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グローバル企業として成長するために必要な組織風土とは?

投稿日:2016/04/29更新日:2021/10/22

本記事は、2016年2月18日に行われた人材育成担当者様向けセミナー「味の素 水澤氏が語る イノベーションを創出し続ける組織作りの要諦」の内容を書き起こしたものです(全4回、4回目)

井上陽介氏(以下、敬称略): ライン活動の1つとして「生活者現場訪問」というものもあった。「これは具体的にどういった活動なのでしょうか」という質問もいただいている。

水澤一氏(以下、敬称略): これは、高齢者の健康や栄養に関する研究をしていたグループがはじめた。これが仕事なのかマイノベ活動なのかという判断は難しいけれども、いずれにせよ「マイノベも仕事なんだ」という前提に立ち、直接的な研究テーマから少し範囲を広げて活動してみようということで進めている。だから、「仕事かマイノベかという判断はどのようにしているんですか?」といったご質問もあったけれど、そこに答えはない…、というと語弊があるけれども、その辺は彼ら自身の判断でやってくれている。グループ長さんが「これはマイノベでやろう」「これは業務だね」と。私のほうから「それは業務だろう」といったことは言わない。その辺は緩いというかフレキシブルというか。そこで「労働契約は?」「労働時間は?」「残業扱い?」といったことを言い出すとややこしくなるけれども、基本的には時間内でやっている。

井上: あるカンファレンスで、グーグル日本法人の役員の方も同様のことをおっしゃっていた。グーグルには「自分の時間の20%を新しいことに向ける」という有名な「20%ルール」がある。「それは実際にどう運用をしているんですか?」と聞いてみると、水澤さんのお話と似ていた。「20%なんてかっちり決められません」と。現実はもっとルーズというか、1人1人の思いを聞いたうえで、ラインが期待する水準や「どういうことをするか」という内容をバランスさせるのだという。「それは個々人で変わりますよ」というお話だった。実際、そうなんだろうなと思う。ちなみに、生活者現場訪問のような活動は、味の素さんの研究所にいらっしゃる方からすると、それまではあまり行われていない活動だったのだろうか。

水澤: それほど行われてはいなかった。たとえば営業メンバーと研究所メンバーが一緒に何かするということはあったが、営業と意見交換するだけでは仕方がないから、「まずは世の中の動きを自分たちで実感できる活動をはじめよう」と。それで現在のような活動をはじめるようになっている。

井上: 他部門だけでなく、その先のエンドユーザーさんの動向もきちんと捉えていくための活動を、食品研としてプッシュしていたということだと思う。で、その辺に関連するお話だと思うけれども、BtoBで技術系社員が多い会社にいらっしゃる方から、「研究に関わる人がなかなかお客さんのところへ行こうとしない。こういった課題はどのように突破していけば良いでしょうか」という質問もいただいている。

水澤: 当然ながら弊社にもBtoB部門はあるけれど、「味の素ってどんな会社ですか?」と聞かれたらBtoCの会社と思われる方が多いと思う。で、BtoCを手掛ける人たちは、どちらかというと内向きでものづくりをするケースが多かった。だからこそBtoB向けの組織をつくり、今日お話ししたようなこともやっていった。ただ、その辺はBtoBをメインにやっていらっしゃる会社さんならそもそもそういう構造になっている思うので、「それでもダメなんですか?」と思うけれども。

グローバル化のために必要なこととは?

井上: さて、ここまでマイノベ活動の中身や取り組み、あるいは工夫についていろいろとお話しいただいたが、全体への波及についても伺ってみたい。まずグローバル化という軸について。味の素さんと言えば食品の世界では最も早く海外展開をスタートさせた会社だし、グローバル化が非常に進んだ会社であると、外から見ていると感じる。マイノベ活動は、そうしたグローバル化、あるいはグローバル化に伴うイノベーションに、どのように貢献していったとお考えだろうか。

水澤: 以前は海外に出せる若手も機会も少なかった。だから、マイノベ活動で直接的な結果につながったか否かは別として、海外で活躍できるような人材を懸命に育てていったわけだ。それで結果的には食品研から30人ほど海外に出た。すごく増えたし、今はそうした人材がグローバルに開発をリードしていることは間違いない。

井上: 海外のローカルスタッフを巻き込んでいくという観点で、今、何か取り組んでいらっしゃることはあるだろうか。

水澤: 現地スタッフの育成にも取り組んでいる。日本から派遣した人々がそうした育成を担当するケースもあるし、現地でも研修は各々おやりになっているので。また、年に何回か、社内セミナーのようなことも行う。

井上: そのセミナーというのは海外の方をお呼びして?

