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earlyではなくquickにとGPIF水野弘道氏 -「世界を変えるビジネスリーダーの仕事とは」(前編)

投稿日:2015/03/03更新日:2019/04/09

岩瀬大輔氏(以下、敬称略):本セッションのテーマは、「世界を変えるビジネスリーダーの仕事とは」。最初に僕のほうからパネリストの御三方を簡単にご紹介して、そのあと2つほど質問をさせていただいてからQ&Aに移りたい。まず福武さん。昔は福武書店といっていたベネッセの3代目。今はニュージーランドから投資を行う一方、ベネッセ傘下のベルリッツという会社で取締役もなさっている。すごくグローバルな視点を持った方だ。次に程さん。皆さんよくご存じだと思うが、世界におよそ30万人、日本に5000人以上の従業員がいる最大最強コンサルティングファームの1社、アクセンチュアのトップをなさっている。大学も海外に行かれていたとのことで、本当に世界と日本とつなげているような方と言える。(01:07)

そして水野さん。もしかしたら皆さんのなかでは知名度が若干低いかもしれない。でも、僕は先週シンガポールで投資家といろいろ会っていたのだけれど、世界の投資家は皆、水野さんの話をしていた。「GPIFの最高投資責任者にHiromichi Mizuno就任」というニュースは世界中の金融市場を駆け回った。今、世界中の金融関係者が会いたがっている水野さんを僕ら100人ほどで独占できるわけで、今日はすごく贅沢な時間だと思う。また、水野さんはコラーキャピタルという、イギリスを中心に世界中に投資をしている会社の幹部でもある。本場の投資会社で幹部をやっている日本人はほとんどいないけれど、水野さんはその1人。今日はそういう御三方をお迎えしてのセッションなので、皆さんにとって非常に貴重な体験になると思っている。(02:26)

あと、今回は遠方からいらした学生さんの交通費を水野さんにかなり補助していただいた(会場拍手)。そうした方々のご厚意があってこの会議が成り立っていることも覚えておいて欲しい。では、早速御三方にお聞きしたい。「日本の常識=世界の非常識」といった話はよく聞く。皆さまが海外でビジネスをしていて、またはビジネスを始めた頃、日本の常識で振舞って失敗してしまったご経験は何かあるだろうか。日本と海外のビジネスカルチャー、または文化全般の違いについてお聞きしたい。(03:26)

20241 水野弘道氏

水野弘道氏(以下、敬称略):今日は地方の大学からも大勢いらしているのですごく嬉しい。このたび、皆さんにも今後支払っていただく国民年金の最高運用責任者ということになった。将来の年金をちゃんとお返しするため…、払っても返ってこないと思っている方が多いでしょ?(会場笑)、きちんとやりますので収めてください。(04:37)

私はこの20年ほど海外にいる。ただ、元々は帰国子女でもなく大学も日本の学校を出ている。で、30歳の前にして初めて、当時務めていた日本の銀行の都合でロンドンに研修生として送られた。でも、研修生とは名ばかりで実際はオフィス引越しの手伝い。それで1年間、倉庫に篭ってダンボール箱の番号合わせなんかをしていたというのが初の海外経験だ。そこから英語を勉強してニューヨークとシリコンバレーで銀行の駐在員を経験し、2003年にロンドンのコラーキャピタルという投資会社に移った。だから帰国子女、ましてや海外の高校や大学を出た方々とはまったく違うタイプの、英語や異文化に対する苦労をしてきた。その辺は皆さんと共有できるかと思う。(05:11)

まず、いくつか失敗談をお話ししたい。私は銀行員時代、最後のおよそ5年間はニューヨーク駐在員だったけれど、ニューヨーク支店のなかでは極めて英語がうまいほうだった。だから、「俺の英語は通用するじゃないか」と思ってイギリスの会社に移ったところ、皆が何を言っているかほとんど分からない。皆さんも気をつけたほうがいい。日本企業の駐在員として英語が喋れるレベルでは、海外の会社で通用するとは限らない。向こうは日本企業の駐在員だと思って英語を喋ってくれているから。ましてや自分がお客さんだったり、駐在員としてやって来ていきなり上司になったりするから、下の人たちは自分に分かるような英語を喋る。それで、「できる」と思って転職をしたら、翌日から悪夢のような何ヶ月間が始まった(笑)。(06:23)

