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定量分析とは?ビジネス数字力UPの秘訣は「比較」にあり!

投稿日:2017/02/24更新日:2019/04/09

『定量分析の教科書――ビジネス数字力養成講座』出版記念セミナー[1]

みなさん、こんにちは。データ分析の世界ではここ3年くらいで「データサイエンティスト」という言葉がわりと使われるようになって、とくに21世紀で最もセクシーな仕事だと言われてもいる。私自身、「セクシー」と言ってもらえる最後のチャンスだと思っているので、データ分析のところはしっかりやりたいなと思っている(笑)。

まずは簡単な自己紹介から。私はもともと理系の人間で、工学系のマスターまで行ったあとに野村総研に入所。その後、運良く野村総研からシカゴに送ってもらって、MBA(シカゴ大学ブースビジネススクール)を取って帰り、その後、A.T.カーニーという外資系のコンサルティング会社に移って、2001年にグロービスに来ました。もう15年くらい経つのかな。2006年以降は特にグロービスの経営大学院部門の立ち上げから運営まで携わり、この1年は、ビジネス定量分析というまさに『定量分析』のこの本の中身を授業で扱っている。

好き×得意のマトリクスで、ポジショニングを確認

最初に皆さんの立ち位置をお伺いしたい。ビジネススクールは、2かける2のマトリックスで整理するのが好きな場所なので、今日も皆さんのためにマトリクスを用意した。数字が「好きか嫌いか」「得意か苦手か」ということで手を挙げてほしい。

まず数字はわりと好きなほうだし、得意なほうという方は。20人くらいかな。一方、対極の、数字は嫌いだし苦手意識があるという方は、同じく20人くらいかな。数字はわりと好きだけど苦手意識があるよ、という方。これは多いですね、100人強くらいでしょうか。数字は嫌いだけどなぜか得意みたいな方は。今日はいないかな。いつもだいたいクラスだと30人中、1人くらいはいるのだが(笑)。

いつも言っているのは、右上は、数字の楽園でワンダーランドだろうと。ここはある意味目指すべき場所だなと。やはり数字が好きで得意というところが一番いいだろうと思うので。まずここを目標にするとして、「数字の楽園」と呼ぶことにする。対極の左下、ここは数字の迷宮入り、「数字のラビリンス」だろう。左上の部分は、言葉がラフかもしれないが「横好き」。右下は嫌いでも得意なせいで仕事をどんどんやらされてしまうと思うので「苦役状態」だと思います。基本的には、どこのポジションにいるとしても、より右の方向に、より上の方向に動いていくのが、幸せなのかなと思う。

私が定量分析の授業をするときに面白いと思っているのは、分析する題材を選ぶのに自由度が高いところだ。私が題材として選んでいるものの中には、「幸せ」と言うか、幸福というのをどう捉えたらいいんだろう、といった演習があったり、社会的な格差を扱ったり。それらはもちろん、「分析」というツールの解説ではあるのだけれど、それを通じて皆さんに目を向けてもらう題材自体は、私なりに重要だと思っているテーマを選んでいる。私なりの選択なのである種の偏りはあるかもしれないが、受講生と読者ができるだけ興味をもってマトリクスの下から上のほうへ進んで行ってほしいと願ってのことでもある。

また、マトリクスの左から右へ進んで行ったほうがいいことはもちろんだと思うが、これに関してはいろいろとコツのようなものがあると思っていて、この本の中にはかなり盛り込めたつもりではいる。私はもともと、分析自体にはあまり苦手意識をもった記憶はない。とはいえ、自分で分かっていたつもりで、いざ教える立場になったら意外と難しいということは多々あったのも確かだ。

有名な物理学者であるリチャード・ファインマンは、理解度について「自分で説明できないものについては、自分では分かっていない。理解度というのはそういうものだ」という説明をしているのだが、私も授業で受講生の皆さんと一緒に学んでいくなかで、簡単な概念であっても自分の中でなかなか説明しきれない、つまり自分の理解力が足りないと思った瞬間もあり、そのつどつどで痛感することもあった。そのような経験のなかで、自分なりにあらためていろいろ考えて、こういうふうに理解したらいいんじゃないだろうか、という試行錯誤を積み重ねてきた。その長年の積み重ねの内容が、コツとしてこの本には反映されていると思う。

また、数字に関する理解ということで言うと、ざっくりと3つのレベル感がある。1段目はエクセルや統計のソフトを使って操作できるレベルの話、2段目は本屋さんにもたくさん並んでいる統計的な分析手法。3段目は、数字を使った分析のベースにある考え方、視点という部分。この3段階のレベル度があると思っている。ちなみにこの本で2段めはもちろんだが、特に3段目を重視している。

愛の値段はいくらか? 比較の妙

さて、本の中でも扱っている「愛の値段はいくらか」という演習をここに用意している。それはシンプルで、「男女間の愛の値段はいくらか。それはどうやって分析できるか」という問いだ。

たとえば、キャッシュフロー(出ていく、あるいは生み出されるお金)的なものを割り引くんだという意見の人は? いますね。これは、愛情から発生する将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いた上で足し合わせて計算するようなイメージだろうか。これはこれで、いかにもビジネススクールらしい回答だし、ありえる視点だとも思う。ただ、難しい面もないだろうか。たとえば、愛がない場合と愛がある場合でキャッシュフローの違いを明確にできるかどうか。明確化できないと、愛がある場合も愛がない場合も、プライスが同じようになってしまうのではないだろうか。

