「国家統治のスタイルは合わなくなる。まずは公平で自由な競争環境をつくるべき」(小泉)
鈴木英敬氏(以下、敬称略):私はこういった会議で堀(義人氏・グロービス経営大学院学長)さんにトップバッターを任されることが多い。「勢いをつけろ」ということだと思うので、この2日間に期待感を持つことが出来るようなセッションにしたい。(01:14)
「10年後の政治・外交—今、僕らがやるべきこと」というテーマをいただいた本セッションでは、二つの目的を設定したい。ひとつ目は、壇上の御三方が認識する国政、地方政治、そして外交上の課題を会場の皆さまと共有すること。二つ目は会場の皆さま自身にそれぞれ出来ることを考えていただくことだ。G1サミットには「批判より提案を」「思想から行動へ」という精神もある。皆さまは豊富な知識やネットワークをお持ちで、政治や外交にも詳しいと思う。従って、会場の誰もが少しでも良いので何らかのアクションを起こして欲しい。以上の二つを目的としたい。さて、早速議論に進みたいが、さて、まずは小泉さん。昨日はよく眠れましたか?(02:06)
小泉進次郎氏(以下、敬称略):昨日は遅くまで古市(憲寿氏・社会学者:以下、肩書略)さんや為末(大氏・アスリートソサエティ代表理事:以下、肩書略)さんや高島(宏平氏・オイシックス代表取締役社長:以下、肩書略)さん達と「明日は何を話したら良いのかな」なんて話をしていたのだが、僕も本セッションの役割は二つあると思う。ここでは政治や外交がテーマになるが、別セッションでは麻生(巌氏・株式会社麻生代表取締役社長)さん達がビジネスの面から、安藤(美冬氏・株式会社スプリー代表取締役)さん達が社会・文化の面から、それぞれこれからの10年を議論する訳だ。それなら1日が終わったとき、「考えてみると、これからの10年に向けた思いというのはすべての分野で結構似ているね」と思えるような、そんなきっかけをつくりたい。(04:12)
もうひとつ。これはすごく大事なことだと思うが、あまり頑張り過ぎず、次の方々にとってのハードルをあまり上げないこと(会場笑)。気楽に。(05:22)
鈴木:なるほど。なお、今日は30分ほど壇上で議論をしたあと、皆さんに質問や意見をぶつけて貰いたいと思う。まずは小泉さんが考える10年後の政治について伺っていきたい。「こんな風になるだろう」という予測、「こんな風にしたい」という思い、「こうあるべきだ」という“べき論”、あるいは「こんな課題がある」という論点提示でも結構だ。10年後の政治について何かお話をいただきたい。(05:46)
小泉:誰かが「10年後の政治はこうなる」と断言しても僕はそれを信じない。民主党の大ブームだった4年前、誰が今の状況を想像出来たか。あのときは自民党や世襲への批判が厳しく、私も10年ぐらい野党やることになるだろうと思っていた。まさか4年後に与党の人間としてG1に登壇するなんて想像もしていない。しかも10年前は大学生だ。そう考えながら10年後の日本に思いを巡らせるとすごくわくわくする。どうなるか分からないからこそ若い人々が活躍するフィールドは広がるのだと思う。(06:23)
特に今の10代と話をしていると、感覚からしてまったく違うことが分かる。生まれながらにしてネット環境が揃っており、色々なところから情報を得ている訳だ。そうした環境で育った彼らからどんな発想が生まれてくるのかと。少し手がつけられないぐらいだと思うが、僕自身はそこにすごく期待している。(07:14)
だからこそ、政治は若い人たちが活躍出来る素地をつくる必要があるし、そこで自民党が大きな役割を果たさなければいけない。自民党は今、世界で最も若い議員が多い政党だ。32歳の僕が局長を務める自民党青年局には45歳以下の議員が属しているが、400人におよぶ議員中、約100人が45歳以下。世界でもこんな政党はない。アメリカやイギリスで何らかの会議に出席しても、そもそも僕が国会議員であることを信じて貰えない。名刺を渡すと「あ、議員のスタッフか」と。(07:37)
