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言葉を噛み砕いて意味を浸透させることが大切

投稿日:2015/04/03更新日:2019/04/09

G1経営者会議 日本の資本市場とコーポレートガバナンス

水野:巨大な機関投資家がすべてアクティブでやるのも現実的ではないなか…、ガバナンスの話から少し外れるが、GPIFでも「スマートベータ指数」や「JPX日経400」といった、たとえばROE重視の会社だけを集めたインデックスへパッシブに投資するような話もいろいろ出ている。機関投資家もそのあたりのバリューをキャプチャーしようと努力なさっていると思う。そこでもう一つお伺いしたい。これまでずっと、日本の機関投資家は海外の機関投資家から、「売上等の数字は見ていても利益率等は見ていないんじゃないの?」という批判を受けていた。そこに対しても今は動きが出ていると思うが、ROEやそのあたりの指標について、第一生命さんは株価とのどういった関連性を求め、あるいは考えて投資をなさっているのだろう。(42:05)

川島:TOPIX主要500銘柄を、過去20年間で平均ROEが高いほうから5部位に分けたうえで株価を追ったグラフがある。一番高い部位に2割、続いて高い部位に2割という風に分けて、最終的に5部位としたものだ。それを20年前の時点から、「よーい、ドン」と、株価の推移をグラフに示していくとどうなるか。ROE平均が20年間で最も高かった部位の折れ線は一番上に来る。株価のパフォーマンスが一番良かったということだ。以下、キレイにROEの順番通りになる。つまり、リスクマネーを投資する投資家からすると…、ROEは利益/資本だから、投資家からすると投じた資本を分母にして、上げていただいた利益が高いところほど企業価値が上がったことになる。(43:25)

ただ、これは振り返ってみて分かった結果だ。20年前のスタート時点でAの銘柄がどの部位に行くかは誰も知らない(笑)。それを当てるのが株式投資のゲームなわけだけれど、そこで「1部位にいく企業はコレだ」という目利き能力があれば、1部位にばかり投じられるから優位になる。すべて5部位に投じてしまった人は最も不利になるわけで、それに事前に見通す力が株式投資のゲームで必要になる。それで、できるだけROE等が高い銘柄を抽出したインデックスを丸ごと買おうといった動きも始まっているわけだ。第一生命でも「スマートベータ」という一部の要素を抽出した銘柄のインデックスをつくり、そこに投資しようという動きを始めている。(44:35)

そして、企業さんに対しては、「御社の部位は、最近までの実績で言えばここだと思いますが、これをもう一段上の部位に引っ張り上げるため、どういった企業戦略を考えていますか?」と。「設備投資や海外展開に関してどのようにお考えですか?」といった対話をしているという構造になっている。(45:41)

塩崎:対話の中身は非常に大事だ。対話をどれほど充実させるかが、今回のコードが成功するかどうかのポイントではないか。各機関投資家は今後、そうした「スチュワードシップ力」を高めるためにいろいろな研究をしていくことになると思う。そこで私が機関投資家の皆さまにぜひフォーカスしていただきたいと思っているのは、社外役員の評価だ。企業との対話を通じてその意識をきちんと伝えていただけると、日本企業ガバナンスにとって大きなプラスになると思う。(46:13)

ご存知の通り、監査役の方も社外役員の方も、いわば株主代表としてボードに入っている。そうした方々は実際にどんなパフォーマンスをしているのか。良いことをしているのか、それとも足を引っ張っているのか、本来は株主が見てあげないといけない。場合によっては経営者の考えに反対することでも、会社にとって良いと思うのなら行動しなくてはいけない。そこを株主が見てあげないと、彼らも誰に褒められるかが分からなくなってしまう。株主なら取締役会議事録を見ることができるのだから、そこで今の社外役員の方が株主の期待するパフォーマンスをしているのかを見ていく。それで、期待通りなら経営者に「この人は素晴らしいですね」と伝えるし、そうでなければそれも伝えてあげる。そうしたことが株式保有率を超えた意味で、経営者にとっての見られている感覚になると思う。また、社外取締役の方としても「誰のためか」という部分がより明確になり、やり甲斐や責任感にもつながるのではないか。(46:59)