それともうひとつ。これは多くの人が経験すると思う。「日本の非常識=世界の常識」といったお話に関して言うと、かなりオープンマインドでいなければいけないと痛感している。先日、とある本に、「中国のスターバックスはスモールがない。中国人は見栄っ張りだからだ」と書いてあった。中国通を自認している方が書いた本だったけれども、スターバックスにスモールがあるのは、実は日本だけだ。そういう間違いがよく起きる。海外で何か違うことに接したとき、「あ、日本と違う」と。最初にそう思ってしまうと、向こうがかなり違うような感じがしてしまう。でも、実はこちら違うかもしれないのだけれど、そう気付くのに実はしばらくかかった。で、それができるようになってからは、「なんか違うな」と感じたとき、「違っているのはこっちなのか、向こうなのか」と毎回考えるようになった。それ以降、異文化での失敗が自分はかなり少なくなったと思う。(07:18)

岩瀬:水野さんはアメリカやイギリスでのご経験に加え、たとえば今はインドの会社にも投資をなさっている。そこでもまた違いを感じたりすると思うけれど、そうした経験のなかで「ここに気をつけておくといい」といったことは他に何かあるだろうか。(08:25)

水野:個人の個別性とグループとしての個性を常に意識しなければいけないと思っている。たとえばインド人が「一般的にはこうだ」ということ自体は理解しておいたほうがいい。それは日本人が「一般的にこうだ」というのを理解するのと同じで、個別の違いを理解する助けになる。ただ、人間というのは不思議なもので、「インド人はこうだ」と思い込んでスキーマをつくってしまう。それはすごく危険だ。インド人にも水野さんや岩瀬さんがいて、1人ひとり違う。だから、「インド人ならこう」といったイメージに捉われてしまうと失敗がさらに起きやすくなる。だからそこは私自身も、国民性の問題なのか人の個性の問題なのかをいつも意識しながら対応するようにしている。(08:45)

20242 程近智氏

程近智氏(以下、敬称略):これは失敗談というか、「自分が結構ナイーブだったな」という話になる。私は、大学はシリコンバレーでスタンフォードに行っていたのだけれど、高校もインターナショナルスクールに通っていた。それで最初から周囲に日本人だけでなくいろいろな国の人がいた。だから、「将来は国連のようなところで働くのもいいな」と思っていたし、中学でも高校でもそういう部活に入っていた。(09:52)

で、これは大学4年のときだけれど、アメリカ人の学生4人と僕で防衛産業の会社へフィールドワークに行ったことがある。それで1回目はそれなりに質問もしながらやっていたのだけれど、次にその会社へ行ったときは僕だけ入れてくれない。なぜだろうと思いながら、その人は帰った。そして教授がその会社に話を聞いたら、「あいつは日本人だろ。俺は日本人が大嫌いだ」と、そのプロジェクトのリーダーというか、その会社の役員の方が言っていたという。今の日本の国力もだいぶ落ちている部分があるけれど、当時は登り調子。デトロイトではトヨタ車がハンマーで壊され、日本はけしからんと言われていたような時代だ。僕をスパイだと思ったんですね。防衛産業ではその後も日米でいろいろと問題が起きていたけれど、とにかく自分そういうこともあって「世の中ってキレイなだけじゃないな」と。どこまで差別的な言葉を投げかけられたか分からないけど(笑)、きっと裏では言われていたのかなと思う。結果的にはおよそ1ヶ月後、再びそのプロジェクトに入れてもらえた。ただ、その人はいなかった。「俺を外してくれ」という話になったのかなと思う。(10:25)

片や日本に帰ってきてどうだったか。今いる外資系の会社には2年間大学院へ行くつもりで入ったのだけれど、もう30数年在籍している。グローバル企業だったので外国人が多く、私のヘッドも当時からアメリカ人という会社だった。それで鞄持ちのようなことをしながら営業に行くと、その場では通訳がついて盛り上がる。クライアントもニコニコして「ありがとう」とおっしゃる。しかし、次回私が1人で行くと、「(舌打ちして)程さん、もう外人連れてくるのは止めてくれ。面倒くさい。学ぶものは何もない」と言う。ショックだったのは、あれほどニコニコして握手をしながら裏ではそう言っていたことだ。日本人ってすごくいい人たちだなと思われていたと思うけれど。(11:51)