水澤: それで新しい技術や商品に関して勉強してもらったりしている。

井上: ダイバーシティというキーワードについてはどのようにお考えだろう。グローバルに広がれば広がるほど多様性を受けれる組織体に変わっていかなければいけないし、国内では女性活躍ということが昨今よく言われている。この点、たとえば食品研さんで設立当初と比べて何か変わってきた感覚はあるだろうか。

水澤: 日本で言われているような、安倍さんもおっしゃっているようなダイバーシティには、実はあまり賛成じゃない。女性が偉くなればダイバーシティかというと、そんなことはないので(笑)。実際、僕の後任となる常務執行役員は女性だ(野坂千秋氏:同社食品研究所長[常務執行役員])。R&D長の執行役を女性が務めているのは世の中でも我々ぐらい。だからダイバーシティは進んでいるけれど、彼女が常務執行役員になったからダイバーシティだとは思わないし、それは1つの結果に過ぎない。ダイバーシティとはそういうことを受け入れる風土やカルチャーや環境であって、大事なのはそれを整えることだ。でも、今は「女性の基幹職を増やす」とか、数にばかりこだわっているように見える。それはそれでKPIだから仕方がないとしても、まずは周囲の支援等、それがうまくいく環境をつくるのが先だ。形や数だけ整えても絶対にうまくいかないと思う。だから、そういう人々が活躍できる環境づくりを懸命にやってきた。

で、常務執行役員となった彼女はというと、それで「日経ウーマン」に載ったりして最近はよく露出しているけれど、彼女自身は「そんなことをするために会社に入ったんじゃない」と言っていた。だから、「ファーストペンギンだし、それがあなたの使命だと思ってやりなさい」と僕は言っていた。まあ、彼女はとても男前…、と言うと語弊があるけれど、とにかく割り切りの早い人で本当に優秀。いずれにせよ、なんだかんだ言いつつ日本企業は男社会だから、そのなかで女性が活躍できるようにするにはどうしたらいいかということはいろいろ考えていたつもりだ。

井上: 改めて全社的な観点で伺ってみたい。今日は「バリューチェーンのなかで連携を広げる」というお話もあった。全社的にはどのように変革を進めているのだろう。あるいはマイノベ活動の全社的波及効果について、どうお考えだろうか。

水澤: マイノベ活動とは別に、食品事業本部でも人材革新や組織のイノベーションを進めようということでいろいろ活動はしている。もちろん食品研と営業部門と事業部門のイノベーションはそれぞれ違うから、それぞれ革新活動を進めつつ、今はそれが一体になっているというのが全体像になる。あと、「活動は他の研究所に広がっていますか?」というご質問もあった。これが面白い。我々としては「広げなきゃいけない」ということで、交流会のような場に他の研究所の方々を呼んでいろいろお伝えしている。ただ、やっぱり皆、人がやっていることはやりたがらない(笑)。だから我々の活動をそのままやっている研究所はない。それは仕方ないと思う。

井上: 少しずつ波及しているにせよ、全社的にマイノベ活動が普及しているかというと、まだちょっとハードルがある、と。

水澤: それに近い活動をやらなければいけないと思っている人はいる。でも、なかなかうまくいっていない感じだ。

井上: 私としては、以前から水澤さんとも何度かお話をさせていただいたりしていたなかで、感じていたことがある。広い意味で言うと、実は冒頭で申しあげたようなビジネスモデルの変革が、マイノベ活動でもあるのかなという仮説を持っていた。実際のところ、「味の素と言えばアミノ酸」という状況で、メインストリームではなかった食品事業が今や全社の利益を支えているわけだ。その意味ではビジネスモデル自体が広がって、変化してきたという解釈もできるのかな、と。そうしたビジネス全体の構造変革について、水澤さんなりにご説明いただくと、どのようになるのだろう。

