DMM亀山会長 大放談 ビジネスほど楽しいことはない[1]
伊藤 羊一氏(以下、敬称略): お一人ずつ壇上にお呼びしたいと思います。まずは小笠原さん。nomadの代表取締役、さくらインターネットのファウンダー、そして「awabar」のオーナーであり、「DMM.make AKIBA」(以下、DMM.make)のプロデューサーでもあります。また、Cerevoの取締役やABBALabとしてものづくり系スタートアップ等に出資をしつつ、さくらインターネットのフェローとしてIoTにも関わっていらっしゃる、と。ご紹介します。小笠原治さんです(小笠原氏壇上へ:会場拍手)。今最も時間を使っているのはどのお仕事になるんですか?
小笠原治氏(以下、敬称略): さくらインターネットと「ABBALab(アバラボ)」というファンドでそれぞれ40%ぐらい。あと、残り20%で、京都造形芸術大学で新しい学科と通信制の大学院をつくっています。
伊藤: そうですか。まだ伺っていない話が(会場笑)。続いて亀山さん。19歳で露天商をはじめ、1990年代にスタートしたネット動画配信を経て、FX、太陽光発電、英会話、3Dプリンタ等、数々の事業を立ちあげてこられました。顔を出さない起業家として有名で、皆さん、楽しみにしていたと思います。過去最大の拍手でお迎えしたい。亀山敬司さんです(亀山氏壇上へ:会場拍手)。どうですか? この感じは。
亀山敬司氏(以下、敬称略): いいですね。ぴちぴち感がいいね(笑)。
伊藤: 急に恥ずかしくなってきた(笑)。ちなみに亀山さんのお顔を初めてご覧になったという方はどれほどいらっしゃいますか? あ、ほぼ全員(会場笑)。では、「DMM.com」を利用したことがある方、または同サービスで有料の「見放題chプレミアム」会員という方は…、結構いますね。僕もプレミアム会員です(会場笑)。さて、今日は亀山さんの事業観を伺ったり、「お前らそんなんじゃダメだ」と喝を入れていただりしたいと思います。まず現在のお話を伺って、次に過去どんなことをなさってきたか伺って、そして今の話に戻ったのち、「じゃあ未来をどう考えるの?」という流れでいけたらいいな、と。
まず、動画配信、英会話、FX、「艦隊これくしょん -艦これ-(以下、艦これ)」、3Dプリンタ等々の新事業をはじめるにあたって、亀山さんはどんなことを考えていらっしゃるんですか?
亀山: 最近、あんまり考えてないんだよね。
小笠原: 最近はほとんど持ち込み案件ですよね。
亀山: そう。「面白いですよ?」って言って「DMM.make」みたいなものを持ってくる。
小笠原: それでいまだに詐欺師って言われてるんですけど。
亀山: 「どんだけ金使うんだ」みたいな(会場笑)。「騙された!」って(笑)。
小笠原: 「最終的にはイメージアップになりましたよ?」って言って。
亀山: そう、そういう風に落とし込もうとしてくる(会場笑)。最初は『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』(著・クリス・アンダーソン/NHK出版)っていうワケの分からん本を持ってきたんだけど、分厚くて読めないから、「読んで」って言って5分にまとめさせたの。
小笠原: それで「これこれこういうことです」とご説明したうえで、「多分これぐらいのお金がかかります」というお話をしたら、それで「いいよ」とおっしゃって。でも、数字が伸びないと詐欺師と言われ続けるっていう(会場笑)
亀山: お金が必要なのはスタート時だけかと思ったら毎年赤字だからね(笑)。
伊藤: 予定通りじゃないんですか?
小笠原: 「4年間でこれぐらいかかりますよ?」と最初にお話ししたんだけれども、その辺は覚えておられる筈もなく。なので皆さん、持ち込むときは覚悟を持って行かれたほうが(会場笑)
伊藤: FXをはじめられたときはどうだったんですか?
