選択する未来 ~人口減を食い止め継続的に成長する方法とは~[2]
御立尚資氏
御立尚資氏(以下、敬称略):檀上の御三方を誰か仕切れるのかと思うし、はっきり言って偉い先輩が喋っているのを途中で止めるのは難しい(会場笑)。三村さんは私より20年も前に同じビジネススクールを出られたし、宮内さんは経済同友会の大先輩だ。で、石黒さんは先輩じゃないけれども、これまた話を止めるのが一番難しいかもしれない(会場笑)。そういう状況ではあるが、精一杯努めたい。途中からはインタラクティブに進めていきたいと思う。
さて、人口問題への取り組みに関しては、三村さんのお話にあった通りだ。安倍政権の各種政策には賛成の人もいれば反対の人もいると思う。ただ、30年後や50年後に現在を振り返ったとき、「当時の安倍政権は画期的なことをしたよね」と間違いなく言えるのは、人口問題を真面目に正面から議論しようとしたことではないか。これは誰もが話したくない問題だ。人口問題を真面目に推計すると、たとえば年金でさらにダメなところが明らかになったりする。移民の話も含め、したくない話まで含めてすべて、パンドラの箱を開けて議論しなければいけないのが人口問題だと言える。それを、少なくとも正面から議論しようという動きが今は始まっている。
ちなみに、私自身は人口問題をすごく単純に、「数と形と場所の問題だ」という風に整理している。人数が少なくなるという数の問題、人口ピラミッドの形が逆三角形になって上の世代を支えられなくなるという問題、そして場所という問題だ。トータルの人口が1億人か8000万人かは別として、今はそれがばらばらの地域にいる。それで集約するところと、もう成り立たなくなるような…、増田さんのレポートでは「消滅可能性自治体」というかなりキャッチーな言葉が使われたが、もう成り立たなくなって消滅するところが出てくるかもしれない。そうした場所の問題も考えないといけない。
そこで、まず宮内さんにお伺いしたい。経済成長は働く人の数と資本、そして全要素生産性の三つで説明される。ただ、イノベーションが起こりやすい社会とそうじゃない社会があるという意味でも、「本当に人が減ったらイノベーションが減るの?」という視点もあるように思う。いろいろなお立場でイノベーションや規制緩和を考えてこられた宮内さんは、人口とイノベーションをどう関連させていらっしゃるだろうか。
宮内義彦氏
宮内義彦氏(以下、敬称略):とても答えられない質問をいただいて弱るけれども(会場笑)。私もG1 サミットには初めて参加させていただく立場で、しかも三村さんよりずっと年上でございますから、余計に違和感がある(会場笑)。本会議で最高齢かなと思う。
さて、ご覧になった方はいるかもしれないが、先日、アメリカの雑誌「TIME」が赤ん坊の写真を表紙に載せた。なんだろうと思って読んでみると、「今生まれた赤ん坊は140何歳まで生きる」といった記事だったと思う。80代で亡くなるということではない、まったく別の世界が生まれつつあるのだなと感じた。人口問題についても同じだ。今の常識で物事を考えて、「そのうち日本人がいなくなる」と言うような議論はおかしいと思う。そこは、我々のやり方や考え方次第で変えることができると思う。
私が子どもの頃は「一億一心」という国是があった。1億の国民が心を一つにして戦争に勝とう、と。ただ、実は当時は1億いなかった。1億を超えたのは第二次大戦後だ。大戦後、急速に増えて1億3000近くにまでなった。人口というのは極めてダイナミックだ。さらに子どもの頃を思い出してみると…、当時の言葉のままで言うと、「支那には四億の民がいる」といった歌があった。「中国には4億の人々がいる」と。それでも当時は大国だと思っていたわけだけれど、今は14億。人口というのはすごい。私の生きているあいだにこれだけ変わるんだと思う。だから、ここ何年かの推移で絶望的になるべきじゃない。変えていこうと思えば変えることができる。
大事なのは出生率を2以上に高めることだけれども、現在の日本には触れてはならないようなタブーがたくさんある。たとえば日本の社会には欧米に比べると非嫡出子をすごく忌み嫌うような風潮がある。また、「なぜこれほど?」と思うのだけれども、人口中絶の数は年間25万とも言われる。それを止めただけでも人口減少は止まる。それなら、人工中絶の原因を探っていくことで現状を変えられるとも思う。
また、私も含めて年寄が大変元気になって、長生きするようになった。これは政策上で、年を取った人に厚い手当てを行ってきた結果だ。でも、一方では出生率が下がっているわけで、これは赤ん坊を生むという部分で政策を講じてこなかったからだ。従って、まずは中絶や非嫡出子に対する考え方を変えるような、社会的風土づくりが必要だと思う。それともう一つ。高齢化社会になったのは医療が高齢者にずいぶん行き渡ったからと言える。だから、今度は赤ん坊にもっとお金を回す政策を講じていけば、相当なインパクトがあると思う。批判を省みず乱暴な政策をご提案すると、第1子に100万円、第2子に300万円を渡す。で、そこから問題だ。第3子にはめちゃくちゃご褒美ということで1000万円。これで出生率は一気に上がると思う(会場笑)。
