ベンチャー×地域の“破壊的”イノベーションが日本を変える[4]
高島: これまで地方に人口を移す、または増やすという議論が主でしたが、人口が少ないからこそ、ドローンや自動運転などの先進技術・製品や革新的な教育を、地方というフィールドを使って試していくことも可能だと思うんです。
小泉: 僕がこれから期待しているのはドローンです。ドローンの持っている可能性と、官邸を含めた政府機関のセキュリティの問題は、切り離して考えなくてはいけない問題だと思っています。
今、日本にはさまざまなドローンがありますが、ドローンの心臓部であるオートパイロットまで純国産でつくることができるのは、日本では千葉大学の野波健蔵教授ぐらいです。その野波教授のドローンは、今、福島の第一原発でも使われています。
「野波先生のドローンをさらに進化させて、社会の中に落とし込むためには、どんな実証の場が必要なのか?」。そう野並先生に聞いたとき、「10キロ四方を自由に使わせてもらいたい」という言葉があったんです。
10キロ四方は都会では取れません。そこで、目をつけたのは、地方にある国有林です。結果、ドローンの国家戦略特区として、秋田県の仙北市が指定されました。
国有林であれば、ドローンが下に落ちてもリスクはない。さらに、実験をする技術者側からすると、10キロ四方の平坦な土地よりも、勾配のある場所などいろいろなところで電波が届くかどうかとか、そういったこともやりたいと。だから、国有林は技術者にとってもドローンの実験場として格好の場なんですよ。
こうしたことから、今回の官邸の事件を受けて、僕はむしろ仙北市におけるドローン実証フィールドの価値が高まったと思っています。
僕がこれからやりたいと思っていることのひとつが、自動走行です。
ただ、自動走行にはさまざまなリスクがありますから、そうしたリスクを許容してくれる自治体が出てくれば、技術を試せるようになる。こういった現場をぜひつくりたい。それは都市よりも地方がいい。
たとえば、具体的な課題として出てきているのが、自動走行車が、夜にテールランプの「赤」と信号機の「赤」を区別できない可能性があるということ。自動走行車は人が見る景色ではなく、車のデータセンサーやレーザーを認識して動くものですから。
僕は、その話を聞いたとき、「それ、信号がない場所があればどうでしょう」と言いました。自動走行車だけで隔離されるフィールドが確保できれば、自動走行車同士が通信をし、運転を制御し合うような、IoTの世界の実現に向けての実験ができる。
つまり、隔離されて信号がない環境があり、実験のリスクも許容してくれるような自治体が日本に出てくれば、グーグルに対してであろうと、アップルに対してであろうと、技術を試せる場所として日本の地方を世界に売り込むことができる。
さらに、今、自動走行に関わるコンピュータのプロの人材獲得戦争がシリコンバレーで起こっていますが、日本ですぐに実走できる環境ができれば、そういった人材も誘致できる可能性もあります。
日本の地方へ行けば、「信号がひとつもない」といった自治体があります。こういった地方の側面をぜひ生かしていきたいですよね。
高島: 今のお話に付け加えると、以前、ある企業の人とお話をしていたときに「自動走行がやりたい」と話していたので、「人が少ないところがいいでしょうから、福岡は無理ですかねえ」とお答えをしたところ、「いやいや、福岡のような、港湾エリアでやりたい」と聞いたことがあります。つまり、過疎でない地方でもチャンスはある、と。
だから、実際にどういうニーズがあるのか、企業と自治体の間のコミュニケーションを改善することがやはり何よりも重要だと痛感しました。
さて、これからは、皆さんとの全体討議に移りたいと思います。質問でも意見でもいいです。はい、どうぞ。
質問者: 新日本有限責任監査法人CSR推進部長の大久保和孝と申します。私も全国各地の地域創生の支援をしており、経済同友会の道州制委員会にも入っております。
大企業は「地方創生」の号令をかけながらも、その取り組みは、所詮、CSR(企業の社会貢献活動)の域を出ず、まともなビジネスチャンスにはならない側面があります。
どうすれば、大企業が活動している地方でシリコンバレーのような産業連携化が図られ、地域全体の産業が大きくなっていくきっかけができるのかと疑問に思っています。何かアイデアやヒントを頂けたらと思い、質問させていただきました。
小泉: 被災地関連でも起きていることですよね。
震災から4年経って、震災支援をしている企業のCSRの部門の方々が、企業の中で肩身の狭い思いをし始めています。「いつまでやるの?」という目があったり、ビジネスとして成り立っていないために「本当にこれって、うちの会社がやるべきことなのか?」と言われたりする中で苦しんでいます。
僕が思うには、企業の役割は、儲けてもらうこと。儲けることで、その地域に税金を納め、雇用をつくり、地域を豊かにしていくことです。
これを割り切って実践しているのが、前出の徳島県の神山町ですね。「『町のために』なんていう思いはいらないから、とにかくビジネスが成り立つようにやってください」というような受け入れ環境をつくっています。
ぜひ企業には地方で儲けてほしい。結局、儲からなければ、その支援には持続性はないですから。
→ベンチャー×地域の“破壊的”イノベーションが日本を変える[5]は8月14日公開予定
※開催日:2015年4月29日