今年7月発売の『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』から「Chaper6標準偏差」の一部を紹介します。
ファイナンスの世界ではリスクをバラツキ=標準偏差と捉えます。そして基本的にはハイリスクの投資案件ほどハイリターンを求めます。いわゆるハイリスク・ハイリターンの原則です。ここで面白いのは、分散投資を行う、すなわち投資先のポートフォリオを組むことで、リスクを下げつつ、リターンを上げることが可能であるということです。リターンが上がってリスクが下がるのは投資家にとって非常に嬉しいことです。ただ、その理屈を数学的に説明できる人はほとんどいません。今回は簡単な事例をもとに分散投資≒ポートフォリオの威力について説明します。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、東洋経済新報社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
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ポートフォリオ
ここに2つの株式があるものとします。A株はほぼ景気に連動して株価が動くものとします。一方、B株は悪い時に最もリターンが大きくなります。
A株のリターン
好景気:30%
普通:10%
不景気:-10%
B株のリターン
好景気:O%
普通:5%
不景気:15%
ここで景気の確率は、好景気30%、普通40%、不景気30%と予測されています。この前提でそれぞれの株式のリターンの期待値を求めると、以下のようになります。
A株:30%×0.3+10%×0.4+(-10%)×0.3=10%
B株:0%×0.3+5%×0.4+15%×0.3=6.5%
A株の方が、バラツキが大きい分、ハイリターンが期待されています。
これを標準偏差の考え方を用いて実際に計算してみましょう。
A株の分散=0.3×(30-10)^2+0.4×(10-10)^2+0.3×(-10-10)^2=240
A株の標準偏差=15.5%
B株の分散=0.3×(0-6.5)^2+0.4×(5-6.5)^2+0.3×(15-6.5)=35.25
B株の標準偏差=5.9%
質問
A株20%、B株80%のポートフォリオDを組んでみます。期待リターンと標準偏差はどのように変化するでしょうか。
Dの期待リターンは以下のようになります。
好景気:30%×0.2+0%×0.8=6%
普通:10%×0.2+5%×0.8=6%
不景気:(-10%)×0.2+15%×0.8=10%
リターンの期待値=6%×0.3+6%×0.4+10%×0.3=7.2%
そして、Dの分散と標準偏差は以下のようになります。
Dの分散=0.3×(6-7.2)^2+0.4×(6-7.2)^2+0.3×(10-7.2)^2=3.36
Dの標準偏差=1.8%
驚いたことに、ポートフォリオDの標準偏差はB株だけを持っていた時の標準偏差5.9%よりもかなり低くなっています。
つまり、B株だけを持つよりも、A株を20%組み合わせることで、期待リターンが6.5%から7.2%へと上がり、かつ標準偏差(リスク)も5.9%から1.8%へと下がったのです。これがポートフォリオ、すなわち分散投資の威力です。
このような現象が起こるのは、それぞれの株が景気に同じような影響を受けず、補完する関係になっているからです。景気が良ければA株の恩恵を受け、悪ければB株の恩恵を受けることでこれが実現します。
より一般的に書くと、ポートフォリオのリスクとリターンは図のようなイメージで挙動します。
どのくらいのリターンを期待するかは人によるので、どのバランスがいいという正解はないのですが、あるレベルまではリスクを下げつつ、リターンを上げることが可能となることがわかります。
『ビジネスで使える数学の基本が1冊でざっくりわかる本』
著者:グロービス 執筆:嶋田毅 発行日:2022/7/29 価格:1,760円 発行元:東洋経済新報社