宇宙飛行士・山崎直子氏×衆議院議員・長島昭久氏×外務省・山上信吾氏
G1サミット2015
第9部 分科会C「宇宙政策~宇宙空間の新たなパワーバランスと安全保障~」
宇宙技術の進化によって、衛星保有国は50カ国以上に上り、新興国や民間企業の参入も相次ぐ。宇宙空間のパワーバランスは、かつての米ソ二極構造から多極化構造へと大きく変わりつつある。宇宙商業市場が拡大し、また安全保障における宇宙の役割が重要になってくる中、「宇宙」というフロンティアで、資源開発・安全保障・外交を両立していくために、国家としてどのような戦略を推進していくべきか(視聴時間1時間14分31秒)。
山上 信吾氏
外務省
総合外交政策局 審議官
山崎 直子氏
宇宙飛行士
長島 昭久氏
衆議院議員
堀 義人(モデレーター)
グロービス経営大学院 学長
グロービス・キャピタル・パートナーズ 代表パートナー
【ポイント】
・この10年で、宇宙でのプレイヤーが増加。超小型人工衛星を企業・自治体単位で保有し、官から民への流れが生まれた反面、大国が律していた従来の暗黙のルールがなくなり、カオス的な状況に(山崎氏)
・日本は2014年、10年の計画を定めた宇宙基本計画を制定。宇宙を研究開発の場としてだけ捉えず、産業を支え、広義で安全保障にも役立つものとする基本姿勢のもと、具体的な計画がたてられているが、これからはさらに長期の計画と、有人宇宙飛行の技術への展望が求められる(山崎氏)
・長期的には、GPSに匹敵する測位衛星システムや無人自動車運転などの宇宙の利活用と、安全保障も含めた他の分野との接点を探ること。さらに、宇宙を切り口にした自然科学システムなどを人材育成のために役立てていきたい(山崎氏)
・外交的に重要なことは3つ。1つ目は、日常生活のみならず、外交・防衛が、宇宙のアセットに深く依存していること。自衛隊と米軍の協力にも宇宙協力が盛り込まれる予定で、安全保障上の重要性が増加。2007年に中国が衛星破壊実験を行ってさらに増加した宇宙ごみ(デブリ)の問題にも早急に対処することが、外交上の課題。2つ目は、国際協力、特に日本の技術への期待が非常に高まっている。日本としては、各国との対話を重ねて対応を図る。3つ目は、国際的なルール整備の必要性。1970年代以降、各国の権益が正面からぶつかりあい、停滞している。デブリ問題への対処など、2008年にEUから提案された行動規範をまとめるため、志を共にする国が協力しているが、一足飛びにはいかない状況がある(山上氏)
・今回の2007年の中国の衛星破壊実験は、宇宙が物騒な空間に変化したという意味で衝撃的だった。2013年にかけて、中国はほぼ全ての衛星を叩き落とすことが出来る状況になっている。兵器体系が通信衛星で動いていることを考えると、非常な脅威。ルール作りと、常時監視が可能な環境作りが早急に必要になる(長島氏)
・日本では、2008年の「宇宙基本法」をつくり、それを境に宇宙政策が大きく転換した。1つは、これまでの研究中心から利用者(出口)よりの発想への転換。2つは、軍事的な利用・安全保障上の観点からの宇宙利用(長島氏)
・基本法によって、安全保障分野での宇宙利用の可能性が示され、2013年の国家安全保障戦略で次の3点が議決された。宇宙空間を安定的に利用するために安全保障を重要視するという観点、宇宙開発利用を支える技術開発を産業の基盤にするという観点、安全保障の面から宇宙利用を促進するという観点(長島氏)
・JAXA, 防衛省・米軍間で、宇宙デブリ監視システムの技術と情報を共有すること、測位衛星に準天頂衛星を補完することで、アジア地域の監視の精度向上を目指すことで相互補完関係を作り上げることが取り決められた。産業的にも、日米協力、世界全体の安全保障の面においても日本が役割を果す余地が拡大している(長島氏)
・JAXA法の改正は2012年、安全保障へのJAXAの貢献は始まったところ。サイバーの世界と宇宙は表裏一体。宇宙の防護と同時に、サイバー空間での防御も必要。日本の宇宙技術開発は、これまでも世界レベルの研究を行ってきた。利用サイドの要求に基づく研究を推進することで、研究と実用の相乗作用で加速度的にキャッチアップが進む(長島氏)
・宇宙ステーションと行き来する宇宙滞在15日の中で、窓ガラスに三カ所ひびが入った。1センチ未満のデブリにそれだけの破壊力がある。現場でその脅威を実感した(山崎氏)
・もともとミサイル技術が派生したものが宇宙の技術。科学技術は広く公開することで広まるが、安全保障ではどうしても情報公開に制限がかかる。最初は技術も秘匿するが、ある程度時間がたってから公開するといった2段階が必要(山崎氏)
・宇宙基本計画の中で安全保障は、情報収集衛星であったり仲介通信衛星であったり、狭義の安全保障になっているが、広義の安全保障、いわゆるソフトパワーも非常に大きい。国際的な経済協力、科学協力をすることで抑止力になることを願っている(山崎氏)
・日本でも少しずつ官から民への流れが生まれているが、法体制がないのがネックになっている。従来、人工衛星の損害補償は国が行うのが前提。諸外国では宇宙活動法で、ある程度民間を監督をする代わりにここまでは国が支払うという線引きを定めている。そういう仕組みを日本でも作ろうと取り組んでいる(山崎氏)
・衛星情報を収集し、いろいろな省庁が一元化する努力が必要。安全保障以外の情報を民間も含めて共有する体制を作らねば、非常に非効率(長島氏)
・民間が参入しやすい法律作りと、情報が一箇所に集める司令塔作りが必要。ゼロから民間がベンチャーで立ち上げ、大企業と切磋琢磨しながら、ローコストでやっていくことで厚みを増すはず。そこで人材を共有したり、政府、政治家、科学者と連携する形にしていきたい(堀)
(肩書きは2015年3月20日登壇当時のもの)