7割完成したらまず試してみる――H.I.S.澤田会長のチャンスをつかむ秘訣 

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前回に続き、「第2回G1九州inハウステンボス」より、第1部全体会「ハウステンボスのV字回復に見る地方創生の秘訣~ピンチをチャンスに~」の内容をお届します。(全3回)

スピードの時代、完成を待たずに試してみる

秋山: 今後についてどのようにお考えですか? 

澤田: 来年は無人島で計画しているイベントがあります。ここから船で15分ほどのところにある無人島を買ったので、VRでなくARを活用して、ジュラシックパークみたいな感じにします。で、その無人島までは来年1月に完成する水上移動式ホテルで移動していただきます。丸いフォルムで30数㎡の移動する水上ホテル。園内で遊んだあと、夜12~1時頃にそのホテルで就寝していただいて、そこから3時間ほどかけて移動します。すると朝には無人島に到着して、グランピアでおいしい空気のなか、朝食をとっていただくというようなプランを来年はじめる予定です。

あと、「ハウステンボスを観光ビジネス都市にしよう」ということで今はエネルギーについていろいろ研究しています。ロボットホテル(「変なホテル」)もつくりましたし、これは全国展開もはじめています。舞浜に2号店、名古屋の「ラグナシア」に3号店をつくりました。「変なホテル」というのは「変化して進化する」という意味で、毎年技術を高めて進化していくホテルです。AIが進化すればAIを導入したりしながら、「今年中に全国であと10箇所ほどつくろうじゃないか」と。

そうした新しいビジネスをハウステンボスで開発して、それを全国、ひいては全世界に広げていきたい。恐らくロボットホテルは1年以内に台湾とか上海とかアジアに出していきますし、将来は欧米にも出したいと思っています。世界一生産性が高く、ほとんど人を使っていないホテルです。そういうビジネスを、新しい技術を開発しながら進めていきます。

また、ハウステンボスは来年ロボットホテルの3号棟ができますが、そこで最新の太陽光発電を使います。ペラペラと曲がる薄いフィルム状のパネルですね。また、それで生まれた電気は植物からつくった蓄電池に充電します。今、テスト工場では植物を使った蓄電池の開発もしています。リチウムイオン電池は値段が非常に高く、大きくすると熱を帯びたりします。でも、その植物からつくった新しい蓄電池は熱を帯びないうえに性能はリチウムイオンとそれほど変わりません。そうした新しいデバイスの実用実験も3号棟で行います。太陽光と植物蓄電池でエネルギーもほとんどフリーにしよう、と。そんな風にハウステンボスでつくった新しいテクノロジーやビジネスを、世界に出すときがいずれやってくると思います。

秋山: 最近はG1サミットでも、最先端のテクノロジーでイノベーションを起こすという「テクノベート」が1つのキーワードになっていますが、ハウステンボスではそれがまさに実践されているというお話だと思います。ただ、一般的に言うと、そうした新しいテクノロジーを実際のオペレーションやサービスに取り込んでいくには、相当時間がかかったりもすると思うんですね。そのあたり、澤田さんは新しいテクノロジー情報にご自身でアクセスしたうえで「あたり」をつけて、それを実現するための人を引っ張ってきて、そして実際のサービスインにまでこぎつけるということなんでしょうか。

澤田: ロボットホテルをつくろうとしたときは、東大のチームや専門家の方々をお呼びして、およそ1年、毎月ミーティングを行っていました。そこで、「こういう風にやったらできるんじゃないか?」「こんな風にしようよ」といった話し合いをしながら進めたという流れになります。やっぱりそこは専門分野の頭脳を集めないと。ハウステンボスの人材だけだと限度がありますから。今回の太陽光発電についても世界的に優秀な人材に参加していただいています。これはポーランドのベンチャーが開発している新しいデバイスですが、そこと我々が提携したりして。そんな風にして今は最先端の頭脳にも協力していただいて、新しいものをつくりあげている状態です。

秋山: 形にしていく1つ前の段階はどうでしょう。世の中には先端テクノロジーって数多くあると思うんですが、澤田さんご自身がそのなかで「あ、次にやるならこれかな」という考えに至るまでに、どういったプロセスが…、「ピピピ」ってくるんですか?

