寺田航平氏(以下、敬称略):本セッションのテーマは「eコマースの革命が拓く世界」となる。昨年ヤフーさんがYahoo!ショッピングで出店料等の無料化を打ち出してから業界は色々混沌としてきたが、楽天さんは現在絶好調であるし、eコマース全体で見ても売上と市場は拡大を続けている。また、そのなかでCtoCに代表されるような新しいサービスも次々台頭してきた。そういった環境下、今日はそれぞれ業界を代表される御三方にさまざまな観点で現在の問題について、そして業界の今後10年がどのように推移するかといったことについて、忌憚のないご意見を伺いたい。(01:12)
最初は自己紹介も兼ねて現状を伺っていこう。まずは中島さん。現在、楽天さんは会社のスタンスを大きく変えようとしている最中でもあると思うが、今絶好調である要因、あるいは「足元ではこういうことに気をつけている」といったお話を伺いたい。(03:44)
中島謙一郎氏
中島謙一郎氏(以下、敬称略):おかげさまで足元では大変好調だ。基本的にはファンダメンタルの追い風が大きい。当然、我々もサービスの質を高めるために色々努力しているが、ベースとしては世の中全体におけるネット活用の広がりが大きいのではないか。ネットでモノを買う行為の敷居が低くなってきた。日本全体の購買に占めるネット通販の比率はまた3%前後。伸びる余地は非常に大きい。購買全体に占める若い世代のポーションも広がっているし、とにかくネットでモノを買う文化が広がっているのだと思う。(04:26)
また、スマートフォンに代表されるスマートデバイスの広がりも大きい。楽天ではすでにアクセスの50%以上がモバイルからのものだ。単価やコンバージョンはPCからのほうが高いなので、実流通では今のところPCのほうが大きい。ただ、スマートデバイスの広がる勢いは大変なものがある。それまでのガラケーから一気にスマートデバイスへ変わってきた点も非常に大きいのだろう。家でPCの前に座って注文していたECが、ちょっとした空き時間にチェックをして買うようなものになってきた。また、ソーシャルネットワークの広がりもあって、たとえば誰かの話を聞いて欲しくなった人がその場で注文するといった、そうした購買機会が非常に増えている。(05:20)
そこで楽天が何をしてきたかというと、二つほどある。まず、大変遅ればせながら2年ほど前にマス広告をはじめた。それまでは、ボスが曖昧なものは大嫌いということもあり、「マス広告は効果が見えづらい。ネット広告ならクリック単価から何からすべて分かる」と。実はリスティングだけで年間100億以上をかけていたにも関わらず、マス広告は創業以来一切行っていなかった。現場は以前からやりたいと思っていたが。しかし、ようやく2年前、「楽天スーパーSALE」というものを初めて行うタイミングで、「じゃあ、一回やってみるか」と、マス広告を出したところ爆発的に当たった。それで今は年4回、季節ごとにそうしたセールと連動してマス広告を売っている。それで新しいニーズを上手く喚起できていると思う。また、楽天イーグルスの優勝で昨年は大変盛り上がった。楽天に対する嫌悪感が若干下火になって(笑)、ファンが増えた。それで新しいユーザーさんに来ていただけたのではないかと思う。(06:10)
寺田:優勝セールでは日本全体のインターネットトラフィックにおける10%以上を楽天が使っていたというお話を伺ったこともある。さて、次は小澤さんに振ってみよう。まずYahoo!ショッピングの出店手数料無料化の影響等を、現状を交えつつ伺いたい。また、可能であればブックオフさんとの提携についてもお話しいただければと思う。(07:29)
小澤隆生氏
小澤隆生氏(以下、敬称略):元楽天、現在ヤフーの小澤です。我々は「eコマース革命」というものを去年10月7日に発表させていただいた。その背景には中島常務のお話通り、インターネットを通じた流通・物販の拡大がある。これはもう誰が考えても間違いない。ただ、今まではそこでヤフーという、日本のインターネットで最大のユーザーおよびトラフィックを持つ会社がまともに取り組んでこなかった。しょぼいサービスでしょぼい売上を立て、ぬか喜びしていた訳だ。「これではいかんだろう」と。そこで「思い切ったことをやりなさい」との指示を孫(正義氏:ソフトバンク株式会社代表取締役社長)さんから受けた私が、「こんな感じでどうですか?」と提案したところ、意気投合して現在に至るという流れになる。(08:24)
