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ロジックモデルの作成が、アウトカムに向き合う決断に繋がった――ライトライト 齋藤隆太氏×KIBOW社会投資対談

投稿日:2024/01/22

日本における「2025年問題」のひとつに、事業承継があることをご存知だろうか。実は2025年までに、約245万人の中小事業経営者が70歳を超えるが、うち約半数(その数は日本企業の3分の1にあたる)は、後継者が定まっていない状況になるという問題である[1]

ただ、事業承継を決断したとしても、マッチングの難易度は高い。その原因のひとつが、情報流出による企業価値低下などを防ぐため、売却先の募集が事業者名非公開で行われるという慣習にある。その慣習を破り、地域のための社名公開型事業承継マッチングプラットフォームを運営する企業が、KIBOW社会投資が伴走するライトライトだ。

今回は同社代表取締役である齋藤隆太氏と、同社投資担当者である松井孝憲、田村菜津紀の3名の対談の模様をお届けする。地方視点の事業承継問題とそれを解くライトライトの事業、伴走の中で行われたロジックモデルの作成とその効果、担当者2名が宮崎で体感した「新しい地域のありかた」とは。(進行:知見録編集部)

地域の小規模事業者の事業承継をサポートする

――まずはイントロとして、ライトライトの事業内容について簡単にご説明頂けますでしょうか。

齋藤:私たちライトライトは、事業承継のマッチングプラットフォームである「relay」というサービスを運営する企業です。事業を譲り渡したい事業者と、事業を譲り受けたい個人や法人をつなぐプラットフォームを運営している、と理解頂くとよいかと思います。

――事業承継をサポートする事業は上場企業や金融機関ほか数多く存在しますが、ライトライトの特徴は「プラットフォームであること」そして「地域を起点としている」という点かと思います。後者についてはどういった切り口をお持ちなのでしょうか。

齋藤:今そもそも日本全体で高齢化が進む中、おのずと経営者の高齢化も進んでおり、事業者の廃業や倒産が叫ばれるようになってきています。

例えば僕の周囲でも、いつも行っているお刺身屋さんがこのあいだ閉店しました。毎週通っているお店が来月閉まることを、貼り紙1枚で知るようなことも多い。都市部であれば、いち事業者の休廃業が住民の生活には直結しないことも多いかもしれません。しかし地方の小さい町であれば、ひとつ事業者がなくなることで特定のモノが手に入らなくなり、隣町まで行かなくてはならないのに、交通の問題が立ちはだかり……と、やがて社会的弱者が生まれてしまうことにもなりかねない、ネガティブインパクトの大きな問題なのです。

では新しい代わりのお店ができればいいのかといえばそうとも言えません。なぜなら、各事業者はその存在によって地域を担ってきた場合が多く、簡単にすげ替えられるものではないんです。こういった課題を、わたしたちは「事業承継をオープンに。」することによって解決していきたいと考えています。

――ライトライトの創業以前には、地域にまつわるクラウドファンディング事業に取り組まれていますね。地域の活性に関わる領域にはどういったきっかけでご興味を持たれたのでしょうか。

齋藤:僕自身は現在ライトライトが位置する宮崎の出身です。進学して東京に住んでいた2010年頃、時折幅広い年代の同郷の方々と集まってはよく「宮崎のために何かしたいよね」という話をしていました。ただ、言葉に出すだけで何から始めればいいのか……という方が多かったように思います。そんなとき、宮崎で鳥インフルエンザと新燃岳の噴火、そして口蹄疫が立て続けに発生しました。農業県である宮崎にとっては大ダメージになるこの出来事は、皮肉にもそれまで行動に躊躇していた方々が立ち上がり、募金活動を始めるきっかけになったんですよね。

その体験、そして直後の東日本大震災も経て、「人は機会さえあれば地元への想いを発露させることができるのに、その機会が天災や人災だけになってしまっている、なんてもったいないんだろう」と思うようになりました。