澤田: 「ピピピ」とは来ないですけども(会場笑)。ただ、僕自身のなかで、今はたとえば「エネルギー問題を解決したい」という思いがあったりします。できれば自然エネルギーですべてまかなえるようにしたい。だから、ロボットホテルの3号棟では最新の太陽光パネルと蓄電池ですべての電気をまかなっていきます。それをもしご家庭の屋根に付けていただけるようになれば、1~2年で減価償却が終わり、以降はずっと電気がフリーになります。それでほとんどの電気をまかなえたら、化石燃料や原子力をあまり使わなくてもエネルギーが確保できるわけですね。そういった開発のお手伝いや実用実験をハウステンボスでやっていきたい。

ただ、これはロボットでも同じことが言えますけれども、最初からすべての場面で使おうと思うと難しいんですよね。それができるような、本当に高度なロボットをつくるのは大変なんです。ですから、僕はそこで「とりあえずロボットには7割、もしくは6割の仕事をしてもらえたらいい」と言っています。残りの3割は人間がやればいい。それならすぐできます。そのうえでロボットが進化したら、改めてその分担を8~9割にする。そんな風に運用しながら実用化しています。完成度が高いものをつくるのには時間もコストもかかりますから、言い方はアレですが「中途半端でもいい。とりあえずつくって、あとは人間がカバーしよう」と。

秋山: テクノベートのアプローチとして、まずご自身のなかで課題設定がなされているということですね。「このテーマで課題を解決していきたい」といった思いがあって、そうした視点とともに最新のテクノロジーを見る。すると、「あ、こういうことができるんじゃないか?」という風になるのが1つのアプローチなのかなと思いました。あと、後半のお話は私自身も産業用ロボットをやっているのでよく分かります。新しい技術が出てくると、あたかも、それですべてバラ色になるようなイメージを持ってしまいがちですが、実際には違う。すぐに実践で活用できるのは7割。だから頑張って7割ぐらいをやらせるというのは、すごく腹落ちする感覚でした。このあたり、「7割だからやろう」と思うか、「7割だったらまだダメだよね」思うかに、天と地ほどの差があって…。

澤田: 僕はそこでやったほうがいいと思うんですよ。やれば良いところも悪いところも分かります。改良点が分かってくる。そこを改良していけばいい。待っていると時間がかかります。今はスピードがますます重要になっていますから、僕はどんどんチャレンジするべきというか、やっていくべきだと思いますね。

秋山: すごく共感します。100点でなくても現場に持っていって使わなければ、そこで実際にどんなことが起きるのかとか、実はどういった価値があるのかといったことも分からないので。現場でPDCAを繰り返しながら技術を使えるものに進化させていくことが重要なんだと思います。

澤田: そうですね。ロボットホテルも年々進化しているし、まだまだ進化すると思います。

任せるか、責任を持って最後までやるか

秋山: さて、そろそろフロアからご質問を受けたいと思います。

会場: 事業アイデアに関して、ご自身ではどの程度まで見ておられるんでしょうか。

澤田: 僕は2つのうちのどちらかに決めています。任せるならとことん任せるし、結果の評価はするにせよ、あまり口は出しません。一方で、自分がやると決めたら7~8割、あるいは9割を、自分で責任を持ってやるつもりです。任せておきながらいろいろと茶々を入れたり口を出したりするのが良くないと思っているので、もう、どちらかですね。

会場: 過去に見てこられた再建案件は、すべて澤田さんご自身が陣頭指揮を取っていたのでしょうか。たとえば今回のハウステンボスも相当に重い事業だと思いますが、次の社長に渡すタイミングも含めて、どのように考えていらっしゃいますか。それともう1つ、先ほどは「今のハウステンボスは57~58点」とのお話がありました。その辺の現状認識は全社的に共有されている数字なのでしょうか。

