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挫折は禁止!人財部門が変わらないと組織は変わらない

投稿日:2015/05/07更新日:2019/04/09

日立製作所が取り組む、グローバル展開における人財マネジメントの要諦[2]

今日お話ししたようなことを現実にやっていくなら、人財部門を変えていかないとダメだ。結局、両方やらないといけない。で、これをスタートさせてしばらく経ったとき、「自分たちは一体どういう部門なんだろう」と思って、グローバルで4300名を対象にした調査を行った。それで、たとえば「どの仕事にどれほどの時間を使ってるの?」という質問への答えを見てみると、7割がアドミンオペレーション、2割がプランニング、そして1割が戦略となっている。つまり、ハイパフォーミングな組織ではまったくない。7割がオペレーションに費やされるというのはどう考えてもおかしい。年間500億円を使うとして350億がオペレーションに使われるわけだから。オペレーションが重要ではないと言うわけじゃない。「ただ、少なくともビジネスに価値を生んでないよね」と。その観点では、やっぱり直さないとダメだという話になる。

では、どこに時間を割いているかというと総務の採用や異動。つまり事務だ。あとは組合と、退職等の雇用関係手続き等。これで5割。で、肝心要の人事戦略と組織開発とタレントマネジメントは5%ぐらいしかやってない。「これじゃダメだよ」と。僕らはそこでラインに対しても同様の質問をした。「どういったことが重要で、その重要な仕事に関してHRにどれほど満足していますか?」と。ラインのおよそ4000名と、人財部門で主任以上となるおよそ1400名を対象に行った。すると、従業員のエンゲージメントはすごく大切だと、ラインは思っている。でも、その満足度は21%。事業成長についても72%が大切だと言う一方で12%しか満足していないという結果になった。これは危機的だ。何かがおかしい。全体では、「満足している」が27%で、「満足していない」が29%。ここが逆転しているというのは大変なことだと思う。ただ、57%の人は「信頼できる」と言ってくれている。これ、きっとレガシーなんだ。なぜ満足度が低いのに信頼できるのか。すごく嬉しいけれども、満足度はもっと高めないといけない。

満足度が低いのは、経営課題にきちんとアドレスしていないからだろう。仕事の7割がオペレーションなわけだから。だから、僕はよく、「僕らはほぼ絶滅危惧種じゃないか。このままだと絶滅するよ」と言っている。「危惧もされてないかもね」と(笑)。ビジネスに価値を提供できなければコストセンターになってしまう。で、コストセンターは安いほうが良いし、最後はアウトソーシングになる。それは会社としても絶対に良くないと思う。だからそうならないよう、僕らがビジネスラインに価値を提供することが一番の課題だ。冒頭で、「これはビジネスに対する約束」と申しあげたけれど、結局はそこに戻ってくる。やっぱり僕らの部門は変えていかないとダメだと思う。

ラム・チャランという著名な学者が今年7月か8月の「ハーバード・ビジネス・レビュー」で、「もうHRは分けたほうがいい」と書いていた。「価値を出さないのならアドミニストレーションと、リーダーシップおよびオーガニゼーションに分けるべきだ」と。で、後者はCEOにレポートさせて、アドミニストレーションのほうは…、たとえばコンプライアンスやベネフィットもこれに含まれるけれども、それはCFOにレポートさせたら良いのではないかと言っていた。やっぱりアメリカでもHR部門は苦しんでいるというか、どうやって価値を出すのかという点で僕ら以上に考えてきている。それでもなかなかうまくいっていないのが実情なのだと思う。ましてや、僕らはさらに大変だと思う。

で、これを提案したときもすごく反発されたけれど、古典的な勤労部門を解体して新しい形を構築しようと思った。現在は人財部門の基本形として、まず総務部があり、その下に勤労課と庶務課がある。で、勤労課の下に人事・労務・教育・安全・保安、そして庶務課の下に庶務・福利・文書と続く。これは恐らく50年前から変わっていなかったと思う。今は変わってきているけれども、それまでは「人事部門」でなく「勤労課」だった。職場管理をベースにした組織モデルだったのだと思う。

