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健康総合企業タニタのファンづくりと変革へのチャレンジ(前編)

投稿日:2015/02/26更新日:2021/09/24

「タニタ食堂」やシリーズ累計で532万部を売り上げるレシピ本「体脂肪計タニタの社員食堂」(大和書房刊)が話題となっている健康総合企業の株式会社タニタ。3代目となる谷田社長が推進した新しい取り組みを通じて、イノベーティブなDNAが改めて輝き始めたタニタの、これからの時代の「ファンづくり」の考え方や、変革へのチャレンジなどを伺った。(2014年12月8日、グロービス経営大学院 大阪校にて開催)

9d551f9de8663030154a6ca1e67ef8f1 谷田千里氏

谷田千里氏(以下、敬称略): 私が社長に就任する以前からタニタはいろいろな健康計測機器の製造・販売を行っていた。皆さんが良く知っている体重計、体脂肪計、体組成計はプロ用を含めて製造しており、ベビースケールやクッキングスケール、血圧計、体温計、歩数計、活動量計といった「健康をはかる」商品の製造・販売とサービスを提供している。

会社設立は1944年。今年で71年目になる。現在の資本金は5100万円。設立当初は金属加工メーカーとして、シガレット・ケースを作っていた。昔はタバコのケースが柔らかくて使い勝手が悪く、それを移して使うためのケースとしてヒット商品になった。このほか、オーブントースターや高級ライターなどの製造・販売もしていた。

現在の主力商品であるヘルスメーター(体重計)の製造を開始したのが1959年。海外では‘Weighing Scale’とか‘Bathroom Scale’と言われるけれど、初代社長の祖父は健康をはかる商品として「ヘルスメーター」という名称で販売した。その後に世界で初めて、乗るだけで体脂肪率を計測できる体脂肪計を製造して大ヒットした。その特許が取得でき、それが切れるまで独占販売できたため、財務的に安定した。これが基盤となって、「世界初」「日本初」といったものを開発できるだけの余力がついた。これが、第2創業期になる。体脂肪計についてはその後、体組成計に進化し、両手両足で計測する8電極モデルや透明電極を採用した商品などいろいろなモデルを発売した。このほか、血糖値と相関の高い尿糖を計測できる電子尿糖計といった健康づくりに関わるあらゆる分野の商品を開発し、事業は健康の領域に絞った。

電子尿糖計を開発した経緯も説明しておきたい。ダイエットについていろいろ調べてみると、きちんと食事管理をして運動をしているのにダイエットできない方がいる。その原因を調べてみると「病気」というケースがあった。電子尿糖計は、血糖値と相関性の高い尿糖(尿中に含まれるグルコース)を計測することで、糖尿病の疑いがあるかどうかのスクリーニングに使える商品だ。ただ、弊社の商品は「お客様に痛い思いをさせてはいけない」という無拘束・無痛のポリシーがあり、電子尿糖計は血糖計のように針で刺すタイプではなく、排出される尿から計測するタイプ。ダイエットの発想から開発した商品になる。睡眠計も同じだ。食事に注意して、運動指導も受けて、そして病気でもないのにダイエットできていない方がいる。調べてみると、「十分な睡眠を取れていない人が太る」という論文を見つけた。「睡眠もダイエットに関係があるなら睡眠計を作らなくちゃ」と。最終的に市場へ出す際は違う意味も付加されたが、初期の開発はダイエットの発想から始まっている。

それから、腹部脂肪計。一般に、体重計や体脂肪計は自立できる人向けのものだが、肢体が不自由など障害のある方のご要望に対応したもの。開発陣がこだわり抜いて、これまで困難だった身体に障害がある方でも、負担をかけずに横になった状態で簡単に腹部の脂肪率などの計測ができる腹部脂肪計を作った。

