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甘利明大臣が語る「アベノミクス3本目の矢 〜成長戦略を実現するアントレプレナーシップとは」

投稿日:2014/05/22更新日:2019/04/09

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甘利明氏(以下、敬称略):アベノミクスが掲げるタイトルは‘Japan is back’。「日本が帰ってきたぞ」ということだ。アベノミクスはもちろん日本経済を立て直すところから出発するが、それだけではない。世界経済を牽引する強力なエンジンとして、かつて世界から賞賛された「経済大国・日本」以上のパワーで世界の第一線に復帰する。そうして日本を再生させ、世界を再生させることがアベノミクスの目標だ。(01:24)

民間経済に種火がつかない。よく見たら薪がすべて湿っていた

ご案内の通り、アベノミクスは「3本の矢」でかなり有名になった。一の矢は異次元の金融政策、二の矢は機動的な財政政策、そして三の矢が民間投資を喚起する成長戦略となる。何故その順番かというと、話は簡単だ。今までもいろいろな経済対策は打ってきた。ただ、それをやっているあいだは効くものの、その種火が消えた途端に経済は元に戻ってしまっていた。本体、つまり民間経済にどうしても種火が移らなかった。それで、上手くいかずに何度もやっているうち、種火の借金が山と積まれてしまった。(02:24)

これを根本から変えたい。原因はデノミであった。連続的に物価が下がっていくだけでなく、賃金も投資額も落ち込んでいく。経済がシュリンクしていく姿だ。この15年間で世界の先進国では経済規模がほぼ2倍となったのに対し、日本はマイナス数%。これはデフレ、つまり使わないほうがお金の価値は上がるという状況を脱していないからだ。それを使ったほうがお金の価値は上がるというマインドに変えることが、一の矢の大胆な金融政策となる。(03:17)

そして間髪を入れず需給ギャップを埋めて、素地を健康体に戻す。そのうえで本体となる民間経済500兆を回す手順だ。今までは大きなキャンプファイヤーに種火をつけている状態だった。ただ、種火が燃えているときは元気でも、本体はすぐに消えてしまっていた。何度やっても同じ。よく見たら積み上げた薪がすべて湿った状態だった。その水抜きからはじめようというのがデフレ脱却にあたる。(04:07)

さて、今はその水抜き、つまりデフレの脱却ができつつある。あとは500兆円の経済をどう動かしていくか。そのためにフロンティアをいくつか示す必要がある。我々が示すフロンティアは、「日本が抱える頭の痛い問題を逆手に取ろう」というものだ。まずは少子高齢化の問題だ。人口が減少し、労働人口と消費人口が減っていく。良いことは一つもない。しかし、そこで逆転の発想をする。「我々が今頭を痛めているということは、他の国もいずれ頭が痛くなるのでは?」と。日本が直面するこの課題は何年か後、アメリカ、EU、あるいは中国の課題になる。一人っ子政策なんてさらに大きなマグニチュードとなって問題になるのではないか。それならば、日本が早めにソリューションをつくればそれを売ることもできる。(04:53)

もちろん、人口を増やしていくという抜本的な課題もある。ただ、今後20〜30年がどういった方向になるかと言えば、現在労働人口に含まれない人達にも労働に参加してもらうという流れになるだろう。ニートやフリーターの若者はもちろん、女性や高齢者がその対象になる。となると、元気な高齢社会をどうつくっていくかが課題だ。日本人の平均寿命は八十数歳で世界一。ただ、健康に過ごすことのできる寿命はそれほど延びておらず、健康寿命と寿命との差が開いていることが最大の問題と言える。だとしたらその隙間を徹底的に埋めて、健康寿命を延ばすトライが必要になる。そうすれば医療費や介護費も減るし、労働人口は増えていく。(06:11)

公共事業は国のお金でやるものなどと誰が決めたのか?

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今の日本は高度成長期のなかで一斉に整備したインフラが、今度は一斉に老朽化を迎えるという問題も抱えている。やがてあちこちでトンネルや橋の崩落、道路の陥没といった事態を迎えてしまうのに、それを補填する財政力はどんどん小さくなっているわけだ。だとしたら、従来と異なる方法を考えてはどうか。「公共事業は国のお金で公共がやるもの」と、誰が決めたのか。民間の力で行う手法はないのか。民間資金が公共事業で活用されるような規制緩和をどのように行っていくか、公共事業にまつわる権利をどのように活用するかといった、新しい発想を持つ必要がある。(07:31)

