本書は、ヘルスケアビジネスに25年以上携わり、消費者コミュニケーションにおいてはプロ中のプロである西根英一氏が「ヘルスケアビジネスのマーケティング戦略とコミュニケーション設計の教科書」として書いた本だ。ヘルスケアビジネスに関するナレッジ、マーケティング戦略、コミュニケーション設計の3部構成となっており、「消費者にとって他人事だった課題をいかにして自分事に捉え直させて消費につなげるか?」のカンコツがまとめられている。
しかし本書の面白さは、ヘルスケア業界にとどまらない「生活者ニーズ(ホンネ)」を捉える手法が書かれている点にある。グロービス経営大学院には「顧客インサイトとブランディング」という科目があり、顧客の消費行動に潜む心理的なメカニズムを読み解くトレーニングを行っているが、多くの受講生はインサイトつまり“消費者のホンネ”を捉えきれずに苦労していると感じる。正直なところ、「この領域を修得するには、理論ではなくセンスの部分が大きいのかな?」とも感じていたのだが、本書では「顧客のホンネがどのようにしたらあぶりだされるのか?」について消費者行動学の制御焦点理論や関係性理論に基づいて分かりやすく書かれており、センス不足を補ってくれる。
ここで、消費者のホンネをあぶりだすポイントについて特に印象的だったものを3点引用して紹介する。
1.ホンネは「言い訳」で隠されている
たとえばアンチエイジングに邁進して健康食品や美容整形にお金をどんどん注ぎ込み、もはや笑うに笑えないと感じている女性がいるとしよう。このような人は、そんな行動をとってしまっている自分に対して合点のいく気持ちの拠り所がないと、以降その健康に関する行動を続けにくくなってしまう。この揺れ動くココロには、“自分プラス誰かのために”という理由と、“健康プラス何かのために”という目的があると、自分にとっても周りにとっても合点がいく “言い訳”ができ、健康行動を選択したり継続しやすくなる。
2. ホンネは「ネガティブ」と「ポジティブ」どちらにも振れる
消費者行動は、「××したくない」というネガティブな結果に反応する“予防焦点”と、「〇〇したい」というポジティブな結果に反応する“促進焦点”に分けられる。予防焦点は「病気になりたくないから運動する」、促進焦点は「健康になりたいから運動する」というように、同じ運動をするにしても焦点のベクトルの向きが異なると抱く感情も大きな違いが出る(前者は強い「義務感」を抱き、後者は強い「理想」を抱く)。
消費者がネガティブな結果(予防焦点)とポジティブな結果(促進焦点)のどちらに敏感かを見極めながら商品名や商品コンセプトを決める必要がある(例えば、睡眠を促す「ヨクネムレール」という“促進焦点”の商品名に対して、「寝つきが悪い、眠りが浅いときに、ヨクネムレール」という“予防焦点”の商品コンセプトとなっていては、消費者は合点がいかない)。
3.ホンネは「潜在意識」に沈んでいる
上記2点が「顧客のホンネを探り出す」コツであるのに対し、3点目は「潜在意識にあるホンネを引き出す」コツだ。顧客自身が気づいてないホンネを引き出すには、「認知効果を上げる(イメージしやすい絵面)」+「処理労力を下げる(わかりやすい文脈)」ことが有効である。例えば、歯周病予防に抗菌力のある歯磨き粉を売りたい場合、まず「菌」が刺激となる話題(菌と言えばヨーグルト→ヨーグルトには腸内の善玉菌の働きを強めて悪玉菌の働きを弱める作用がある…など)を想像し、イメージを膨らませる。そのあとに「口内にも善玉菌と悪玉菌がいるから日頃から注意しよう!」というように、自分の意図をわかりやすい文脈で伝えてあげる。すると、「どう注意すればよいの?」という疑問の形で、潜在意識にあるホンネを引き出すことができる。
本書を通して「生活者のホンネ」をあぶり出す創造力と想像力を高め、皆さんのビジネスにぜひ役立てていただきたい。
『生活者ニーズから発想する 健康・美容ビジネス「マーケティングの基本」』