体脂肪計と体組成計にもう少し触れておきたい。これらの機器は鉄板のように見える電極から人が感じない微弱な電流を流し、計測したからだの電気抵抗値から体組成のデータを導き出している。筋肉は水分を含み電気を通しやすいが脂肪は油で電気を通しにくい。小学校の理科で電気を通す物質と通さない物質があることを学んだと思うが、その原理が使われていて、この電気抵抗値の違いと計測した体重のほか、初期設定時に入力した身長・性別・年齢などのデータを交えて解析を行ってデータを表示している。そういう商品を作り続け、今では、弊社だけで開発するのでなく、国内外のパートナーと共に商品開発を進めている。

ここからは私が社長就任後に何をしてきたかというお話をしたい。「9の施策」をご紹介する。

まず、「上司帰宅ポリシー」。私はタニタに入社して以降、かなり好き勝手にいろいろとやってきた。当時コンサルタントをしていた私は、先代社長の父に言われてタニタへ転職したのち、経営戦略室のような部署に配属された。それで、「今までの手腕を生かしてガンガンやってくれ」と言われた。今考えるとヒラの人間がそんなことをしてはいけなかったと思うが、若い時でそれを知らなかったから本当に“ガンガン”やった。そのうち社内から反発を買ってしまい、父に言われていきなりアメリカの現地法人へ赴任することになった。寝耳に水の話だ。

アメリカにいるとき、本社の取締役もやるように言われた。このため社長就任前の1年間は毎月、取締役会のある1週間は日本にいて、残りの3週間はアメリカにいるという無茶な生活をしなければいけなかった。そうなると時差でどうしても眠い日が出てくるが、「部下の手本にならなくちゃ」という思いもあって時差ボケがあっても定時の5時半までは働いていた。ところが、部下よりも先に定時で帰る上司を結構見かけた。違和感を覚えつつ1年間、そういう風景を見ていた。
社長に就任してすぐ、「自分の背中を見せて部下を育てるのが上司の役目だという自分の考え方を伝えよう」と、課長以上を集めて「上司帰宅ポリシー」の実施を伝えた。部下が帰るまで上司は帰っちゃいけないとなると社長の私も深夜勤務や、休日出勤をしている部署に付き合ったりして結構きつかった。ほかにもいろいろと波紋を呼び、結局は3カ月ほどで終了した。

それでも、この施策には二つの良い面があった。まず、「きちんと人を育てる」という上司の役割について自分の考えを浸透させることができた。もう一つは、アメリカに5年もいた人間がいきなり本社に帰ってきて、「こいつは何者だ?」と思われていた時に、自分が言うことに対して否定から入ってくる社員と、たとえゴマすりであっても協力的な社員と、正反対の反応をする人がいることを実感できたことだ。

2番目は「社用車の廃止」。会社の売上が低迷している時期に社長を引き受けたので、当初から「経費を削減してください」と言っていた。でも、当時はドライバー付きの社用車に父が乗っていた。懸命にコストを削減しようとしているのにそういうことをやられていて、「これはダメだ」と。喧嘩になったけれども廃止してもらった。これは、「タニタには聖域や例外はありません。言ったことは守るし、コスト削減は経営陣から実行します」というメッセージの象徴になった。また、どこでもやっているかもしれないが、私は今でも飛行機ではビジネスクラスは使わず、新幹線ではグリーンを使わず、タクシーも使わない。

3番目が「フリーアドレス」。それまでの社屋は工場を転用してオフィスにしたものだったから、耐震診断で悪い結果が出るのは分かっていた。社長就任時に耐震診断書を見たが、やっぱりすべての面で悪い。昔の建物だから当たり前だ。巨額の費用がかかるので、収益が厳しい時期に辛い出費ではあったが、私はすぐに発想を転換するほうだ。以前から「売上1000億円を目指す!」なんて言っていたし、「それなら、綺麗な社屋に作り直してやろう」と。それでオフィスについていろいろと研究してみた。