それまでは職場管理や勤労管理が経営課題だった。きちんと人を集めて仕事をさせ、生産を行って売上や利益を出す。そういう大きな経営課題に人財部門はきちんとアドレスしていた。だから信頼されていたし頼りにもされていたのだと思う。しかし、現在の経営課題は変わってきた。職場管理の優先順位は下がり、成長やイノベーションやグローバル対応が経営課題としてより重要になってきた。「そこにきちんとアドレスできる体制になっていますか?」という話だと思っている。

だから今の状態を壊して、ビジネスへの価値貢献をベースにした組織コンセプトにしなければいけない。組織のコンセプトは、「ビジネスパートナー」、「センターオブエクスパティーズ(COE)」、「シェアドサービス」。「なんだってまたアメリカでやってくることを持ってくるの?」と思うかもしれないが、残念ながら、やっぱりこうなる。実際に日立のなかの組織もそういう形に変えつつあるし、それでビジネスパートナーということも少しずつ定着してきている。とにかく役割を変革する必要がある。

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僕らは2015年までにワールドクラスでグローバルな人財部門になるという目標を掲げてきた。それで2015年までに足場はできるというか、入り口に到達すると思う。では、そのあとどうするか。次の中期経営計画終了年度となる2018年までの3年間で、ラインのマネージャーに人財管理をさせる形としたい。それで、「別に人財部門から権限がなってなくたっていいでしょ?」と。現在はラインマネジメントが事業・競争を、そしてHRが人財部門を見ているけれど、前者にHR機能を持たせてピープルマネージャーとして処遇や育成まで行っていく。一方、HRは役割を変える。ビジネスに関してはビジネスパートナーがいて、COEがいて、そしてオペレーションではきちんと人財マネジメントできるツールを用意してラインに提供する。そういう方向を考えていく。

「パフォーマンス・マネジメントのオーナーはラインだよ」と言っているのは、その布石を打っているというのもある。ただ、これも大変だ。今までより大変かもしれない。まずは二つのことが想定される。一つは大きなブーイング。ラインからは「仕事を押し付けるな」、HR部門からは「権限なんて渡せるか」というブーイングが間違いなく出てくると思う。でも、方向はこれだと思っている。

僕らは今、「第一世代のビジネスパートナーをつくろう」ということで、トレーニングプログラムをつくってすでに1年ほど実施している。そういう形で少しずつ定着してくるといいなと思う。そのうえで最終的にはソリューションを提供できる人財部門にしたい。いろいろなHRのコンポーネントやピースがあって、それをまとめてツールに組み合わせる。そして、それぞれのビジネスにソリューションを提供できるようになれば、価値を提供できたという話になるのではないかなと思う。

あと、人財育成のお話もしておきたい。現在の日立では成長が最大のアジェンダになっている。でも、実はあまり成長していない。なぜか。本来、成長というのはそれを支える戦略やオペレーション、そしてカルチャーといったものが相互補完的に回っている姿だと思う。「では、どこがおかしいんだっけ?」と。そこで人財部門に現在与えられているお題が、「どのように成長する文化やリーダーをつくっていくのか」を示すことだ。それが難しいわけだけれども(笑)。

今はリーダー、特に日本人の強いリーダーが決定的に不足している。もちろん育成選抜の仕組みはつくったし、タレントプールもつくった。グローバルやリーダーシップといった部分にフォーカスを当てたプログラムも3年前に始めて、すでに6500人ぐらいが受講している。25億円ほどかかった。で、当然ながら、「一体どんな効果があったのかな」という話になる。それでエンゲージメントサーベイのスコアと会社ごとの経営研修受講率を見てみると、かなりの相関がある。受講率の高い会社はサーベイの総合スコアも高い。だから、僕らとしては6500人のプログラム受講を経てグローバル経営に向けた現実的な理解や認識評価は進んだと思っている。ただ、その質と量やグローバルリーダー人財の開発についてはまだまだだと思う。