そこで、日々の何も起きていないときから、自分の地元や地域に対しアクションできるようなサービスをつくろうと考えるようになりました。

――ライトライトとKIBOWとの関わりは、齋藤さんからメールを頂きはじまったとお聞きしました。松井さんはご連絡を受けた当初、どのような印象をうけましたか。

松井:分からないことが多いな、というのが正直な第一印象でしょうか。

まず事業の特性として、M&Aマッチングといえばかなり手のかかるサービスです。となるとまず、一気に規模を拡大できるようなスケーラビリティには欠けそうで、どのようにビジネスを広げていくかを明確にする必要があると考えていました。

また次に考えたのが、「地方創生」というキーワードです。よく使われる言葉ですが「地方が創生される、とはどういうことか?」に答えるのが難しいぶん、インパクトとして捉えるには不明瞭な部分が多い言葉なんです。

田村:KIBOWが扱う投資案件は、深刻な社会課題の解決につながるかどうかを基準としています。その前提に立ったとき、大切になるのは「誰が本当に苦しい思いをしてるのか」です。それに対して地方創生という言葉は、視点が都市部的ですよね。本当に課題を感じている人がいるのか?それはどこにいるのか?ということについては議論しましたね。

また、例えばふるさと納税によって潤う地域があると同時に財源が奪われている地域が存在するように、relayによって地域で事業に取り組むような元気のある方が奪われ、過疎化する地域をつくってしまうという、ネガティブインパクトを生むことにはならないか、などについても考えていました。

ロジックモデルの作成によってマインドセットができた

――当初は疑問も多かった状況から、ディスカッションを重ね、投資判断を進めていかれたのですね。どんなプロセスがあったのか、振り返って頂けますか。

松井:最初のタイミングでは、例えば関係者の方へのインタビューや財務KPIの確認と共に、ロジックモデル[2]を一度作成して、これをもとにディスカッションをしましょう、という話になりましたね。

田村:ロジックモデルの作成は初めてだったと思いますが、情報をお渡ししたらすぐたたき台をつくってきてくださいましたよね。そこから3~4回ほどブラッシュアップのために議論した後、現在のロジックモデルが出来上がりました。齋藤さんは作成してみてどうお感じになりましたか?

齋藤:ロジックモデルについては全く知らなかったのですが、作成して非常に良かったと思っています。

一番大きかったのは、アウトカムにはやっぱり向き合わなければいけない、というマインドセットが固まったことでした。他のM&Aマッチングの事業者の多くは、あまりアウトカムのフェーズには向き合いたくないのが本音だと思います。M&Aは成立後にこそ困難が多く、周囲や内部で紛争が起こることも当然のようにあるからです。

しかし今回ロジックモデルをつくったことによって、僕らはこのアウトカムをしっかり追っていこう、と心に決めることができました。また「事業承継をやることは、社会にとって良いことだ」ということを論理的に説明できるようになったことで、売上が伸びている、閉店がない、ということを、社会的にいいことだよねと確信できるようにもなったと思います。

マッチングして事業が再スタートした後、売上が伸びなかったり、やめてしまったりという事業者も現実として存在します。その中で、自分たちがやってることは正しいのかな、と迷うメンバーもいたと思うんです。それが多分ある程度線引きできて、伸びる方々をちゃんとあてがっていかないといけないね、という話がマインドセットされた感じがありますね。

――今回のロジックモデル作成において、KIBOW側で議論したポイントはありましたか。

田村:先ほどお話ししたような疑問点を解消するほか、ライトライトが生み出している「事業のリノベーション」ともいえる変化の価値をどうするかがポイントでした。これはひとくちに「事業承継」といっても、新しい担い手さんによって事業が受け継がれるだけでなく、新しいアイディアが追加されて、地域を活性させる新しいものに変わっていくということです。この価値をロジックモデルの中に組み込むか、組み込むのであればどう表すか、については議論を重ねましたね。

その中で、この部分の理解は言葉尻でだけでなく現実を見て深めたい、ということでライトライトが活動する宮崎まで行くことにしたんです。

宮崎に足を運んだからこそわかった、relayがつくる「事業のリノベーション」

――現地では事業を渡した方と受け継いだ方の両方への改めてのインタビューや、受け継いだ店舗の見学、行政の方々とのお話などをされたとか。足を運び、生で見たからこそ感じたことがあればぜひお聞かせ下さい。