水野:社外取締役の制度自体が日本では未成熟で、それができる人間も限られている。ただ、実はアメリカでも「お友達社外取締役」が増えていた時期から、少しずつ株主の監督が入るようになり、プロの社外取締役的な人々が増えていったプロセスがある。時間がかかっても、それをやっていかなければいけないのだと思う。ただし、そうした過渡期、皆さんが最も不安に思うのは、「最低ラインとして何を抑えておかないと法的にまずいのか」だと思う。「コードだから」と無視をしていると、今度は株主から訴えを起こされてしまう可能性もある。かといって、一晩のうちに取締役会の全入替ができるわけでもない。そうした過渡期をどう乗り切っていけばいいのかというご相談が実際にありそうな気がする。そこで塩崎さんはどんなアドバイスをなさるだろう。(48:23)

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塩崎:機関投資家側と企業側で違ってくると思うし、機関投資家はやはり目利きの力をどのように身に付けていくかという点で試行錯誤していくと思う。ただ、こちらはまだ時間的余裕があると感じる。一方、企業側に「訴えられるんじゃないか?」「クビを替えられるんじゃないか?」と。そういう不安がもしあるなら、「スチュワードシップ・コードは法的責任を問うものでは必ずしもなくて、むしろ経営者としての質を評価するものです」というお話になる。それを機関投資家が行うプロセスとして捉えていただく。そのなかで、経営陣として説明する力を高めていくことが不可欠になるのではないか。(49:43)

たとえば、どういったボードを構成するかについて。まだまだ日本では社長が選ぶボードと株主が選ぶボードにだいぶ距離がある。従って、社長が選ぶにしても、「これは合理的で、自身をチェックしてくれる方も入っていますね」となるような方を、日頃から考えておく必要がある。来年6月からは社外取締役についても説明責任が発生するので、今から考えておく必要があるのではないか。ただおっしゃる通り、社外取締役や社外監査役に関して素晴らしい人材を見つけるのは大変だ。ただ、有名な方である必要はない。それぞれの実情に応じて、「こういった観点で見て欲しい」という方を、時間をかけて探していくことが大切になると思う。(50:43)

三宅:先日、S&Pジャパンでも社外取締役を一人お招きするにあたり、日本取締役協会で行われていた「社外取締役のあり方」といったテーマの講習会に行ってきた。そこに銀行役員OBの方が数多くいらしていて、弁護士の方が説明をしている。ただ、議論の中身は100%、「何と何をすれば訴えられないか」(会場笑)。皆さん、「引退して暇だし、社外取締役を1~2件できればいいよね」とおっしゃるけれど、大変なライアビリティが伴うことも分かっていらっしゃる。ただ、どういった責任を負うかが分かっていないから、「こことここは抑えておきましょう」といった講習に終始してしまう。そういうこともあるので、会社側に根付くのにはまだ時間がかかると感じた。(51:51)

また、スチュワードシップを発揮しなければいけない側にも課題がある。先ほど川島さんからお話があったように、たとえば30兆の会社で3兆のエクイティとなると大変な規模だ。それ以外に債権も買っているし、ローンも出しているし、クレジットのポートフォリオと言ったら全体の半分ほどだろうか。となると、そこにアナリスト17人で実際に何ができるのかという気もする。それで増強していらっしゃるのだと思う。とにかく、コードをつくるのはいいのだけれど、スチュワードシップについてもガバナンスについても今は用意がまったくできていないのではないかというのが私の率直な感覚だ。(52:55)

水野:今回のコードの導入に関してはタイムフレームが明確にされていない。だから今は、「とりあえずお金を出している貴方たちが資本の力でモノを言いなさい」ということで、機関投資家側だけにルールだけが決まっている。受け手のガイドラインが一切決まっていない。今はそうした、非常に良くないタイミングだと思う。ただ、来年にはコーポレートガバナンス・コードということで受ける側のコードも出てくるとは思う。従って、どれほど人材を増やすべきなのかというのは両者にとってポイントだと思う。機関投資家とのミーティングが増えれば、当然ながら企業側もIRを増やさなければいけない。そうした人材に関するイメージがつかないという点でも皆さんは困っていらっしゃるのではないかと思う。第一生命さんは、たとえば「現在のチームをどれほどにまで拡大していくか」といった、具体的議論をすでになさっているのだろうか。(53:47)

川島:1点補足したい。クレジットとしては、企業さん向けに銀行が行っているような融資ということで社債を買っていたりする。で、そこについては、「会社が潰れないか」「ちゃんと利息を払えるか」といったことを調べる審査部という30名ほどのチームがアナリストとは別にいる。その一方で、株式投資に関して企業のパフォーマンスを調べる部門に十数名いるので、計50名ほどになる。ただ、それで万全かというと、やはり発展途上だと思う。そこで、アメリカの生命保険会社へトレーニングに送ったり、アメリカの保険会社に対する出資の際にそういったノウハウを吸収したりといったことが、現在進行形で行われている。(54:52)

