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トヨタ自動車を支える人材育成〜成長と全員活躍に向けた課題と取組事例〜日本の人事部「HRカンファレンス2021-春-」開催レポート

投稿日:2021/08/16更新日:2022/08/17

トヨタ自動車はここ数年、「モビリティカンパニー」への変革に着手している。変革に向けて自ら行動する人材の育成を目指し、育成コンセプトを「教え、教えられる」から「自ら学び、教える」へと転換。年次や時期にかかわらず「自由に参加できる学び」のサービスも活用している。本セッションでは、トヨタ自動車が実践する全員活躍に向けた人材育成の取り組みが紹介された。

*本記事は、2021年7月2日に日本の人事部HRカンファレンスに掲載された記事を転載したものです。

グロービス 井上氏によるプレゼンテーション:「人材育成の潮流」

グロービス(GLOBIS)は「社会の創造と変革」をミッションとして、人材育成や組織コンサルティング、ベンチャーキャピタルといった事業を展開している。近年はデジタル化を加速しており、企業が「人材育成のDX」を進める上で必要なプロダクトを開発、提供。その中で新たに立ち上がった「グロービス学び放題」は、グロービス・マネジメント・スクールの講義と、累計160万部発行の『グロービスMBA』シリーズをベースに開発された、定額で視聴し放題の動画サービスだ。400コース以上の動画が視聴できるようになっており、毎月、最新のビジネスナレッジが4〜6コース追加される。これまでに2,000社以上、計16万人がこのサービスを利用している。

「グロービス学び放題」は、MBAの基礎知識からテクノベート(「テクノロジー」と「イノベーション」を組み合わせた言葉)領域など、これからのビジネスパーソンに必要な内容を網羅。グロービスは今後も、DXを含めた企業の新たな変革に役立つ知識を提供したい、としている。

セッションでは始めに井上氏が登壇し、最近の人材育成の潮流について語った。井上氏は、昨今の激変する環境下において、人事部門は過去の継続性に囚われすぎてはいけない、人事部門こそが変革をリードしていく必要がある、ということを元LIXIL副社長である八木洋介氏の言葉も紹介しながら語った。

その上で、どの企業も考えなければならない変革テーマがある。それは「Digital Transformation(DX)」だ。

「マッキンゼーの調査によれば、デジタル変革が成功した割合はわずか16%で、デジタル変革が成功する確率は低い、といえます。そのうえ、デジタルに対するビジネスリーダーの考え方の調査結果を見ると、多くの日本のリーダーはデジタル推進の準備ができていない、と回答しています」

トヨタ自動車におけるDXへの対応はどうか。同社ホームページには社長である豊田章男氏の次の言葉が掲載されている。「これまでトヨタは、自動車産業という、確立されたビジネスモデルの中で成長を続けてきました。しかし今、クルマの概念そのものが変わろうとしています。そして、クルマの概念が変われば、私たちのビジネスモデルも変えていかなければなりません。つまり、これまでの発想を転換し、より幅広く、よりオープンに、より良い社会への貢献を追求することが、新しいビジネスモデルにつながるのではないか、との考えに至りました」

「まさに未来をみて戦略的に会社を変えていくことを宣言した言葉だと思います。実際にトヨタ自動車では、『モビリティ・サービス・プラットフォーム』で、サービス事業者や自動運転パートナーに必要な情報をオープン化し、ビジネスモデルそのものの変革を行っていこうとしています。こうした変革は、今日参加されている企業の皆さまも向き合うべき課題だと思います」

トヨタ自動車が目指しているDXを実現するためには、内部にいる社員に求められるスキルも大きく変わっていくと想定することができます。

DXが進む社会の中では、今後、必要性が高まるスキルと、逆に必要性が低下するスキルが存在する。「WEF 2022 Future Work Skills」によれば、必要性が高まるスキルには「1. イノベーション思考 2. 自己成長力 3. 発想力、クリエイティビティ 4. テクノロジー活用力、プログラミング 5.クリティカルシンキング 6. 複雑な問題解決力 7.リーダーシップ 8.EQ 」があり、必要性が低下するスキルには「1. マニュアルによる実行力 2. 記憶力 3. 入出金・購買などの管理業務スキル 4. ITサービスのメンテナンス 5. 読み書き 6.人事管理 7.品質管理・安全管理 8. タイムマネジメント」がある。

そして、こうした時代には、人材育成の方法も大きな変化が求められる、と井上氏は語る。例えば、変革がリードできる自律的な人材に対する育成投資が進み、結果として研修形態では「階層別研修中心」から「選抜型+公募型中心」へシフトしていく。また、研修の提供方法では「リアル中心」からスマホやオンライン会議ツール、LMSなどのオンラインツールを活用しながら、リアルも合わせたハイブリット型へ。加えて、人事に求められる要素では「人事の専門性」に加えてデータ活用のスキルや変革マインドへ、といった変化が必要だ。

