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核心を突くジム・コリンズの名言と先見性~『ビジョナリー・カンパニーZERO』が読まれる理由を探る~

投稿日:2022/03/17

グロービス経営大学院とフライヤーが共催した「読者が選ぶビジネス書グランプリ2022」で、ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著『ビジョナリー・カンパニーZERO』が「マネジメント部門」で1位となった。米ネットフリックスのリード・ヘイスティングス共同創業者兼CEO(最高経営責任者)が10年以上、何度も読み返しているという名著の改訂版で、起業家や経営者にとって「必読の書」との評価も広がっている。本著を翻訳した土方奈美さん、編集者の中川ヒロミさんに、日本語版が出版されるまでの経緯などについて語っていただいた。(聞き手はグロービス経営大学院教員の山岸園子。全2回の後編。以下敬称略、前編はこちら)。

名言のオンパレード

山岸:前編では出版の経緯から、お二人にとってジム・コリンズとはどのような人物なのかお話しいただきました。改めてではありますが、本書は500ページを超える非常に内容の濃い書籍です。翻訳するにあたって難しさを感じたところはありますか? 思い入れのある部分なども教えていただきたいと思います。

土方:私自身、特別優秀な翻訳者ではないのですが、この本はとても翻訳しやすかったです。経営書というのは、なかには哲学書のように、抽象的な議論が続く本もありますけど、ジム・コリンズは平易な文で核心を突いてきます。何を言っているのか曖昧だという部分はあまりありませんでした。

例えば、偉大な企業を作る条件について言及した部分で、金銭としての報酬を多く支払うこととは一切関係がなく、それにはシンプルな理由があるのだ、と説明しているところがあります。英語ではこうです。

”You cannot turn the wrong people into the right people with money.”
(お金で間違った人材を正しい人材に変えることはできない)

中学生レベルの英語で核心を突いています。まさに名言のオンパレードで、過去の諸先輩方の翻訳と比較されるのではないかというプレッシャーはあっても、その美しい文章をそのまま日本語に置き換えることに、それほど苦労はありませんでした。

山岸:ジム・コリンズに対する土方さんの愛を感じます。中川さんは、これだけ多くの方の支持を本書が受けた理由については、どんなところにあるとお考えですか?

中川:土方さんがおっしゃる通り、本当に名言が多く、マーカーを引きたくなる文が非常に多い本です。また、発売されるタイミングも大きかったと思います。少し前まではKPI(重要業績指標)の設定など、生産性を高める方法などについて扱うビジネス書が多かったように記憶しています。ところがパンデミックが起こり、自分達ではどうにもならないような大きな流れと対峙する必要が生じた時からは、何が大事なのか、どう生きていけばいいのだろうかというような、「本質を知りたい」という人々のニーズが高まってきたように感じます。企業はお金儲けをするだけではないとか、ビジョンが大事だというような、原点にスポットライトを当てる本書の主張が、人々の心に響いたところもあるのではないでしょうか。

土方:こんなことをいうと「どの目線でものを言っているのだ」と叱られそうですが、やっと時代がジム・コリンズに追い付いてきたのかな、と感じます。企業は株主利益の最大化を目的とするのではなく、もっと深いテーマを持つべきだと本書は訴えています。今こそ当たり前のことで、株主至上主義からステークホルダー資本主義への転換が叫ばれていますが、30年前からジム・コリンズはそのように語り続けているのです。

ESG(環境・社会・ガバナンス)やSDGs(持続可能な開発目標)についての認識が深まるなかで、彼の主張が注目される土壌が整ってきたのだと思います。30年前からの彼の主張はやはり正しかったという、その先見性こそが「ビジョナリー・カンパニー」シリーズの説得力を高め、人々の注目を集めることにつながったのだと考えています。

不透明な時代、何をどう読む?

山岸:今回のビジネス書グランプリの受賞作品についても、キーワードとなったのは「普遍的なものへの回帰」でした。一方で、時代は常に変化しているのも確かで、私達は今、どのような本を選ぶべきなのか、時に迷うこともあります。良質な読書経験を積み重ねるために意識すべきことは何でしょうか?

中川:現代においても、本を読みたいという人が多くいらっしゃるのは、本当にありがたいことです。Webや動画投稿サイトなどを通じ、世の中には多くの情報が溢れていますけれども、細切れになった情報を浴び続けるうちに、逆にこれまで以上に混乱してしまう人も多いような気がします。そういう意味で本というのは、1つのテーマで、凝縮した知識を得られるパッケージと言えます。今だからこそ、たくさんの人に読んでいただけるといいのかなと思います。

出版社側は、本のエッセンスをWebで発信したり、オススメの本を紹介する記事を作ったりといった試みを増やしています。4月に「日経BOOKプラス」というサイトを立ち上げるのですが、そこでも様々な方による選書の記事などを紹介し、「本を読みたいけれども、どれを読んでいいのか分からない」という方々の手助けをしたいと思っています。

山岸:土方さんは読書をするうえで、本の選び方などで心掛けていることはありますか?

土方:翻訳者として、仕事を通じてある意味強制的に本を与えられる立場にあるのは、恵まれていると感じます。過去には、自分が好きな本を選り好みしながら翻訳をする頃もあったのですが、ある時期から、編集者の方から紹介された本の翻訳を迷わずに受けるというスタンスに切り替えました。そうすると、もともと読むことが少なかった分野の本も読むようになり、結果として視野が広がりました。自分が選ぶというよりも、尊敬する人が薦めてくださる本を、「え?」と思ったとしても、手に取るのがいいのではないでしょうか。薦めてくれた人に感想を伝えると、本の理解も深まっていきます。

「心が震える本を届ける」

山岸:これからも『ビジョナリー・カンパニーZERO』は読み継がれていくと思いますが、どのような方に読んでほしいとお考えですか?

