ベンチャー×地域の“破壊的”イノベーションが日本を変える[2]
高島: ここで、国会議員の経験もお持ちでありながら、地方の現場を今まさにあずかっている鈴木康友・浜松市長にお話を伺いましょう。
鈴木康友氏(以下、敬称略): 市長をやっていて、いつも感じていることは「やりがいがあるな」ということです。小泉さんのような人に国の制度や仕組みをつくってもらったり、支援してもらったりする一方で、具体的な実務を行うのは、ほとんど市町村だからです。
ところで、先ほどのお話を聞いて「首長を替えていかないとダメだな」と大きな問題意識を持ちました。国でこれから素晴らしいデータもいっぱい公開することが決まっても、自治体の首長さんが経営感覚をもってないと、これらを利用しきれない。
しかし、そんな経営感覚をもつ首長が意外といない。特に、小さな自治体の首長さんは、役場の助役をやったあと、60歳を過ぎてからも町長や村長、市長になるケースが多く、そういう人たちに今から「経営感覚を身に付けろ」と言っても、不可能に近い。
「いやいや、自治体職員の中でもやる気のある、そういう人もいるだろう」と思う人もいるでしょう。ところがですね、役所の世界っていうのは非常によくできている。もともと「自分たちで起業して、稼いでやるぞ!」なんていう人は、公務員になってないわけです。
特に田舎の役所の場合、言われたままきちんとお仕事をしていれば、経済的に安定するというのが職員にとっての魅力です。だから、首長次第で右に動いたり、左に動いたりするわけですね。
これからの地方創生では、若くてセンスがいい、そういう人たちを首長にしていかなければならないと思います。
高島: 私も、日本に今、一番足りないダイバーシティは絶対「若さ」だと思っています。社会の意思決定を行う層に、いかに若い人が入るかはすごく大事。オバマ大統領も40代で大統領になったわけですしね。
さらに、個人的には政令指定都市にも期待しています。浜松市も政令指定都市で、鈴木市長に市と県の両方の権限があるので、スピード感をもって、あらゆる物事をどんどん変えていくことができるのではないでしょうか。
ほかにも、千葉市の熊谷俊人市長や、県知事では鈴木英敬・三重県知事が活躍されていますよね。いろいろな首長がご自身の得意分野で既存の枠を突破し、新しい取り組みを実施しています。先行事例として、それらの取り組みが全国に広がっていくといいな、と思っています。
高島: 国や自治体がマクロな取り組みを進める一方で、迅速かつ具体的に、すでに雇用をつくっている人がいます。地域固有の資源を磨き上げたり、地域で眠っているストックを活用したりする仕事を、ベンチャー企業を立ち上げ、つくりあげている人たちです。
1人ずつご紹介します。まずは、asoview!(アソビュー)の山野智久さん、よろしくお願いいたします。
山野智久氏
山野智久氏(以下、敬称略): こんにちは! asoview!という、遊びと体験の予約プラットフォームを運営しております、アソビュー株式会社の山野と申します。
われわれは、北海道から沖縄まで、ラフティングやパラグライディングなどのアウトドア・レジャーや、陶芸体験やガラス工芸などのインドア体験あるいは雲海ツアーなど、地の利を生かした遊び、伝承の技術を生かした体験などをインターネット上で6000プランほど紹介し、予約もできるサービスを運営しております。サービス提供を開始して3年になります。
アソビューのユーザーのだいたい65%ぐらいが20代なのですが、私たちは、最近の若い子は「ブランド物のバッグが欲しい」よりも、「キャンプに行きたい」というニーズをもっているのではないか、と考えています。私は、勝手に「人間性の回復」と呼んでいるんですけれども。
「緑が見たい」「川のせせらぎが聴きたい」──そういった根源的な欲求がもともと人間にはあると思います。東京ではできない、それぞれの土地でしかできない遊びや体験を発掘し、消費者に情報提供できるインフラをつくっていこうと意気込んでいます。