どれほどの方が第3子まで産んでくれるかといえば、10万人もいないと思う。ただ、10万人に第3子まで産んでいただけたら人口もずいぶん変わる。それなら1000万円差し上げてもまったく構わないと思う。そういうダイナミックな対策を実行すれば大きく変わる。とにかく、社会的規制のような考え方の変化と、あとはお金をどうするか。この二つによって大きく変わると思う。
御立:タブーとされている問題でも正面突破すればダイナミックに変えることができるというお話だと思う。「選択する未来」委員会のご報告を拝見していても、まずは年少人口減少を2020年代の始めぐらいまでになんとか食い止め、それで2040年頃には人口減少の幅も少しずつ減っていくようにする、と。で、「今世紀いっぱいかけて、およそ1億人で定常化したい」とある。そういう流れなか、まずは出生のところでタブーとされている議論をやらざるを得ないというお話だと思う。
人口問題の議論には、働き方の問題や社会のあり方の問題等々、いろいろなタブーが絡んでくる。たとえば、結婚しているカップルだけを見ると合計特殊出生率は2をはるかに上回っている。となると、大きな問題は、実は非婚じゃないかという見方もできる。で、非婚の問題はさらに二つに分かれていて、結婚したくないか、経済的にできないか。あるいは、事実婚の場合は「子どもをつくりたくない」というのもある。この辺について、石黒さんはどうお考えだろう。タブーを含めて、「人口問題ではここを議論しないと意味がない」といったお考えがあれば、ぜひ教えていただきたい。
石黒不二代氏
石黒不二代氏(以下、敬称略):実はいろいろなタブーを破りながら議論をしてきたつもりだ。経済産業省の委員会をはじめ、私はここ7~8年でいくつかの委員をやらせていただいたけれど、「選択する未来」委員会は今までと大きく違うと感じた。いつもなら、そうした委員会には学校の先生とテーマに沿った団体の方と、そして大企業というか経団連の方が入る。でも、「選択する未来」委員会には、学校の先生はいらっしゃるけれども、民間からは私と、そして農業の分野で活躍している加藤(百合子氏:株式会社エムスクエア・ラボ代表取締役)さんと、ロボットの分野で活躍している高橋(智隆氏:株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長)君の3人が入った。これほど小さな企業から特殊な人が集まった委員会に、私は初めて参加した(笑)。それで、少し上目線になるけれども、政府のやる気を感じた。
また、委員長であられる三村会頭は、見かけは紳士のおじさまなのだけれども(会場笑)、「とにかく、なんでも言え」と。「タブーを破らなきゃこの問題は解決できないから、なんでも言ってくれ」とおっしゃる。それでとても勇気づけられ、タブーについて言及しまくった。
今、人口は1億2000万人だけれども、人口が云々というのは私も普段あまり気付かない。たとえば、先進国のなかで今後も発展し続けるのはアメリカだけだということはよく言われる。なぜなら人口が恒常的に増えるのはアメリカだけだから。そういう事実は皆知っている。でも「じゃあ、日本の人口減ってどうなの?」と。それで「50年先を考えろ」というお話だった。「…50年先?」
この委員会にいつも出席してくださっていたのが小泉(進次郎氏:衆議院議員/内閣府大臣)政務官と中山(泰秀氏:衆議院議員)外務副大臣だったけれども、50年後、小泉政務官は80歳になっている。私も云歳になっていて…、まだ生きていると思うけれども(会場笑)、とにかく人口は1億2000万人が8000万人に減っている。で、65歳以上が40%以上になり、恐らくこのままだと30~40%の地方自治体が消滅する。そんな姿を想像すると、日本の街の風景がまったく変わることが分かる。
では、なぜ人口減がいけないかと言えば、もちろん出生率の低下による全体の人口減もあるけれど、突き詰めると生産年齢人口の減少が問題になるわけだ。働くことのできる可能性がある人の人口が減って、実際に働いている人も減っていく。インプットが少なくなればアウトプットも少なくなるわけで、本当にミゼラブルな社会がやってくるということをまずは我々も肝に銘じていた。
あと、タブーに関して言うと、女性の不妊もあれば、婚外子、卵子凍結、代理母の問題等々、いろいろな話がある。たとえば婚外子はアメリカとフランスに多いが、その内情は2国で異なる。アメリカの場合、要するに10代でちょっと誤って子どもができてしまったという感じだけれども、フランスの場合はそもそもファミリーレジストレーションをほとんどしなくなっている。だから、婚外子ではあるけれども比較的長期的パートナーとのあいだで子どもが生まれていて、それでうまくいっているわけだ。