また、公共インフラに用いられる素材の長寿命化を図る。さらに言えば、どこから壊れるのかが分からないなら、インフラ自身が「そろそろここを補修してくれない?」と、自分で教えてくれようにすることはできないのだろうか。センサーの技術がこれほど発達しているわけだ。私はインフラ自身が耐用年数を知らせてくれる仕組みもできると考えている。そうしたことも大きなソリューションになるだろう。このほか、電力危機をどのように克服するかといった課題も含め、とにかく日本が今抱えているいくつもの、頭が痛くなるような課題を逆手に取る。最初に対応しなければいけないことほどラッキーなことはないと、今は発想を転換している。(08:34)

そのためにも、まずは企業が基礎体力を増強できるような措置をとる。今、日本企業が保有する多くの設備では耐用年数が近づいている。それを一挙に更新できるよう、税制や予算に関する助成制度を設け、規制緩和を大胆に行う。企業が抱える負の遺産を切り離しやすくなるような手法もとっていきたい。たとえばA社とB社にそれぞれ不採算部門があり、それが両社の採算部門を食ってしまっている場合はどうすれば良いか。不採算部門を切り離し、両社の採算部門を一緒にした会社につくりかえることができるようにしていく。そうした大胆な企業再編を行うことができるような環境整備も行って、基礎体力を整えてもらいながらフロンティアを明示していきたい。(09:30)

フロンティアが自生する実践場、それが国家戦略特区だ

そこで、我々はフロンティアが自生する実践場をつくらなければいけない。それが国家戦略特区だ。今回は6地域を指定した。そこにビジネスが集うためには、ビジネス環境だけでなく周囲の生活環境も良くしなければいけない。たとえば外資が入りやすくなるよう、社員の奥さんにも来てもらうためにはどうすべきか。奥さんも本国で仕事をしていた場合、それが高度人材の仕事ではないために日本で続けることができないとなれば、「ただ家庭にいるだけなら日本に来ることはできない」となってしまう。子供の教育も重要だ。インターナショナルスクールはあるらしいが、卒業しても大学受験資格を手にいれることができないのなら子供を連れてくることはできない。あるいは、英語で対応できる医者がいなければ、うかうか病気にもなれない。ビジネスだけでなく、その生活周りまで一挙に変えていく特区をつくってはどうかと思う。(10:44)

ライフサイエンス分野でも可能性がある。「日本はこれほど科学技術が進んでいるのだから、医薬品や医療機器も海外へたくさん輸出しているに違いない」と、普通は思うところだ。ところが医薬品や医療機器はおよそ3兆円の入超。科学技術立国を標榜しながら科学の粋たる医薬品や医療機器を数多く輸入している。「これは制度がおかしいのでは?」となる。それはそうだ。たとえば、開発から販売までの期間が長過ぎてはとても太刀打ちできない。これをどうやって縮めるかという議論もできる。(11:57)

何より、そうした分野で企業集積群をつくることができないかと思う。これも特区の対象だ。私は現職となってオランダとデンマークを訪れ、当地のフードバレー、そしてメディコンバレーと言われる地域を視察した。そこで分かったのは、大学の研究室を中心として、企業の研究所がキャンバス内外に集まっていたことだ。そこでコラボがはじまり、そこから規制緩和の要望も出てくる。集積がアライアンスとなって力になっていくという点ではフードバレーもメディコンバレーも一緒だった。(12:56)

日本にもフードバレーとメディコンバレーをつくりたい。私は経済産業大臣であった7年前、「農業を福祉事業から産業に」という提案を行った。日本の農産品が持つ高品質・高味覚・高安全という強みには、高価格の壁をぶち破るポテンシャルがあるからだ。そこで農業を産業として捉え、マーケティングや商品開発あるいはブランディングに関しても、企業の目で農業を見ようよという提案を行った。「農商工連携」という案だ。それで当時は「人の領分に入ってくるな」と、農水省から猛反発を食らったが、やがては民主党政権で6次産業化という名前に変わり、芽が出てきた。(13:53)

農業従事者に土日と月給を!農業改革は実現できる

「農業の改革を」と言うと、「そんなことはできない」と、必ず言われる。一人当たり農地面積がEUは日本の百倍、アメリカは百数十倍、オーストラリアに至っては1500倍で、勝てる見込みは無いというわけだ。しかし、農産品輸出国のランキングを見てみると、一位はアメリカだが第二位はオランダだ。あれほど国土面積の狭い、海を埋め立てて面積を増やしている国が何故二位なのか。行ってみれば分かる。農業はもうIT産業になっているわけだ。私が掲げる農業改革では、「農業従事者に土日と月給を」ということを言い続けている。収穫期にならないと配分が来ない、あるいは土曜も日曜もないという労働環境を変えなければ誰も来ない。オランダはそれを転換したから二位になった。(14:48)