澤田: まず、58点というのは僕の認識でもありますが、皆の認識でもあります。そのうえで、「ココとココとココが問題」という風に僕が3つ問題点を挙げる状態だと点数は上がりません。一方、それが1つぐらいなら点数は上がりますし、5つぐらいなら下がります。ということで、認識は共有されていますからスタッフからも文句は出ないですね。

それと過去の案件について。いろいろなことをやってきましたが、たとえば任せていたのは赤字からモンゴルトップになったハーン銀行。僕は銀行業の経験がありませんから、そこは世界的に成功しているトップバンカーを探してきました。で、あるアメリカの世界的トップバンカーに来ていただいて「5年以内にモンゴル1位にして欲しい」といった目標を伝えています。そこで、「こういう事はダメで、こういう志でやってほしい。モンゴル経済に貢献できるような銀行にして欲しい」なんていう話もしたうえで、それが可能かどうかを聞くと、彼は「できる」と言う。実際、彼はそこから5~6年でモンゴルトップの銀行にしました。これは完全に任せた例ですね。エイチ・エス証券も同じです。僕らがやっている時はずっと赤字でしたが、その後、野村證券から優秀な方に来ていただいてからはずっと黒字です。

いずれにせよ、再建についても、任せるか、自分でやるかのどちらかに絞っています。自分がプロじゃないことをやると学ぶのにも時間がかかります。ですからプロに任せるか、自分でやるならもう本当に勉強して勉強して、自分で8~9割やるという考え方です。あと、バトンタッチについてはまだ経験していないので自分にとっても難しいテーマですが、いつかしなくてはいけないので、…はい、まだ経験していません。すみません(笑)。

会場: かつてはH.I.S.を任せたうえで、ご自身はハウステンボスに入るという意思決定をなさったと思うのですが、今は旅行業のほうも激動しています。スマホで予約や決済行うようになったり、Airbnbが出てきたり、インバウンドが増えたり、等々。澤田さんとしては、H.I.S.のほうでは今後どういった変革が必要になっていくとお考えでしょうか。

澤田: H.I.S.は旅行業からはじまり、やがて総合旅行会社になりました。今は旅行業だけでなく、今日お話ししたようなエネルギー関連で「HTBエナジー」という電力販売会社をつくったり、エネルギーの開発自体を行うようになったりしています。ロボットの会社もつくったりしているわけですね。あと、今はホテルを全世界に展開する準備もはじめています。「3年以内に100個つくろう」とか。

ということで、今は分野が幅広くなってきましたから、一度は僕が戻って整理をしなければいけなかった。それまでの社長は旅行のことなら分かるんですが、すべての事業が分かるわけではなかったので。だから僕が一度戻って社長として事業を整理したうえで、ある時期が来たらカンパニー制にして、あとはそれぞれの社長がきちんと見ていく形にして将来引退するのがいいのかな、と。ホールディングのようになっていく可能性がありますね。

また、今は世界が大きく変わっていて、旅行業も変化しています。スマホあるいはOTA(Online Travel Agent)の時代と言われていますから、今後は日本だけでなく世界で勝ち抜いていかないといけない。そうでないと、いずれ負けます。ということで、世界戦略を進めていくためにも一度は…、本当はあんまり戻りたくなかったんですが、「やっぱり戻ろう」ということでH.I.S.に戻りました。

会場: 最初に来たときは「どうせまた社長も替わるんだろう」というような暗い雰囲気もあったと思います。そういった方々のモチベーションを高めるため、澤田さんはどういったことをしてこられたのでしょうか。

澤田: やっぱり結果を出すことですね。「あの社長もこの事業部長も口だけ。結果は何も出せていない」となれば皆のモチベーションも上がりませんから。逆に、結果を出せば放っておいても皆は認めてくれるし、ついてきてくれます。僕は6ヶ月でここを黒字にしました。そこでボーナスを、少しですが一応出したんです。そんな風に、どんなことでもいいから結果を出すことが大事だと思います。どんどん頑張って結果を出してください(会場笑)。