そこで出てきたのが「フリーアドレス制」と「ペーパーレス化」だ。実は社長就任以降、「この人いいな」と思っていた従業員が2人ほど辞めてしまった。それで、「私に悪いところがあって辞めるのならば教えて欲しい」と聞いたところ、2人とも家族の介護が退社理由だった。タニタの本社は東京都板橋区にあって、最寄り駅は東武東上線で池袋から5つ目のときわ台になる。「そこまで毎日通うことができない」というのだ。「そういう理由なら仕方がないな」と思ったのだけれど、これを機に、以前から考えていたことをやろうと決めた。ペーパーなどのモノに囲まれたオフィスで仕事をしているから、介護等の家庭の事情で辞めざるを得ない人も出てきてしまう。フリーアドレス化によってそういう人を出さないIT環境を整備する。ノートPCで家にいても仕事ができるようにしようと。

これまでの状況を打破するために、社屋耐震補強工事にあわせてフリーアドレス制やペーパーレス化を導入。社員全員に「ご家族の介護等が必要な場合でも仕事ができるようにするのが目標なので、なんとか協力してください」と伝えた。そういう説明をしたので付いてきてくれたのだと思う。単にフリーアドレス制やペーパーレス化は単なる手段というか通過点で、目標はその先にある。この話は、「どこに目標に置くかで施策を浸透できるかどうかが変わる」ということの事例だ。まだ完全にはできていないし、モノを捨てられていない部署もある。ただ、昔と比べるとだいぶ「モノに囲まれない仕事」ができるようになった。

4番目は「チャレンジャー制度」。私は社長になってから新入社員の面接も自分でやっている。私と同じか上の世代なら、「給与が上がって1000万円もらえます」となれば「うおー!」と燃えると思う。出世できるといいうのも結構なモチベーションになる。でも、若い世代と話すとそういう部分にモチベーションを感じない人が結構いる。「あ、そうですか」と。人生の目標というか価値感が違う。

そこで捻り出したのが「チャレンジャー制度」だ。会社の売上が低迷している時期だからいろいろと工夫した。希望者は給与が2割減る代わりに、それを原資にして、例えば「研究費用に回すから好きな研究をやっていいですよ」とか、学校で学びたい人がいればそれを学費に充ててもらうなど。足りない費用は会社が補助し、とにかく「サポートしますから行っていいですよ」というメッセージを発信した。社員の価値観の多様化に対応して、新しい世代を育ってもらえるよう、こういった仕組みも入れてみた。

次の「人脈づくり」はかなり泥臭い作業だ。例えば、私の母校の運動部に、お酒の飲みすぎをチェックできる弊社のアルコールチェッカーを1箱分贈った。呼気中のアルコール濃度が計測できる商品で、私のポケットマネーで贈った。「お酒を飲むなら適量を守りましょう」と一筆添えて。すると、「卒業生にこんな奴がいる」という話になって講演に呼ばれたり、大学とのコラボレーションが広がったり。泥臭く、人との関係を大切にしていたら、どんどんつながっていった。

もう一つ。新浪さん(剛史氏:現サントリーホールディングス株式会社代表取締役社長)がローソンの社長だった頃、弊社のタニタ食堂のレシピを活用したコラボ弁当を一緒に開発しましょうという話がローソンからあった。これを機に両社の協業拡大に向けてトップ会談の場を持ちたかったが、コラボでお弁当を開発する程度だとなかなかトップには会えない。そこでローソンとの打ち合わせをするたびに、「新浪さんにお会いしたいなあ」と言い続けた。「会いたい、会いたい、トップに会いたい」と、ささやき続けていた。

その頃、ある女性誌で就職を控えた学生にコメントをするという取材を受けたところ、仕上がりを見ると、私の隣のページが新浪社長で、見開きの仮想対談みたいになっていた(会場笑)。それを次のミーティングに持参して、「仮想対談のようでしょう。実際にお会いしてみたいなあ」と言ったりしました。もう無理矢理に近い押しでようやく新浪社長にお会いして、「こんなこともできると思います」といったプレゼンをしたことが今の両社での取り組みにつながっている。思いを発信し続けなければそうならなかった。泥臭く人脈を広げてきた。