だから、キレイな世界もあるけれど、当時は日本にもアメリカにも大きな偏見があった。「世の中ってなかなかうまくいかないな」と(笑)。今はどうかというと、正直、外資系の会社ではまだそういうところもある。ただ、そういう人たちが本当に上へ行けるかというと、どこかで挫折しているし、会社としても馬脚を表して消えるケースが多い。ただ、いずれにせよ「世界はこうなんだな」ということを大学卒業前後に感じた。(12:43)

岩瀬:当時、「こう振舞っていれば良かったな」といった思いはあるだろうか。(13:27)

程:当時は学生だったし、どう振舞うもなにも分からなかった。自分では何もできないというか。結局、その国の教育環境等もきちんと理解して、かつ個人の顔も見ていくという掛け合わせでないと本当の姿は見えないのだと思う。(13:32)

岩瀬:僕も子どもの頃、イギリスにいて人種差別的扱いを受けていたことがある。‘Go home, Jap.’みたいなベタなことも言われたり(笑)。ただ、その頃に比べると世界が標準/共通化している印象があるし、カルチャーも均質化してきた。今は海外の人たちと仕事をする際も、あまりセンシティブになる必要はないのだろうか。(14:03)

水野:人間が心のなかで考えていることはなかなか変わるものではないから、人種差別的なものはまだ残っていると思う。ただ、ひとつはっきり言えるのは、アメリカやイギリスのような先進国では、いわゆる人種差別者であることを表に出すことは「知的な人としてあり得ない」と。そういう教育がこの20年間ほどでなされている。逆に言うと日本人は本当に気を付けなければいけない。どこかの市長が慰安婦問題についていろいろおっしゃっていたけれども、内容以前の話として、いわゆる知的階級の人たちがああいった発言することがあちらでは許されない。そこを日本人はよく分かっていない。どう考えるかは個人の自由だ。そこまで規制することはできない。ただ、少なくとも我々が働いているような知的高度な企業やビジネスの世界では、そういう発言が受けることは基本的にあり得なくなったという話だと思う。(14:43)

岩瀬:それは僕も感じる。日本では立派な方でも、そういうことに対するセンシティビティが意外と低くて、「絶対タブーだろ」といった言い方をしてしまうことがあるように感じる。たとえばゲイの方への配慮の足りなさであるとか、人種的なステレオタイプであるとか。やっぱり、宗教などのセンシティブな話題については気をつけたほうがいいと思う。少し前、全日空さんのテレビCMがそれですぐ打ち切りになったこともある。金髪で鼻が高い白人というイメージがステレオタイプだと言うわけだ。下げるのもダメだけれど、持ち上げるのもステレオティピカルだと嫌がられる。「インド人なら数学得意でしょ?」といった、ステレオタイプを押し付けること自体がネガティブだという…。(16:02)

程:本当におっしゃる通りだ。初めて会う人やあまり親しくない人とは、基本的には政治と宗教と人種の話は絶対に避けたほうがいい。ワインや天気やゴルフといったありきたりな話題はいいけれども。ある程度、それが個人の関係になっていけば別だ。私も年に2回ほど韓国の若手経営者といろいろやっているけれど、そこでは本音ベースで話す。グローバル基準というものが彼らにはあるし、「本当はこれが正しいけれども向こうの歴史もこちらの歴史もよく知りながら妥協点を見つけないとダメだな」という話にはなるけれども。とにかく、政治と宗教と人種の話は気をつけたほうがいい(16:55)

岩瀬:では次に福武さん。冒頭のご紹介で言いそびれたことがある。今、台湾や韓国や中国では82万人以上が「こどもちゃれんじ」を使っていて、アジア中の子どもが「しまじろう」のファンになっているという。また、ベネッセは瀬戸内海の直島というところで素晴らしいアートプロジェクトを展開している。直島は本当に、世界中のアートファンやアート関係者から大変なリスペクトを集めている場所だ。ベネッセという会社は教育だけでなくアートでも世界に大変なインパクトを与えていて、福武さんはその副理事長でいらっしゃるわけだ。そうした活動に関するお話も併せて、世界との意識の違いを感じた場面などがあればお話しいただければと思う。(17:39)