亀山: 成り行きでね。近所にFXをやっていた人がいたのよ(会場笑)。近所でバーベキューをしてたとき、うちの子と遊んでた子どものお父さんがもともとライブドアにいて、「FXのシステムをつくってた」って聞いて。ただ、そのときはFXなんて知らないから、「ふーん、そうなの? がんばってね」って言うだけ。で、そのあと、「外為オンライン」か「外為どっとコム」か忘れたけど「儲かってる」という噂を聞いてピクピクッてなって。それで次のバーベキューで「儲かるの?」って(笑)。
小笠原: それまではDMMの会長というのも隠してたんですよね。
亀山: あ、そうだった。単なる近所の亀山さん。とにかく、それで「じゃあやりましょう」っていう話になった。それだけ。
伊藤: 英会話はどうですか?
亀山: あれは「亀チョク」(亀山会長直属の新規事業立ち上げ部隊)が持ち込んできたの。ただ、最初は「シンガポールで寿司の専門学校をやりましょう」みたいな、ぜんぜん違う話だった。「これからは寿司の時代です。シンガポールに寿司の学校をつくって世界中の人間を呼んで、そこに寿司の先生送り込んで儲けましょう」なんていう話で。
小笠原: すしアカデミーみたいな。
亀山: そう。でも、そのあと、「いろいろ調べたんですが、これ、ダメです。採算が合いませんわ」なんて言い出して(笑)。「じゃあ、どうすんだ?」って。
伊藤: すしアカデミーで、当初は「やってみなよ」と?
亀山: 「ちょっと面白いかもね」って。ただ、そういうときはだいたい調査がぬるいから、「ここまで調べろ」とか、「もうちょっと事業計画書をしっかり」とか、そんな話をしてたんだよね。そうしたら、「あ、ダメですわ。合いません」と言う。でも、そんな風に「ダメでした」と言ってきたところを信用したっていうところがある。普通、プランが通ったらそのまま良い話をして押し通せば、とりあえずは食ってはいけるのに。そこで「ダメです」と言うから、むしろ信用できると思った。クビ覚悟で言ってるわけで。それで「じゃあ、次はなんだ?」って聞いたら、今度は「英会話やりましょう」と言ってきた。
伊藤: ぜんぜん違いますよね(笑)。
亀山: (笑)。それで「なんで英会話?」って聞くと、「すでに今、うまくいってるところがいくつかあります」って言うわけよ。
小笠原: うまくいってるパターンが好きですよね。
亀山: 下手に考えるより、うまくいってるパターンを伸ばすというか、パクるというか(笑)。
伊藤: ただ、最初に成長のきっかけをつかまれた動画配信は、うまくいくもなにも誰もやっていなかったですよね。1998年頃だったと思いますけれども。
亀山: ああ、そうだね。
伊藤: 「RealPlayer」を使って、ダウンロードも一晩かかるような時代で。
小笠原: 静止画のダウンロードも数分かかるぐらいの。
亀山: 待ってたもんね。写真がグッグッグッて見えてきて(会場笑)。
小笠原: それが逆にちょっとエロい、みたいな(笑)。
亀山: 「あ、やっと見えた!下のほうが!」って(笑)。だから当時はストリーミングは無理でダウンロードだったけど、とにかく低画質で、しかも1本の作品を5~10分ずつぐらいに分けて、それでも1時間かけてダウンロードするようにしたりしてた。ただ、そこに掛けるユーザーの「熱い想い」があったから(会場笑)。普通の映画ならそんなことしてくれないよ。
伊藤: たしかに。でも、それは先例なかったですよね。
亀山: そうだね。でも、なんとなく、だんだん回線速度が速くなってく雰囲気があったじゃない? 毎年のように速くなって、「少しはスイスイいくようになるんじゃないかな」って。
小笠原: あと、一応海外では事例がありました。だから出来ることは見えていたっていう。
伊藤: 「艦これ」はどうでしょう。これも先例はなかったですよね。
亀山: 先例はなかったけど、そもそもゲーム自体が分かんないしね。未だにやったことないもん(会場笑)。30分だけやってみたことがあるけど、わけが分かんないし、何が面白いのかさっぱり分かんない(笑)。30分で飽きたっていう(会場笑)。
伊藤: それでも進めた理由は何だったんですか? 熱意?
