G1ベンチャー2023
第5部分科会E「トップに聞く世界を席巻するマンガとアニメの今とこれから」
(2023年6月11日/グロービス経営大学院 東京校)
世界でも躍進している日本のマンガ・アニメコンテンツ。デジタルマンガプラットフォームとして世界中の読者を魅了し続ける「少年ジャンプ+」を手がける株式会社集英社 少年ジャンプ+編集長細野 修平氏と、「地獄楽」「呪術廻戦」「チェンソーマン」など数々のヒットアニメを生み出す株式会社MAPPA 代表取締役大塚 学氏から、日本が誇るマンガ・アニメの未来を引き出す。(肩書きは2023年6月11日登壇当時のもの)
00:22 自己紹介、自身の事業の内容
-(細野氏)ジャンプ+は、2014年に始まった漫画を中心としたデジタルサービス「漫画誌アプリ」。最近の作品では、「SPY×FAMILY」は昨年アニメ化、第二部を連載している「チェンソーマン」もMAPPAにアニメ化していただき、大ヒットした。「MANGA Plus」というデジタルサービスを日中韓除く全世界で7か国語で展開、ジャンプグループの作品をサイマルで配信。MANGA PlusのMAUが600万ユーザー、ジャンプ+は1200~1300万人。
-(内藤氏)ジャンプ全盛期の発行部数は653万部。それをもう超えている?
-(細野氏)その当時は回し読みされていて、週に1000万人が読んでいたと考えると、WAUは600~700万人なので、まだそこには至っていない。
-(内藤氏)次にジャンプ+として目標に掲げているものは?
-(細野氏)週刊少年ジャンプはヒットを作り続けているのがすごいところ。ジャンプ+の次の仕組みは、ヒットを作り続ける仕組み・システムを作ること。
-(大塚氏)MAPPAはアニメーション、催事や商品などを作っている会社。代表作は「呪術廻戦」「チェンソーマン」「進撃の巨人」。
-(内藤氏)MAPPAは、チェンソーマンを全額自社出資していたり、主催のイベントをやったりと異色の会社。どういう背景で取り組んでいるのか。
-(大塚氏)自分たちがもっと自分たちの仕事に対して、どういうビジネス的価値があるのか、というのを見直して、自分たちにやれることや挑戦できることを洗い出して一個一個トライしている。チェンソーマンの全額出資はまさかOKが出ると思わなかった。あれだけ人気で、内容も充実しているので、必ずできると思って提案した。
-(内藤氏)MAPPAが目標にしているところとは? -(大塚氏)チェンソーマンについては、どういうビジネススキームで、どういうお金を生み出せるかを予測して、それに対して制作費を設定した。これまでと全く違うやり方。
-(内藤氏)エンディング曲を毎回変えるなど、自由にやっていた気がした。
-(大塚氏)全部一回やってみようというところで、作品が盛り上がるならこの方がいいんじゃないかと思ってトライした。
08:32 テクノロジーによって漫画・アニメが変わったビジネスの変化
-(大塚氏)アニメに関しては、大手のプラットフォームの配信によるお金の存在感が出てきている。
-(細野氏)ジャンプ+が始まった時ぐらいからデジタルの売り上げがどんどん増えてきて、出版社のほとんどは、デジタル売上の方が紙よりも増えている。集英社はまだ紙の方が多い。子どもが買えるものが紙媒体なので、今後の市場が心配。海外の紙市場は伸びていて、日本よりは安心できる。しかし子どもたちが紙で買ってくれているのか、デジタルの全然違う娯楽に行っているのかは正直わからない。それでMANGA Plusをやっているのもある。昔は日本国内でアニメが放送されて、漫画が売れるというのがあったのが、それが今は世界にも展開されているのを感じる。
-(大塚氏)当面まだ配信中心になっていくと思うが、市場の変化としては世界中の人がアニメを見ているので、東南アジア・中東・インドなどの市場開拓が活発になるのではないか。
12:22 アニメ市場規模が2.7兆円、漫画が7000億円。この市場規模は今後どれくらいになっていくのか。
-(細野氏)国内の伸びはわからないが、いずれ海外の売上は国内を抜くと思う。
-(大塚氏)海外はまだまだ伸びてもらわないと困る。見てくれている人がいるのに、スタジオ側は具体的なアプローチが出来ていない。
-(細野氏)海外はまだデジタル市場が発展していないところが多いので、日本に近づいてくる。
-(大塚氏)数字は伸びているが、あまり体感がない。作っている人間が追い付かないといけないと思っている。
14:47 世界で通用するものづくりとは。どこを気にしていて、それを仕組みでどのようにカバーしているのか。
-(細野氏)あまり世界で勝とうとは思っていないっていう部分もある。漫画は少ない人数で作れる。そうなると作家の個性が反映されるものになり、結果として世界に届くことがあると思うので、作り方は変えなくて良いと思っている。スタジオ制作はやらない方が良いと思う。
-(内藤氏)集英社として編集者がどこまでサポートして、天才の個性を引き出しているのか。
-(細野氏)週刊少年ジャンプは仕組みが強いと思っている。作家と編集者で一緒に作っていることが仕組みとしてある。次の連載会議でネームを通したい、新企画を通したいなどの身近なことしか考えていなくて、世界で売ってやろうと深く考えている人は少ない。
-(内藤氏)ジャンプのシステムで「アンケートシステム」があったが、ジャンプ+はデータなどのテクノロジーをコンテンツにどこまでいかしているのか。
-(細野氏)データは取ってはいるが、どこまで活用するかはまだ考えている部分がある。人気投票や読了率などのデータをどこまで活かすかは、作家と編集者のコンビによって異なる。デジタルダルブラウズの良い所はページ制限がないこと。今広げているのを絞っていくのも役に立つかなと思っている。 -(内藤氏)絞る必要性とは?
