『グロービスMBAビジネスプラン』から「ベンチマークの活用」を紹介します。
ベンチマークの活用はあらゆる企業において有効な方法論です。特にやるべきことの多い新規事業においては、一からすべての仕組みや手順を作ることは非効率であり、必然的にベンチマーキングを多用することが有効となります。幸い、手順や手法には通常、著作権などはありません。盗めるものは徹底的に盗む貪欲さが必要となります。ただし、表層だけを見よう見真似でなぞっただけでは効果的ではないケースも存在します。たとえばトヨタ流の生産方式などは非常に参考になるものではありますが、何重もの知見やノウハウ、さらには組織文化などに支えられており、それらをすべて取り入れるのは至難の業です。中途半端に真似をするとかえって痛い目にあうといったリスクも意識しながら、バランス良くベンチマーキングを行うことが必要なのです。
(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)
ベンチマークの活用
ベンチマーク(ベンチマーキング)は、新規事業をこれから展開しようとする企業がビジネスモデル、オペレーションシステムを構築していくうえで非常に役に立つ考え方・手法である。
いまではビジネスの世界で日常語になったベンチマーク、ベンチマーキングは、もともとは土地の測量をする際の基準点を指す技術用語である。ビジネスの世界では、企業が他社のやり方を分析し、学び、取り入れる手法を指す。 1980年代初頭、アメリカのゼロックスが、倉庫業務でL.L.ビーン、請求回収業務でアメリカン・エキスプレスをベンチマークとし、その優れた点を学んだのが最初とされる。
また、ベンチマーキングに関連した重要概念として、ベスト・プラクティス(ベストの事例)という考え方がある。文字どおり、ある分野で最高の業績を上げている企業の手法を指し、それをベンチマークとして自社の業務に取り入れようとする考え方である。
ベンチマークの対象は同業種に限らない。むしろ、業界のパラダイムにとらわれずに最高のものを追求するため、ひいては同業他社に対し競争優位を築くために他業種に学ぶべき、という考え方が広く浸透している。
ベンチマーキングのメリットは、自社の中でまったく新しいものを創造するという「しんどい」作業が軽減される点と、ベスト・プラクティスが実際に存在することで期待成果が見えやすいという点にある。経営資源が限られ、成功の保証もない新規事業にとって、良い手本を探し、その手法を取り入れていくことは、現実的な成果を得たり、時間短縮の観点からも意味がある。
その一方で、ベンチマーキングのデメリットや限界も認識しておかなくてはならない。ベンチマーキングという手法に頼る限り、その分野でブレークスルーを期待することは難しい。斬新なビジネスモデルを導入することで新境地を切り拓こうとする革新型の新事業にとって、ベンチマークという概念は初めから矛盾をはらんでいるのである(もちろん、革新型新事業であってもすべての業務プロセスが革新的である必要はないから、特定の分野で何らかのベンチマーキングは可能であるが)。
また、他業種にベンチマークを求めたものの、実際に自社に取り入れることができなかったといった見込み違いも起きやすい。たとえば、ある病院経営者が「病院もサービスビジネスだ」と気づき、何らかのベンチマークをサービス業界に求めたとする。そして、患者の待ち時間を軽減するためにレストランのオペレーションを学んだとすれば、それなりの効果は出るだろう。しかし、接客態度をマクドナルドやディズニーランドに求めても、効果は期待しにくい。
何より根本的な問題として、「どこまで真に価値のある情報を他社が提供してくれるか(あるいか他社から「盗む」か)」ということがある。たとえば、金融分野のある新規事業で、個人顧客の与信管理と貸し倒れの見積もりが成功のカギであるとする。そこで個人与信管理の先端企業である消費者金融をベンチマークにしようと、その人にインタビューを申し込んだとして、どこまで「真に価値のあるノウハウ」を話してくれるだろうか。公表されているノウハウ(年収、資産、勤続年数、家族、借金の履歴など)のほかにも、社外秘のノウハウがある可能性が高い。そして、競争優位の源泉となっているのは、そうした部分なのである。それを理解せず、表面の見えるところだけを模倣するのは、新事業にとって非常に危険なことである。
(本項担当執筆者: グロービス出版局長 嶋田毅)
次回は、『グロービスMBAビジネスプラン』から「予測損益計算書」を紹介します。
『[新版]グロービスMBAビジネスプラン 』
グロービス経営大学院 編著
ダイヤモンド社
2,800円(税込3,024円)