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煮詰まるまで考えに考え続けた末に、イノベーションは起きる

投稿日:2015/06/20更新日:2019/04/09

地域発のイノベーションが世界を変える[3]

柳川:では、少し早いけれどもQ&Aに入ろう。

会場:素人感覚では、「マグロの養殖なら卵を置いておけば産まれるんちゃうかな」「ミドリムシなら太陽に当てれば繁殖するんちゃうかな」と思ってしまったりする。どういったところにイノベーションのポイントがあったのか、ぜひお伺いしたい。あと、GLMはテスラモーターズとはどう違うのか。彼らと日本の電気自動車メーカーの何が違うのかという点もお伺いできればと思う。

会場(平井誠一氏:株式会社西利代表取締役社長):近畿大学は総合大学として経済学部も医学部もある。そうした各部門からそれぞれノウハウを持ってくるシステムがあったのだろうか。それと、近畿大学として農業分野で次に何か考えていることがあればぜひ教えていただきたい。

出雲:イノベーションのポイントに関して言うと、まず、ミドリムシは栄養価がすごく高いのでいろいろな雑菌が食べにくる。で、ある時期までは、どうしたら食べられないで済むかを皆で考えていた。で、ミドリムシは弱いし食べられるという前提でいろいろな物事を考えて、「ミドリムシを食べるような害虫・雑菌が入ってこなければいい」と。それで、とにかくミドリムシをきれいな環境で育てようということでずっとやってきた。けれども、どれほどキレイにしても雑菌は入ってくる。また、雑菌を入ってくるリスクを下げるために必要なコストは指数関数的に跳ね上がっていく。それで、「これは技術としてそもそも破綻している。不可能だ」という話になる。

で、そういう技術が改良でどこにも行けないとなったとき、今度はノベーションが答えになってくる。じゃあ、何がポイントだったのかというと…、うまく説明できなくて申し訳ないのだけれど、キレイにするのを諦めようと考えた。お風呂入っているとき思いついた。キレイにして害虫を入れないようにするのを止めた。で、「結局ミドリムシが食べられなければいいわけだから、害虫がミドリムシに近寄ってこないようにするため、いろいろ工夫してみよう」という発想をした。今まではその発想をする人がいなかった。澤田先生がおっしゃっていたことと同じだ。卵からすべてのライフサイクルを人工的に再現するというアイディアがそもそもなかったというのと一緒で、それまではミドリムシの環境をキレイにする以外のアプローチがなかった。そのやり方を変えたらうまくいった。私どものイノベーションはその部分だと考えている。

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小間:まず、我々の会社の社員は皆自分が一番偉いと思っている(笑)。エンジニアも営業も。そういう環境をつくったのが最高のイノベーションじゃないかと僕は思っている。そのなかで、社長がしたたかにやりたいことをできるような組織づくりができている。この点がイノベーションじゃないかと思う。自分が一番偉いと思っているから発想が社長レベルになる。だから、自身のエンジニアリングが金になるのかという問いにも答えを用意してくれる。技術をきちんとお金にすることも、それをどうやってスケールさせることも皆が考えている。そういう環境が成り立っているから、スタートアップとしてはこれからさらに面白くなるんじゃないかなと思っている。

あと、テスラとの違いについて。以前、ある方にこういう話を伺ったことがある。「日本人は熟女好きでアメリカ人は処女好きである」と(会場笑)。日本人は何かやろうと思ったとき、「それってどこかで経験した? どことやったの?」とかいろいろ聞く。一方で、アメリカ人は「初めて? 絶対俺が初めて? 分かった、やる」みたいな(会場笑)。この違いが一番大きいと思う。新しい発想をどんどん受け入れていく。やっぱりテスラの成功には、そういうアメリカの地の利があったんじゃないかなと思う。我々も今は国土交通省とお話をしたりしているけれど、たとえば新しい技術を日本で投入しようとしたら、「それ、実績があるんですか?」「テストってどうやるんですか?」と聞かれる。で、新しいものだからまだ実績がないと言っても、「じゃあ、どこかの事例を持ってきてください」と言われたりする。特にアメリカとの違いとしてそういうところがある。今までにない新しいものを出しやすい環境というのはあるんじゃないかなと思う。

たとえば我々の車の航続距離はテスラの半分以下だけれども、技術的には伸ばすことができる。バッテリをそれだけ積めばいいわけで、そのコスト交渉さえうまくいけば可能だ。ただ、それだけのバッテリを積んだとき、「どういうテストをするんですか?」「今までに事例はありますか?」と聞かれる。今我々は『i-MiEV』で使っているバッテリを使っている。すると、「『i-MiEV』がこれしか積んでいないのに、あなたがたベンチャーがその倍を積んで大丈夫なんですか?」となって、先例の提示を強く求められる。それに対応する我々の実力もまだ足りないという話だと思うけれども、今後はそこで一言伝えたうえでぐいぐい進めていくような発想方法が日本でも増えると思う。そういう方向に行政や認証部門の意識を変えながらやっていけると、我々もテスラ以上のものが今後商品として出せるようになると思う。そうしていろいろなところを巻き込んでいけば、非自動車産業の部品メーカーさんもどんどん入って、まったく違うIT発のクルマができる可能性も広がると思う。そんな風に自動車産業にいろいろなプレイヤーが飛び込んでくる状態にできたら、我々も次のイノベーションを起こせると思う。

