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IoTとビッグデータ、実際ビジネスでどう使われている? IOTとビッグデータが変革する企業経営[1]

投稿日:2016/03/16更新日:2021/10/26

IOTとビッグデータが変革する企業経営[1]

川邊健太郎氏(以下、敬称略):IoTというのは「Internet of Things」。そしてビッグデータというのは、インターネットが地球を覆うに従って人の行動がデジタルですべて読み取れるような社会になり、そこでさまざまな付加価値を生み出せるようになった世界のことを言うのだと思う。ただ、その概念は大変広いので、まずはパネリストの皆さまがIoTとビッグデータについてどう捉えているのかを伺ってみたい。そのうえで、具体的なビジネスでどのように使おうとしているのかをお聞きしたいと思う。

新野昭夫氏(以下、敬称略):私はGEの製造部門にいるから、IoTやビッグデータというとGE製品の産業用機械をどうしても意識してしまう。そこで考えてみると、今までの産業用機械は製造して収めたら一応それで終わりだった。そこから先はお客さまが運転やメンテを行うので、我々はそのサポートを行ってきた、と。でも、今後は設計/開発/製造データだけでなく、お客様が貯めてきた、いわゆるビッグデータと言われる運転およびメンテナンスデータをうまく活用すれば、お客様のプロダクティビティをさらに高めることができると考えている。従って、GEとしてはハードウェアを売るだけでなく、ビッグデータを活用してソフトウェアやアナリティクスと融合させ、お客様のプロダクティビティ向上に寄与したい。そうした世界を構築しようというのが、我々が捉えるIoTとビッグデータなのかなと思う。

川邊:これからGEが世に送り出す製品も相当変化する、と。

新野:その通り。たとえば現在ご成約いただいている発電用のガスタービンも、2016年からはソフトウェアとセットでご提供することになる。

川邊:熊谷市長はIoTやビッグデータについてどうお考えだろう。

熊谷俊人氏(以下、敬称略):テーマを最初に伺ったとき、企業経営者でなく行政の人間である私がなぜ呼ばれたのかなと思った。ただ、ビッグデータに関してはG1サミットの「G1首長ネットワーク」という知事や市長が入っているグループで、「ビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会」というものを立ち上げている。そこでいろいろ取り組んできたのでご指名があったのだと思う。実際、行政はめちゃくちゃ大きなデータを持っているし、「行政のビッグデータを活用すれば~」というお話はよく聞く。ただ、民間の方々は行政が実際にどんなデータを持っているのか意外とご存知なく、今は「こんなの持っているんじゃないか?」と推測している状態だ。行政のデータには制約もあるし、「本当はこっちのデータのほうが面白いのに」ということもあるので、千葉市ではそうしたビッグデータを民間の人たちに分析してもらっている。

これ、さらっと言ったけれどもすごく難しい。基本的には民間に行政のデータを扱わせることがNGなので。そこで、私たちは民間の方々に任期付きの臨時公務員となってもらった。結構荒っぽいけれども、そういうことをしたうえで東京大学や千葉大学といったいろいろなところからデータサイエンティストの方々に入ってもらっている。それで分析をして、何が面白いのか、もしくは「こんな風にデータを取得すればこういうこともできるのでは?」といったリサーチに、ここ3年前後は取り組んでいる。

川邊:それは市民参加の一環という文脈だろうか。それとも「そこで出てきた知見を行政にフィードバックしたい」というところまで考えているのだろうか。

熊谷:2つある。ひとつは行政の改善に使うという戦略上の目的。それと、ビッグデータに加えてオープンデータの形にして市民や千葉市で活動している団体を応援したい。その両面でビッグデータとオープンデータの取り組みをしている。

一方、IoTに関しても取り組みはじめていることがある。我々の公用車に速度や揺れを計測できるアプリを載せて、たとえば道路の揺れだとか、そうしたデータを集計する。それで道路のでこぼこ具合というか、修繕の必要性を判断するデータを集めることができるかな、と。また、それが我々の修繕ロジックに合うか否かという実証実験をしていた。これは今年3月に終わったけれども一長一短で、すぐに我々のシステムへ取り込むのは難しい。ただ、もう少し煮詰めたり、公用車に加えて市民の皆さんにも協力いただければできなくはないかなという段階だ。

川邊:車輪に付けたセンサーなどを通じて集めたビッグデータが、道路の改善に使われるような世の中になるかもしれない、と。

熊谷:将来的にはできると思う。これが我々の活動では最もIoTっぽい(笑)。

川邊:続いて川鍋さん。タクシーでIoTやビッグデータというと、最初は「どういう話なんだろう」と思うけれども。

川鍋一朗氏(以下、敬称略):タクシーが日本ではじまって今年で103年目だけれども、これまでやってきたことのすべてが今はIoTやビッグデータになってきちゃって、「すごくまずいな」と。押し寄せてこられ過ぎて怖いというのが第一印象になる。