次が「タニタ総合研究所」。私には「なんとか若手に権限委譲したい」という思いがあった。ただ、社歴が長い方の知識も必要だ。そこで設立したのがこの会社。会社名に関しては、かつて在籍していた船井総合研究所(以下、船井総研)をもじってつけた。目標は、権限委譲とナレッジを持つ社員が会社を去らないようにすることだ。60歳になるとこちらに移籍してもらい、大所高所からアドバイザーとして事業に関わってもらう。この会社を設立したのは国が希望者全員の65歳までの雇用義務化される1年ほど前だったこともあり、高齢者雇用の先進事例になっている。

それから「顧客へのアプローチ」について。タニタでは、競合他社を同じマーケットを作っている仲間として捉えている。販売店の売り場では、普通なら自社商品だけを紹介するのだが、「体組成計ってなんですか?」といった各社共通で使えるようなリーフレットを作って売場に設置した。消費者の理解が進み、市場が広がり、我々の売上も増えると考えたからだ。他社を利することになるのではないか、というようなものまで作った。

「お菓子クラブ」も紹介しておきたい。これは、アンオフィシャルに自分の考えを発信する場として作った。私はお酒よりもお菓子が好きだから、「こんなのを勝手に立ち上げます」と言って(会場笑)。それで珍しいお菓子を買って、社員に「こんなのがあるけど食べに来る?」と誘うと、もらいに来る(会場笑)。その場で、顔を合わせて、「元気?」などと声を掛けて、少しでも直接のコミュニケーションをとろうと思っている。真面目にやっているので「怖い」と思われている面があるみたいなので、「そんなに怖くないですよー」と(会場笑)。

一方で、「飲みにケーション」の場も社内に作った。勤務時間内ではできないようなフランクな話ができる場が欲しいということで社内に定時以降にお酒を飲める場所を作った。それまでは福利厚生として1人当たり年間4000円前後の補助金を出していた。でも、部署で年1回飲み会に行けばそれですべて終わってしまう。その代わり、「ここに来ればビール2本ぐらいは会社が購入して用意しているので、ただで飲めますよ」と。お酒が好きな人たちにとってはお財布にも優しいから結構流行っている。昨年末、近所の飲み屋さんに行ったら少し嫌味を言われたけれど(会場笑)。「あ、こんなところに迷惑かけてたんだ」と思ってボトルを入れた(笑)。とにかく、これまでと違った形のコミュニケーションを取りたかった。

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ここからは事業の話をさせていただきたい。まずは日本を取り巻く状況を考えてみるとどうなるか。私の仕事は、次の世代に無傷で会社を譲ることだ。私は、社長として会社を譲られた瞬間に、「さあ、この会社を潰さないで次に渡せるかな」とまず考えた。自信があったわけではないが、社内はなんとか変えられると思った。だが、外部環境を変えるのは難しい。日本は高齢化がどんどん進み、人口は減少してマーケットが縮小してきている。この状況で所得税がさらに上がったら、1人当たりの給料も上げないと社員の生活は良くならない。様々な不安要因がのしかかってきて「自分は会社を潰すことになるかもしれない」なんて考えていた。

今の日本では医療費がかさんでいる。政府はその削減と健康寿命の延伸を進めている。そこで、何をしていけば会社の事業を次世代につなげられるかという発想で考えて大きく舵を切った。その方向性は3つ。1つはタニタ食堂を中心とした「食のソリューション」。2つ目は「異業種とのコラボレーション」。3つ目は「タニタ健康プログラム」だ。その3本立てで日本に役立つことができると考えた。

まずは食のソリューション。弊社の『体脂肪計タニタの社員食堂 ~500kcalのまんぷく定食~』(大和書房)という本が大ヒットしたので、食堂事業をやることになった。ヒットした理由はいまだに分かっていないが、調理師と栄養士の資格を持つ私がこの本で実現してもらったことは主に2つ。まず、この本を買っていただいた主婦の方がまず何をするかと考えてみると「普通、冷蔵庫を開けて食材を出すよな」となる。それなら逆引き索引で食材からレシピを探せるようにしてもらった。そういう本はこれまであまりなかったけれど、主婦目線で考えると、たとえば大根が少し余っているなら大根のレシピがすぐに見つかるような索引をつけたい。編集者にそういうお願いをした。それともう1つ。例えば彩として少し添えるだけの食材ってありますよね。「1/8束だけ添えてください」というふうに。すると残りの7/8束はどこへ行くのか。もったいないことが嫌いな私は、「レシピには余ったものを保存する方法やほかに使える用途も添えてください」と。そういう2点の工夫を提案した。