会場(続き):テスラは大変人気がある。電気自動車はガソリン自動車よりも参入障壁が低いと言われているし、それなら差別化のポイントが重要になるのだと思うけれども、そこでなぜテスラがあれほど注目されるのだろう。「たとえば技術面で何か違うところがあるのかな」と思っていた。

小間:電気自動車というのは、実はすごくローテクだ。すでに研究開発し尽くされた技術を徹底的に使うことが良い商品づくりにつながるのだと思う。で、テスラの人気が高い理由だけれども、やっぱりイーロン・マスクという著名な社長が大変なお金を使って、大きなプレイヤーを巻き込んでいったからだと思う。これはすごく勉強になる。まず自分がお金を出す前に頑張っていたというのもあるし、誰が買ってくれたとか、行政がどれぐらいのお金をさらに補助金として出してくれたとか。あるいはトヨタやGMがつくっていた工場を買ったりして、ものすごい速さで巻き込んでいく。それが圧倒的に早かったというのがあるのではないかなと思う。

我々の資金力は、イーロン・マスクが入ったあとのテスラと比べると1/20前後だ。ただ、テスラは10年で現在のようになった。我々はこれから5年目をスタートさせようというところ。ちょうどテスラがロードスターという最初のモデルを出した頃で、そのときはアメリカ国内でもそれほど認知度は高くなかった。ただ、彼らがそこから急速にスピードアップしたのは、先ほど言ったように研究し尽くされた技術を次々採り入れたからだと思う。資金を集めることができたら我々も同様に成長できると思うし、テスラの事例は、「アメリカだからできた」「テスラだからできた」というものではないと思う。

では、日本の自動車メーカーになぜそれができなかったのか。いろいろな人がいろいろなことを言っているけれども、そもそも日本では電気自動車に投資してしまうと自分たちが持っているエコシステムが使えなくなるという面もある。それに、昔からあるガソリン自動車のメーカーが電気自動車をやってもあまり注目されない。それよりも、新しいプレイヤーが新しいやり方でやったという事例が目新しさにつながる。自動車には大変な広告費がかかるものだけれども、テスラはそれをほとんど圧縮して、「こういうような新しいタイプのものですよ」という主張をどんどんしていった。それが、ボディブローのように市場に効いたのではないかなと思う。

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澤田:私たちの分野では、それまでにないものを発想することがイノベーションということになると思う。今でこそ生簀で魚を飼うのも卵から育てるのも当たり前だけれども、当時は世界中探してもそういう発想をするところがなかった。あと、総合大学として他部門との協力があったかというと、まったくなかった。ただ、今はそれが始まりつつある。それがあのレストランだ。あちらには梅干やフルーツといった和歌山の農産品が使われている。それを組み合わせて消費者の方に喜んでいただくという発想をしている。しかも、食器には芸術学科の学生が焼いたものを使用しているし、店の仕組み等を経済系の学生が説明したりしている。これは私たちの頃はなかった動きで、トップダウンによって生まれたものだ。

従って、私たち自身が農業に参入するのは難しいけれど、複合的にやることはある。ミドリムシの話と少し近いというか、植物プランクトンを育て、それを魚に食べさせ、そのフンを植物プランクトンの栄養として利用するという養殖はある。ただ、和歌山県は農業県でもあるので、他分野との協働という形でやりたいと思う。

会場(丹羽多聞アンドリウ氏:株式会社BS-TBS コンテンツ推進局局長 兼 事業部長兼統括プロデューサー):イノベーションを起こそうとしても、ビジネスに結びつかない、あるいは社内や学内で反対に遭う等々、いろいろな困難があると思う。その辺はどう対処していらしたのだろう。コツみたいなものがあれば伺いたい。

会場(松嶋啓介氏:シェフ/株式会社アクセレール代表取締役社長):根拠のない自信がないことにはイノベーションは起こせないと思っているが、皆さまはどういった世界を新しくつくりたいと思ってイノベーションを目指しているのだろう。あと、大きな企業が地域に生まれるとレストランは潤うのだけれども、皆さんのお勧めレストランがあればぜひお聞きしたい。飲食店がイノベーションを起こし、世界に出て行く企業とともに発展していくことが6次産業化の大きな課題だと思っているので。

