今年10月発売の『AIファーストカンパニー』から「第3章 AIファクトリー」の一部を紹介します。
AIをビジネスの中心に据えるAIファーストカンパニーは、デジタル・オペレーティング・モデルを動かすエンジンともいえる「AIファクトリー」を構築しています。AIファクトリーがうまく機能すると、「データ→良いアルゴリズム→良いサービス→さらなる利用→さらなるデータ→より良いアルゴリズム→より良いサービス→さらなる利用→……」という好循環が回り始めます。
アメリカの大手テック企業はこの好循環を実現しており、それゆえ拡大再生産的な成長を享受しています。AIファクトリーの構成要素はやや複雑ですが、その構造を理解することが、AIをケイパビリティの中心に据えて拡大していく「AIファースト・カンパニー」へと進化する大事なステップとなります。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、英治出版のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
AIファクトリーの構造と運用――ネットフリックスの事例
2010年までに、ネットフリックスは社内のレコメンドエンジンにアナリティクスとAIを体系的に適用するためにAIファクトリーのアプローチを採用した。2014年にファクトリーを拡大し、ユーザーの行動を理解したり、(接続速度や好みのデバイスなどの要素に基づいて)パーソナライズされたストリーミング体験を提供したり、視聴者の近くに配備された「エッジサーバー」でキャッシュする〔一時保存してネットワーク負荷を軽減できる〕映画や番組を決めたりすることで、ストリーミング体験の改善を図った。ネットフリックスは現在、190カ国以上で約1億5000万人の会員数を誇り、5500本以上の作品を揃えたコンテンツ・ライブラリを蓄積している。そのコンテンツを視聴するために、世界のインターネット帯域幅の15%が使われているのだ。
ネットフリックスや他の先行企業の経験から、AIファクトリーに欠かせない構成要素の重要性が明らかになる。
- データパイプライン
データの収集、入力、クレンジング、統合、処理、保護などを体系的で持続可能かつ規模拡大が可能な方法で行う。 - アルゴリズム開発
アルゴリズムは事業の将来の状態や活動に関する予測を生成する。このアルゴリズムや予測はデジタル企業の心臓部であり、最も重要な事業活動の推進力になる。 - 実験プラットフォーム
提案した変更内容が確実に意図した(因果的)効果を出せるように、新しい予測と意思決定のアルゴリズムに関する仮説を検証する仕組みである。 - ソフトウェア・インフラ
こうしたシステムは、一貫性のあるコンポーネント化されたソフトウェアとコンピューティング・インフラに、データパイプラインを組み込み、それを必要に応じて適切な形で社内外のユーザーにつなげる。
データがAIファクトリーを動かす燃料だとすれば、インフラは燃料を供給するパイプを構成し、アルゴリズムは作業を行う機械である。実験プラットフォームは燃料、パイプ、機械を既存のオペレーション・システムにつなげるバルブとして機能する。
『AIファースト・カンパニー ――アルゴリズムとネットワークが経済を支配する新時代の経営戦略』
著:マルコ・イアンシティ、カリム・R・ラカーニ 訳:渡部典子 監修:吉田素文
発行日:2023/10/20 価格:2,640円 発行元:英治出版