一方、政策に関して言うとフランスは子どものために2000万円ほど出している。そこまでやらなくてはいけないわけだけれども、そこまでやっているから人口が増え始めている。そういったことをいろいろと勉強した。女性は40歳を過ぎると受精する確立がほとんどなくなってしまうとか、50歳での出産というのは二人に一人の母親が亡くなってしまうという大変危険な状況であること等々…。だから、とにかく早いうちから、「いつ産めるか」「だから、いつ産みたいか」といったことを考えさせないといけない。結婚でもなんでもいいのだけれど、そういう教育もしていかなくてはいけないというのが我々の委員会では共通認識になっていたりする。
御立:たとえば家族のあり方に関して、特定の価値観を持つ人からすると、「そんな議論したくない」となるが、そういう議論をせざるを得ないということだろうか。
石黒:もちろん党のなかにもコンサバな先生方はいらっしゃる。ただ、家族制度のあり方について根本的に考え方を変えるというのも一つの方向だと思う。
御立:人口問題についてまわる家族制度の議論というのは神学論争のようなところがある。夫婦別姓の話にしてもなんにしても議論がまったく成り立たず、「私とあなたは立場が違います」で終わっちゃう。しかし、そこで今回の委員会は、「これ、トレードオフはなんなんだ」といった具体的議論へ進むきっかけにはなったのだろうか。
石黒:委員自体がかなり進んでいるので、きっかけにはなった。私の場合は不妊の問題だとかなんだとかについて、いろいろとマトリックスを書いた。で、たとえば「もう一人子どもが欲しいんですけど」という話をしたら、「石黒さんはそのマトリックスの欄外です」と言われたけれども(笑)。ただ、合意をするためには根本的な考え方をまず変えなきゃいけないねということで、かなり進んだ議論になったと思う。
御立:三村さんにも伺ってみたい。タブー視されてきたテーマの一つに移民がある。数で言うと、移民だけで人口減を抑えるのはとても無理だと思う。ただ、フランスの例を挙げるまでもなく、人口が増えている国や、回復傾向にある先進国は大抵移民に対してオープンだ。このあたりではどういった議論があったのだろう。
三村:我々はお医者さんを呼んで妊孕力(にんようりょく)という話を聞いたことがある。要するに男性も女性も「能力」がぐっと落ちるわけだ。だから、3人産もうと思ったら20代のうちに1人か2人産んでいないと、ちょっと無理だという話になる。となると、本当は17~18歳が1番良いのだけれど、ともかくも23歳ぐらいまでに産まないと3人は産めない。ただ、「そんなことを今さら言われたって」となるわけで、今度はそういう医学的な話が教育現場で採用されるようになると思う。
御立:妊娠の可能性は5年ごとで半分になるといったことを教育しよう、と。
三村:そう。そういう事実を知らせていく。あと、日本は結婚年齢が妊娠年齢よりも早い。これは諸外国と比較して異常な状況だ。諸外国では妊娠年齢のほうが結婚年齢より早いというのが一般的だ。
御立:できちゃったというのが当たり前である、と。
三村:意図的にできたケースもあるし。従って、フランスでは婚外子がおよそ52%となるのに対し、日本では2%前後。ここに手をつけるかどうかというのは難しい議論になる。そうした日本の美風にチャレンジして、「婚外子は増えたほうがいいんだ」と、我々の委員会として言うところまでは踏み切れなかった。むしろ今は晩婚晩産だから、「その早期化に力を注いだほうがいいんじゃないか?」と。そうなると、今は見合い結婚というのがほとんどなくなってしまって、結婚式に仲人も入らない。「それなら、信用できる婚活をもっと増やしてはどうか」と、いろいろな提案が行われていった。
そのなかで、もちろん初期の段階から移民の議論もなされている。現在はどれほど入っているのか…。とにかく、「たとえば毎年20万人入れてはどうか」というのがアイディアの一つとしてはあった。ただ、それがなんらかの経由でマスコミに伝わって、「我々の委員会では毎年20万人を考えている」みたいな報道がなされてしまって、割ときつい反応に遭った。ただ、この議論は、いつかはしなきゃいけないと個人的には思っている。ただし、出生率の低下を移民でカバーしようというのは…。
御立:無理ですね。
三村:そう、無理だ。では、100万人が移民してくればまったく違う国になってしまう。まだそこまでの覚悟は日本にないし、合意もできていないと僕は思う。となると、とりあえずは移民でなく、コントロールされた外国人の活用になると思う。それをなんらかの形でやる方向に行かざるを得ないのではないか。ただ、とにかく今後力強く推進していくことで、出生率のアップ、年少人口の増加という具体的成果が挙がればいいと思う。
また、地方の疲弊も出生率の低下も、やはり地方の経済活動が大変不活発になってしまったことに理由があると考えている。やはりデフレと円高が我々の経済全体に大きな影響をおよぼしてきた。まあ、それでデフレ脱却ということになっているわけだけれども、とにかく今はそういう状況から新しい均衡点に日本が移ろうとしている。そうすると、宮内さんが先ほどおっしゃっていたように、いろいろな対策に関しても、より前向きに行える条件が整いつつあるように思う。絶望することはまったくない。なにしろ、誰もやったことがないんだから。
→選択する未来 ~人口減を食い止め継続的に成長する方法とは~[3]は5/27公開予定
※開催日:2015年3月20日~22日