれない。結局、殆ど準備らしき準備もできないまま、その日を迎えてしまったのである。

プロ棋士は、小川誠子(ともこ)先生という、実にお美しい方である。美しいばかりか品もあり、しかも強いのである。小川先生は、雑誌の取材関係で、アマとの対局を一年間に40〜50局打つが、1,2局しか負けないのだという。事実、DISの囲碁仲間である、英治出版の原田英治氏は、アマ5段の実力ながら二回戦って、二回とも玉砕している。銀座柳画廊の野呂好彦氏も惜しくも二目差で負けている。「そりゃそうだ。プロが本気になれば、勝てるわけが無い」というのが僕ら囲碁仲間の通説になっていた。

となると、勝ち負けよりも、自分に納得した手を打てるかどうかが課題となる。いや、それよりも 「経済界」 の読者に、「なあんだ、グロービスの経営者は、囲碁はメチャクチャだよね。あんな囲碁の打ち方で、経営がしっかりとできるのだろうか」と言われないようにしなけらばならない。囲碁の取材の場合には、必ず結果が出るので、責任重大である。

(ちなみに、僕の祖父も40年ほど前に囲碁の誌上対局の取材を受けていた。だが、双方ともアマだったからか気を使ったのであろうか、勝敗がわからないように最後(終局)までは掲載されていなかった。その棋譜が祖父の追悼集に残っていて、並べ直したこともあった。祖父の棋風がよく読み取れた。数十年たって、祖父の囲碁が甦ることに、新鮮な驚きを感じていた。このように取材を受けるとなると、何十年もの間棋譜が残り続けるのである。だからこそ、下手な手は打てないのである)。

その緊張感のまま、僕が6つ黒石を置かさせてもらい、対局が始まった。序盤は結構黒がいいのではと思えていた。中盤でも何とかよい形になってきた。終盤の勝負どころでミスが出て、差がかなり縮まってきた。寄せ(ヨセ)の勝負になってきた。小川誠子先生が中座されたときに、「もうダメかな」とぼやきに近い独り言を言ったら、ライターの方が「まだまだ大丈夫ですよ」と励ましてくれた。これで、やる気が戻ってきた。

そして、難しいヨセを読みながら、無心に近い状態で、一手一手打っていった。静かに時が流れていく。暫くして、小川誠子先生が、何と一言「負けました」と仰られたのである。つまり、投げてくれたのである。囲碁の専門用語で言う、中押し勝ち(ちゅうおしがち)と呼ばれる、勝利である。4、5目程度足りないというのだ。僕には、当然そういう計算ができていない。

僕は、正直言って、何が何だか分からない状態でいた。囲碁を打ったことがある方はわかると思うが、対局後は、集中しすぎているので頭の中が朦朧(もうろう)としているのである。言葉もなかなか出ないこともある。そのまま呆然としたまま、小川先生に促される形で、初手から打ち直す検討会が始まった。囲碁の上達には、この検討会が重要なのである。

小川先生は丁寧に解説をしてくれた。やっと、僕にもゆとりがでてきたようであろうか、周りをふと見渡すと、囲碁ライターの方がニコニコ嬉しそうにしていた。DISの経営者である白江徹一氏(通称:テッチャン)や、囲碁の解説で有名な稲葉禄子さん(ヨッチャン)も喜んでくれているのが見えた。

僕も、少しづつ嬉しさがこみ上げて来た。しかし、検討している最中に、「もしかしたら小川誠子先生が勝たせてくれたのではないか」、と思える局面を発見した。「この場面でこう打ったら、どうされましたか?」という質問に対しては、黒に良い局面が見えてこないのである。そもそもプロにはどう考えても勝てないのである。ちょっとスッキリしない気持ちを持ちながらも、終わったという安堵感から、その頃にはサバサバした気持ちになっていた。

小川誠子先生には、6月24日の「囲碁と経営を語る会」に参加いただくという確約をもらったあと、足早にお帰りになられた。その後、DISの白江テッチャンと稲葉ヨッチャンとライターの方々とシャンパンで祝杯を上げることにした。本来は、その日会社にもどって会議をする筈だったのだが、幸い(?)キャンセルになっていたのである。みんなとシャンパンを飲み、気持ちよくなっていた。その夜は会食が入っていたので、そのまま気分が良いまま、向かうことにした。

その道すがら、「囲碁を始めて本当に良かった」、と実感していた。囲碁によって、経営者やベンチャーキャピタリストとしての力量が、明らかに向上したと思っている。また、囲碁を通して友達も沢山できた。更に、頭脳ばかりでなく、精神力まで鍛えられた。囲碁をやると、負ける悔しさをバネにしながらも、平常心のまま戦い続けなければならないのである。今では、「囲碁に感謝をしている」とまで、公言しているほど、心底囲碁を始めてよかったと思っているのである。

なぜ囲碁がそれだけ良いのかの理由は、次のコラム、「囲碁と経営を語る」にて書くことにする。雑誌「経済界」の誌上対決が掲載される のは6/21(火)発売号の予定である。

少しでも囲碁人口が増えてくれたらありがたいと思う。

2005年6月7日
自宅にて
堀義人

追伸:本年6月24日に「第七回囲碁と経営を語る会」を実施します。ぜひご参加ください。m(__)m

 

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