地方創生という観点でお話すると、結局重要なのは、定住人口をどう増やしていくかだと思います。まずは、その地域に行ってみないと、その地域がどんなところなのか、いいところなのか、住めるのかどうか、はわかりません。
そのために、まずファーストステップとして交流人口を増やすことが重要だと思っています。その点に、今われわれはチャレンジしています。
もう1つの活動としては、「熱意ある地方創生ベンチャー連合」という団体を立ち上げて、今、9社で運営をしようとしています。ベンチャーの連合体をつくることによって、社会に対するイノベーションに、多少なりとも貢献できると自覚しています。
地方には、雇用、人材育成、観光などさまざまな課題がありますが、ベンチャー企業が集まることによって、そうした課題を解決できる可能性は高いはずです。
結局、地域課題を解決していくことこそが、日本経済の発展につながっていくと私は信じています。
高島: ありがとうございました。それでは、スペースマーケットの重松大輔さん、よろしくお願いいたします。
重松大輔氏
重松大輔氏(以下、敬称略): 皆さん、こんにちは! スペースマーケットの重松でございます。本日はよろしくお願いいたします。
スペースマーケットは、お寺から古民家から野球場まで、あらゆるスペースの空き時間に、スペースを借りたい人に貸すマーケット・プラットフォームを運営しております。「スペースマーケット」で検索してもらうと、ご覧になれます。
実は、サービスを開始してから、昨日が1周年記念だったのですが、地方創生絡みでいきますと、古民家のレンタルサービスなどを提供しています。
中でも、今かなり稼働しているスペースが神奈川県の鎌倉にあります。駅から徒歩20分ぐらいかかる、築80年の平屋の古民家なんですよ。
平屋で、一応詰めれば10人ぐらい入るかな、という程度の大きさのスペースなんですが、そこに光ファイバーやWi-Fi、ホワイトボード、長時間座っても耐えられるような椅子などをあつらえたところ、1日3万5000円の料金設定で1カ月に20日は稼働しています。
これまでグーグルやヤフー、サイバーエージェント、ホンダの研究所、IT系のスタートアップの経営幹部、エンジニアなどに利用してもらっています。わざわざ都心から1時間半かけて来て、そこで1日合宿をして非常に満足して帰っていきます。
宿泊する人もいますし、もちろんそこで飲食もできるので、かなりおカネも落としていきます。そのような成功例ができてから、地方の古民家を積極的に開拓しています。
重松: 先ほども、登壇者で「どうすれば地方でスタートアップがどんどん出てくる環境になるか」を話したのですが、なかなか難しいんですよね。
浜松市で「スタートアップをやりたい人、手を挙げて」と言っても、現実にはエンジニアなど、スキルをもった人は東京に集積するからです。
われわれとしては、クラウド名刺管理サービスを提供するスタートアップのSansanが徳島県の山間部に古民家を再生したサテライトオフィス「Sansan神山ラボ」を設置したことに注目しています。
ただ、Sansanの成功例があるとはいえ、いきなりホップ・ステップ・ジャンプのジャンプで、「地方に行って、エンジニアの仕事をしよう」は、多くの人にとってはハードルが高いかもしれない。
そこで、踏み台としてわれわれのサービスを使ってもらい、空きスペースでまずは1日合宿、次に1週間滞在、次に1カ月滞在……そうやって、最終的にもっと多くの人に「ここで仕事できるじゃん」と定住してもらえるよう、橋渡ししていきたい。
そのエリアの良さは、やはり一度使ってもらわないとわからないはずですから。Sansan神山ラボのようなサテライトオフィスを、多くの会社がバンバンつくっていけるような世の中にしていきたいなと思っています。
小泉: 素晴らしいお話ですね。
→ベンチャー×地域の“破壊的”イノベーションが日本を変える[3]は8月12日公開予定
※開催日:2015年4月29日