ただ、コーポレートガバナンス・コードでは恐らく、社外取締役設置の事実上の義務化がうたわれると思う。場合によっては「複数置きなさい」といった話になるかもしれない。そうなるとご指摘の通り、「どこにそれほどの人材がいるの?」と。しかも「独立性のある」という冠がついたとき、「親戚のおっちゃんならいるんだけどな」なんていう話になるのが(笑)、企業さんの実情かもしれない。知見のある人材を本当に確保できるのかという問題が企業さんの側にもあると思う。(55:33)

また、投資家にも今はグローバルな観点が求められる時代だ。企業さんに「ライバルと比べて投資効率はどうですか?」といった話をするなら、国内だけでなくグローバルな視点で比較する必要がある。海外企業にも第一生命は投資しているので、そこから得られる知見とともに、「海外のS社と比べて御社の海外展開は進んでいますか?」と。そんな話ができる力も身に付けなければいけない。だから企業と対話をする部隊は世界にも広がるという感じも少ししている。いずれにせよ、今年から来年にかけては企業と対話していくため、そうしたことをステップバイステップでやっていく時期になると思う。そこは、日本経済がデフレを脱却して成長していくためにも通らねばならない道なんだろうと思う。まあ、精進しようと(笑)。(56:21)

塩崎:人材に関連してもう一つ。恐らく企業側では、今後数年間のうちに社外取締役と社外監査役の融合が進んでいくのではないか。実は、社外監査役をやっていらっしゃる方は大勢いらっしゃる。その経験がある方も。社外取締役とは異なり、社外監査役は法律上置かなくてはいけなかったからだ。ただ、実は法律上の各種責任についても機能においても、その二つはかなり近づいてきている。(57:28)

外国では元々コーポレートオーディターというものはなく、その役割はアウトサイドボードが担っていた面はある。従って、社外監査役をやっていた人材が社外取締役になったりする形で人材が融合するのではないか。会社の形についても同じだ。今度の法改正では「監査等委員会設置会社」というものができる。これはまさに監査役が今まで担っていた役割を社外取締役が担っていくような形で、両者を一致させるようなものになる。従って、今後は取締役か監査役かというより、業務執行取締役か非業務執行取締役かといったすみ分けになると思う。となると、実は日本でも意外と、社外取締役として活躍できる方の人材プールは大きいのではないかと期待している。(58:15)

水野:ガバナンス執行のようなコンセプトも、やはり輸入されてきたのちにあまり議論が深まらないまま皆が言葉として使い始めたため、いろいろと不安を生んでいるのが現実だと思う。その辺の議論も今後深まっていくことを期待したい。最後にひとつだけ質問したい。こうした議論では「日本的なもの」というアジェンダがよく出てくる。日本の歴史や文化をシステムにどう反映させるべきか、あるいは繁栄させるべきではないのかといった議論が必ず出てくる。日本版SOX法や日本版NIH等々、「日本版」とつくものはほかにもいろいろあって、そのなかでもスチュワードシップ・コードは比較的オリジナルに近いと思う。ただ、今回二つのコードが導入されるにあたって、日本の特殊性を生かすという視点で何か考慮すべきことはあるだろうか。あるいは「考慮してはいけない」とお考えになっているものがあれば、その辺のご意見も伺いたい。(59:13)

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三宅:やはり言葉から入るべきだと思う。ガバナンスやスチュワードシップという言葉をもう少し噛み砕いて、それが我々にとって何を意味するのかを浸透させないといけない。その意味でも時間がかかると思う。皆でひとつのイメージを持ち、「スチュワードシップ、そしてガバナンスとは何か」というところから始めるべきだと思う。そうでないと、ルールこそつくったものの、皆が体裁を整えることだけに終始して数年間が過ぎてしまうのではないかなという風にも思っている。(01:00:37)

川島:今日は投資家目線で申し上げているから、「リスクマネーを提供しているのだからリターンを」というところにばかりフォーカスしたお話に聞こえたと思う。ただ、第一生命が投資哲学は、企業を取り巻くステークホルダー全体で価値を高めることだ。従業員もいれば取引先もあれば債権者もいるわけで、ステークホルダーは株主だけじゃない。従業員が泣いて株主が儲かるといった、対立するような構図で捉えてはいけないと思う。全体として価値を上げるために、スチュワードシップ・コードを通してどのような対話ができて、どういった価値観を企業と共有できるのか。日本的にはそういう部分を解決して、乗り越えていかないと、「ごりごりの株主主権かよ」という風に受け取られてかなりの抵抗感が出る、かもしれない。(01:01:24)