-(細野氏)例えば週刊少年ジャンプは、基本的に1話が19ページ。19ページに揃えることでクオリティアップにつながってのいるのかも。
21:14 MAPPAは並行している作品が多い。普通は1本作るのも大変だが、なぜ出来るのか。
-(大塚氏)作りたい人が集まってくるから出来ている。活躍できる人が活躍したい時に、やりたい作品をやる事をできるだけ尊重して今の体制になっている。
-(内藤氏)作れる人を惹きつけるMAPPAの魅力をどのように捉えているのか。
-(大塚氏)アニメは集団作業なので、優秀な人材が何人集まるかで作品の質も結果も変わってくる。MAPPAなら作りたいものが作れるんじゃないかと思ってもらえるのは、監督の実績や作品の結果がうまくいったのではないか。現在社員は360人。社員数は急激に増えていて、内製で確実に作っていける部分を常に増やしている。
-(内藤氏)「進撃の巨人」The Final Season 完結編も映画のようなクオリティだった。ユーザーの目も肥えていくので、それを汲んで制作しているのか。
-(大塚氏)お客様の目線を大事にしていて、より楽しんでもらえるなら、今求められてるものを作らないといけないとは思っている。テレビだから、映画だからというのは、お客さんは関係ない。
-(細野氏) 一方でクオリティが上がると、 1クールとか2クールが限界みたいなこともあったりする。僕らが子どもの頃はドラゴンボールが毎週やってて、ワンピースもそう。結果として今動画配信になってくると、その資産がものすごくたくさんある。これが結構インパクトがある。
27:08 AIへの取り組み、懸念点
-(細野氏)先日「コミコパ」という、漫画家がChatGPTに相談できるサービスを立ち上げた。自動翻訳は前からMantraという会社とやっていた。世界に出ていくためには言語の壁が一番高いので、自動翻訳がもっと発達するとそれがクリアできる。漫画家はある種芸術の総合監督。今度はAIのスタッフが入ってくる形になるので、それを統合して監督するのは漫画家なのは変わらないで、発展はあるかもしれない。
-(大塚氏)まだ制作工程において、AIが人間の手に取って代わって効率が良くなったというところまで行けていない。AIの最新の情報を研究して、どう生かせるか開発することに手を付けている。制作を行う上での細かい数字をAIで管理しやすくなることに期待している。
-(内藤氏)WEBTOONの登場の捉え方は?
-(細野氏)読者層が違うのかもと思っている。漫画とアニメの間にあたる、別種のメディアだと考えている。WEBTOONの方がライトな読者層が多い。ジャンプTOONを始めるが、IPを持った作品を作ることが出来る期待もある。
35:43 グローバルプレイヤーとして、気にしてる国やプレイヤー
-(細野氏)WEBTOONはマネタイズがしっかりできている。
-(大塚氏)中国の存在感は大きい。僕らがお願いして優秀な中国のアニメーターに書いてもらうことは常にある。アニメは漫画との合同の力、優秀な原作をアニメ化するという日本の総合力では中国に大差を付けられている感覚はない。中国のゲーム企業に感じる若者のエネルギーがアニメーションに向かった時は相当脅威になる。
-(細野氏)5年ぐらい前に中国でもWEBTOONの会社も若者もたくさんいたが、最近は国産WEBTOONが弱まってきている。
-(内藤氏)アメリカというプレイヤーについて。
-(細野氏)アメリカのWEBTOONもすごい。アメコミ・WEBTOON・漫画の文化は別の道の感じがして、プレイヤーとして意識することはない。
-(大塚氏)スーパーマリオやスパイダーマンなどを見ても、差を付けられているという焦りはある。
42:23 これから先の未来をどう見ているのか
-(細野氏)ワンピースや鬼滅の刃を超える、時代を変える作品を作りたい。アニメや動画配信によって、全世界の漫画ファンのタイムラグがなくなっている。
-(大塚氏)いろんな国でアニメを見ている人たちを知って、何を届けると喜んでもらえるのかを考えていきたい。
-(細野氏) 海外の作家さんと一緒にその国に向けて 漫画を作ることもやっていかければいけない。
-(大塚氏)我々はピクサーみたいなアニメーションは難しい。愛されてきたスタイルを大切にして、それを武器として通用するまでは研ぎ澄ましていきたい。
45:05 質疑応答
-ジャンプ+をやる中で、 編集者に求める要件あるいは育て方が変わった部分は?
-クリエイター集団のマネジメントという意味で、リモートワークをどう考えているのか。規律は?
-ジャンプの仕組化について、ジャンプ+での新しい取り組みは。
-WEBTOONとアニメの可能性は。
-お客様を喜ばせる施策は。
-アニメ化を容易にした環境の変化は。
-地獄楽のアニメ化の経緯。
-時代にマッチするための努力。