ほかには、誘拐された場合に身代金的なものをどこまで払うか、ということで愛の深さをはかろうじゃないかと思った人は? これもこれで面白いアイデアだと思う。ただ一方で、身代金に関しては愛情以外のいろいろなファクターも絡んでくるかもしれない。愛もあるかもしれないし、金を生むガチョウではないけれど、奥さんの収入力があって稼いでくれるとなると、奥さんの将来のキャッシュフローを割り引いたものが身代金だと考えられなくもない。さっきの回答例と同様、愛があるか愛がないかの違いが分かりにくいかもしれない。

どうですか。お金に換算できないものを何らかのかたちでお金に換算するときに、いろんなアイデアがありそうというところは、思考実験としての面白味もあるのではないかと思う。これが正解というつもりはないが、ひとつ、アクサ生命のアンケートを紹介する。

グラフを見てください。これは独身女性が、男性に求める年収のデータで、まず何も条件を付けずに「男性にどのくらいの年収を望むか」と聞くと、平均して「552万円」という回答になったようだが、「愛があるならどのくらいでいいか」と聞いたら平均が270万円だったという。この差が愛のディスカウントだととらえると、年間の金額は年額にして280万円くらい。これが年間なので、期間を10年、20年と考えてみると、3000万円から5000万円くらいの金額になってしまう。

これを正解にするつもりはないが、興味深い観点が含まれているように思う。換算したいもの、見極めたいものに対して、比較をすることによって分析をしていくというところは、じつは分析の際のとても根本的な頭の使い方だということで、この例をよくクラスでも紹介しているのだが、いかがだろうか。

また、非常に鋭い人の疑問に答えるために念のため付け加えておくと、単に「男性に求める年収」という場合は、愛がある場合もない場合も含んでしまっているため、本来ならば「愛がない場合」との比較でなければ厳密には愛の値段が出てこないことになるのだが、そのあたりはどうかご容赦願いたい(笑)。

とあるコンサルティング会社の貢献度はいかに? apples to applesのお話

今度は、こちらの株価推移のグラフを見てほしい。

このコンサルティング会社のクライアント企業(複数)の株価の推移は上のグラフ、一方でS&P 500という市場全体の平均でいろんな会社が入った平均の株価の推移が下だ。縦軸は株価で、横軸は時間をとっている。

縦軸が企業の価値を表すと考えると、約3倍になっている。そうすると、このグラフ全体が言わんとしていることは、なんとなくわかるのではないだろうか。「当然、この差は俺たちのおかげだ」というようなことを言いたい、「うちがコンサルティングすると企業価値が上がるよ」ということをまさに言わんとしている。そのことが言えそうかどうか。このグラフをもって、ここに書いてあるような「うちのコンサルティングが効いて、うちのコンサルティング力で企業価値が上がっているよね」といったことが言えそうかどうか。ちょっと考えてみてほしい。

もう気づいた人もいるようなので、解説を続けると、これはもしかしたら年代的に考えて、ITバブルの影響が大きいかもしれない。もしそうだとすると、クライアント企業はIT系企業ばかりかもしれないという可能性が考えられる。もしIT系企業だったとすると、ここのS&P 500のところは、本当であれば何に変えないといけないだろうか? もしクライアント企業群がIT系の企業ばかりだったとしたら、S&P 500の替わりにIT系の企業の平均、たとえばNasdaq指数などに替えるべきと思うかもしれない。比較するとして、英語でよく「apples to apples」という言い方をするのだが、リンゴとリンゴ、つまり比較対象が適したものに揃っているかどうか。「apples to oranges」になってしまっていないか、リンゴとオレンジ、つまり揃っていないもの同士を比較してしまっていないか、ということがとても重要になる。

このグラフの場合も、クライアントの多くがIT系企業だったとしたら、比較対象もIT系企業の平均に揃えるべきということになる。

そうすれば、あとはコンサルティングのサービスを受けているか/受けていないかの差だ、といえる状態に近づけることになる。

モノゴトの「因果関係」を捉えられるか

コンサルティングのサービスが企業業績を底上げしているか。これは言い換えると、コンサルティングサービスと業績向上に因果関係があるか/ないか、ということになる。

因果関係とは、出したい結果、これはビジネスシーンではよく「目標」とか「目的」という言い方にもなっていると思うが、それを実現するために必要なアクションを取る、その関係と同じもの。出したい結果に対してそれが出るような、つまり原因となるような施策を執っていく。そして、それを繰り返していく。これはまさに因果関係そのものといえる。目的と手段という関係は、結果と原因を言い換えているだけであり、そのような意味においては、まさに皆さんが日々やっていることは、「できるだけ効率的な因果関係を作る」ということを問われていて、日々そこで頭を悩ませている、というのが実態であり根本だといえる。

まあ、実際には、「因果関係」といってしまうと本は売れないので、本屋さんに行くと「戦略」とか、そういう格好がいい言葉が書いてありますけど、余計な化粧を全部取ってしまうと、それらの素顔はおそらく全部「因果関係」だ、となるだろう。

そのように非常に重要な因果関係の推定も、比較という基本的な分析の手法からはじまるといえる。

※この記事は、2017年1月30日にグロービス経営大学院 東京校で行われたセミナー「『定量分析の教科書』 ~30代までに身につけたい数字力の磨き方~」を元に編集しました

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