雇用あるいはどこかの部門をすべて切るといったアメリカ流リストラを行えば、ROEも瞬間的には上がるかもしれない。ただ、「それで永続的に長続きできるのか」と。短期と長期の議論で生まれる矛盾などの問題も、日本的な価値観のなかではかなり孕んでいるように思う。我々もごりごりの株主主権でなく、企業さんとそうした価値観の共有をしながら、どういった対話ができるかと考えている。実は、そのあたりが日本版スチュワードシップの定性的な一面としてかなり重要になると思う。(01:02:25)

塩崎:私は「日本版」という言葉に懐疑的だ。改革でその言葉が出ると、必ず改革を抑えようという方向になるからだ。「日本版だからもっとやろう」ということはほとんどない。言葉の裏にある意味として、「なぜ日本では違うのか」「日本版とする理由は何か」といったことを一つずつ因数分解して、冷静に議論する必要があると思う。(01:03:10)

水野:ではQ&Aの時間にしたい。(01:03:38)

会場(安渕聖司氏:日本GE株式会社代表取締役/GEキャピタル社長兼CEO):日本版スチュワードシップ・コードではどういったタイムフレーム念頭に置いているのだろう。第一生命さんは長期スパンで投資をご覧になっているし、その辺は株主によって異なる。そうしたタイムフレームの概念をどう捉えるべきだとお考えだろうか。(01:03:50)

川島:長いスパンで投資する会社もあれば短期の投資を行う会社もある。そこはリターンの揚げっこ競争だから正しいか間違っているかといった話ではなく、とにかくいろいろある、と。このコードがソフト・ローになっているそもそもの意味合いも、そうしたスタイルに応じて、「『我が社はこういう方針でこれに臨む』という話なら、それを説明してください」ということだと思う。第一生命は10~20年という保険契約のお金を基にやっているから、投資も長期スパンになるわけで、「だから毎年同じような質問もさせていただきます」と。従って、短いスパンで投資を行う企業さんであれば、「我が社は短期的に効果が上がる投資に着目します」という風に方針を公表するのも有りではないか。そこは各社に任されているというのが我々の理解だ。今はその辺の理解にもまだ幅があるのかもしれないが、イメージで言うとそういう話になると思う。(01:04:14)

水野:スチュワードシップを導入したイギリスでも当初は長期の投資家を対象としてイメージしていた。ただ、それで短期的な投資を止めることができるわけではないので、そこはそれぞれだと思う。その辺は「スチュワードシップ活動に伴う判断の実力を備える」という原則7にも通じるのではないか。まあ、経営側からしたら、「実力を備えていないなら原則4を口にするなよ」という反論はできると思うけれども(笑)。(01:05:45)

会場(高野真氏:『Forbes JAPAN』編集長):私の感覚では、日本の機関投資家と海外の機関投資家では株式の保有目的が異なるケースが多いと感じている。特に生保および損保の業界では政策保有もあるためだ。そこで、たとえば営業目的のようなケースについてはどのように考えていくべきだろうか。(01:06:23)

川島:原則2で、「利益相反についてどういったスタンスで臨むのかを説明しなさい」ということになっている。第一生命の例を申し上げると、株式のごく一部、公表しているものについては政策保有あるいは業務提携先との関係において株式を保有しているものもある。ただ、大半は純粋な投資だ。それで投資を行ったあと、その企業と関係が深まったことで結果的に営業の取引も深まったケースはいくつかある。ただ、目的自体は純粋な投資。従って、たとえば議決権を行使して何かの議案に反対することを検討するようなアナリストの部署と、営業セクションとのあいだにはチャイニーズウォールを設ける。そのうえで「営業の影響を受けず独自の判断をしよう」と。そうでないと、ご指摘のように我々の活動が鈍ってしまう利益相反が起こり得るので。(01:07:03)

会場(富井聡氏:株式会社日本政策投資銀行 常務執行役員 投資部門長):機関投資家にはサボっているような方々もいる。スチュワードシップ・コードを読んで最初に感じたのは、そうした方々へのプレッシャーというか、金融庁さんのいつものやり方で、「君たちもちゃんと考えなさいよ」という話なのだろうと感じた。で、ふと翻ると、世の中にはアクティビストという人々がいて、すごく評判が悪い。でも、考えようによってはそういう方々こそスチュワードシップを体現していると言えなくもない。塩崎先生はそうした方々の役割をどう評価されているだろう。(01:08:24)