水澤: これは社外の方に説明するのがとても難しい。「味の素ってどういう会社ですか?」と聞かれたら、どんな答えになるのか。もちろんアミノ酸の会社だけれども、1番大きいのはグルタミン酸ナトリウムを売る事業だ。ただ、グルタミン酸ナトリウムは、ある意味で食添だからそれを売ることは食品事業。だから味の素は食品会社ですというのが一般的な答えになる。ただ、事業ドメインと技術系ドメインが一緒になっていなかったというのは事実だ。で、過去はグルタミン酸ナトリウムで利益をあげていたけれども、今はグローバル食品のほうに利益の中心が移ってきた。これ、ビジネスモデルが変わったというよりは、「そもそも、そうだったんじゃないか?」と。原点回帰というか、本来あるべき姿に戻っているという風に言ってもいいのではないかと思う。

井上: マイノベ活動にそういったことを引き出す役割があったかもしれない。

水澤: そう。「そもそも、うちは食品会社でしょ? そうなっていないのは悔しくないの?」と。マイノベ活動は、あえて言えば、「皆で頑張って、もう1度、食品会社としてやっていこうよ」という活動でもある。

井上: そこに水澤さんの志もあった、と。

水澤: もちろん。

井上: ちなみに、この活動を御社の伊藤会長はどう見ていらしたのだろう。

水澤: 伊藤さんが社長になってすごく良かったと思うのは、彼がはっきりと「味の素は食品の会社だ」と言って、その方向にシフトしてくれたこと。そうした経営のなかで動くことができたのはすごく良かった。大きなバックアップというか支援が、現在の活動につながったと思っている。

井上: 経営者の方々と…、もちろん水澤さんも経営者のおひとりだけれども、経営者の方々と一枚岩になってマイノベ活動を波及・増幅させてきたのだと思う。

水澤: そんな話をしたと言うと、会社のなかで叱られるかもしれないけれども(笑)。配信されたら社内の人が観ないようにしてもらうということで(会場笑)。

成熟市場で戦うために必要な風土とは?

井上: さて、残り15分となった。ここまでで質問票の80%ぐらいはカバーできたと思うが、「これについてさらに聞きたい」というご要望もあると思う。掘り下げ聞いてみたいことがあれば、ぜひ、挙手のうえ、改めて質問していただきたい。

会場: この活動をスタートさせたきっかけについてさらにお聞きしたい。「実績に結びつかない開発テーマが増えた」「人材育成の計画が十分に活性化していない」といった課題は弊社にもある。なぜそうした状況に陥って、そして、その状況改善に向けてマイノベ活動でどのような点にとりわけ工夫されたのだろうか。

水澤: 「なぜ陥ったか」というのは難しい質問だけれども、とにかく当時は「国内市場は成熟しているので大きな成長はない」と言われていた。国内向けに何をしても大したことはできないだろうという風潮があったわけだ。それで、既存のものを改良するリニューアルのような開発テーマが多かった。それで新しいものにもなかなか着手せず、コストダウンやセールスの革新といったことばかりやっていた。でも、それでは次の価値につながらない。だから苦しい状況に陥っていたのだと思う。もちろんグローバルに広がっていくことは分かっていたけれども、どういうことを起点にしてそこまで持っていくかが定まっていなかった。ものづくりを現地でやってもらうにあたっても、味の素として何を打ち出していくかがはっきりしていなかった。

そこで…、これはマイノベ活動とは直接つながらないけれども、1番のポイントとして「もう1度基本に戻ろうよ」と。格好良く言えば「社会にどのような貢献ができるのかという視点に戻って研究しよう」という話になった。その結果、たとえば「おいしさの本質の研究」といったことを進めていった。5~6年を経てそれらの研究が実を結び、現在のアウトプットにつながっている。そうした活動の1つがマイノベという人材活動でもあったのだと思う。

井上: 価値を創造していくという軸で中期視点の戦略テーマを明示化していったということだと思う。そのあたりも含めて、具体的な戦略は内部でいろいろと議論したうえでピックアップしたということだろうか。

水澤: もちろん、いろいろな要素から現在のものに絞っている。

井上: グローバルに広がっていった戦略テーマとして「キッチンバリューチェーン®」がある。

水澤: お客様が店頭で商品を買って、台所で調理をして、実際に食していくという流れのなかで商品を評価する体系を「キッチンバリューチェーン®」としている。今はこうした実態評価の体系を海外でも広げている状況になる。

井上: 先ほど控室で伺ってすごく面白かったのだけれども、やっぱり食にはグローバルな面がある一方、地域の風土や文化に根差した面がある。つまり購買から料理へ至るまでの流れが国や地域によって大きく異なるわけだ。だから現地ではその国・地域における「キッチンバリューチェーン®」を準備したうえで、各エリアで評価を次につなげていらっしゃるという。

