ブロックチェーン黎明期より、同技術の本質的な価値と可能性に賭け、社会システムの構造展開に挑戦してきた株式会社Ginco代表取締役の森川夢佑斗氏による「Web3とは何か」の連載。Vol.1-2の「Web3の思想」「技術(ブロックチェーン)」に続き、今回は「ビジネスモデル」の概要を解説する。焦点を当てる。(全5回、第3回)(第2回はこちら)
※本記事は、2022年6月9日にグロービスのテクノベート勉強会で実施した森川氏の講演「Web3で変わる世界」をもとに再編集しています。また、本稿は投資や購買の勧誘を目的とするものではありません。
3つの成長エンジン―ファイナンス、マーケティング、マネタイズ
ここまで、Vol.1-2で「思想としてのWeb3」と「技術としてのWeb3」を紹介してきました。今回は「ビジネスモデルとしてのWeb3」を見ていきたいと思います。
Web3は特に、コンシューマー向けのサービスにおいて注目度が高まっています。一時期、シリコンバレーでBtoC向けのサービス事業者がこぞってWeb3にピボットしていると話題になってい ましたが、その要因を見ていきたいと思います。
Web3サービスは、トークン(ブロックチェーン上でやり取りされる価値の総称)を活用することで 、ファイナンス、マーケティング、マネタイズという3つの成長エンジンを持っています。これらを一つずつ見ていきましょう。
図表3-1 Web3サービスが備えた3つの成長エンジン
①ファイナンス
まず、ファイナンスです。トークンとはブロックチェーン上で発行され、誰もが参照できるものです。たとえば、ビットコインは世界中の取引所で勝手にリスティングされ 売買が可能です。通常の株式上場であれば、証券取引所への申請や審査などのプロセスを経て上場という形になりますが、トークンはブロックチェーンというオープンな場所に記録されていて技術上は誰もが扱え、売買の場を提供することが可能な状態です。それ故、ビットコインは世界中の様々な場所で 売買でき、また急速に広まりました。
また、トークンは担保等を必要とせずに発行できます。これは発行側からすると大きなメリットです。しかし一方で、価値の担保がないので、ボラティリティが高いというデメリットがあることは否めません。たとえば 、トークンを発行し販売した直後に運営が姿を消してしまうと、簡単に価値がゼロに近づいてしまうリスクもあるということです。
DEX(分散取引所)がブロックチェーン上にあり、トークンの交換が容易に行えることも特徴です。たとえば、私が「森川トークン」を発行して販売しはじめたとすると、販売された森川トークンは、DEX上で他のイーサなどと交換することができます。 DEXがあるということで、トークンの二次流通が常に存在するということになります。
メルカリが登場し二次流通が発展したことでブランド品を買う人が増えました。つまり、一次流通のハードルが下がったいうことです。これと同じことが、トークンでも当てはまるとすると、トークンの購入ハードルは低くなります。 また、マーケットが世界中に開かれているため、世界中で取り引きされ、流動性が高まっていく可能性があることから、トークンは発行された時点から一定の市場性を備えているとも言えます。
②マーケティング
コンシューマービジネスにおいてユーザー獲得コストは年々上昇しています。今後は不況で下がる可能性がありますが、これまでは上昇しており、1ユーザーを獲得するためにかかるコストを回収するまでの期間を考えると、大変な状況でした。しかしトークンを使うと、ユーザーの獲得コストが下がり、エンゲージメント向上を促せるのではないかと期待されています。
ゲーム業界などが顕著ですが、ユーザーが登録した後に、そのユーザーにゲームで遊んでもらう、または課金をしてもらうために「コラボ」など色々な工夫を行うのが一般的です。そういったエンゲージメントにもコストはかかります。つまり、一度ユーザーを入れたあとに何度も蘇生を繰り返し、マネタイズしていく必要があるのです。そうした施策を打たなくても回っていけばよいのですが、実際はそこまで行きつくプロダクトの数は少なく、どうしてもコストをかけざるを得なかったというのが現状でした。
