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IR(インベスター・リレーションズ)とは: 資金提供側のDMUを狙え

投稿日:2016/08/20更新日:2021/11/24

『グロービスMBAファイナンス』から「インベスター・リレーションズ(IR)」を紹介します。

企業にとって市場からの資金調達は、視点を変えれば、自社の株式や社債を売る活動とも言える。とすれば、その買い手である投資家や、投資家の購買に大きな影響を与えるアナリストなどに、自社の株式や債券が魅力的であり、保有するに値すると認めてもらわなければならない。つまり、通常の製品・サービスのマーケティング同様に、買い手となるターゲットとそのDMU(Decision Making Unit:購買意思決定者)を見きわめ、彼らに適切なコミュニケーション活動を行うことが必要になってくるのである。特に昨今は、外国の機関投資家の存在が大きくなると同時に、市場からの直接金融の比重が増している。そうした中、株式や社債のマーケティング活動であるIRもより効率的、効果的になる必要があるし、自ずとグローバル化も求められているのである。

(このシリーズは、グロービス経営大学院で教科書や副読本として使われている書籍から、ダイヤモンド社のご厚意により、厳選した項目を抜粋・転載するワンポイント学びコーナーです)

インベスター・リレーションズ(IR)

IRにはいくつかの定義があるが、ここではIR発祥の地であるアメリカの全米IR協会(NIRI)のマニュアルからIRの定義を紹介しよう(2003年に現行のものに変更)。

「IRとは、財務、コミュニケーション、マーケティング、そして証券法に関するコンプライアンス機能を統合し、企業と、金融市場や関係者との最も効率的な双方向コミュニケーションを可能にする、戦略的な経営の責務であり、企業の有価証券の公正な評価に寄与するものである」

ここで注目されるのは、IRが「企業の有価証券の公正な評価に寄与する」と定義している点である。また財務、コミュニケーション、マーケティング、コンプライアンスを統合した活動であるとしている点も注目される。つまり、IR活動は単なる財務関連の活動ではなく、マーケティング活動でもあるのだ。

IRが一種のマーケティング活動であるとすれば、明確に訴求対象を意識し、その対象にメッセージを発信して、株式や債券の購買を促進しなくてはならない。IRのターゲットとなるのは、大口の投資家と、リポートの発表などを通じて個人や機関投資家の投資判断に影響力を持つ企業であり、さらに具体的には、これらの機関で企業分析をしている証券アナリストや格付けアナリストなどが主な対象となる。

近年この中で重要性を増しているのが、海外の機関投資家と言われる集団である。具体的には、カリフォルニア州公務員退職年金(CalPERS)に代表される、年金基金(ペンションファンド)や投資顧問、そして投資家からの資金を集めて運用する投資信託会社やファンドなどである。日本企業の株主の多くの部分は、今や彼らが占めている。このような状況から、国内のみならず、海外の投資家に対しても十分な情報を提供していくことが、IR活動において重要になってきている。

IRの手法

IRの主な方法としては、以下のようなものがある。いずれも、証券アナリストや機関投資家、格付け会社の担当者などと直接対話し、企業に関する情報を伝えるものである。

1)    決算説明会
半年、あるいは年に1回、決算の内容に関して詳しく説明する。企業によっては、社長が主催して説明を行うところもあるが、経理や財務、または広報担当の役員が主催するケ-スもある。ここで重要なのは、単に決算の結果を説明・報告するだけではなく、なぜそのような決算になったのか、今後どのような方向を目指すのか、といった会社の戦略の説明をすることである。

2)    スモールミーティング
出席人数を絞り込み、トピックスも限定したスモールミーティングを開く企業も増えている。トピックスとしては、「大規模な組織変更」、「事業部ごとのビジネス」、「新規事業」、「大きな提携や買収」など、さまざまなものが考えられる。その際、当該トピックスを熟知している現場の責任者(本部長、部長クラス)が説明し、質疑にも答えることが望ましい。

3)    見学会
製造業であれば、工場見学や新製品発表会、技術説明会などの形で、さまざまな見学会を開催する。アナリストや機関投資家は数字や文字で情報を得ることが多く、実際の製品や商品、製造プロセスなどを見る機会は少ない。実物を見てもらうことにより、技術的な優位などについてより具体的に理解してもらうことができる。

4)    外国投資家訪問
ヨーロッパ、アメリカなどの機関投資家を経営トップ層が訪問し、企業の状況を説明すること。「ロードショー」とも呼ばれる。海外では手に入れにくい情報、海外の投資家には理解しにくい事情を説明する。

5)    個別訪問
証券アナリストは、業界および個別企業の業績予想を頻繁に更新しなくてはならない。したがって、最新の情報を得るために、かなり頻繁に担当企業を訪問してくる。IR担当者はこのようなニーズに応え、証券アナリストに正確かつタイムリーな情報を提供しなければならない。

これらの対応で共通して心に留めておくべきことは、一部のアナリストだけを特別扱いしない、ということである。公開する情報はすべての投資家に公開し、公開しないと決めた情報はどの投資家にも公開しない。すべての投資家に公平でなければ、市場からの信頼も得られないし、インサイダー取引につながるおそれもあるからだ。

なお、直接対面して情報を提供する前に企業の状況の概要を理解してもらうための資料を用意することも必要だ。概況を説明する資料としては、以下のものがある。近年、多くの上場企業は、これらをWEB上で公開している。

●制度開示関連資料(株式公開企業として、開示しなければならないもの。決算短信。公表財務諸表、有価証券報告書など)
●決算説明会用資料
●アニュアルリポート、セミアニュアルリポート
●インベスターガイド(財務面のデータを集めたデータブック)
●会社案内(映像なども含む)
●プレスリリース

(本項担当執筆者: グロービス・エグゼクティブ・スクール講師 山本和隆)

次回は、『グロービスMBAファイナンス』から「オプションの機能と具体例」を紹介します。
 

『[新版]グロービスMBAファイナンス』 
グロービス経営大学院 編著
ダイヤモンド社
2,800円(税込3,024円)
 

  • 嶋田 毅

    グロービス経営大学院 教員/グロービス 出版局長

    東京大学理学部卒、同大学院理学系研究科修士課程修了。戦略系コンサルティングファーム、外資系メーカーを経てグロービスに入社。累計150万部を超えるベストセラー「グロービスMBAシリーズ」の著者、プロデューサーも務める。著書に『グロービスMBAビジネス・ライティング』『グロービスMBAキーワード 図解 基本ビジネス思考法45』『グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50』『ビジネス仮説力の磨き方』(以上ダイヤモンド社)、『MBA 100の基本』(東洋経済新報社)、『[実況]ロジカルシンキング教室』『[実況』アカウンティング教室』『競争優位としての経営理念』(以上PHP研究所)、『ロジカルシンキングの落とし穴』『バイアス』『KSFとは』(以上グロービス電子出版)、共著書に『グロービスMBAマネジメント・ブック』『グロービスMBAマネジメント・ブックⅡ』『MBA定量分析と意思決定』『グロービスMBAビジネスプラン』『ストーリーで学ぶマーケティング戦略の基本』(以上ダイヤモンド社)など。その他にも多数の単著、共著書、共訳書がある。
    グロービス経営大学院や企業研修において経営戦略、マーケティング、事業革新、管理会計、自社課題(アクションラーニング)などの講師を務める。グロービスのナレッジライブラリ「GLOBIS知見録」に定期的にコラムを連載するとともに、さまざまなテーマで講演なども行っている。

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