会場: 私の会社では、社員はすごくやる気があるし、勉強会をやると言えば人も集まる。ただ、仕事で「こういうことをやってよ」と言われたとき、「どうやって動いたらいいのか分からない」という状態になってしまう社員が多い。そうしたとき、上司またはトップの方として、どのように動き方を学ばせていくべきだとお考えだろうか。

水澤: 誰がそれを教えていくのかがポイントだと思う。その点でも、マイノベ活動のポイントは縦横のマトリックスになる。グループ長さんが教えるのは当り前として、マイノベ活動では横串のマイノベリーダーが若い人たちをリードしたりしてくれるからだ。そういった仕掛けが大事だし、その意味ではメンターのような仕組みもアリだと思う。一朝一夕にはできないので時間をかけるしかないけれども。

井上: 実は味の素さんとグロービスのご縁は結構古く、食品研だけでなく人事のほうでもいろいろな取り組みをさせていただいている。それで、人事サイドでも各種リーダーシップ開発のプログラムや、物事を前に進めるための課題解決プログラムを走らせていたりする。このあたり、多くの企業様で通底するケースは多いので、ご要望があればぜひグロービスのスタッフにお声掛けいただきたい(笑)。

会場: マイノベ活動をはじめるにあたって、水澤さん自身が参考にした他社の事例等がもしあれば、教えていただきたい。

水澤: あまりない。こうした活動は多くの会社で行われていると思うけれども、マイノベはどちらかというと手づくりの活動だった。それで思考錯誤を繰り返しながら、「こんなのがいいんじゃないか?」ということでやってきた。実際、同じような活動は多いと思うし、BSCのような基本部分は共通している。ただ、マイノベリーダーやコアメンバーといった要素は、基本的には新たに考えたものになる。

井上: 先日、東京で「挑戦し続ける人・組織を創る育成アプローチとは」といったテーマのカンファレンスを開催した。そこで、サントリー食品インターナショナルさん、島津製作所さん、そしてブラザー工業さんの担当様にご登壇いただき、それぞれお話をしていただいている。そこでいくつか共通項があると思ったのだけれども、やはり、こうしたテーマで成果を挙げている企業様は社内で理念や方向感をしっかり共有している。また、これはマイノベ活動とも通じることで、社員の思いというか、個人が「この会社で成し遂げたい」と思っていることを呼び起こしている。で、それを会社のチャレンジとつなぎ合わせるような場づくりに、意識的に取り組んでいらっしゃると感じた。従って、会社の理念と個々人の志や願望をつなげるような取り組みが、実は普遍的で、かつ重要なのかなと思ったりしている。水澤さんも、マイノベのなかで実はそうしたつながりをうまくつくっていらっしゃると感じていた。

最後にもう1つ、質問をさせていただきたいことがある。先ほど、水澤さんは最後に自身のご講演で味方づくりに関するお話をなさったとのことだった。これは質問票でもいただいているが、「敵」にはどのような対応をなさって、「味方」はどのように増やしていったのだろう。

水澤: 敵と戦うには味方を増やすしかない。戦争と同じだ。どうやって味方を増やすか、懸命に考えていた。これはどこでも同じかもしれないが、事務屋さんと技術屋さんというのは、どうしても背反するような関係になる。でも、僕たちは事務屋さんと一緒に仕事をしなければどうしようもないから、むしろ事務屋さんを味方につけて戦っていた。伊藤会長なんて最大の味方だったわけだ。

井上: では最後に、会場へいらしている人事の方々や研究開発部門の方々に向けたメッセージをお願いしたい。

水澤: 長い時間お付き合いいただいてありがとうございます。今日のお話が何か少しでもご参考になればと思う。いずれにしても、今日最もお伝えしたかったのは志の高い人を育てていくという点になる。そこで「何をもって社会や企業に貢献するか」を明確にしたとき、初めて人材は育つのだと思っている。ぜひ、皆様には若い人たちをリードしてあげて欲しい。それと、人を育てるうえで大きな要諦となるのは、その人たちに興味を持つことだと僕は思う。だから、僕は食品研220人全員の顔と名前を覚えていたし、その人たちの出身校やキャリアや趣味までほぼ頭に入っている。これは特殊能力だと言われているけれども(笑)。ある程度はそういうこともやらないと人間関係は生まれないと感じている。

井上: 改めまして水澤さんに大きな拍手をいただきたい。本日はどうもありがとうございました(会場拍手)。
 

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