この点においてWeb3に寄せられる期待は、トークンの保有者自身がステークホルダーとしてマーケティングに協力することです。トークンは担保等がなくても発行できるので、主に需給で価格が決まります。つまり、先行者利益が得やすいのです。最初にトークンを得た人は、「このサービスいいから君もやりなよ」と宣伝してくれるようになります。サービスのグロースに重要だと言われる、口コミを広めるインセンティブが得られるのです。サービスが広まると自分が保有するトークンの価値も上がるので、口コミを広げるユーザーにとってもサービス提供者側にとってもwin-winになります。
これにより、サービスを広げると自分の持つトークンの価値が上がるという、非常に分かりやすい貢献体験が得られます。トークンの価値向上が目に見えて分かるので、ユーザーのエンゲージメントやロイヤリティが高まるという期待が、トークンがマーケティングに寄与すると言われる理由です。トークンの価値向上を実体験したユーザーが他の人に広げたり、成功したユーザーを見て興味を持つ人が増えたりといった、良いループをもたらします。
一方で、トークンの価値上昇の限度への疑問から、ポンジスキーム*やマルチ商法ではないのかといった指摘や批判が寄せられているのも事実です。トークンの価値がいつまで上がり続けるのかについての答えはまだ出ていません。グロースという観点では非常に強力である一方で、それがユーザーにとって本当に良いものか、持続性があるものなのかどうかは、慎重に考えるべきだといえます。
*ポンジスキーム…「資金を運用して配当金を配る」と謳って出資者を募るが、実際は運用せず、新しい出資者の出資金を配当と偽って配ること。破綻を前提とした詐欺。
③マネタイズ
最後にマネタイズについてです。たとえば、ゲームのアイテムがNFTになっている場合、そのアイテムを販売することで最初に売上が立ちます。今までのようにユーザー数を増やして広告で稼ぐとか、フリーミアムでたくさんのユーザーに使ってもらい数%の課金を行うといった、ユーザーベースを前提としたマネタイズとは異なり、最初からマネタイズを行うことが可能になります。
従来のユーザーベースのマネタイズでは、ユーザー獲得のための広告費がかかるため、結局はプラットフォーマーに依存していました。しかし、マネタイズモデルに変化が生じたことより、プラットフォーマーへの依存関係から脱却できる可能性があるというのは面白いポイントだと思います。デジタル通貨、アイテム、NFTなどの価値を販売することによってキャッシュを得るという、今までのWebサービスとは毛色の違うマネタイズができるのです。
トークンが市場性を備えているため、これまでの一般的なユーザーだけでなくキャピタルゲインを狙う投資家も先行投資として商品を購入するようになります。たとえば、ある投資家がNFTの価値が高まるかもしれないという期待感で買い、そこでキャッシュが生まれ、そのキャッシュでサービスを運営し、ユーザーが集まることでさらにトークンの価値が上がるといった、サービスのエコシステムが回っていきます。
図表3-2 3つのエンジンによる成長サイクル
トークンフィードバックループ
ここまで説明した、①ファイナンス、②マーケティング、③マネタイズは個別に起きるわけではなく、3つのエンジンが有機的に繋がっているのです。ユーザーのお金でユーザーがマーケティングし、結果的に企業のマネタイズに繋がるというループがトークンを軸にして回っており、トークンフィードバックループとも呼ばれます。
トークンを発行することで原資がなくてもファイナンスができ、トークンを所有したユーザーが自分たちでマーケティングしていく。そういったマーケティングによりさらに多くのユーザーが流入し、さらなるマネタイズに繋がっていく。このようなループが回り続けるという期待が、Web3におけるトークンの活用方法なのです。
これまでサービス開発においては、ユニットエコノミクスを検討する必要がありましたが、これからはいかにトークンを中心としてユーザーを含むステークホルダーとWin-Winの関係を築けるのかというトークンエコノミクスを考えていかなければいけないのです。