正直、かつて楽天にいた立場からすると「こういうのもいかがなものか」と思ったときもあるが、これは別に対楽天・対アマゾンという話ではない。日本の消費全体に占めるeコマース比率は欧米に比べてかなり低い。アメリカの7〜9%、イギリスの10数%に対し、日本はこれだけインターネットが普及しているのにeコマース化率が非常に低い訳だ。そこにヤフーとしてしっかり取り組むべきだと考えた。(09:30)
幸い、ヤフーは皆様からの広告収益で大変な利益が出ているから、eコマースで多少、年間今はおよそ200億赤字を出しているが、「それを出したとて日本のためになるのなら」と。「男が300〜500億ぐらいのことで志を諦めちゃいかん」と孫さんもおっしゃるので、「じゃあ、やろうじゃないか」とのことで「eコマース革命」をはじめた。私自身はヤフーで唯一となる赤字カンパニーの長として厳しい立場にいて(会場笑)、四半期ごとIRでも厳しい質問をいただく。上場企業の社長で200億の赤字を出す立場は本当に辛いが(笑)、なんとか口八丁手八丁で切り抜けている状態だ(会場笑)。(10:02)
昨年10月7日以降の半年間、2四半期ほど回してどうだったかというと、ちょうど先週行った第4四半期の決算でも非常に伸びた。まあ、当たり前の話だが無料にすれば出店者は伸びるということだ(笑)。ただ、ヤフーは昔、インターネットのモデムを配ってまでインターネットの自由化を行った。それでインターネットの利用者が増えて、結果的にインターネット事業者が潤ったという強烈な体験を一度している。それと同じだ。無料化することでモノを売りたい人が増えると、最終的には「もっと売りたい」ということで広告が増える。その仕組みをつくるため、まずは出店者を増やす。実際、今までは15年間でやっと2万5000店だったのに無料化後の3ヶ月で8万店に増えた。やはり意味があったと思う。出品数もいきなり一億品に伸びている。(10:49)
では、その結果として売れるようになったか。それまでのYahoo!ショッピングは大変しょぼいサービスだったために(流通額も)前年比で毎年下がっていて、昨年9月までに(一時期に比べ)80%台まで下がっていた。しかし、「eコマース革命」以降の今年3月までは同140%にまで伸びている。見事なV字で、IRでも久しぶりにほっと一息ついた話ができた状態だ。出店数も出品数も伸びて、その結果として流通総額が伸びた訳で、赤字は継続しているが非常に良かったと思う。(11:59)
ブックオフの話もしたい。これは正確に言うとヤフオク!としてのシナジーを考えている。ご存知の通り、ヤクオフ!は日本のインターネットリユース市場で断トツのNo.1だ。私は昔、「楽天オークション」の責任者をやっていたが、当時は競争相手として死ぬほど辛かった。今でも幸いなことにNo.1の状態は継続しているもが、year-on-yearでは100%を若干切る推移だった。たとえば、会場にいらっしゃる皆様のうち、どれほどの方がヤフオク!またはそれ以外のサービスを使ってモノを売ったことがあるかというと、実はそれほどいないと思う。買ったことすらないかもしれない。日本ではCtoCまたはリユースを活用する人とそうでない人が真っ二つに分かれる。さらにインターネット経由の出品となると利用者がかなりマニアックな方々に限られてしまう。それで市場の成長がぐっと止まってしまっていた。(12:38)
「これではいかん」と。資源のない日本という国はリユースを効率的に活用しないといけないから、ここでも爆発的な戦略を採る必要があると考えた。そこで、「リアルでNo.1のブックオフと何かできないかな」と。それによって今後は店頭で買い取ったものをインターネット上で売るといったこともやっていきたい。また、ブックオフさんは今まで、なんでもかんでも買い取る一方でその価格は希少性があろうがなかろうが定価の2割といった風に決めていた。しかし、今後はデータベースとも連動させ、良いモノは高く買い取ることも考える必要がある。ブックオフを通じてヤフオク!の委託販売を行うのも有りだろう。そうした分かりやすいシナジーを生み出せると思う。今後のやり方次第だが、とにかく我々としてはリユースの世界を改善したい。そして、Yahoo!ショッピングではCtoCを含めたモノの売り買いすべてにおいてインターネット比率を高めていく。そんな取り組みをヤフーとして、本当に遅ればせながら一生懸命やっているというのが去年からの動きになる。(13:41)
寺田:次は武永さんに振ってみよう。現在取り組んでいらっしゃるビジネスのサマリーも含め、eコマース市場の展望などについてお話しいただきたいと思う。(14:53)
武永修一氏