川邊:そうなんですか。「押し寄せられてる感」が。

川鍋:もうね、「押しまくられてる感」。今までは、たとえばベテラン運転手が眠い目を擦りながら新人にいろいろ教えていた。「ここはこっちに進んだらお客さんがいるんだよ」なんて。これ、ある意味で運転手の頭にある顧客獲得のビッグデータ分析だ。それを伝統的に教えていたんだけれども、今は「それ、アプリでできるんじゃないの?」と。それで実際に顧客が乗車したデータから、「このあたり」という風にヒートスポットのようなものを示す業務用アプリをつくって新人運転手に持たせた。これは怠け者に持たせてもダメ。真面目でたくさん運転するけれども、どうも勘が悪い人っているじゃないですか。そういう人はなんのサポートも得られないと辞めちゃったりする。

そういう人にサポートアプリを渡すと一生懸命使う。「あ、ここは右に曲がったほうがお客様は多いんだ」と。それで売上が本当に10%ほど上がった。これはIoTじゃないですか。そんな風に、リアルなタクシーのオペレーションが次々IoTになっている。それに付いていかないとまずいということで、実は私、10月1日に社長を辞めて会長になった。アプリ会社に特化するためだ。JapanTaxiという会社の社長として今後はタクシーのIoT化を進める。「進める」というと格好良いけれども、むしろ…、あまり言いたくないけれども某Uberとか(会場笑)、そういうところがどんどん攻めてきて、このままだとひき殺されちゃいそうなので。タクシー会社として対抗するため、「タクシーにできることはすべてやるぞ」ということで今はがりがりやっている。

それで昨日もエンジニアの面接でいろいろと話をしていた。「うちにこんなデータがあってさ、それで配車アプリで呼ぶとこうなっちゃうんだ」と。我々は配車アプリをつくったし、タクシー会社だから配車のネットワークもある。それで、「よし、勝った」なんて思っていたけれども、実際はどうだったか。まずアプリで呼びますよね? それで「あと5分」ということで一応は来る。タクシーがどの辺まで来ているかも分かる。でも、そのあいだに目の前をうちの空車がすうーっと通り過ぎる(笑)。先日も私の母親が急ぎで東京駅へ行くということで、「任してよ。こういう時代なんだよ」なんて言ってアプリで呼び出したら、その到着前に流しが来ちゃって、「これに乗らないと間に合わないから乗ってくわ」と(笑)。それで、「すいません、キャンセルしてください」なんて話になる。

そんな感じで一番近い車両を検出するアルゴリズムがすごく弱い。今は呼び出したお客様がいる場所から半径2km以内で、まずは近い順に10台の車両を選ぶ。ただ、タクシーはそれまでも走行していて進行方向があるわけだから、それも計算して、離れていく方向なら500メートルを足す。それで直線距離に換算して、近い順に10台を選ぶ、と。そのうえで、それらをいわゆるカーナビに搭載されているような経路検索にかけて、一番早く行ける道順で行くというシステムだ。

でも、「そもそも逆方向へ進む車両に500m足すのは正しいのか」といった疑問があるし、カーナビのアプリは細い道を通らないように案内する。生活道路を通ると迷惑だから。それで本当は近い車両も遠回りしたりして、先ほどのようなことが起きる。その辺を改善して本当に近い車両を選ぶ形にしないと。あと、「きっとここに来るから近い車両を先に寄せておこう」という需要予測も不可欠だ。まずはその2点、最適車両アルゴリズムだけでもやらないといけない。ただ、海外のタクシーアプリ会社はそのアルゴリズムだけでエンジニアが15人いたりする。うちはアプリ全体で5人。勝てるわけがない。今はそんな世界になる。

IoTで発電タービンの故障を予測することも可能に、一方でマネタイズは…?

川邊:さらに具体的なIoTとビッグデータの活用例を、お話しいただける範囲内で伺ってみたい。まずは新野さん。特にIoTを相当進めていると思うが。

新野:いろいろやっている。たとえば発電用タービン。リアルなタービンのふるまいをバーチャルで、かつクラウド上でモデリングする。これを我々は「デジタルツイン」と呼んでいるけれども、そこに設計やメンテナンスあるいは運転データを次々放り込んでいくと、「デジタルツイン」がリアルに近いふるまいをするようになる。そうしたモデルをつくれば、当然そちらはデジタルだから各種シミュレーションが行える。たとえば1年後の世界に行ってみたり。それで、「今こういう運用をしていたら1年後はこの部分が壊れる」といったことが分かってくる。だから、リアルなマシンではそうならないよう次の定期点検で該当箇所を取り替えるといったことができるようになってきた。お客さんにとってみればそれで不測の故障によるダウンタイムがなくなり、プロダクティビティが向上する。そうしたことを今は突き詰めている。

川邊:これはすごい。これまで大きなタービンや原発で、ある意味、今までは「そうなったら仕方がない」となっていたことが、それでかなり防げるように?