20243 福武英明氏

福武英明氏(以下、敬称略):お二方がかなり真面目なお話をなさっていたので、まず軽い話をしてみたい。僕は今ニュージーランドに住んでいるけれど、日本の常識と海外の常識の違いということでぱっと思いついたことがある。日本人はかなり時間に厳しい。たとえばバーベキューのお誘いで「12時に来てくれ」と言われたら、日本人は結構礼儀正しいから5分前や10分前に行く。すると、「なんだコイツは!?」という顔をされる。だから、「え? もうちょっと早く来たほうが良かったのかな」と思うところだけれども、「早く来るなんて、もう死んでくれ」という感じで(会場笑)。むしろ時間通りに来ても迷惑だという話になる。じゃあ、30分ぐらい遅れたらいいのかというと、「いや、そこはその中間で15分」となる。「意外と礼儀正しいじゃん」というか(会場笑)、「どっちだよ」という話だけど(笑)、向こうへ行った当初はそれがかなり衝撃的だった。(18:49)

あと、少し真面目な話も2つほど。まず、僕らは今ニュージーランドで電気自動車の普及活動をしている。これ、電気自動車をつくって売るのではなくて、今走っているガソリン自動車を電気自動車に改造するというものだ。元々日本でやろうと思っていたのだけれども、いろいろと規制があって行えなかった。だからニュージーランドで始めてみたら、あちらでは物事がめちゃくちゃ進む。なぜか。あちらには自動車メーカーがなく、車はほとんど日本から輸入している。輸入品目の1/4が車とガソリンだから、それをエコにするなら電気自動車を新しく買うより既存の車を改造してもらったほうがいいからだ。ただ、「そうですよね。でもいろいろと規制があるんじゃないですか」と言うと、「あ、それは変えるから」と言う。それで先般も、そのガイドラインはつくってくれた。それで今は実際に変わってきている。日本で法律を変えるとなるとなかなか大変だと思うし、水野さんもその辺では今後ご苦労されると思う。ただ、その辺を意外とライトに変えることのできる国もあるんだなと(会場笑)。だから皆さんもやりたいことが何かあるときは、「何をどこでやるのか」ということは結構重要になるのかなと思う。(19:50)

それともうひとつ、失敗のお話もしたい。ベネッセもよく失敗はしている。今年も、とあるサービスをブラジルで閉じたことがある。で、その要因を考えてみると…、いろいろあるけれど、皆に使ってもらえるようなサービスをつくろうとしていたからというのが大きい。皆に使ってもらえるサービスというのは誰にも刺さらないからだ。その反省も生かして今は社内でいろいろやっていて、僕は社内で常に「事業はメッセージだ」ということを言っている。「商品やサービス自体を売るというより、メッセージを商品やサービスに込めて売りましょう」と。企業のビジョンや哲学や思想を、商品またはサービスの形にして、そしてそれが伝わりやすいデザインにして売っていく。(21:10)

そこで1番の肝になるのは、そのメッセージを誰に届けるか。その対象者をカラーでビビッドに妄想して、もう3次元で動画的にイメージすることが大切だと思っている。これはもう、妄想の世界。僕は妄想が得意だ。井川遥さんが大好きで、僕の妄想のなかでは3回付き合っていて2回別れている(会場笑)。そのうち1回は僕が振っているという(会場笑)…、妄想なのか現実なのか分かっていない状態なんでどうでもいいんだけど(笑)、とにかくそれぐらいビビッドに妄想する。そのうえで、どんなメッセージをどのお客さんに届けるのかを描く必要があると思う。(22:07)

で、じゃあ誰に届けるかという話になるけれど、これってイメージしづらいじゃないですか。それで社内でもよく言っているのは、「自分や自分の家族が欲しい商品・サービスをつくりましょう」と。それが最もプライオリティの高い基準だ。今つくっているサービスが、自信を持って自分の家族に使ってもらえるのかというのが結構重要なファクターになる。いずれにせよ、失敗としてはそういったメッセージを伝えることができなかったという話がある。それに関連してあとひとつ。僕の友人に、平井堅さんや絢香さんやSuperflyのプロデュースをしている四隅大輔さんという音楽プロデューサーがいる。彼が面白いことを言っていた。「長く歌い継がれる歌は、必ず誰かひとりのためにつくられている」。「めっちゃ格好いい」と(笑)。だから、皆さんも何か新しい商品やサービスを考えるときは、身近な少人数を最もハッピーな状態にできるかどうかを判断基準にするのも面白いのかなと思った。(23:01)