武永修一氏(以下、敬称略):ヤフーさんと楽天さんに挟まれて大変緊張しているし(会場笑)、当社売上の大半を2社が占めているので滅多なことは言えないが(会場笑)。まず、我々は昨年グロービスさんに出資いただき、メガプレイヤーがいるeコマース市場にあってなんとか間隙を縫うようにして上場した。当社としてはそれが一つのトピックだが、何をやっているかというと、基本的には価格.comさんに近いモデルだ。各種ショッピングおよびオークションサイトの比較を行っている。当然、それだけではヤフーさん傘下のコネコネットさん等、いくつかの競合プレイヤーさんに対する差別化にならない。ただ、当社は過去のオークション価格を10年間取り続けていた。そのため、たとえば何かの商品名で検索したとき、「いくらで、どのサイトで落札されたか」が分かる。それを元にすれば、自分が売る際はだいたいどれほどの金額で、どのサイトで売ることができるかが分かる。そうした使い勝手に対する評価で、今は月1000万人ほどになるユーザーにお使いいただいているのかなと思う。どちらかというと買い手でなく売り手向けに特化したサイトとして、一部では課金も行っている。(15:24)
あと、市場展望ということで申しあげると、基本的にはヤフーさんと楽天さん、そしてアマゾンさんの3強構造は変わらないと思う。ただ、最近は色々なアプリが出てきて、スマートフォンユーザーに大変有効なリーチができていると感じる。(17:21)
寺田:現状についてさらに伺ってみたい。今月あたりからヤマト運輸さんが大幅な値上げを行った。これは、どちらかというと出店者の方々に大きな影響をもたらす事象だと思うが、配送を含むフルフィルメントについてはどうお考えだろう。リテーラーとしてはeコマースにおける最大のコストである物流コストの処理が非常に大きな課題だと思うし、そこでフルフィルメントと言われるようなサービスが充実できたら、結果として物流コストの削減にも繋がると思う。そうした部分での取り組みを伺いたい。(17:59)
小澤:たとえばユーザーインタビューで「何故アマゾンで買うんですか?」と聞くと、恐らく会場にいらっしゃる方の多くも同じお答えになると思うが、「確実に明日届くから」とおっしゃる。商品は多少高いかもしれないが、とにかく物流の信頼性が極めて重要ということだ。我々も楽天さんも物流には懸命に取り組んでいるが、やはり全商品を自分たちの倉庫から出す訳ではない。だからピッキングや配送のリードタイム等、いわゆるフルフィルの部分を自分たちでコントロールできていない。アマゾンさんはそれをなんとか自分たちでコントロールしようとしている訳だ。アメリカでは倉庫内作業のロボット物流システムを開発するキバ・システムズという会社まで、およそ600億で買収し、自動化でピッキング時間の短縮を図っている。そうした部分ではなかなか敵わないが、実際、お客様は物流の時間やコストに大変敏感だ。(19:24)
また、それまでの無料化戦争等を経てヤマト運輸さんがおよそ倍に値上げをした訳で、これは業界にも大きな影響を及ぼしている。今日もいらっしゃっているが、実際、「田口(義隆氏:セイノーホールディングス株式会社取締役社長)さん、なんとかしてください」とお話もさせていただいている(会場笑)。出店者の方にも「イー・モバイルなんか買収していないでヤマト運輸を買収しろ」と言われる状況だ。値段がまったく違うからそもそも買えませんという話だが、とにかく自社物流でどこまでできるのかという議論はあるし、物流に関しては非常に由々しき問題があると認識している。(20:44)
では、そこでどうしているか。我々は一昨年、アスクルという会社に340億で資本参加をさせていただいた。そこでアスクルの倉庫と、Bizexというアスクル子会社が持つ百数十台のトラックを活用して自社物流を行っている。ただ、個別配送は大変だ。ある程度物量もルートもはっきりしているBtoBと異なり、個別配送はやはり大変。倉庫も150億ほどかけて二つ建てたが、実際にやってみるとオペレーションも本当に難しい。ジェフ・ベゾスも著書で「物流について本当に困っている」と書いていた。(21:37)
ただ、逆に言えばeコマースのブレークスルーポイントは、ロボットを使ったピックアップからラストワンマイルまでのフルフィルを含む物流と言える。この点、セブン&アイ・ホールディングスさんは上手だと思う。在庫を店舗に振り分け、そこからラストワンマイルは電気自動車でさっと運ぶ。素晴らしい発想だ。ラストワンマイルや倉庫での集中的なピックアップに関しては色々とやり方があると思う。そうした物流でブレークスルーを起こしたいということで、私どももアスクルでの取り組みを中心に色々考えている。楽天さんでも同様に色々な取り組みをなさっていると思うが、ここは皆様方と何かお仕事ができないかなとも思う。日本のeコマースにおける大きな課題だ。(22:28)
