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ニッチビジネスとは: 局所的No. 1はベンチャーの常道

投稿日:2016/12/17更新日:2021/11/24

『グロービスMBAビジネスプラン』から「ニッチビジネス」を紹介します。

特に経営資源の制約の大きいベンチャー企業が、最初から大きな市場全体を相手にしていてはなかなか勝てません。まずは自分たちの強みを活かせるニッチ市場を見出してそこで市場地位を確立し、しかる後に事業領域を広げていくというのは、ベンチャー企業成功の典型的なパターンです。ここで重要となるのは、魅力的(成長性が高い、儲け易いなど)かつ自社が勝てるニッチを見出す嗅覚と、スピーディに市場地位を確立する実行力です。このどちらかが欠けても成功は難しくなります。ニッチ戦略は、最初は市場が小さいがゆえに往々にして過小評価されることがありますが、そのニッチが大化けすると、一気に大きな事業となることもあります。ニッチ戦略のリスクも正しく理解したうえで、市場を注意深く観察し、「行けそうな」ニッチがないかを常にウォッチしておくバイタリティと洞察力が企業を成長に導くのです。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

ニッチビジネス


ニッチビジネスは、予想以上に大きな収益性が見込まれることが少なくない。事実、他の新ビジネスに比べ、ニッチビジネスは生み出すキャッシュの絶対額は小さいかもしれないが、選択した事業ドメイン(事業領域)において高いシェアを維持し、高収益を実現している場合が多い。一方で、経営者は人目につかない繁栄に甘んじなければならないことが多い。つまり、人目につかないニッチ市場を支配するということは、刺激的、魅力的であるというよりは、単純に勝ちやすい、ということなのだ。

ニッチビジネスの良い点は、革新的なコンセプト(製品コンセプトやビジネスモデル)が必ずしも必要とされない点てある。ここでは、競争が激しくなく、それなりに市場規模がありそうな事業を見つける嗅覚が最重要である。顧客のニーズも業界の一般常識から導かれる場合が少なくない。

たとえば、アメリカであるペットが人気を得ていれば、日本でもその動物専門のペットショップを開けるかもしれないというアイデアは容易に湧く。そこでは、まずはやってみようとする行動力、人脈やディールメイキングのスキルがものを言う。仕入れ先と交渉して友好的な関係を築くとか、クチコミによってショップの認知度を高めるなどの才覚が重視される。

このほかにも、ニッチビジネスには、経営資源を集中的に投下することで、コスト優位性、差別化を比較的容易に、かつ早期につくり出すことができるというメリットがある。さらに、必要な投資は限られており、資金調達の努力も小さくて済むため、参入しやすいというメリットもある。

もちろんマイナスの面もある。第1に、必要とされる投資額が小さいことの裏返しとして、収益額は概して小さい。ときには優良なステークホルダー(チャネルや協力工場、仕入れ先など)を引きつけるに十分な対価を支払えないかもしれない。たとえば、どんなによくできたビジネス・ソフトウエアであったとしても、そのターゲットが企業のIR担当者など非常に小さい市場であり、しかもそれほどの価格を実現できないとなれば、開発を手伝ってくれるエンジニアは見つけにくいだろう。

特にベンチャー企業においては、報酬が努力につり合わない場合は、経営者も従業員も、やがては興味を失ってしまうだろう。ニッチビジネスを狙う際には、そこから得られるリターンが、社員を含め優秀なステークホルダーを引きつけるに十分かどうか、常に念頭に置く必要がある。

成功のカギは、事業分野の選択にある

ニッチビジネスにおいては、的確な事業分野や市場の選択がきわめて大きなカギとなる(事業分野は市場と必ずしも一致するわけではないが、ここではほぼ同義に使用する)。たとえ市場が小さくても、そこで高い市場シェアを誇る企業は、経験効果や知名度などに起因する先行者利益によって、高い収益性を実現できる場合が多い。通常、成長性が高いという理由だけで競争の激しい市場に参入しても、市場シェアが取れなければ、コストがかさむだけで収益性は低くなる。

ただし、ニッチビジネスは規模が小さいぶん、環境変化に対する抵抗力は弱い。さらなる成長を志すのであれば、いち早く自らが定義した事業分野で競争優位を築くことが必要条件となる。いったん市場でトップシェアを獲得すれば、市場が成熟しても生き残る可能性が増加するし、再投資の原資を生み出す資金源としての役割を果たすことにもなるからである。

事業分野の設定にあたっては、いくつかのポイントがある。

第1に、自社の事業の付加価値の源泉を見極めることである。具体的には、技術的優位性なのか、優れた顧客基盤なのか、事業の仕組みやシステムとしての優位性なのかという点である。そのうえで、その事業分野にどれだけタイミングよく、他社に先駆けて参入できるかが問題である。一番手、さらに望ましくはオンリーワンになれる事業分野を探すことが必要である。

第2に長期的に大きく成長したいのであれば、事業分野を狭く設定しすぎないことである。事業分野を狭く限定すれば、確かに早い時期にトップシェアを獲得できるが、そのぶんすぐに成長の限界に達してしまう。競争が将来的に激化することも見越したうえで、自社の強みを発揮してスピーディに勝ち切れる事業ドメインを幅広に設定することが肝要である。

ニッチビジネスの落とし穴

ニッチビジネスは、現実的には以下の3つのパターンで失敗しやすい。こうした落とし穴を避けながら、「おいしい」事業ドメインを見出した企業は、かなりの確率で少なからぬ成功を収めるであろう。

(1) ニッチ市場を選んだものの、そこで収益を上げるだけのビジネスモデルが構築できない

この問題については、前節を再読されたい。

(2) ニッチと思われた市場が気がついたら大市場になっており、競争が激化してしまう

この事例はかなり多い。ニッチがニッチであるうちはいいが、いったん市場の拡大が見込めると、次々と新規参入が押し寄せてくる。

一例を挙げれば、ウーロン茶は、もともと伊藤園が先鞭を付けたニッチビジネスである。最初の数年は伊藤園がトップを走っていたが、市場が伸びると見るや新規参入が殺到し、あっという間に大きなビジネスになっていった。その中でシェアトップに立ったのが、豊富な経営資源(営業部隊や自販機網など)を持つサントリーである。伊藤園は、缶入り緑茶市場を開拓するなど、お茶市場で存在感を示しているが、それだけの経営資源がない場合には、さらなるニッチを探して戦っていかなくてはならなくなる。たとえば幼稚園児向けの学習塾が、特定の私立小学校への受験対策塾に徹していくなどである。

(3) ニッチ市場でいったん成功したものの、その成功に気をよくして他の大市場に参入して失敗する

かつて、アメリカのビック社(もともとはボールペンなどを扱っていた)は、新規事業として始めた使い捨てライター市場(当時としてはかなりのニッチ市場であった)への参入が成功したことに気をよくして、競争ルールがまったく異なるにもかかわらず、市場規模が10倍のパンティストッキング市場に参入して失敗した。

こうした落とし穴を避けるためには、自社の保有するスキルや強み、新市場の競争状況などを改めて認識する必要がある。なお、ビック社はその後、使い捨てカミソリの分野に進出したが、この市場では同社のコア・コンピタンスを活用し、成功を収めている。

(本項担当執筆者: グロービス出版局長 嶋田毅)

次回は、『グロービスMBAビジネスプラン』から「ベンチマークの活用」を紹介します。

 

『[新版]グロービスMBAビジネスプラン 』 
グロービス経営大学院 編著
ダイヤモンド社
2,800円(税込3,024円)

 

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