ただ、編集者とは相当やりあった。担当編集者さんは、「そんなの意味ありません」と頑として譲らない。それで私も「じゃあ、出版しなくていいです」なんて言ったりして。でも、結論から言うと初版の読者アンケートから、そうした工夫に関してはすごく高い評価をいただいた。また、大和書房の担当の方がおそらく書店を一軒一軒訪れて本を置いてくださるように営業してくださった。その3点ぐらいがヒットの要因だと思う。ただ、本当に要因が分かっていたらコンサルタントに戻ってミリオンセラーコンサルタントでもやっている。会場に競合さんがいるから言わないわけじゃなく(笑)、本当に分からない。

タニタ食堂に話を移すと、こちらは昔ながらの主菜・副菜・汁物・ご飯という定食スタイルで、500キロカロリー前後に抑えた献立を提供している食堂だ。満腹感を出すために沢山の野菜を使わないといけないルールがあり、かつ、それだけだと面白くないので塩分も抑えた献立になっている。レシピ本のヒットは偶発的なものだったにしても、それを宣伝に利用しない手はない。それに、レシピ本が100万部まで売れてくるようになると、テレビや新聞などの多くのメディアに取りあげられて、お客様から「食べたい」というご要望を毎日いただいていた。それで、「メーカーがレストランをやっていいのかな」と、その頃はすごく迷ったけれども、「(レストランができません)と謝り続けるのも企業としては無しだな」と。そう思ってレストラン事業を始めた。社長就任後すぐにレシピ本の大ヒットといったギフトを神様からもらったこともあったし、「失敗したら失敗したで自分の実力も分かるから、ちょうどいいな」という意図もあった。それで役員会で「やります」と宣言して(会場笑)、事業計画書もすべて自分で書いて、「承認してください」と。失敗するなら早々に失敗して、それを次に生かせればいいと思っていた。

ただ、ヘルシーメニューの提供だけでは今一つ面白くないという気持ちがあった。そこで、食堂内に併設されたカウンセリングルームにプロフェッショナル仕様の弊社の体組成計を設置して、計測と管理栄養士からの健康に関するアドバイス受けることができるようにした。そうでないとタニタがやっている意味がないということで、一工夫した格好だ。あとは賃料の問題というか、丸の内の一等地にオープンするという“清水(寺)ジャンプレベル”のお話だったので、椅子を片付けたらイベントもできるようなスペースにもしている。そんな工夫も入れてやっているのが丸の内タニタ食堂だ。

私自身が調理師と栄養士の資格も持っているし、働いていたこともあったので、当初は「FC展開できるかな」という思いもあった。ただ、これが難しい。我々のコンセプトを再現したメニューはプロの方でもなかなかつくれない。油分や塩分を抑えるというのは結構難しくて、それでFC展開が止まってしまっていた。そこで編み出したのが、「タニタシェフ育成コース」になる。経験者の方を集めて、修了試験に合格した方だけがパートナー店舗を出店、もしくは提携店としてメニュー提供の権利を手に入れることができるというものだ。ただし、タニタは学校を経営したこともなければ授業のノウハウも持っていない。それでいろいろ考えた結果、調理師でもある私にとって「一緒に仕事したい方No.1」というか「会いたい人No.1」である服部幸應先生にお願いをして、服部栄養専門学校と一緒にやらせていただくこととなった。今月はもうその第2弾が修了するところで、現在は卒業生の方々が全国でタニタ食堂を展開している。

