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第5回 良い仮説とは(前編)

投稿日:2007/12/28更新日:2019/10/12

前回まで、仮説を持つことの意義について解説してきました。しかし、「仮説を立てて検証することが大事なのは分かったが、どんな仮説が良い仮説なのか?」、「ビジネスを推進する仮説って具体的にはどういうもののこと?」などと思われた方も多いでしょう。そこで今回と次回は、「良い仮説とは何か?」に踏み込み、考えていきます。

新規性・独自性があり、ビジネスに活用可能か

「良い仮説」とは、一言でいうと、「ビジネスを良い方向に推進する仮説」です。ただ、「結果的に正しかった仮説」が必ずしも良い仮説というわけではありません。その理由については後半で説明します。

「ビジネスを良い方向に推進する仮説」の条件とはどのようなものでしょう。さまざまなものが考えられますが、ここでは、(1)新規性・独自性がある、(2)ビジネスへの活用が可能である、(3)アクションオリエンテッドである(次の行動を喚起できる)、という三つの特性を持つことが、望ましい仮説の条件と考えます。本稿では、まず(1)と(2)について説明し、(3)については次回、解説します。

まず、「新規性・独自性がある」とは、その仮説が、まだ世間が気づいていない物事にスポットを当てている、あるいはアイデア自体、それまでの常識をひっくり返すものであるといったことを指します。ベンチャー企業のビジネスモデルや企業の新規事業はまさに、新たな市場があるだろう、あるいはこのやりかたであれば儲かるだろうという仮説を立て、検証していくプロセスとも言えます。

例えば近年、街中に多く見られるようになった「QBハウス」という10分間1000円の整髪店フランチャイズチェーンがあります。「忙しい現代人の多くは、洗髪やヒゲ剃りなどのサービスがなかったとしても、圧倒的な低価格で短時間に髪を切ってくれる店であれば利用するのではないか」という初期仮説があったものと思われます。

言うまでもなく、以前はほとんどの散髪店において洗髪やヒゲ剃りは、標準サービスとして組み込まれていました。これに対して「そもそもそのようなサービスを本当に消費者は求めているのだろうか」という問題意識を持ったことが先の仮説につながったのでしょう。

そして、いったん、実際に市場性がありそうだと判明すれば、どうすれば実際に事業化できるか、ターゲットや価格、立地、サービス内容、採用・育成などについて具体的な仮説として案を立て、検証していったものと考えられます(実際には、事業を走らせながら検証していった仮説も多いと推定されます)。

ほとんどのビジネスにおいて、「スピード」は重要な成功のカギです。競争相手が気づいていないアイデアを思いつき、それを実際に検証し、アクションに移すことは、競争に勝つ上で大きな武器になりえるのです。

とはいっても、新規制や独自性は、思いつきで出てくるものではありません。詳しくは次回以降に述べますが、経験やビジネスに関する様々な知識があるからこそ、ユニークなアイデアも出てくるという点は意識しておいてください。

二つ目に重要な特性は、あたりまえのことですが、実際にその仮説がビジネスで活用できることです。

たとえば、極端な例ですが、「火星には古代生物がいたのではないか」という仮説は、知的好奇心は確かに掻き立てられますが、当面、ビジネスにつながる可能性は低いでしょう。あるいは、「性生活がアクティブな人間は、ビジネスでも良い結果を残している」という仮説も、仮に検証あるいは否定できたとして、採用や人事考課などのビジネスシーンですぐに活用することは難しそうです(お酒の席にホットな話題を提供することは確実でしょうが)。

あえてこのような話をするのも、往々にして人間の思考は最終的な目的を逸脱し、個人的な関心に走りやすいからです。ビジネスパーソンは学者ではありません。ビジネスの最大の目的は、社会やステークホルダーに価値を提供しながらファイナンシャルな企業価値を最大化することと再認識する必要があります。

ビジネスに役に立つという観点に立つと、事業の推進過程でそもそも検証が可能であるという点も重要です。仮説の検証ができれば、「さらに良い方法はないか」というように仮説を修正、再定義することもできますし、他部門に横展開して成功の再現性を高め、失敗の可能性を低減することができます。

逆に言えば、仮説を立てても検証できなければ、成功しても失敗したとしても「なぜそうなったのか」を原因究明できず、「次の一手」につながりません。たとえば、「セグメントごとに微妙にニーズは異なるはず」という仮説に基づいて商品開発をしたとしても、その商品ごとの購買者属性をまったく追跡できないとしたら、次のアクションのとりようがありません。

仮説と検証――これを繰り返すことにより、ビジネスが、より精度の高いものになるのです。

「正しい」結果より、プロセスが重要

ここで断っておきたいことがあります。立てた仮説が結果として間違っていたからといって、それが即、「悪い仮説」というわけではありません。その仮説を検証する過程で、技術革新につながったり、ビジネス上の新しい発想が生まれたり、関係者の事業が振興したりといった成果を残していれば、「間違っている仮説」であっても「良い仮説」と言えるでしょう。

たとえば、サッカーのJリーグは、それまでの、企業の広告塔として成り立っているプロ野球のビジネスモデルに疑念を呈し、「日本においても欧州型の地域密着型クラブのビジネスモデルが成り立つはず」という仮説を立てました。あるいは米国型の「球団の入れ替えなし、複数リーグ(カンファレンス)制」という形ではなく、「1リーグ制。1部、2部の入れ替えあり」というフォーマットが成り立つという仮説をたて、それを実行しながら検証する道を選びました。

これらの仮説が成り立つかどうかはいまだ不明ですが、万が一Jリーグの試みが失敗したとしても、日本のスポーツ界やスポーツビジネスに新しい風を持ちこみ近代化を促した点、プロ野球関係者に大いなる危機感をもたらした点、スポーツに限らず日本人に(米国一辺倒ではなく)欧州に目を向けさせた点などは十分評価に値するでしょう。

あるいは別の例として、(ビジネスの例ではありませんが)「フェルマーの予想」という有名な数学上の仮説があります。「3以上の自然数n について、xn + yn = zn となる 0 でない自然数 (x, y, z) の組み合わせはない」という予想で、17世紀にピエール・ド・フェルマーによって提示されたものです。一見シンプルに見えますが、取り組んでみると極めて奥が深く、フェルマーの死後数百年たった1994年にようやく正しいことが証明されました。この仮説は結果として正しかったわけですが、仮に誤りであったとしても、数百年にわたって数学者の関心を引き付け、さまざまな数学の分野(代数幾何や数論など)の発展を促しました。数学の歴史を変えた仮説といっても過言ではありません。「良い仮説」=「正しいことが検証された仮説」とは限らないことを示す例といえるでしょう。

こうした波及効果の観点を抜きにしても、結果として正しくなかった仮説を提示することが悪いことではないという強い理由があります。

先述したように、良い仮説の条件の一つに、新規性があります。新規性があるということは、言い換えれば、誰も試したことがなく、検証のための情報が少ないということです。おのずと、検証した結果、否定されることは少なくありません。見方を変えれば、100%正しいと断言できるような仮説は、誰もが思いつくような陳腐な仮説か、あるいはなかば公然の事実であり、競争優位につながらないのです。競合も気づかないような仮説だからこそ、否定されることもある、くらいに割り切っておくとよいでしょう。もちろん、毎回毎回トンチンカンな仮説を立てるのは困りものですが、否定されることを恐れて大胆な仮説を出さないことの弊害はそれ以上に大きいのです。

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