新野:いろいろなやり方がある。「デジタルツイン」をつくるにあたって当社は製造業の強みを発揮できる。過去の失敗や経験をどんどん入れていくことで、瓜二つの「デジタルツイン」ができるからだ。だから、そこはきちんとアナリティクスを回すという意味ですごくIoT的だし、そこから得られるものをお客さまにフィードバックする。

川邊:リアルなタービンに数多くのセンサーが付いていて、そこで取られたデータがインターネット経由でリアルタイムに「デジタルツイン」へフィードバックされると。

新野:そういう仕組みができつつあるし、それをクラウドに置く。今までもシミュレーションのソフトウェアはあったが、そのモデルはお客さまに納めてから成長しなかった。でも、クラウドに置いてお客様の運転データを定期的にご提供いただけたら、「デジタルツイン」側も常にリアルのタービンと同じようなふるまいをする。

川邊:他社タービンの運転データや事故例もインプットできるのだろうか。

新野:できると考えている。もちろん他社の詳細な設計データ等は得られないことが多いけれども、運転データやメンテ履歴をお客様に提供いただけたら、そこからデジタルツインをつくりはじめることができるので。ある程度は可能だと思う。

川邊:それでプラスアルファの料金が取れるものなのか、あるいは少しずつ当たり前になって、「メンテナンスでやってね」という流れになってしまうものなのか…。

新野:このビジネスでどんなマネタイズができるのか、GEも走りながら考えている。ただ、今までのソフトウェアビジネスはライセンスや開発費をいただいてご提供する形だった。それは変わりつつある。初期段階からお客様とじっくりとお話をして、「デジタルツインでこういうことができたらお客様のベネフィットはこれぐらいになります」と。そして、それに対して何%をいただくような形をメインにしていきたい。

川邊:なるほど、レベニューシェア。これはすごい。

川鍋:レベニューシェアがどれほどのお金になるか、実は私たちというか、顧客側に伝わりにくいと感じている。それでシェアが難しくなるケースはないだろうか。

新野:非常に難しいという意味では同感で、そこも含めて初期段階から「こういうコンセプトでやりましょう」という話をする。結果が出るかどうかはやってみないと互いに分からないので。ただ、結果が出たらそれでいいし、出なかった場合でも、どちらもロスにはならない。まったく効果がないなら最悪の場合は使うのを止めていただいて、「この案件に関しては成功しませんでした」という流れになるのもありだと思う。

川邊:GEは世界中でそうした実例を出しつつあるのだろうか。

新野:グローバルにはようやく成功事例が出はじめてきている。

川鍋:大きなタービンならそうなると思う。ただ、先ほど熊谷市長ともお話ししていたけれど、IoTで大きな費用対効果を出すのは難しい。それで今は「やっぱり社内に人材がいないと」という話になっている。社内にいないと細かく試行錯誤できないので。だから、そこでひとつずつ細かくレベニューシェアにされるとやりにくい感覚がある。たとえばタクシー運転手を助けるアプリでも、実際に売上は10%増。5万が5万5000円になった。だから、「じゃあレベニューシェアで3割ください」と言われるし、それ自体は普通だと思う。ただ、タクシーは歩合給で、売上から運転手の人件費で7割を持っていかれる。タクシー会社は3割なので、それがレベニューシェアで持っていかれたら何も残らない、みたいな(笑)。

そんな風に、デジタルで何かできるけれども、たとえば最後の最後でお金を割るときに発生する問題を解決するような人が意外といない。その辺がボトルネックだと強く思う。データを持っている会社はたくさんあるから、社内で細かく手を動かしながら試行錯誤を繰り返す必要があるのだと思うし、それをやる人材が社内にいないと大きな取り組みは進めにくいと思う。そうした人材をどうやって獲得し、育て、試行錯誤をさせるかということに私は大きな興味がある。

川邊:それをソリューションにする会社も増えると思う。オーダーメイドで、たとえばレベニューシェアの比率も都度変えたりして。シリコンバレーにはビッグデータのアナリティクスとソリューションを専門に行うPalantirという会社があり、こちらの時価総額はおよそ4兆円。もともとビン・ラーディンを捕まえるためにCIAがデータサイエンティストたちに出資した会社だ。で、ビン・ラーディンが捕まった今は民間転用されてさまざまなことをしている。そんな風に、またそこで新しい産業が生まれてくるのだと思う。

→IOTとビッグデータが変革する企業経営[2]は 12/3 公開予定

https://globis.jp/article/4145

※開催日:2015年11月3日

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