タニタ食堂の店名を使ったパートナー店舗は、東京・五反田の「NTT東日本関東病院タニタ食堂」と福岡市の「福岡薬院タニタ食堂」、秋田市の「あきたタニタ食堂」の3店舗。メニュー提供をしている提携店では、大阪や北海道あるいは京都のレストランおよびカフェなど5店舗。今後も育成コースを卒業した企業の方が出店することが決まっているので、全国にどんどん広げていく。医療費削減という政策の流れにも合致しているということで経済産業省からもお声を掛けていただいて、省内の職員食堂でもタニタ食堂のメニューを提供している。結構いい形で進んでいるのかなと思う。ちなみに、その流れで大臣の方々とお食事をご一緒したときは、何を話して何を食べたかを覚えていないほど緊張した(会場笑)。「なんで私はここに座っているんだろう」と(笑)。いずれにせよ、そんな風にしていろいろな方のお力添えをいただいているのが弊社の食堂事業だ。

2つ目のコラボレーションでは、弊社の健康に対する考え方の普及・啓蒙を図るといったブランディングの取り組みを行っている。「タニタ・メソッド」というのは、例えば「食物繊維や野菜を多く採る」「よく噛む」といったものになるけれど、それを自社だけで広く波及させるのは難しい。そこで様々な企業と協業してその力をお借りしていくという単純な話だ。たとえば今は食品メーカーとのコラボレーションで自然食材を売り出したりして、タニタの健康理念を一緒に広げていただいている。たとえば金芽米をはじめ、どれもかなり売れている状態だ。

また、食品メーカー以外でも、たとえば金芽米専用の炊飯モードを搭載した炊飯器をつくった象印さんと売場でコラボレーションをさせていただている。シャープさんともブランドの拡大などを一緒にやらせていただいている。ちなみにシャープさんとは先ほど申し上げた通りで、某家電メーカーさん主催のパーティーをきっかけにつながった。そのパーティーでは主催者の方に指定された席を離れないよう言われていたのだけれど、当時社長であった片山幹雄さんが祝辞を述べられていて、「ご挨拶してみたい」と。それで、片山社長が壇上から降りてどの机に戻ったかを確認したのち、主催者に見つからないよう席を離れてお声を掛けてみた。「名刺交換をさせてください」とお願いしたうえで、「競合する領域もないので何かご一緒にお仕事ができないでしょうか」と。すると、片山社長も周りの方々をご紹介してくださった。で、その日はそれで見つからないうちに引き上げたのだけれど、翌日に同社電子レンジ・オープンの「ヘルシオ」を担当していらっしゃる方からお電話があり、「一緒に何かやりませんか?」と打診された。それで翌日ぐらいにシャープさんの本社を訪れ、「こんなのできますよね」なんていう話をした。これも自分のがつがつしたところから出たコラボだと思う。

タニタ社員食堂のレシピ本をベースに映画がつくられるという天からの贈り物もあった。フィクションではあるけれど、興味のある方はご覧になってください。私の役はすごくナヨナヨしていて、悪い…(会場笑)。今日私を見る前にその映画をご覧になっていたら、「こいつ、全然ダメだろ」という風に感じると思う(会場笑)。で、父の役は草刈正雄さんですごく格好が良い。しかも、キャスティングの妙で壇蜜さんも出演されていて、最後のおいしいところをこのお二人がすべて持っていく。「これ、私の映画じゃないな…」と思うけれども(会場笑)、とにかくこういうこともあってブランドの認知もうまく行っていると思う。

アニメーションを活用したブランド認知も積極的にやっている。弊社ターゲットとなる方々とはだいぶ異なる方々の領域だけれども、たとえばニコニコ動画でもかなり早い時期にチャンネルを開設して、こんな動画をつくったりした。

~映像紹介 「関西風うどんと関東風うどんどちらがしょっぱいのか?」~

こんな形で商品説明も少しは入れているけれど、基本的には面白いコンテンツで認知が広がればいいなと。もちろん真面目なものもつくっている。商品の取扱説明は当然ながら紙よりも動画のほうが分かりやすいため、動画版の商品取扱説明の配信に取り組んだ。ここでのポイントは動画自体を他社のサービス上に置いているので自社で投資していない点だ(会場笑)。お客様から連絡があったときはそういうサービスもご活用いただいているし、ツイッターやフェイスブックも当然やっている。自分自身もこういったコンテンツに出演するなど体を張ってやってきた。