亀山: 何かな…。その頃はね、「まあ、なんでもいいかな」って思ったんだよね(会場笑)。
小笠原: たしかに当時、「まあ、なんでもいいかな」って本当に言ってはりました(会場笑)。
亀山: 分かんなかったから。むしろ「これはダメだ」っていうのが分かるのは止めるんだよね。それで、持ち込みのだいたい9割には「ダメだ」って言うのよ。「もうAmazonがやってる」とか「そのうち楽天がやるだろ」とか言って。だからプランの9割はダメだってことが分かる。でも、うまくいくのは分からない。ましてや「艦これ」なんて謎過ぎて。女の子が…、戦艦?
小笠原: なんで疑問形なんですか(笑)。
亀山: 「この娘、大和(ヤマト)なんです」とか言われても「何それ?」って。あと、それを真似たような女子向けの「刀剣乱舞」っていうのもあるんだけど。
小笠原: ドジョウが2匹いましたよね。
亀山: うまい具合に2匹目がいたね。刀が美男子なのよ。コレまたよく分かんないけど。
伊藤: それでも「行けー!!」って言うとき、会長としてはどんなことを考えるんですか?
亀山: あっちにもこっちにも「行け」って軽く言っておいて、それで当たったら褒めて、「他はやり直し」みたいな感じかな。そんなに気合いは入ってない。「行けー!!」じゃなくて「行け…?」みたいな(会場笑)。それで少しやれば雰囲気が出るじゃない。未知過ぎると分かんないけど。
伊藤: 少しやってみると、「あ、こういう感じかな」というのが見えてくる、と。
小笠原: とりあえず1回は「行け」って言ってもらって本気で調べないと、たぶん本当の情報は出てこないですもんね。
亀山: そうそう。まあ、「艦これ」は最初からちょっとした予算が必要だった。5000万ぐらいだったかな? ただ、他のものについては調査費を出して「これぐらい使って調査してみろ」って。
伊藤: ただ、調査しても分かんないものはありますよね。
亀山: ほとんど分からない。実際、それで「何を調べた?」って聞くと、「市場規模何兆円のうちの何%が」とか、コンサルみたいなこと言い出すわけよ。そんなの役に立たないから(会場笑)。市場規模とかシェアみたいなよく分からない数字を出されてもね。だから「やっぱり試しにいくらかやってみるしかないよね」となる。それで英会話もとりあえずスタートさせて会員を集めてみたら、たとえば「いくら広告費使うと何人入ってくるか」なんていう見当もつくじゃない? あるいはTwitterの書き込みから「結構満足度が高そうだな」って。そういうのを見て「これならいけるかな」と思った。
ジャンルには興味がない、ビジネスをつくって結果を出すのが面白い
伊藤: 動画配信、太陽光発電、「艦これ」、英会話etc、とにかくノージャンルですよね。
亀山: そう、ノージャンル。もともとITの人でもないし。露天商からはじめて麻雀荘や飲食店もやってたわけで。バーのマスターだったからシェーカーも振れるよ。オムレツもつくれる。
伊藤: 踊ったりもしてたっていう。
亀山: パンツ一枚で踊ったときもあったなぁ(笑)。
小笠原: いまだに技術の話になると遠いとこ見てはりますよね(会場笑)。
亀山: 未だに分かんない。なんで動くのかとか。
伊藤: ジャンルは何でもいいんですか?