「トヨタ自動車でも、同社の変革の中で、専門性と人間力を兼ね備えたプロフェッショナル人材の育成を実践されています。その育成のコンセプトも『教え、教えられる』から『自ら学び、教える』に転換し、年次や時期にかかわらず『自由に参加できる学び』としてグロービス学び放題もご利用されています。本日はそのような組織の変革、人材の変革を進めている背景や具体的な施策についてお話しいただきます」

トヨタ自動車 東氏によるプレゼンテーション:「成長と全員活躍に向けた施策」

次に東氏が登壇した。トヨタ自動車ではここ数年、人の移動の全般について支援する「モビリティカンパニー」への変革を行っている。トヨタ周辺でモビリティに関わる人口はトータルで550万人。この550万人の仲間と共に「幸せの量産の実現に向けて」をメッセージに変革を行っている。

「この方向性の実現のためには、一人ひとりが能力を最大限発揮すると同時に、物事をスピーディーに実行する必要があります。自ら考えて動いた際に、周囲から一緒に頑張りたいと思ってもらえる人材でなければ変革は実現できません。そのような人材をつくっていきたい。また、トヨタが経験したことがない領域へのチャレンジでもあり、新領域で教えを乞う立場ですから、仲間として選んでもらえる会社にならなければなりません」

では、変革に際して社内にどんな課題があるのか。モビリティカンパニーへの変革を成し遂げるために「周囲から一緒に頑張ろうと思ってもらえる人材」を育成し、「全員活躍・成長」の後押しを加速させる必要がある。そこでは「現状に安住するマネジメント」「成長実感が得にくい若手」「多様性を尊重しにくい風土」といった状態や文化は障害となる。そこで重要になるのが人事制度の見直しだ。

2020年の社長年頭挨拶では、「今のトヨタの中にある、学歴、職種、職位など、さまざまな線引きや区別をなくしていきます。これからのトヨタに線引きがあるとすれば、それは、『成長しようと努力する人』と『しない人』、『仲間のために働く人』と『自分のために働く人』です」と述べられている。

「現在、施行しているすべての人事施策はこの言葉につながっています。春闘でも組合との協議においては、金銭についてではなく、社内変革の課題について4回にわたって議論しました。今後は人間力を有し、誰かのために貢献する人材を、職種や年次、学歴に関係なく選び、その貢献に報いることができる制度をつくりたいと思います」

ここから東氏は具体的な変革の取り組みについて解説した。まず採用面では、学校・学歴を問わず、人間力と情熱を重視した、多様な人材の採用へと転換した。新卒採用の割合が9割だったが、キャリア採用を強化し、現在はキャリア採用を3割にまで増やしている。今後5割にまで増やす予定だ。

「キャリア採用では『トヨタを変えられるプロ人材』の採用により、社内改革を促進しています。新卒採用では『トヨタらしさ』の伝承者として活躍できる人材を見極め、採用しています」

次の変革は「評価」だ。人事評価のPDCAを通じて、全員活躍を促進させている。副社長といった肩書はなくし、役割で呼び、資格体系も見直しを行った。昇格での「年齢・学歴条件」「組織毎枠」も撤廃している。

また、新たにフィードバックの仕組みを導入。評価面談の回数を年1回から3回に増やした。

「昨年から、課長級以上の1万人に360度フィードバックを実施しました。一人につき周辺の15人ほどが評価。評価される人にとって大いに刺激になったようで、今年は2万人に対象を広げて実施する予定です。また、処遇への反映では、頑張った人に報いるため、個人加点幅を拡大、昇格のスピードを上げています」

配置では、資格や年齢に関係なく、時々で必要とされる人材をスピーディーに配置することが可能な資格体系へと変更。資格を大括りにして、幹部職、基幹職の見直しを行っている。また、評価項目を見直し、「人間力」「実行力」に着目した。

「実行力とは専門性を発揮し、仕事を前に進め、人を育てる力。人間力とは相手に興味を持っているかどうか、当たり前のことを当たり前に行えるかどうかです。そのうえで成長しようとしているか、周囲に貢献しようとしているかを見ています。この点をクリアしない人は昇格させません」

また、強みと改善点を明確にし、本人へのフィードバックも実践している。

「ここは我々が苦手なところでした。耳の痛いこともきちんと言おうと決意し、評価について組合と議論するようになりました。本音でモノが言える労使関係をつくりたいと考えています」