出雲:イノベーションのコツは…、あったらお金を払うので教えて欲しい(会場笑)。ただ、我々が「雑菌は入ってきてもミドリムシが食べられなければいいんだよね」というところに到るまでは、雑菌との戦いの毎日だった。雑菌が入ってこないようにするための実験を、もう何千回と重ねたうえで、ある日ぱっと違う方法を思いついた。だから「どうすればイノベーションを起こせるのか」「どうすれば斬新で新しい切り口が思いつくのか」と聞かれても、「そんなの知らないよ」と。既存のやり方でほかの人が失敗したことは、我々もすべて体験している。そのうえで、ようやく何かがきっかけになって違うことを思いつく。少なくとも私の体験はそういうものでしかなかった。すごく賢い切り口を思いつくといった性質のものではない。とにかく煮詰まるまで考え続け、思考回数が十分な回数に達した人に、ある日ぽっとインスピレーションが降りてきてイノベーションにつながるのだと思う。だから資金の量でも時間の長さでもなく、強いて挙げれば試行回数が一つのインデックスになるんじゃないかなと思う。

あと、レストランは「NOBU」が好きだ。海外出張に行ったときは「NOBU」に行く。どこもすごく流行っていて、「どうしてこんなに人が来るんだろう。どういう演出をしたらこんなに人が入るのかな」なんていうことをよく考える。すごく勉強になることが多い。日本人シェフがグローバルに展開しているお店にはなるべく行くようにしている。

小間:イノベーションは結果だと思う。それで、「最終的には何によって売上が増えたのか」といったことは、あとで検証して分かるものだと思う。ただ、別セッションで村田(大介氏:村田機械株式会社代表取締役社長)さんがおっしゃっていた、「どんどん真似をして新しいものを生む」というのはイノベーションの一つの方法だと思う。今はインターネット上にあらゆる知識があるのだから、それを実際にやってみること。賢い人たちが「京都の部品メーカーの部品を集めたら電気自動車ができるんじゃないか」と言っていたけれども、誰も実際にはやっていなかったわけだ。それを実際のビジネスにすればイノベーションを起こせると僕は思っていた。だから、結局イノベーションというのは探して行動することなのではないかなと思っている。

澤田:3人とも同じ結論だと思うけれど、イノベーションを起こすためには、やってやってやり抜く、考えて考えて考え抜く。これしかないと思う。それをすれば根拠のない自信じゃなくなる。確信になる。それで、「とにかくやらなきゃいけないんだ」ということになれば、それ以上に強いことはない。反対があろうと何があろうと進めていく。青色LEDだって何百回も失敗して、それでもやってやってやり抜いたからできるようになった。そういうものだと思う。あと、レストランに関しては言うまでもないと思うけれども(会場笑)。我々もご指摘のようなレストランでありたいと思う(会場拍手)。

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柳川:今まとめていただいたように、やはり考え抜くことが必要なのだと思う。また、考え抜くためのエネルギーは、自分がやりたいことや自分が面白いと思うことをやるからこそ生まれる。そうでないとエネルギーは出てこない。そこが大事なポイントだと感じた。で、それはベンチャー企業だけではなく、大きくなった会社にとっても重要だと思うし、昨日今日と出ていた、「泥臭く、根っこを持ち続ける」という話と、実はまったく共通しているとも感じる。結局、それは自分が実現したいものを会社が大きくなってもしっかり持ち続けるということだ。「大きくならなくてもいい」とのお話があったけれども、少なくともそれが会社を持続させるのだと思う。また、それが世界に通用するものにしていくための大きな原動力にもなる。今日改めて御三方のお話を伺って、そのように感じた。あと、何かお勧めのレストラン等で言い残したところがあれば(笑)

小間:実は今、大阪のグランフロントでお勧めレストランを集めた本を出そうとしている。これは新規ビジネスではない。私は、学生さんや新しいビジネスをトライしてみたいという人を集めると、その発想の塊だけでイノベーションみたいなものが起きると思っている。それで、起業を志す学生さんや社会人の方とともに、「大阪のちょっと贅沢レストラン」という本を出すので、ぜひ。980円です(会場笑)。で、その本づくりで集まった方々が…、就職活動のときに「私はこの本出しましたと」と言えるようにしたいという下心で参加しているのもいるけれど、「ビジネスっておもろいんじゃないか?」と思ってくれたらいい。それでどんどんビジネスのほうに振れて、起業したり、自分たちが思っているイノベーティブな発想を動かしてみようと思うきっかけになるのではないかなと思う。そういう人たちとつながっていくことで、いいシナジーができてくると思う。

柳川:文化の重要性ということが昨日からずっと言われている。そのなかで飲食店のネットワークみたいなものもすごく重要になってくると感じる。まだまだいろいろお伺いしたいが、ちょうど時間になったので以上にしたい。

※開催日:2014年10月18日~19日

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