寺田:楽天さんもその辺については相当ご苦労していると伺っているが、どのような形でフルフィルメントを進めていこうとお考えなのだろう。(23:23)
中島:小澤さんのお話通り、大変な値上げがあった。最大の原因は、今、物流が完全にキャパオーバーを起こしている点だ。キャパオーバーの要因は二つほどあると思う。まず、購買が平準化するリアルでの販売と異なり、ネットでは波が発生する。たとえばCMを打って「楽天スーパーSALE」を行うと3日間で2500万人ほど訪れ、およそ500億の流通が立つ。とてつもない爆発力だ。全国展開している実店舗がCMを打ってバーゲンを行っても、そこまで購買が集中することはないと思う。ヤフーさんの「爆買いバーゲン」のようなイベントでも同様だと思う。ネット購買のシェアが高まると当然ながらネット側も購買喚起のため、たとえばエモーションが喚起されるような「母の日特集」の販促等、さまざまなマーケティングを行う訳だ。それに呼応して購買が集中する。今はそれに物流が耐え切れずキャパオーバーを起こしてしまう。そうした集中型購買にどう対応していくかという課題がまず一つ。(23:43)
それともう一つ。皆様ご存知の通り、日本の物流品質は世界最高レベルにある。2時間ごとに配送時間が指定できるような国はない。今はそうしたクオリティが自らの首を絞めている。正直、そのクオリティをアメリカ並みにして、「明日か明後日届けばいいじゃない」といったレベルにすれば処理はできる。ただ、日本の物流会社は恐ろしく素晴らしい品質をつくってきた。それをキープしようと思って自身の首を絞めるような状態になってしまっている。(25:33)
ではそこでどのように対処していくか。幾つかの方法しかない。一つには自ら物流投資を行い、新しいインフラをつくるアプローチがある。ただ、これには巨額の費用がかかる。楽天もそうした方向に舵を切りかけたが、やはり日本中にそうしたネットワークを広げるのは難しい。アマゾンさんのように利益を切り崩しても進めるといったことがIR市場で認められる会社なら良いと思う。しかし、たとえば楽天として「現在の1000億に及ぶ利益を今後すべて物流に投資するので、数年間はプラマイゼロでいきます」といったことは許されないだろう。(26:20)
そうなると、もう一つの方法として既存の物流会社さんに頑張ってもらうしかないという話になる。ただ、物流会社さんにも自社の経営方針等がある訳で、我々のために割に合わない物流をやるよりは平準化された状況でやっていくほうが良いに決まっている。従って、そこもなかなか折り合わない。ただ、集中購買も処理できるようになれば最終的には物流会社さんともWIN-WINになる筈だ。甘利(明氏:内閣府特命担当)大臣も全体会で仰っていたが、「だったら、それを前提条件にどう考えるのか」と。今は存在しないもう一つの解として、物流会社さん等と協力しながら新しい仕組みをつくっていくしかない。ただ、いずれにせよ今はそれがまだ見えていないために物流がボトルネックとなり、これ以上広げていくことができないような状態だ。(27:15)
今は、たとえば短期セールにおいて買い物かご等の機能で時間指定ができるものを外す等、システムとサービスクオリティを連動させてとりあえず進めるというのが最も現実的な解になる。ただ、高い品質に慣れたユーザーはなかなかその点で妥協することができない。その辺が今後の大きな課題だ。(28:20)
小澤:逆に言えばそこは大変なビジネスチャンスだ。その辺で解決策を見出している会社は世界的にも未だ存在しない。アマゾンですらそこはまだ上手くできておらず、ドローンで運ぶなんていうネタ的な話ですら今は記事になっている。ほかにも、たとえば2時間内の配送を行うというeBayの「eBayNow」等、今はさまざまな実験が行われている。皆、そこでブレークスルーを探している。だからその辺が解決できさえすれば、新しいeコマースの流れができると思うし、我々も色々と考えている。(28:54)
寺田航平氏