土方:ジム・コリンズ自身、アーリーステージの起業家に向けてこの本を書いたと言っています。起業後、迷いが生じる前に読んでいただくのが一番いいかもしれませんが、起業家や、起業に関心を持つビジネスパーソンに読んでいただきたいと考えています。20~30代の、これからリーダーを目指そうという読者の方々も大きな学びが得られると思います。「リーダーシップ論」の章は、ジム・コリンズが特に力を入れて書いている部分です。

中川:若い方々のなかには、リーダーになりたいかと問われたら「いや、別にいいです」と答える人も多いと思います。この本のなかで私が一番好きで、名言だと思うのは「真のリーダーシップは、従わない自由があるにもかかわらず人がついてくることだ」という一文です。従来の「自分についてこい」というリーダー像とは全く正反対で、逆についてくる側がリーダーを選ぶという考え方が示されています。少人数で進めるプロジェクトをとりまとめる時、どういうふうに考えればいいのか。そういうミクロの視点でも役立つ本ですので、若い方々にぜひ読んでいただきたいと思います。

山岸:中川さんから本著の最も好きな箇所について挙げていただきましたが、土方さんはいかがでしょうか?

土方:今、中川さんに挙げていただいたところは本当に好きな部分ですが、ほかにもいくつかあります。時間の使い方に関して、ジム・コリンズは「仕事は無限で、時間は有限だ。時間があればあるだけ仕事は増えていく。そのため、生産的になるほど仕事ではなく時間を管理しなければならない。最も重要な問いは、私は何をすべきかではなく、私はどのように時間を使うべきか」と説いています。

これは私にとっては目から鱗でした。「何をすべきか」を出発点にして考える人も多いのではないかと思いますが、「どのように時間を使うべきか」を優先事項として考えるべきだというメッセージは、私の心に響きました。

もう1つはリーダーシップ論のところです。リーダーはエネルギッシュであれとジム・コリンズは語っていますが、さらにここから抜粋すると高いエネルギーレベルを維持する最高の方法のひとつが、常に変化をすることだ。ここで非常に重要な真実を指摘しておこう。たしかに変化はエネルギーを消耗する。しかし、それ以上のエネルギーを生み出すのだと述べています。変化するのは大変ですが、変化すればするほどエネルギーが出てくるのだという、彼の前向きさが溢れた文章で、私がすごく好きなところです。

山岸:今、朗読いただいただけでも勇気をもらえたように感じました。最後に、翻訳者、編集者として今後、どのような本を届けていこうとお考えなのか、お話しいただけますでしょうか?

土方:本を選り好みしないほうがいいとは言いましたが、やはり私が好きなのは、人間ドラマが描かれた本です。ノンフィクション、フィクションに限らず、どんなジャンルでも当てはまります。『ビジョナリー・カンパニー』シリーズも、ジム・コリンズの生き様と、物語がある本だと思います。私が以前、翻訳したウォルター・アイザックソンの『レオナルド・ダ・ヴィンチ』も、ひとりの人間の人生を通じて物語が記されています。心を動かされる物語のある本を、これからも訳していきたいと思っています。

中川:著者が必死に考え抜いた結果として生み出され、読者の心を震わせるような本が、私はとても面白いと思っています。小説にも心が震える本はありますが、私はやはりビジネス書が好きなので、ロジックがあるうえで感情もあるという、両立した本を世の中に届け、人々の悩みに応えていくことができたらいいなと思っています。

山岸:本日は本当にお忙しい中、お時間を頂戴しありがとうございました。改めましてご受賞、本当におめでとうございます。

 

ビジョナリー・カンパニーZERO
著者:ジム・コリンズ、ビル・ラジアー 翻訳:土方 奈美 編集:中川ヒロミ 発売日:2021年8月23日 価格:2,420円(税込) 発行元:日経BP

  • 土方 奈美

    翻訳家

    1995年慶応義塾大学文学部卒業、日本経済新聞社に入社。日本経済新聞、「日経ビジネス」で記者を務めたのち独立。2012年米モントレー国際大学院にて翻訳修士号を取得。米国公認会計士、ファイナンシャル・プランナーの資格を持ち、ビジネス書を中心にノンフィクションの翻訳を手掛ける。

  • 中川 ヒロミ

    株式会社日経BP 書籍編集1部部長

    日経BPに入社後、通信の専門誌「日経コミュニケーション」の記者を経て、2005年から書籍編集に携わる。主な担当書籍は、『HARD THINGS』『HIGH OUTPUT MANAGEMENT』『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』『ジェフ・ベゾス 果てなき野望』などシリコンバレーの翻訳書が中心。

  • 山岸 園子

    グロービス経営大学院 教員/ディレクター

    聖心女子大学文学部歴史社会学科卒業/グロービス経営大学院(MBA)修了 株式会社リンクアンドモチベーションにて人材育成や組織風土変革を担う部署にて施策提案・実行に従事した後、若年層向け教育サービスを提供する新会社立ち上げを担当し、サービス企画・営業企画・採用育成などを推進。その後グロービスに入社。現在はビジネススクール部門のディレクターとして、マーケティング・学生募集企画の戦略策定・実行などを務めている。 同時に、リーダーシップ開発と倫理価値観、クリティカル・シンキングなどの講師、また志領域の研究・コンテンツ開発も行っている。

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