20244 岩瀬大輔氏

岩瀬:井川さんの話はまたのちほど詳しく(笑)。では、もうひとつ質問したい。御三方はご自身が世界を変えるリーダーだと思うけれど、仕事ではいろいろな方にお会いしていると思う。そのなかで、「この人はすごい」と感じた、世界を変えているリーダーたちに共通して感じることがあれば、それもぜひシェアしたいと思っていた。(24:20)

水野:誰がというわけではないけれど、少なくとも私が投資の世界で会ってきた方々や投資先企業の創業者であった方々は、皆、決断が早い。ただ、ここで言う「早い」に関して言うと…、日本語では感じが違うけれど、とにかく‘early’ではなくて‘quick’のほうが大切だと認識している。「あの人は決断が早いよね」と、日本で言われる人々の多くはアーリー・ディシジョン・メーカーで、私としては早過ぎると思うことが多い。特に投資の世界では、1日でも長く待てるなら待っていれば、より新しい情報が入ってくる。だからアーリー・ディシジョン・メイキングのベネフィットがあまりない。(25:08)

むしろ、成功している人々の共通項は投資の世界でも事業家の世界でもクイック・ディシジョン・メーカーである点だと、いつも思う。必要なときにクイックな決断ができるからこそ、ぎりぎり最後の1分まで情報収集などを行って待つことができるという話ではないか。大切なのは‘decision’を早く行って、あとは寝ておくことではない。情報を集めたりしてぎりぎりまで決断を引っ張って、必要なときに一瞬で決められるかどうか。私が見てきた成功したリーダーたちの共通項は、そうした能力の高さだと思う。(26:06)

岩瀬:「考え抜いている」「インプットが多い」等々、いろいろ要素はあると思うけれど、クイックに決めることのできる人とできない人の違いはなんだろう。(26:47)

水野:そこは僕もほかの方の意見を聞きたいぐらいだけれど、共通しているのは「慣れ」。慣れることがすごく重要だと思う。最初のうちは、ぎりぎりまで引っ張ることが結構怖い。だから、できるだけ早めに決定して、あとはもうそれを忘れて次のことを考えたり遊んだりしたくなる。ぎりぎりまで条件交渉をする、あるいは最後の最後まで情報を集めてから決めるのには結構な度胸がいる。交渉ごとでも最後はチキンレースのようになって、どこが最後まで本音を出すことなく粘ることができるかといった話になってくるし。その意味では、決めなければいけない瞬間に早く決めるというトレーニングが普段から必要なのかなと思うし、それによってある程度変わるとも思う。(27:05)

程:基本的にせっかちな方が多い。「すぐ答えが欲しい」と。あと、水野さんのお話に関連することでお話しすると、意思決定が早い人は感性と直観力で物事を決めていると感じる。で、僕もそれが多少できるようになったけれど、その場合はすでに答えをだいたい決めている。それで、その答えにいろいろなロジックを付けてみたり、現場に聞いてみたり、他社の事例を見たりする。若いときはそれができない。でも、成功している人はそうした直観が結果として正しかったというケースをなんども繰り返しているから、それが自分の型になっていく。もちろん、若いときは思いで突っ走るだけじゃいけない。「人に正しく伝わっているか」「事実に基づいているか」といいったロジカルな面をあとできちんと検証していく必要がある。成功している人はそうして少しずつ経験を積んできた結果として、経営者として検証せずとも直観で決められるようになる。だからこそライバルにも勝ってきたんじゃないかと思う。(28:02)

先日、将棋界でトップの、ある先生が面白いことをおっしゃっていた。最近、コンピュータと将棋の対戦をすると、レベルにもよるけれども、今はコンピュータが結構いい線まで来ているという。で、コンピュータは10の何百乗という指し手を検証していくわけだけれど、局の早い段階では圧倒的に人間のほうが強いそうだ。なぜなら人間はだいたい直感で決めて、そうして限られた時間のなかで検証やシミュレーションを行うから。でも、局がだんだん進んでいくとコンピュータが圧倒的に強くなるという。だから、直感と検証というプロセスに関しては経営者がうまいのではないかなと思う。(29:06)