松井:宮崎に行く前にも、事業を承継させた方へZoom越しのインタビューはしていたんです。どう経営していましたか、なぜ承継させることにしたんですか、ということは当然その場で聞いていました。しかし実際に現地に足を運び、「昔は近くにこういう島があって、数年前はこうだったけれど最近は……」といった生の会話をした上で改めて事業について聞いたあの時、地域を担い続けてきた方が自分の事業を手放して人に託すことの意味の大きさを、初めて理解したんです。

だからこそ、数十年もこの地域を支え続けてきたことの幕引きをこんなにいいものにしたrelayというサービスの価値もはっきりと理解できました。どんな未来が地方には生まれつつあるのか、ライトライトがrelayを通じて地域を活性させるということが絵空事ではなく、本当に地域を変えているのだということがよくわかり、その後の投資委員会でも胸を張って説明できるようになりました。

田村:現地ではパン屋さんを承継させた方と受け継いだ方、そして食堂を承継させた方と受け継いだ方にそれぞれお話を聞いたのですが、受け継いだ2名が全く同じことをおっしゃっていたんです。それは「地域の商店街を盛り上げる実行委員になっていきたい」「自分のお店だけではなく、地域ごと盛り上げて、明かりが灯っている場所にしていきたい」ということでした。

その場に行って、商店街がある場所とお店の距離感や、行政の方々の反応、みなさんの関係を見た上でそのお話を聞いたからこそ、事業承継によって、本当に地域を盛り上げるリーダーが育ちつつあるのだと感じられたんです。かつ、その地域のネットワークの中に、ライトライトの担当者の方が自然に入り込んで関係ができていたんですよね。

松井:当然ですが僕らも、「社会的なインパクト」はすぐに生まれるものではない、というのはよく理解しています。だからこそ直接的に分かる、例えば何件の承継成立に携わったかといった数字に注目しますが、それだけではわからないようなことが、この宮崎へ行ったことで明確になったと思いますね。Zoomを通じて、明確に決まったアジェンダに沿って1時間話す、というのでは恐らく分からなかったと思います。

――齋藤さんはお2人が宮崎を訪れたことでよかったと思われていることはありますか。

齋藤:やっぱりオンラインだけでは伝わらない魅力やよさ、空気感みたいなものを感じてもらえることが嬉しかったです。特に、承継させた・した方々の人となりや、その後のポジティブさ、お店の有り様などを見て頂ければと思っていました。店舗を移転したり改装したりするなどでハード面が変わったことも多いですが、ソフトの部分で前向きになった方々がたくさんいらっしゃるんですよね。

松井:例えば食堂を承継した方にお話しを伺いましたが、先代の時は体力面などの問題で受けられなかった「地域の集まりのために夜貸切で使いたい」という依頼も受けていきたい、これができれば、人が集まってもっといいことが起こるはず、とおっしゃっていましたよね。

齋藤:店舗の外見は変わっていない一方、営業時間が全く変わっているんです。夜に明かりが灯っていることは、地域を変えるものがあると思います。こうしてこれから何か仕掛けてやろう、自分はこの事業承継をきっかけに活躍していきたいんだ、という新しいオーナーさんの雰囲気を、会話の中から実感してもらえたのがよかったと思っていますね。

――単に創業してからの年数が伸びたという訳ではない、事業が承継を機に前向きに変わっていく「リノベーション」が起きている。それが現地に足を運んだことでよくわかったのですね。

(続く)


[1]中小企業庁の資料「中小企業・小規模事業者におけるM&Aの現状と課題」より

[2] ロジックモデル:企業や組織が事業活動を通じて、目指す変化・効果(アウトカム)を実現するための因果関係を整理した設計図。ソーシャルインパクトを志向する企業が事業計画・評価計画を策定する際に用いる手法のひとつとされている。

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