3つ目の「タニタ健康プログラム」。この先駆けとなるサービスは、先代社長のときにつくられたものだ。ただ、当時は時代の先を行き過ぎて商品単体ではまったく売れていなかった。運営する子会社も赤字を出していたので「絶対に黒字化しない」と思い、当初は止めることも考えていた。しかし、方向性自体は合っていたので、ビジネスモデルを変えてBtoCでなくBtoBの事業にしようと決めた。

そこで、「商品・サービスをブラッシュアップさせたいから」ということで社員全員に同プログラムへの参加を命じた。「社員の健康増進とメタボゼロの達成」という真面目な理由を打ち出していたが、本音ではプログラムに関して社員の意見を募りたいという狙いがあった。それで2009年1月、社員全員に歩数計を配り、「サービスや商品に関して不満があればなんでも言っていい」という形にした。それでブラッシュアップしていくと、「あれ? 結構良くなっていくよね」となった。

具体的にはサーバに自動収集された体組成計や血圧計、歩数計などの計測データを、自身でパソコンやスマホで閲覧できるという仕組みだ。今では普通の話だけれども、弊社ではこれを業界に先駆けてかなり早い時期からやっていた。ちなみにどんなデータを見ることができるかというと、たとえばネットで歩数ランキングが分かったりする。それで「社長より歩いている」と、ほくそ笑んでいる社員がいたりする。社内ではパソコンが苦手な社員向けに紙で歩数ランキングを掲示するなど、とにかく社員も楽しめる形で実施した。一方、数値の悪い社員もワースト20で表示されたりする。

また、日々の計測データをもとに管理栄養士や健康運動指導士が個別に健康指導を行ったりするわけだ。そんな風にして、「これで医療費を削減できる」と思ったときからいろいろ取り組んでいる。例えば、社員に商品を使ってもらうという元々の目的があったので電子尿糖計での測定や、外部のメンタルサポートまで行っていった。それで最終的にデータ分析をしてみると、1人当たり2万円ほど医療費を削減できた。もう6年目に入った現在も続いているので、今はさらなる削減効果が出ているところだ。それで、これほど良いのならパッケージにして外販しようと思った。医療費削減といった改善効果が社内で確認できたことも良かった。このプログラムの成果は厚生労働白書にも医療費削減の好事例として掲載された。また、昨年は「健康寿命をのばそう!アワード」において厚生労働大臣最優秀賞もいただいた。こういった実績を根拠にして、「医療費削減効果があります」と言って自治体や健康保険組合などにプログラム導入を進めている。

この取り組みはさらに発展し、たとえば長岡市では市民の市街地回遊による「地域の活性化」と「健康増進」を促し、長岡市の「多世代健康まちづくり」をサポートしている。その中核となる新しいコミュニケーション・計測スポットとして「タニタカフェ」を運営している。長岡市では元々少子高齢化や過疎化が進んでいて、「それをなんとかできないか」というご相談を受けていた。そこでこのプログラムを軸として、カフェにいらした方々を健康にしようということで始めた。今はそれでかなりの実例が出てきている。このほか埼玉県朝霞市では「団地まるごとタニタ生活」というプロジェクトを動かしているし、同県鶴ヶ島市や東京都板橋区、静岡県三島市でも同様のプロジェクトを進めている。このプログラムでのサービス提供を通して日本を健康にしていくというのが3本目の事業になる。

この様な3本の柱をベースに「日本を元気に」していこうというのが弊社の取り組みになる。とにかく国民の皆様一人ひとりが健康になり、それで医療費を削減できればいいと思う。一人ひとりの医療費を1割削減するだけでも国全体では3兆~4兆円だ。それで余った財源を他の領域に回せたら日本全体がより正しく暮らせる。それを社業として進めていく。今後もそんな風に日本だけでなく世界中で、人々の健康づくりのために社員一同頑張っていきたい。今後も皆様のご協力・ご指導をお願い申し上げます。ありがとうございました(会場拍手)。

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