組織を維持させるためには何が必要か
『SMAPの解散原因をバーナードの組織論で考える』に続き、バーナードの組織論を元に話を進める。バーナードによると、組織を維持するためには2つの条件を満たす必要がある。ひとつは「共通目的が適切に設定され、かつ十分な達成度があること」と、もうひとつは「メンバーの個人的動機を満足させ、共通目的に対する貢献意欲を引き出せていること」である。バーナードは前者を組織の「有効性(effectiveness)」、後者を「能率(efficiency)」という言葉で表現している。
個人の意欲の問題を「能率」と表現していることに対しては、若干違和感を覚えかもしれない。しかし、組織の観点に立てば、「個人の共通目的に対する貢献意欲を、いかに少ないコストで引き出せるか否か」は組織の能率になるのである。
ここで話をSMAPに戻そう。なぜ、SMAPという組織は存続できない状況に陥ってしまったのだろうか。以前と何が変わってしまったのだろうか。
まず、「有効性」について確認してみよう。最近のSMAPの共通目的としては、25周年コンサートの実施、レギュラー番組の視聴率獲得、オリンピック・パラリンピックのアンバサダーなどが挙げられる。この目的自体に不適切な印象は受けない。また、達成度についても大きな問題は見当たらない。
しかし、この事実だけで、「有効性」に問題がなかったと言い切れるだろうか。ここで再びバーナードの言葉を引用しよう。「組織は、その目的を達成できない場合には崩壊するに違いないが、またその目的を達成することによって自ら解体する。非常に多くのうまくいっている組織が成立し、やがてこの理由のために消滅していく。したがって、たいていの継続的組織は、新しい目的を繰り返し採用する必要がある」。
多くのアイドルグループや音楽グループは、当初の共通目的を達成した後に衰退し、その結果として解散に至ることが多い。しかしSMAPはデビュー25年を経た今でも芸能界の第一線で活躍し続けている。それは、繰り返し新たな目的を設定してきたからだろう。しかし、それは過去から現在までの話である。メンバーの平均年齢が40歳を超える中年男性の集団になったことで、アイドルグループとして新たな共通目的の設定に失敗した可能性がある。
もうひとつ、「能率」、つまりメンバーの協働意欲の側面はどうだったか。
ここで再びバーナードの言葉を引用しよう。「協働の能率はしばしば、具体的目的を達成する過程に付随する満足や不満足に依存する」。
報道によると、一部のメンバーがSMAPの解散を強く希望したという。それはこれらメンバーの組織(SMAP)に対する協働意欲が低下したことを示している。それは、グループ活動を通じて自分を犠牲にする程度と、そこから得られるインセンティブのバランスが崩れたということである(ここではギャラの話ではなく、むしろ仕事を通じて得られる心理的な満足度)。
SMAPは「有効性」の面では潜在的な課題を抱え、「能率(メンバーの貢献意欲)」の面ではシステムの不均衡が顕在化してしまったと考えられる。では、こうした状況は防げなかったのだろうか。
組織における管理者の役割
多くの記事によるとSMAP解散は、デビュー以来SMAPを担当し、グループを育ててきたマネジャーI氏の退社がきっかけになったという。これが事実だとすれば、SMAPを存続させる上で、組織の管理者であったチーフマネジャーI氏は重要な役割を担っていた可能性が大きい。
バーナードによると、管理の機能とは組織を維持・存続させることであり、それは「身体の他の部分に対する、頭脳を含めた神経系統のようなもの」だという。I氏が退社した後のSMAPは、まるで神経が十分に機能しない身体のようになってしまったのだろう。
では、I氏の替わりになる人材はいなかったのだろうか。バーナードは管理者に必要な要件として「組織に対する忠誠心」と「個人的能力」の2つを挙げている。後者の個人的能力は「一般的な能力(機敏さ、広い関心、融通性、適応能力、平静、勇気など。天性に依存する面が大きい)」と「専門能力(特殊技能など)」に分けられる。そして、高い職位ほど高い「一般的な能力」が求められるという。しかし、こうした能力を持った人間は少ないので、それが組織の制約になると述べている。
SMAPはI氏の退社後に後任のチーフマネジャーを配置している。大物タレントのマネジャーだから、相応の人物を配置したに違いない。しかし、専門能力はI氏と同程度に有していたとしても、忠誠心=SMAP愛(ジャニーズ愛ではなく)は遠く及ばず、一般的能力の面でもI氏に及ばなかった可能性がある。
では、I氏は管理者としてどのような役割を担ってきたのだろうか。バーナードは管理者の役割について「第一にコミュニケーションシステムを提供し、第二に不可欠な努力の確保を促進し、第三に目的を定式化し、規定すること」としている。これは前出の組織成立の3要件(共通目的、協働意思、コミュニケーション)に対応している。
マスコミなどの記事によると、I氏はメンバーにとって「母親代わりになってメンバーを守ってきた」と書かれている。これを鵜呑みにするならば、I氏の主な貢献は、管理者の第二の役割「不可欠な努力の確保の促進(協働意思を高める)」になりそうだ。しかし、メンバーの高い貢献意欲だけでは25年もアイドルグループを維持できない。なぜなら、人気商売ゆえに飽きられるのも早いからである。
ここで私が注目したいのは、管理者の第三の役割「「目的を定式化し、規定すること」である。25年間、SMAPは常に新鮮であり続けた。それは、常に新たな目的を設定してきたことが大きい。そして、その中心はI氏だったと言われている。
例えば、ジャニーズの男性アイドルがドラマで脇役や三枚目での主演もこなすようになったのはSMAPからである。また、I氏は正統派シンガーソングライターである山崎まさよし、スガシカオ、林田健司などに楽曲を依頼して、既存のアイドルソングとは異なる路線を歩んだ。グループの冠番組ではコントや料理なども披露し、アイドルグループにもかかわらず、ザ・ドリフターズ(元々は音楽バンド、70年代から80年代に活躍したコメディアン)の後継とも言われるほどになっていた。
SMAPに新たな共通目的を設定できるのは、I氏だけだったのかもしれない。そうだとしたら、I氏退任後のSMAPは遅かれ早かれ組織として寿命を迎えただろう。
組織の存続にとって、管理者の存在は非常に重要なのである。