今年10月発売の『AIファーストカンパニー』から「第4章 企業を再設計する」の一部を紹介します。
AIをビジネスの中心に据える「AIファーストカンパニー」は、企業のアーキテクチャ(構造)にも大きな特徴があります。
基本はデジタル・テクノロジーに関する能力を最大限に引き出す構造とするのがベストとなります。この組織では、人という大きな制約のある経営資源ではなく、「デジタルエージェント」とでも呼ぶべき、様々なタスクをこなすエージェント(エージェントの元の意味は代理人)が縦横無尽に活躍します。人間はその能力を最大限に引き出すとともに、顧客に対する新たな価値提供やマネタイズの方法を考えることが重要な仕事となるのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、英治出版のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
AI搭載企業のアーキテクチャ
人間の労働力の代わりにコードで成り立つ組織をどのように構築すればよいのだろうか。まず、人間と違って、デジタルシステム(「デジタルエージェント」と呼ぼう)は、世界のどこでも、類似タスクをこなすほぼ無数のデジタルエージェントと、限界費用ゼロでコミュニケーションができることを忘れてはならない。また、同じデジタルエージェントでも、他の多くのエージェントの補完的な活動に簡単につなげて、膨大な数の組み合わせを提供することが可能だ。さらに、デジタルエージェントはデータ処理の際に、処理命令、つまり論理の実行だけでなく、自ら学習し改善するアルゴリズムも組み込むことができる。
デジタルエージェントは、(まだ)人間ほど賢くも創造的でもないかもしれない。しかし、人間と違って、複雑さや規模の大きさを感じ取ったらそれらを縮小したり、相互作用の種類を制限したりするために、自律性を持たせたり分離したりする必要はない。デジタルシステムはうまく設計された共通インターフェースを用いている限り、ケイパビリティをつなげて組み合わせ、可能性の幅を格段に増強することができる。
ここで述べているのは、少数の接続ではなく、潜在的に無限の集まりについてだ。ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)を考えてみよう。極めて柔軟かつ汎用的なネットワークとインターフェースを通じて、数え切れないほどのウェブサイトがつながっている。多くのウェブサイトは、当初の設計者が夢にも思わなかったような方法で、頻繁に相互作用している。同様に、iOSとアンドロイドのプラットフォームは、健康やフィットネスから金融サービスまで、何百万もの完全に異なるアプリケーションやサービスをつなげている。そこで提供される機能の総数はほぼ無限大だ。このように、デジタル・オペレーティング・アーキテクチヤでは、機能別に縦割りに分けたり、個々のサブユニット間を厳格に切り離したりする必要はほとんどない。その代わりに、無制限の接続性とデータ集約のメリットを享受し、アナリティクスがますます増強されていく。
デジタル・オペレーティング・モデルでは、図に示すように、そこに載せるデジタル・テクノロジーの潜在能力を発揮させるように組織を設計すべきだ。これは、データとテクノロジーを取り込んだ基盤(プラットフォーム)をつくることを意味する。様々なユースケースに対応するアプリケーションの形態で、新しいデジタルエージェントを作成または接続するために簡単かつ迅速に展開できるプラットフォームである。
理想的には、第3章で説明したように、データ入力、ソフトウェア・テクノロジー、アルゴリズムに共通基盤があり、AIファクトリーですべてが提供されるとよい。この基盤はアクセスしやすい(が、入念に設計された安全な)インターフェースとなり、個々のアプリケーション開発チームが利用できる。アプリケーションは基盤をつなげて、CRMからサプライチェーンまで、業務タスクを可能にしている。これらのアプリケーション開発に使用されるプロセスは、データサイエンス、エンジニアリング、プロダクト管理のケイパビリティを備えた、小規模なアジャイルチームによって進められる。アジヤイルプロセスとデジタル・オペレーティング・アーキテクチャは密接に関連しているのだ。
『AIファースト・カンパニー ――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略』
著:マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ 訳:渡部典子 監修:吉田素文
発行日:2023/10/20 価格:2,640円 発行元:英治出版