デンマークのメディコンバレーはどうか。元々そんなものがあったわけではない。集積がアライアンスを生み、そこで現場から規制緩和要望が出るようになり、行政に繋ぐシステムとなっていった。大事なポイントは、すべて自然発生的にできたということだ。あちらで「国の補助金はいくらですか?自治体からどんなお金が出ているのですか?」と聞くと、「どういう意味ですか?そんなものはありません」と言われる。現場の必要性から自然発生的にニーズが生まれ、そうしたニーズへの対応もすべてできている。(15:58)

「日本で今からそれに追いつくのは大変だから、人為的に起こそう」というのが国家戦略特区だ。そこで重要な役割を果たすのがベンチャーとなる。大企業は小回りが効かない。そこで縦横無尽に小回りが効いて柔軟な発想のできるベンチャーが、アイデアとエネルギーをどのように商品化・製品化していくのかが鍵になる。(16:46)

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ベンチャーの生態系全体を俯瞰した支援策を打つ

日本も今までベンチャー支援を数多く行ってきた。もう「これでもか」というほどやってきた。しかし、まったく、とは言わないが、ほとんど効果がなかった。それで業を煮やした私は、6月に改定される成長戦略に向けて2本の柱を立てた。一つは、日本から絶え間なくイノベーションが起きるようなナショナルシステム。これは後ほどお話ししたい。で、もう一つの柱がベンチャーだ。従来のベンチャー支援で効果を挙げることができなかったのは何故か。そこで今回、私は堀さんにお願いをしてチームをつくっていただいた。それで先日答申をいただいたのだが、詳しくはご本人からのお話もあると思うが、要するに今まではベンチャーの部分だけを切り出して議論していた。「そうではない」と。ベンチャーというものは発想から生まれて、そして成熟期に入ったのち、そこから大企業になる、あるいはM&Aに向かう等、いろいろな発展の形を迎える。しかし、今まではそうした生態系全体を俯瞰したうえでの支援策が打たれていなかった。従って、今後はそうした生態系のなかでどのように繋げていくかを考えていく。(17:21)

そこでは大企業の役割も大事になる。大企業が発展の限界を向かえたとき、それをブレークスルーしてさらに伸びていくためにはどこかで必ずベンチャーを吸収・合併している。だから大企業もベンチャーを見る目も変えてもらいたい。また、大企業からスピンアウトしてベンチャーになるという動きを効率的にするための政策も組み立てていきたい。そうしたことを含めて、今はいろいろなことを考えている。(19:16)

そして何より、日本ではベンチャーを起こして失敗すると生涯立ち上がれないほどのダメージを食らう。恐らくアメリカでは履歴書にベンチャーを一つや二つ潰したことが書いてあれば、「お、こいつは使えるな」と思われるはずだ。体験を通して知識やノウハウを持っているわけだ。どうすれば失敗しないかという点では、何をしたことで失敗したかを知る人が強い。しかし、日本ではそうならず負の経歴になる。それを我々はプラスの経歴にしたい。手始めに、どこまで効果があるかは私も確信が持てないでいるが、まず個人補償制度をなくすことにした。失敗しても立ち上がることができるようにすることで、ベンチャーが日本の経済活力を担うようにしたい。(19:58)

“甘利プラン”によってイノベーション創出サイクルをつくる

最後に、先ほど少し触れた、「イノベーション・ナショナルシステム」についてご説明したい。イノベーションは現状の延長線上に起こらない。そこで、世界を変えるようなイノベーションが常に日本から出るようにしたいと思っている私は、先日、経済の司令塔である経済財政諮問会議に「甘利プラン」というものを出した。これは総理に採択され、推進されることが決まった。話は簡単だ。基礎研究のなかからイノベーションが出てくればそれが一番良い。(21:04)

ただ、基礎研究を担う大学・大学院の研究が「研究のための研究」で終わってしまうとその先に繋がらないと趣味の世界で終わってしまう。基礎研究のなかからシーズを見出し、それを応用研究に繋げ、実用化してデビューさせていく。そのためのシームレスなシステムをつくりたい。その繋ぎ役を大学教授や国の研究開発法人が担う。産業技術総合研究所や、今少し評判が悪いけれども、理化学研究所が繋ぎ役となり、基礎研究を実用化するための橋渡しをする。東大教授と理研の研究員で半々という人員にしても良いと思う。そこで年金や社会保障のシステムもすべて変えて、基礎研究から実用化まで繋がるようにしたい。大学院の博士課程にいる学生が国の研究開発法人へ手伝いに行くのも良いだろう。そこで研究を仕上げ、そこに途中から民間も入ってくるとなれば、その人はそうした民間の研究所にそのまま就職すればいい。そんな風に上流と下流を繋げることで世界を変えるイノベーションが常に日本から生まれるようにしたい。また、そうした繋ぎ役に関してベンチャーの果たす役割もしっかり位置づけたいと思う。ご清聴、ありがとうございました(会場拍手)。(21:42)

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