寺田:話の角度を若干変えてみたい。ヤフーさんの「eコマース革命」は今後2〜3年で少しずつ業界地図を塗り替えるように思う。今後はある程度広告費を払ってでも利益を出せるような人たちが次々参入していくだろう。また、CtoCマーケットに近いところでも小さなリテーラーの方々が伸びていくと思う。すると、今まではどちらかというとヤフオク!を利用していた、そうした後者の方々がショッピングにシフトする流れも生まれ、オークションとショッピングの垣根が崩れるのではないか。そこで武永さんのような方々が果たす役割も大きいと思うが、今後はどう変化するとお考えだろう。(29:40)
武永:たとえばeBayは元々オークションサイトとしてNASDAQに上場しているが、今、eBayのなかでオークションの形態をとっている商品は3割に満たない。残り7割はすべてショッピング。いわゆる決め打ち価格で取引されている。従って、すでに海外ではオークションとショッピングがほとんど一緒になっている。ショッピングのなかにオークションやフラッシュセールもがあるといった状態で、もう一機能に過ぎない。日本ではヤフオク!が一気に走っているので分かれているが、実はかなり混然一体となってECという風に思われているのだと思う。(31:16)
お客様からすると、たとえば競ってでも欲しいようなレア物であればオークションも楽しいのだけれど、基本的には物流が大きく影響してくる。また、少しぐらい高くても利益を確定したいという方々は、じりじりしながら締め切り時間まで待ったりせず、1〜2割高くても指値で落札していく。その意味では、CtoCのなかでオークションという形態が今後どれほど伸びるかというのは分からないなと思う。一つのエンターテインメントとして残り続けるとは思うが。(32:03)
寺田:もう一つ、今は決済回りも百花繚乱という状況がある。そこでリアルまたはネットに関わらず、各社それぞれの戦略で動いている訳だ。楽天さんも昨今、「楽天スマートペイ」を拡大させてきた。そうした決済についても新しいベンチャーは次々台頭しているし、海外からも攻めてきている。この領域についても何か対策や戦略があればお聞きしたい。特にYahoo!ショッピングでは、たとえばYahoo!ウォレット上で外部とセッションを行い、そこでカード決済を行えばTポイントを付与するといった大変な取り組みもはじめようとしているようだ。その辺は戦略的にどう考えているだろう。(32:36)
小澤:インターネット上でモノを売り買いする際は商品と物流と決済が三位一体で必要になる。従って、「商品は増やした。物流にはブレークスルーすべき課題がある。では、決済は?」という課題がある。そこで我々が見ているのは中国のタオバオだ。同社の2012年度の流通総額は17兆円に達した。eBayは6〜7兆円で、楽天さんは恐らく1兆数千億だろうか。「中国のeコマースは物流と決済がぼろぼろだから伸びない」と言われていたのが5年前。それからあっという間に17兆円だ。中国でeコマースが最も盛りあがる11月11日に関して言えば、昨年は1日で5500億円にのぼった。では、17兆円をつくるために彼らが何をしたか。決済を銀行に頼らず、自分たちで「アリペイ」というサービスをつくった。PayPalをつくったようなものだ。その決済手数料は無料。日本のクレジットカードはどれほど頑張っても1〜2%なのに対し、「アリペイ」では個人の決済も無料だ。もう、恐ろしい世界観をタオバオはつくっている。(34:11)
我々はそれを日本でなんとかできないかと考えているが法律が相当厳しい。また、消費者のニーズを考えても、ありもしないビットコインのような通貨を求めている訳ではない。となると、難易度はなかなか高い。PayPalのような決済サービスを日本で構築するのも法律的に難しいだろう。日本のeコマースでは物流の問題もさることながら決済の問題も非常に大きい。2〜3%の決済手数料が事業者にかかるし、ヤクオクはなんと買い主に転嫁している。めちゃくちゃなことをしている訳だ。では、それをクリアするために我々はどうしているか。先月より、金融庁から認可をいただいてインターネット銀行として最大手の一つであるジャパンネット銀行を運営している。同じ銀行内の決済であれば恐らく手数料を相当安くできるのではないかと。とにかく決済手数料をどこまで下げることができるかということを課題として考えている。(35:46)
また、Tポイントもやらせていただいているが、Tポイント間の決済でもかなり安くできるのではないかと思う。現金を介した銀行とカード会社とのやりとりによって手数料がそれぞれに落ちている訳だから。そのためにはやはり圧倒的マジョリティを取る必要があるけれども、ヤフーはそれを行うための勢いをそれなりに持っている会社だと思う。そこでソフトバンクとも組むことで、さらに大きなパイを獲得したい。最終的には我々が決済を抑えたい訳ではない。決済手数料を安くすることで事業者の利潤を増やす。「我々のところで売っていただいたほうが儲かりますよ」という経済的なメリットをしっかりつくるためにできることはないかと考え、なんとか頑張っているところだ。ただ、なにせ法律の壁が高く四苦八苦している状態ではある。(36:57)