塩崎:私は、アクティビストの方も市場で大変重要な役割を担っていると思う。経営に対して受動的に議決権を行使するのも一つの投資のあり方だが、より積極的に提案するのも十分合理的な判断ではないか。ただ、短期的な株価回収のための増配や自社株買い、あるいは資産の切り売りといったものは、実は長期的リターンにつながらないという研究が最近はかなり出てきている。従って、アクティビストの方々がよく批判される、「余剰資金をとにかく吐き出せ」という話についてはいろいろと議論があると思う。それで短期的な株価は一瞬上がるかもしれないが、「もっと違う投資先を見つける方向でやったほうが良いのでは?」と。そうしたことも建設的な対話で議論されるべきだ。従って、「アクティビストの方に言われたから増配や自社株買いをします」という単純なお話にはならない。経営者は中長期的に投資リターンを最大化するという目的に向け、そうした提案の是非を判断していくことが大事になると思う。(01:09:04)

会場(矢定俊博氏:新日本有限責任監査法人 シニアパートナー):冒頭でお話ししていたお子さまの話を例にとると、実際には投資家の方が家の外にある電光掲示板を見ている形ではないかなと感じる。そうした電光掲示板でいいのか否かといった話も踏まえつつ、社内と社外で「つなぎ」をしているのが社外取締役だと思う。そうした認識についてご意見をいただきたい。それともう1点。本来は社外取締役の方との対話も必要だと思うが、コンフィデンシャリティの問題もあって法的には難しいのかもしれない。その点についてどうお考えだろう。(01:11:03)

塩崎:家の外で電光掲示板を見ているもどかしさを感じることはあると思う。ただ、スチュワードシップ・コードが求めているのは、外から見ているだけでなく、「たまには家庭訪問してください」ということだ。ノックをして、「どうですか? ちゃんとやっていますか?」「よくやっていますね」「ここはもう少し頑張りましょう」と。それで張り合いも出るのだと思う。それをすでにやっているのなら、そのままでもいいのかもしれないが、やっていないのならそれを考えてみるきっかけになれば、という話だと思う。それと、社外取締役の方や非業務執行役員の方と経営陣がどう関わっていくかという点については、非業務執行役員の企業における役割が今後さらに大きくなっていくと思う。その意味で、対話と、そして株主を見据えたさまざまなコミュニケーションと経営参画が大事になってくるという点には同意する。(01:12:03)

水野:どういった対話がこれから増えるかというお話だと思う。電光掲示板は数字の世界だけれども、家の中でどんな質問をするか。「日本の投資家が企業に質問していることは、セルサイドのアナリストによる質問と同じだ」と、海外の投資家は昔からよく言っていた。「売ることを目的とした証券会社のアナリストと同じような質問をする」と。そういうところから変わっていくのではないかなと期待している。第一生命さんには、たとえば家庭訪問時の質問力を鍛えるようなプログラムはあるだろうか。(01:13:25)

川島:おっしゃる通りだと思う。生命保険協会でも企業さんにアンケートを取っているけれども、それを見ても投資家側の関心事項と企業側の関心事項が相当ズレていると実感する。象徴的には、質問に表れる証券会社ばりの短期志向だ。「次の四半期はどうなりますか?」と。しかし、大切なのは一学期や二学期の成績ではなく本当に学力が伸びているかどうか、だ。中長期の視点に立ったやりとりこそ必要だし、経営側もそれを語りたい。「何々部門の売上が伸びた」といった数字上の定量項目も大事ではある。ただ、企業の経営者が何に重きを置いていて、どんな価値観を持っているのかという非財務情報こそ、長いスパンで見ると大切な情報になる。数字に関する分析は、基本的には誰が聞いてもそれほどブレない。「非財務情報についてきちんと対話できる能力こそコミュニケーション能力だよ」という話になるのだと思う。(01:14:24)

水野:S&Pはレーティングのための各種対話ノウハウといったものを長年に渡って積み上げてきたと思う。アナリストはどういった質問をして、それを受けるほうはどのような心構えで臨むべきかだとお考えだろう。(01:15:51)