亀山: その辺は興味ないかな。ビジネスモデルをつくって結果を出したりするのが面白い。
小笠原: アダルトにもまったく興味や頓着がないんですよね。
亀山: 特に思い入れはないね。
小笠原: しかも、「自分の好みでつくったら売れないから自分の感性を信じない」って。
亀山: そう。そもそも企画を出してもボツになるからね(笑)。
伊藤: ただ、「DMM.com」を見ていて感じるんですけども、プラットフォームをぜんぶ揃えるようなところはすごいと思います。
亀山: それもAmazonのパクリよ(会場笑)。Amazonはぜんぶワンクリックで済むから、「あ、これ便利」って思って。本を売ってたと思ったらDVDも家電も売ってたりするじゃない。それがすべてワンクリックでいけるし、「やっぱり課金は1本に絞ったほうがいいな」と思って。
伊藤: サポートセンターが必ず石川県加賀市だったりしていて、とにかくプラットフォームがきちんと揃ってると感じます。
亀山: もともと加賀市でスタートしたしね。エンジニアもデザイナーもみんなあっちにいたんだけど、営業だけ東京に来たのよ。今もゲームの何本かは石川でつくってる。東京じゃなくても出来ることは意外と山ほどある。サポートにしてもシステムにしても。まあ、最近は東京に置くことがどうしても増えてきたけど。
伊藤: ちなみに小笠原さんとの出会いというのは。
小笠原: 「美人時計」をつくった早剛史さんという方にご紹介いただいて。あと、もともとDMMさんはさくらインターネットのお客さんでもあって、DMMさんのお話は聞いてたりしていたんです。ただ、ぶっちゃけ最初は怖いイメージがあったからずっと避けていて(会場笑)。
亀山: やっぱり避けてたんだ(笑)。
小笠原:最初は「ちょっと怖いなー」って。でも、実際にお話をしてみると商売の話しかなさらないから、「へー」って思いました。で、最初は「亀チョクでやるような話でもないよね」っていうことで、その後「awabar」に来てくださるようになったんです。それで「どんなことしてるの?」なんて聞かれてお話をしているうち、DMM.makeの話になったっていう流れですね。
伊藤: DMM.makeの話を最初に聞いたときはどんな印象を持ちましたか?
亀山: 最初は『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』や3Dプリンタの話をしてたんだよね。で、そのうち、「モノをつくれるならそれで人を集める場所があったらいいんじゃない?」なんていう風に、2人で少しずつビジョンを組み上げていったの。「こういう施設がいるよね」とか、「つくったモノはちゃんと売れるようにしなきゃいけないよね」とか。あるいは、1つつくるのと量産するのはまったく違うっていうことなんで「そういう設備もいるよね」とか、「特許を取るチームもいるよね」とか。技術者はそういうところが苦手だっていうから。
小笠原: それで、「たとえばアダルトの世界で言うところのレーベルみたいな、小さなメーカーが生まれてくるような感じなんです」なんてお話をしたりしてました。
伊藤: もともと一棟すべてコワーキングスペースだったNOMAD NEW'S BASEで、あるとき1階が突然3Dプリンタの工場になっていましたね。あれがDMM.makeの原型だったんですよね。
小笠原: そう。2012年8月頃にこの話をしたあと、9月頃には企画書にしてました。それで、当時は「DMMがものづくりの場を突然つくったって誰も信用してくれないから、まずは3Dプリンタで、かつウェブのサービスでやりましょう」って。
亀山: それで様子を見ようっていう感じだったね。
小笠原: そこから1年ほどかけてDMM.make AKIBAをつくったっという流れです。
伊藤: 儲かりそうな匂いはあったんですか?
亀山: あんまりなかった。でも未来に可能性は感じたし、うちらみたいなベンチャーは目新しいことをしないと注目されないからね。その頃は3Dプリンタ自体もまだあまり出回ってなかったし、「じゃあ、これを打ち出そう」って。それでビートたけしさんに宣伝してもらっていい感じになったから、ハッタリで「うちは3Dのプロだ」って。実際は覚えたてなんだけど(笑)、「量が増えていけばそのうちプロになるだろ」と思ってさ。
伊藤:DMM.makeAKIBAって、すごいお金かかってますよね。
亀山:1年目で10億かかって、その後も赤字。予定よりぜんぜんかかってるよね。
小笠原:お腹痛くなってきた。そろそろ帰っていいですか?(会場笑)
※本セッションの内容は、「【音声版】DMM亀山会長 大放談!ビジネスほど楽しいことはない」と、「GLOBIS知見録アプリ(http://yapp.li/go/globis)」の「アプリ限定」コーナーより、音声で聴くことができます
第2回は「【DMM亀山会長の大放談】DMM.make AKIBAはスコップ屋」
第3回は「【DMM亀山会長の大放談】ジャブを打って行けそうならアクセルを踏む」
執筆:山本 兼司