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岩瀬:学生の方がその力を養っていくうえで何かできることはあるだろうか。(30:07)

水野:たとえば「直観力」等々、いろいろ言葉はあるけれど、僕は「妄想力」がすごく大事だと思っている。先ほど福武さんがお話ししていたこともまさにそれだ。投資の世界でリスクとは何かと言えば、いわゆるボラティリティというか、想定外で起きることだと言われている。だとすれば、リスクを減らす最も簡単な方法は想定を広げること。だから想像の範囲が広がれば広がるほどリスクは減る。想像することが大事なのだと思う。先ほど程さんがおっしゃっていたのは、いろいろな想定のなかからさっとシナリオを選択して、「これじゃないか?」というものにとりあえず当てはめて考えるというお話だったと認識している。想像でいろいろなシナリオを頭に描き、そのどれかを信じてまず証明を試みる。で、それが証明できなかったら次の証明に移ると。それを高速で繰り返すことが、僕らみたいな凡人には必要なのだと思う。(30:34)

岩瀬:福武さんにはアートのお話も交えて伺ってみたい。ベネッセの取り組みは地域社会を変え、世界でアートに関わる人々の考え方も変えつつあると感じる。アートを通じて世界を変えていくポイントのようなお話が伺えたらと思う。(31:44)

福武:今、直島という場所を舞台に、現代アートと現代建築による面白い取り組みを行っている。行ったことのある方はいます? …ああ、だいぶ少ないですね。絶望的な少なさ(笑)。ぜひ、行っていただければと思う。で、僕個人もカルチャーに興味があるので、「どういう人がすごいか」という先ほどのご質問と関連させてお話ししたい。文化というのは継続して積み重なっていくものだ。だから、企業のビジネスと文化活動を両立させることができたら、もしくは企業サイドが文化をつくっていくことができたら、それはすごいことだと思っている。そこで、ぱっと思いつくのがルネッサンスの時代。あの時代にダヴィンチやミケランジェロやボッティチェリといった人々が一気に出てきたのは、サポートしていた人がいたから。元々は銀行を営んでいたメディチ家の3代目が彼らをめちゃくちゃサポートして、それでルネサンスが盛り上がった。芸術活動はそんな風に、徹底的に長くサポートしていかなければいけないし、それを企業家としてできたらすごく面白いなと思う。(32:19)

アートには、基本的には経済合理性がない。一見無駄というかほぼ無駄に見えて、でも、なんかよくわからないけれども面白そうだなという要素がある。これ、結構大事なキーワードだなと思う。朝のセッションでは茂木(健一郎氏:脳科学者)さんが、「人工知能でえぐいことになる」とおっしゃっていた。たぶん、そちらのサイドはそうなると思う。ただ、さすがに「合理性はないけどなんか面白そうだな」というのは人口知能でもなかなか難しいだろうし、そういうユニークさは今後もかなり重要になると思う。(33:55)

今日登壇されていたスプツニ子!さんの作品、観たことあります? 僕も好きで今一緒にプロジェクトをやっているけれど、もうわけが分からない。どれぐらい分からないかというと…、作品だから言っていいと思うけど、「女性が男性器をつけたらどうなるか」という(笑)。スプツニ子!さんが寝ていて、その上にそれを置いて、それがたまに動いたりする(笑)。そういうアート作品をつくっていたりする。わけが分からない。でも、なんだか面白い。そういった言語化や視覚化できないものは今どんどん無視されていく傾向にあると思うけど、結構重要じゃないのかなと思う。僕らとしてはそういった、今の時代ではなかなか理解されないけれども10~20年、あるいは100年続いていく活動をサポートしていきたい。(34:38)

岩瀬:今のお話を聞いて、「え!?」とか「は?」とか思った方も多いと思う。でも、今日ここに集まった1番の意味は視野を広げること。今まで考えたり触れたりしたことのなかった世界に触れることだと思う。だから、いつも聞いている話をここでも繰り返し聞くのでなく、たとえばスプツニ子!さんの作品を動画で観てみたりして欲しい。国際金融について少し調べてみるとか、とにかくこれまで興味のあった範囲から飛び出る。英語では‘Break out your comfort zone.’。居心地良い空間から飛び出すことが大事だ。今日残りの時間もそんな風に過ごして欲しい。(35:31)

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