次の変革は「人材育成」だ。「トヨタらしさ」(豊田綱領・TPS)を兼ね備え、変革を実現できる人材の育成を目指している。昨年は社員手帳を作成。その中にはトヨタフィロソフィーや豊田綱領、トヨタウェイ2020などが掲載されている。トヨタフィロソフィーとは、モビリティカンパニーへ変わろうとしている同社が未来へ歩んでいくための道標であり、豊田綱領を原理原則に置き、ミッション、ビジョン、バリューを再定義したものだ。

「また、本部長・プレジデントが責任を持って、次世代候補を育成しています。基幹職に昇格した30代後半の若手には、外部の企業で働く経験をさせています。トヨタを外からみて学んでもらうためです」

次の変革は「コミュニケーション」だ。従業員人事では双方向・ダイレクトコミュニケーションチャネルを増やし、多様な個に寄り添った人事制度の企画・運用を行っている。

「入社1〜3年目の若手には毎月1回、健康、仕事、成長、人間関係などについて、五つの天気のパターンで気持ちを伝えてもらっています。その結果を見て気になるメンバーには声をかけていきます」

では、トヨタ自動車は今後どのような方向性に進もうとしているのか。コロナ禍によって環境はさらに激しく変化している。そこで生き残りをかけて、スピーディーに取り組もうとしているのが、デジタル化とカーボンニュートラルの2本柱に資する人事施策の推進だ。新たな領域への挑戦が必要になるため、今後も人材育成は重要となる。

「グロービスには以前より、海外を含めた幹部職の研修などで大変お世話になっています。パートナーとしてトヨタの課題を共有しています。これからも新たな挑戦に資する人材育成を支援してほしいと思います」

ディスカッション:変革時代における人事の役割とは

後半は、東氏と井上氏によるディスカッションが行われた。

井上:最近、これまで共通言語として言語化されたウェイ「トヨタウェイ2001」を、「トヨタウェイ2020」として再度言語化されましたが、見直しを行った背景は何でしょうか。

東:創業の精神はトヨタ自動車部ができた1937年の豊田綱領にあります。内容は次の5行です。

一、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙ぐべし
一、研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし
一、華美を戒め、質実剛健たるべし
一、温情友愛の精神を発揮し、家庭的美風を作興すべし
一、神仏を尊崇し、報恩感謝の生活を為すべし

これらを軸として、トヨタの創業の精神にもう一度立ち帰ろうと見直しを行いました。時代に合わせて、従業員が今、行動すべきことは何かをあらためて考えていきたいということです。

井上:トヨタにとっては、デジタル化やカーボンニュートラルへの挑戦など、よりイノベーティブに変わらなければならないという前提がありますね。その中で、例えばトヨタウェイ2020には「余力を創り出す」という言葉がありますが、気持ちに余力をつくり出し、「豊田綱領で謳われている“常に時流に先んずべし”、つまり新しい領域に進む」という決意を込めたように見えました。ここで参加者から事前にいただいた質問に回答していきたいと思います。「人間力をどう評価するのか」という質問については、いかがでしょうか。

東:人事に関するすべての場面で、人間力を根本に置いており、それは社内に共通のメッセージとして伝えています。基本にしているのは評価基準です。基準を伝え、個々の目指すものを評価シートに落とし込んでもらっています。360度フィードバックのときも同様に評価基準を連動させます。昇格申請にもその観点を加えています。

井上:次の質問です。「オンライン化の波が来て、人材に求められるスキルも高度化していますが、人間力とのバランスを取る難しさもあると思います。この点で意識されていることはあるでしょうか」。

東:基本は「頑張る人に任せていこう」が大きなメッセージです。年齢、年次、性別は関係なく、やる気のある人に仕事を任せていく。そのためであれば、さまざまな人事のしがらみは壊そうと考えています。例えば、若い人を部長にしたり、主任クラスに大きな仕事を任せたりと、やる気のある人にはどんどん仕事を任せている。頑張る人に十分に報いていく、とメッセージを発信し続けたいと考えています。

井上:私たちが提供する「グロービス学び放題」は、トヨタでは手挙げ方式で利用されています。すでに希望者が数千人いる、とお聞きしました。今が御社の変革期であり、従業員が自ら学ぼうとしている姿勢の表れなのだと思います。最後に、こうした変革期における人事の役割について参加者に対してメッセージをお願いします。

東:当社でも、創業時は社長が人事業務を行っていたと思います。だんだん組織が大きくなって人事部が設置されますが、人事部は経営陣から人事の仕事の委託を受けている存在です。そのため、経営の方向性からずれてはいけない部署だと思います。人事部が経営陣と別方向を向き出すと、会社はうまくいきません。経営陣の考えと従業員の思いがつながっていなければならない。今の経営陣はアイデアが豊富であり変革にも前向きですが、そうした経営陣と従業員がつながりを常に保てるように行動することが、人事の役割だと思います。

井上:人事の皆さまには、これから変革に向けてチャレンジしていただきたい、と思います。本日はありがとうございました。

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