「良い人が採れない」
「求人票を出しても応募が来ない」
「やっと出会えた人に、最後で辞退されてしまう」
採用担当者の悩みは、尽きることがありません。
社内からは「もっと優秀な人を」「早く採りたい」というプレッシャーがかかり、採用活動の現場は逼迫し、採用担当者は“打ち手探し”に追われ続ける――。
なぜ、採用はこんなにも難しいのでしょうか。
その答えは、“地図”を持たないまま霧の中を走り続けているからかもしれません。
採用の問題は構造の中にある『対処療法』からの脱却
たとえば――
・良い人が取れないから、媒体を変える
・応募が来ないから、とにかくスカウト送信数を増やす
・内定辞退を防ぐために、フォロー面接を追加する
こうした打ち手は、もちろん「間違い」ではありません。
ただし、これだけでは解決しないのです。
その理由は明確です。
採用の問題は“その場”で起きているのではなく、“構造の中”で生まれているからです。
・良い人が取れないのは、媒体ではなく、「採用要件の曖昧さ」かもしれない
・応募が来ないのは、スカウト数ではなく、「会社の魅力が言語化されていない」からかもしれない
・辞退が続くのは、フォロー不足ではなく、「候補者体験に一貫性がない」からかもしれない
にもかかわらず、私たちはつい“目の前の症状”を治そうとしてしまいます。
これはまさに、地図を持たないまま霧の中を全力疾走するようなものなのです。
本当に必要なのは、個別の手当てではなく、全体の構造を見渡す視点。
その視点が手に入った瞬間、採用活動はうまく回り始めます。
個別施策はもう終わり 採用の『全体像の地図』でボトルネックを特定せよ
その“全体像”をつかむための地図を、本書は、豊富な図解とともに提供してくれます。
本書の最大の特徴は、採用領域を10章・100項目という圧倒的な網羅性で体系化していること。
募集・選考だけでなく、採用要件、適性検査、オンボーディング、採用マーケティング、候補者体験(CX)など――採用領域を広く、深く扱っています。
この構造化された“地図”があることで、採用担当者はその場しのぎの施策から抜け出し、どこに課題が潜み、どこから手をつけるべきかを見極められるようになります。
・どこが本当のボトルネックなのか
・何を、どの順番で改善すべきなのか
・経営戦略と採用戦略をどう整合させるのか
これらの問いに、初めて体系的に答えられるようになるのです。
そして、この地図を手にしたときに変わるのは、採用だけではありません。
経営そのものの打ち手も、変わっていきます。
採用こそ経営の出発点 『採用ドリブン経営』で組織文化を変革する
この「地図を持つこと」の重要性を、評者である私は過去の経験から痛感しています。
本書を読みながら思い出していたのは、私が所属する組織(ゆめみ社)が採用に本気で向き合わざるを得なかった、あの頃のことです。
ある事件をきっかけに、ゆめみ社は経営危機に陥りました。
組織は揺らぎ、求心力は弱まり、このままでは会社が危ない――。
そんな中で辿り着いたのが、「採用ドリブン経営」という考え方でした。
採用ドリブン経営とは、「採用」を経営の最優先事項に位置づけ、採用力を高めることそのものを戦略とするものです。
経営者自身が採用に深く関与し、とりわけ新卒エンジニアの採用・育成で「ナンバー1」を目指す。さらに、全社員が採用に関わる文化をつくる――。
本書の言葉を借りれば、採用とは「事をなす人を迎え入れる機能」。
まさに企業の未来をつくる、経営行為そのものです。
この考え方を軸に据え、当時、ゆめみ社は採用から立て直しました。
それが市場での競争優位につながり、結果として組織文化そのものが変わり、業績も少しずつ回復軌道に乗っていきました。
本書でもゆめみ社の取り組みを紹介いただいていますが、こうした経験があったからこそ、私自身は今でも「採用こそ、人事領域で最も重視すべき活動」だと考えています。
採用を誤らなければ、評価も育成もブレにくい。
むしろ、評価や育成に課題を感じている人事こそ、まず採用を見直すべきだと思います。
採用は、単なる“入口”ではなく、組織を変える根幹であり、経営の意思そのものなのです。
誰を迎え入れるか 採用活動は企業の『哲学』そのものを映す鏡だ
採用とは、経営の哲学が最も純粋な形で現れる領域です。
それは単なる制度やプロセスではありません。
組織の価値観や信念がもっとも生々しく表れ、「誰を迎え入れ、何を託すのか」という根源的な問いに向き合う営みです。
そして、この問いに向き合うたびに、私たちは改めて自社の信念、優先順位、そして「どんな組織でありたいのか」という理想に向き合わざるを得ません。
採用とは、企業が自分自身を映し出す鏡でもあるのです。
しかし、部分的な施策に振り回されれば、採用はすぐに「作業」へと矮小化してしまいます。
だからこそ、本書のような“地図”を手にしていただきたいのです。
採用は、人事担当者だけの仕事ではありません。
現場を預かるマネジャーも、企業の方向性を描く経営者も、それぞれが同じ地図を持ち、同じ景色を見て歩むことで、初めて採用は「経営改革の起点」になり得ます。
本書は、その第一歩を示してくれる一冊です。
『図解 採用入門 人事の根幹をイチから学びたい人のための「理論と実践」100のツボ』
著:坪谷邦生、秋山紘樹 発行日:2025/11/21 価格:3080円 発行元:ディスカヴァー・トゥエンティワン



