今までは仕組みやプログラムをつくったりしてきたけれども、それで成長を牽引するリーダーが育っているという風には言えない。やはり仕組みで人は育たないということだ。ここは一番難しいところだと思うし、そこに答えがあるわけでもない。人財委員会というところでその議論はしているし、仕組みもつくってプログラムもつくってはいる。ただ、それでも十分じゃないという認識がある。「どうしてかな」と思うけれども、そこはまだ解けない。今は試行錯誤しながら進めている段階だ。

日立では研修というものが当たり前になり過ぎてしまったようにも感じる。だから、人を育成するのもリーダーの仕事という意識が会社全体でなんとなく希薄化したのではないかな、と。それを取り戻すためにどうすればいいのか。うかうかしていると、海外の人々がリーダーとして僕らの上長になるケースがどんどん出ると思う。当然、ビジネスがうまくいけば誰がやったっていい。ただ、僕らもそういう人たちと市場で戦っていこうと考えると、もっとしっかりしないとダメなんじゃないかとも思う。

たとえば今はタレントプールをつくっていて、トレーニングプログラムも用意している。で、タレントプールに入ってくる人は皆そのプログラムを受けるわけだけれど、本来、それはおかしいんだ。「この人は何が足りないのか。何が必要なのか」という個別のアプローチが必要なのに、人財部門はそれをあまりしていない。個別に着目して、「そうすると、この人を伸ばすためにはこうするのがいいよね」ということを、少なくともトップの何%についてはやっていかないとダメじゃないかなという気がしている。

僕らは今までそうしたアプローチをあまりしてこなかった。人財育成にあたって、「はい、ローテーション」と。で、「海外っていいよね。タレントプールからは次に誰を出すの?」という風にしていた。でも、海外に出した結果を本当に評価しているのかというと、していない。チェックマークをつけてローテーションで出しているだけなら効果は上がらない。だから今までの施策を見直さなければいけない面も相当あると思う。

それに、人を育てるというのはすごくアナログだ。個人と個人の関係性ということを分かったうえでやらないといけない。人財委員会を開いて個々人のプログラムをつくり、それで「人が育つんだよね」と安心していても、そんなことはない。たとえば人財委員会を半年ごとに開くのなら、その半年間で上長がその人に育成という観点でアプローチして、アクションをとる必要がある。それをやらないと恐らく人は育たない。

あと、これまではパフォーマンス・マネジメントやグレーディングといった、いろいろなインフラを入れてきた。ただ、それは結局のところ、グローバル企業がやっているグローバル標準の仕組みだ。「じゃあ、日立をそういう会社にするの?」と。どんな会社を目指していくかを考えなければいけない。そこに正解というものはないと僕は思う。それぞれ合理的な背景とともに成り立ってきたことだから。重要なのは、5~10年先を見据えて「どういう風にしたほうがいいのか」という軸を持つこと。また、日本人としての強みをダメにしたり弱めたりするような施策は打たないというのも大切だと思う。

最後になるが、実は僕らがつくってきたのは基盤であり、アプリケーションだ。で、そこは何を使ったっていいじゃないかと思っている。ただ、なければ絶対にダメなものなんだ。それを使ったうえで、やっぱり競争力の源泉として最も重要なのはOSだと僕は思っている。ではそのOSが何で成り立っているのかというと、企業のコアバリューであり、マインドセットであり、リーダーシップ。そのうえで基盤・アプリケーションが使われるわけだ。とにかく、競争力の源泉はOSだと信じている。だから、基盤・アプリケーション部分でアメリカ企業のやり方を選択することについては、「何が悪いの?」という風に僕は開き直っている。重要なのはOSだから。

ということで、最後に「挫折禁止」ということを言っておきたい。グローバルなチームでこういう仕事をしているとき、必ず‘Failure is not an option.’と言っているので、それをお伝えしておきたかった。以上になる。ありがとうございました(会場拍手)。

→ 日立製作所が取り組む、グローバル展開における人財マネジメントの要諦[3]は5/8公開予定

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