旭酒造・桜井博志氏×建築家・藤本壮介氏×池坊次期家元・池坊由紀氏×内閣府副大臣・平将明氏
G1サミット2015
第14部 分科会B「クールジャパンの次の一手~美意識を育み、発信する~」
食やファッション、伝統文化、建築など、日本固有の美意識に育まれたコンテンツは、国内のみならず、海外でも高い人気を博している。2013年には官民ファンド・クールジャパン機構が発足し、食やファッション、ライフスタイルなど、日本の魅力の事業化と海外発信に取り組んできた。池坊次期家元の池坊由紀氏、国内外で不動の人気を誇る日本酒「獺祭」を手掛ける桜井博志氏、ビエンナーレ国際建築展で金獅子賞を受賞した藤本壮介氏をパネリストに招き、クールジャパン戦略の次の一手を考える(視聴時間1時間15分38秒)。
池坊 由紀氏
華道家元池坊 次期家元
桜井 博志氏
旭酒造株式会社 代表取締役社長
藤本 壮介氏
藤本壮介建築設計事務所
代表取締役
平 将明氏(モデレーター)
内閣府副大臣
衆議院議員
【ポイント】
・西洋現代建築の発祥には日本の建築が少なからず影響を与えた。その立役者丹下健三の世代から次の世代、われわれの世代へと波のように建築家が続き、日本の建築に一つの評価を確立。日本建築は、単なる美しさだけでなく、建築の概念を覆すような新しさも同時に持つ。異質だけれど最終的には調和する概念と最先端の美意識が常に期待されている(藤本氏)
・日本酒が海外に出たのはこの14、5年。それまで異文化とぶつからず、日本酒が本質的にはどういうものなのかを考えてこなかった。今、初めて厳しい現実にぶつかっている。海外は非常に有望な市場で、日本酒の輸出にはいくらでも可能性がある(桜井氏)
・生け花を海外で指導する際、使用する花材は全て現地調達するが、生け花の独自性と哲学については日本での指導と変わることがない。日本の美への感性は特徴的で、決して満開が全てではない。蕾から枯ちてくまで、全ての生命の営みに美を見出す。また「立花」という様式/型も変化しない。型は、日本の自然の風景に見出される構造と機能を、先人が集積し、エッセンスとして築き上げたもの。そうした本来の形と考え方を海外で説明することで、日本の独自性が評価されている(池坊氏)
・日本を発信する際の大きな問題点の一つが、ヨーロッパに鰹節を輸出できないこと。発がん性物質の数値がヨーロッパの基準を上回るためだが、日本食は「だし」によって味が決まる。ミラノ万博に限ってこの規制が緩められたが、EUにはこうした問題も残っている(平氏)
・政府としては、クールジャパンという国家成長戦略に省庁横断の補助金を作り、ファンドを立ち上げ、20年間で回収可能なリスクマネーを国が負担する仕組み作りを行った。これは、世界中に日本ファンを増やすことでインバウンドを増やし、国のパワーにすることでもある(平氏)
・日本の建築家は、海外へのアレンジより、まず日本国内で質の高いものを作るべき。そこに注目し、実際に訪れた人が、期待に違わぬものを目にすることになる。その過程が重要ではないか
・フランスでは、主要な建物や集合住宅の建築の際、その質が街のアイデンティティーに関わるという認識から政府がコンペを管理する。海外の建築家も参加でき、書類審査通過5チームの中に必ず若いチームが1つ入るなど、もの作りと若い世代の育成を長い目で見た戦略が、システムとして成立している。こうしたシステムが確立していない日本との間で、20年後にどういう差となっていくのか。日本国内で建築の価値が理解され、若い世代が育つ土壌を作ることが大事(藤本氏)
・ダイバーシティー(多様性)は、まさに日本いちばん得意とするところ。ありとあらゆるものに美を見出して受け入れると同時に、型というシンプルさを芯にもつ。その融合が日本の文化ではないか。時間の中の多様性をしっかり保障する意味で選定し、共存するのはすごく面白いし、大切だと思う(藤本氏)
・今、日本酒を海外に広める際に大事なのは、展開の早さと、いざというときの撤退の早さ。これをいくつも実験しなければならない。個別に勝手にやらせてもらうことがいちばん(桜井氏)
・クールジャパンに含まれる様々なコンテンツを実際に手を動かして作る職人が、今非常に厳しい状況にあり、生計を維持できない危機が迫っている。材料不足、成立しないビジネス、若い人の育成といった問題に対処できる持続可能なシステムの構築を望んでいる(池坊氏)
・クールジャパンに繋がるのは正統的な美意識だけではない。電線に象徴されるような捉えようのない美意識が必ず存在する。東京の街にも、整然としたものとごちゃごちゃしたものがあり、その両方が日本。奥行きが多様で、触れ幅が広いところが日本の強みであると、みなが認識を共有できれば面白い(藤本氏)
・日本酒も同じような触れ幅をもつ。酒造行程も毎回異なり、八百万の神の世界。日本がもつこうした世界を説明しようと、その方法を今一所懸命模索しているところ(桜井氏)
・日本食は味覚が混ぜ合わさるのを許容し、全体として受け入れるという話だが、日本酒でも同じ。フランスでは、料理とワインのそれぞれのエッジがたつところを合わせてマリアージュというが、日本酒は料理に寄り添うそうに合わせて融合していくもの(桜井氏)
・建築は、生活の豊かさに直結する。これを作り上げるのが日本の建築の価値。国内でひとつひとつ地道に作ることで、人に自分の住む場所を再認識させる。その認識が街の安全・安心や清潔さに繋がるのでは(藤本氏)
・海外に出ていくためには、国内の市場で磨かれることが大事。その意味で、お客様に、美味しければ美味しい、美味しくなければ美味しくないといっていただくのがいちばん大事なこと(桜井氏)
(肩書きは2015年3月20日登壇当時のもの)