寺田:楽天さんも今はすでに半分以上、金融カンパニーではないかというようなお話もある。今は「楽天カード」から「楽天Edy」まで、さまざまな展開をなさっている。カード流通総額でも、今はまだセゾンカードさんが1位だと思うが、楽天さんもすでに2兆円は越えていて、3兆近いと。もうすぐ1位と2位で逆転するのではないか。(38:53)
中島:数年以内に逆転できるのではないかと思う。(39:23)
寺田:手数料についてはどうお考えだろう。今はカードの比率が高く、そちらを積極的に推進しているという意味でもそこを切り崩されると大変な気はするが。(39:26)
中島:通貨回りのポテンシャルは非常に高いと思う。まず、通貨にはキャッシュとクレカード形態、そして電子マネーのような形のないものの三つに分かれると思う。ただし実体のないものは、最近はビットコインの問題もあったことだし、金融庁としてもその分野ではなかなか規制緩和に踏み切れないと思う。従って今後伸びるのはキャッシュとカード形態だと思うが、カードに関して言うと、店舗側のカードリーダというインフラには初期コストや手数料という点で今まで限界があった。また、入金の問題もある。来月または明日の入金がないとその日が回らないという店舗さんは多い。そこでその決済が今月末に入るのか来月末に入るのか、あるいは再来月末なのかというのは、お店としてはときに存続がかかるようなレベルの話になるからだ。(39:38)
そこで、我々が今やっている「楽天スマートペイ」についてご説明をしたい。これはPayPalの決済カードリーダと同様、1.5cm四方ほどの小さな端末だ。それをスマートフォンに接続すると、それでカードをきることが可能になる。従って、従来のPOSレジに連動させていたような大きな端末の初期コスト等、投資をほぼ不要にした。しかも楽天は金融グループを持っている訳で、企業側からいただく手数料や入金に関して、ある程度我々のほうでリスクを負いながらも魅力的な条件を出すことができている。それで今、実は「楽天スマートペイ」が爆発的に伸びているところだ。さらに言えば、楽天というとネット企業というイメージを持たれていると思うが、実は500〜600名の営業が一人100店舗ほどを担当し、日々アナログな営業を行っている。楽天トラベルでも専任の営業が何十施設も担当しており、今はそうしたべたな営業網を使って一気にカードリーダを案内している状態だ。そこはお金に関係するお話になるので、「こちらのほうがお得です」というシンプルなご案内で意思決定していただきやすい。今はそのおかげもあって非常に伸びている。(40:58)
僕たちとしては、まだ電子マネーが世の中で普通に使われるような時代になっていないと考えている。従って、今はレガシーな領域であってもITの発達によってブレークスルーが起きるところを一気に抑えるという戦略だ。そこで、たとえば「楽天スマートペイ」を採用する店舗さんが数万〜数十万と増えれば、それが店舗さんとのコンタクトにもなる。従って、次の時代が来たときも同様に一歩リードして進めていることができるのではないか。ネットビジネス全般で同様のことが言えると思うが、行き過ぎると世の中がついてこないし、遅れると先を越されてしまう。その辺のさじ加減が難しい。ビットコインが出てきたときも皆、「あれに乗らないと」ということで一気に行った。しかし、日本では結果的にああいった問題が起こり、見直しの機運もある。実際、お客様のお金を預かる訳で、何かあったときは問題も大きくなる。その意味でも慎重にならざるを得ないが、とにかく今はその辺も考慮しつつ色々やっているところだ。(42:37)
寺田:最終的には決済手数料も大きく下げていくような流れだろうか。(44:00)
中島:ユーザーにとって価値あるものであれば手数料のビジネスモデルは成り立つと思う。従って、手数料を下げる方向ともう一つ、手数料以上の付加価値を提供するという二つの方向がある。その意味では、スマートフォンと連動した決済であれば履歴も残る訳だからレコメンドも可能になるし、固定のPOSレジ連動と比べてかなり幅広いことができると思う。そこで、「それであれば1〜3%ぐらいの手数料があってもいいよ」と、店舗さんが思っていただけるようなサービスを考えていきたい。(44:09)