会場:過去の成功体験に縛られてそれを続けていく人と、「違うな」と思ったらすっと方向転換をして変えることのできる人では、どういった違いがあるとお考えでしょうか。

澤田: 過去の成功体験も大切ですが、時代や環境が変化すれば通じなくなることも多々あると思うんですね。実際、ハウステンボスもH.I.S.とは体質が違っていました。たとえばH.I.S.では他社が50,000円で売っている航空券を20,000円にすれば間違いなく売れるんです。でもハウステンボスでは値段を下げても売れなかった。当時、「ホテルヨーロッパ」は一泊10,000円前後でしたが、お客さんはまったく増えませんでした。でも今は50,000円以上。それで中身のほうをどんどん良くしています。夜もコンサートを開催したり、花もたくさん活けたりして。

何が言いたいかというと、お客さんのマーケットに合わせる必要があるということです。僕がここにきて学んだのは値段だけじゃないということ。コンテンツについてもサービスについても、お客さんの層に合わせた品質で提供すれば値段はかえって高いほうがいいんじゃないかと思います。「ホテルヨーロッパ」はピーク時一泊70,000円で売っていますが、それで満席になります。

秋山: 最後に1つ、ぜひ伺いたいことがあります。G1サミットのコミュニティは、「各々が自分の持ち場でリーダーとしての責任を果たしていくことが、日本を良くすることにつながる」といった考え方や志を持った人々の集まりです。そうしたリーダーたちが各々困難に立ち向かい、乗り越えていくための強い気持ちやエネルギーレベルを、どのように維持すればよいでしょうか。

澤田: 特に経営者は将来について、たとえば3年後や5年後の目標や夢をきちんと持たなければいけない。僕はよく「ゴールのないレースは走れない」と言っています。「こういう会社にしようじゃないか」といった目標や夢、あるいは志がまずは非常に大切。あと、想像力。僕は、思い描くことはたいてい実現できると思っています。でも、思い描けないものは実現できない。四角のビルを思い描く人は四角のビルをつくることはできます。でも、(手元にあったコップを掲げて)この形を思い描けない人は、これをつくることができないんです。だからこそ、自分の企業をどんな会社にしたいかという想像力が大切になる。あとは健康でいること。気力を落としたりやる気を失ったりしないよう、健康を保つことも大事だと思います。

秋山: 健康のために何かしていらっしゃることはあるんですか?

澤田: 健康のコツは5つあります。まずは心を健康にすること。常に心が大切です。「病は気から」と言うじゃないですか。やっぱり気持ちを常に前向きにして、元気でいることが大切ですよね。次は医食同源。食事の栄養バランスに気を配ること。そして3つ目は適度な運動です。特に歳を重ねると筋力が落ちていきますから、適度な運動をするか、きちんと歩くというのが大切になると思います。で、あと2つは今度にしたいと思います、ありがとうございました(会場笑)。

秋山: ありがとうございます。また別のG1サミットの機会で何かお話を伺えるという、そういうメッセージであると受け取らせていただきたいと思います。今日は本当に素晴らしいお話を伺うことができて、会場の皆さまも元気が出たと思います。どうもありがとうございました(会場拍手)

スピーカー

株式会社エイチ・アイ・エス代表取締役会長ハウステンボス株式会社代表取締役社長澤田ホールディングス株式会社代表取締役社長1980年、インターナショナルツアーズ( 現:エイチ・アイ・エス) を設立。1996年、オーストラリアにThe Watermark Hotel Gold Coastをオープン。同年、スカイマークエアラインズ(現:スカイマーク)を設立、2010年、ハウステンボス株式会社の代表取締役社長に就任。

モデレーター

1987年京都大学法学部卒業。現:アクセンチュア入社。1994年株式会社サキコーポレーション創業。マシンビジョン技術を応用した産業用自動検査ロボットメーカーとして世界市場でブランド確立。
産業競争力会議民間議員(2012-14)、国家戦略特区WG(2013-)、株式会社ローソン社外取締役(2014-)

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