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三宅:個人的意見になるけれど、格付けのクライテリアにおいてコーポレートガバナンスのウェイトが小さ過ぎると、私自身はいつも言っている。「企業の債務支払能力を考えるうえで、もっとガバナンスを真剣に見たほうがいいんじゃないの?」と。ただ、これは難しい。‘quantity tab’でなく‘quality tab’だから、アナリストの力量が求められるし、年に1度、企業のマネージャーにインタビューして定性的な話をどこまで理解できるのか、と。これは自分自身に刃を突きつけるような話だ。でも、格付け会社もガバナンス評価にもっと重きを置いて、そこにリソースをつぎ込まないと正しい情報をマーケットに出せないと感じる。それをS&P執行役員の一員として常に発言している。実際にそうなるかどうかは私がどれだけ頑張るかにかかると思うけれども。(01:16:12)

水野:では時間となった。本日はありがとうございました(会場拍手)。(01:17:22)

講演者

  • 川島 貴志

    第一生命ホールディングス株式会社 取締役 /第一フロンティア生命保険株式会社 代表取締役社長

    1983年 3月 名古屋大学 法学部卒業 1983年 4月 第一生命保険相互会社入社 2004年 4月 興銀第一ライフ・アセットマネジメント株式会社        (現アセットマネジメントOne株式会社) 部長待遇 2005年 4月 第一生命保険相互会社 人事部長 2009年 4月 同社 執行役員人事部長 2010年 4月 第一生命保険株式会社 執行役員人事部長 2012年 4月 同社 常務執行役員人事部長 2013年 4月 同社 常務執行役員 2013年 6月 同社 取締役常務執行役員 2015年 4月 同社 取締役専務執行役員DSR経営推進本部長兼グループ経営副本部長 2016年10月 第一生命ホールディングス株式会社 取締役専務執行役員DSR経営推進本部長(現職) 2016年10月 第一生命保険株式会社 取締役専務執行役員(現職)
  • 塩崎 彰久

    長島・大野・常松法律事務所 パートナー・弁護士

    長島・大野・常松法律事務所、パートナー・弁護士。主な取扱分野はコーポレートガバナンス・コンプライアンス及び危機管理。オリンパス事件や大相撲八百長事件をはじめとする数多くの企業不祥事等の解決に携わる。2006年から2007年まで首相官邸勤務。福島原発事故独立検証委員会ワーキンググループメンバー。東京大学法学部卒、スタンフォード大学大学院国際政策科修士、ペンシルバニア大学ウォートン校MBA課程修了。経産省新規事業創出支援者会議委員。共著・翻訳:『民主党政権 失敗の検証』(中公新書)、『日本最悪のシナリオ9つの死角』(新潮社)、『トータル・リーダーシップ』(講談社)等。
  • 三宅 伊智朗

    スタンダード& プアーズ・レーティング・ジャパン株式会社 代表取締役社長

    2013年9月より、スタンダード&プアーズ・レーティング・ジャパン代表取締役社長。質の高い分析と顧客サービスの提供を通じ信用格付けの利用拡大からリスクマネジメントまで、格付け事業全般を統括。1979年清水建設入社、東京、カイロ、パリなどで駐在後、1990年シティバンクN.A. ニューヨークM&A部門に入社。1992年シティバンク東京支店に移り、法人部門のマネージングディレクターとして金融法人ビジネスを統括した。2004年三井住友海上シティインシュアランス生命保険(のちに三井住友海上メットライフ生命保険)CEOに就任し、変額年金保険ビジネスの拡大に貢献。2007年-2011年、アリアンツ生命保険 日本のCEOとしてビジネスの立ち上げを統括した。一橋大学法学部卒、INSEAD(欧州経営大学院) MBA保有。"

モデレーター

  • 水野 弘道

    グッドスチュワードパートナーズ合同会社 創業者 兼 CEO

    MSCI最高経営責任者(CEO)特別顧問、ライブワイヤー・グループ社外取締役、及びダノンミッション委員会委員を兼任。TNDF(自然関連財務情報開示タスクフォース)上席顧問。又、ハーバード、オックスフォード、ケンブリッジ、ノースウエスタンのビジネススクールのフェローとしてサステナビリティファイナンスの推進に努めている。

    住友信託銀行にて日本国内、 シリコンバレー、 ニューヨーク等で投融資業務に従事。ロンドンのプライベート・エクイティー・ファンド、コラーキャピタルのパートナー就任後、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)理事兼 CIO(最高投資責任者)、革新的ファイナンスおよび持続可能な投資に関する国連事務総長特使、経済産業省参与、米国テスラ社外取締役及び監査委員会委員を歴任。

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