鈴木:分かる。僕も海外で「ガバナーです」と言うと、「ガバナー!?」と言われる(会場笑)。(08:36)
小泉:そう。だから海外で同世代のカウンターパートを見つけるのは至難の技だ。若返りのスピードという点で言えば日本はすごい。そうした若い人たちの力を政治だけでなくあらゆる分野で発揮出来るような環境を、いかに整備していくか。(08:41)
僕としては、そこで国があまり「ああしろこうしろ」と言うような国家統治のスタイルは合わなくなると思う。どんな形であるべきか、何が良いかといったことは、専門家でない政治家には分からない。それよりも公平で自由な競争環境をつくる。皆が自由な発想とともに新たな分野で活躍することが出来るような環境にすべきだ。そこで不備があれば制度あるいは環境上の問題を整備していく。日本人の可能性はすごい。だから今までのように国が主導権を握ってぐいぐい引っ張るのでなく、その可能性を信じて政治を行うこと。それが結果的に国や政治の信頼を高めることになると思う。(09:14)
鈴木:若い人が活躍出来る素地を政治がつくっていかなければならないという点には私だけでなく会場の皆も全面的に賛成だと思う。ただ、今はまだ上の世代が多いのも事実だ。彼ら説得していかなければいけないとき、若い政治家が増えること、あるいは若い人が政治で活躍することのメリットをどのように説いていくべきだろう。(10:28)
小泉:若い世代の活躍は無条件に良いことだと思う。何故僕らは高校野球であれほど無条件に感動するのか。プロに比べたら下手だ。しかし純粋な努力、結果が見えていても最後まですべてを出し尽くすあの姿に人は感動する。若い政治家にも同じことが求められていると思う。上の世代に比べて経験や知識がないのは仕方が無い。しかし誰よりも汗をかいている姿を見せることで、「この人に託してみたい」と思って貰う。地道で泥臭く、すごく非論理的かもしれないが、大切なことだと思う。(11:00)
先の参院選では離島や過疎地や被災地を中心に廻ったが、選挙に勝つことだけを考えたらあり得ないことだ。たとえば山形県の飛島は船で片道70分。住民は230人だ。何故そういうところへ選挙期間中に行くのか。そこの方々からすれば、「ここまで来てくれた」という気持ちになる。そういう政治家をテレビで観たら、「あの人の頭にはこの村の景色が焼き付いている筈だ」と思って貰えるし、政治に対する信頼も自然と生まれてくる。ネットを使ってどのように発信するかといったこと以上に、そうした地道な努力が今は求められているのではないか。(11:53)
鈴木:おっしゃる通りだと思う。今は価値観がばらばらになっていて、誰もが賛成する政策がない。そのなかでも純粋に汗をかいていくことが、納得して貰う、あるいは信頼して貰うというプロセスに繋がるのだと思う。では越さんにも伺ってみよう。地方の首長という立場で10年後の予測や10年後に向けた思い、あるいは“べき論”でも良いので、自己紹介も兼ねて語っていただきたい。(12:46)
「途上国と先進国がイコールステータスのなかで世界の秩序が決まる時代に変化する」(神保)
越直美氏(以下、敬称略):小泉さんに大変明るいお話をしていただき、勇気をいただいた。そのあとで暗い話をするのは大変恐縮だが、10年後の地方ではやはり人口減と高齢化が予測されている。日本の平均年齢は現在46歳で、10年後は49〜50歳になると言われているから、会場の皆さまは平均よりも若いし、私も今は38歳ということで10年後も平均よりも若いということになる。それが良いことなのか悪いことなのかは分からないが、とにかく地方では人口減と高齢化が進む。(14:15)
従って何もしなければ歳入も減ってしまう。地方の労働人口は3%ほど減ると言われており、歳入が減って経済が縮小してしまう。そして、地方ではすでに大きな問題になっているが、高齢化によって支出も増える。介護費用の増大で大変厳しい状況にある訳だ。(15:45)
大津市は高齢化の進行が比較的遅く平均年齢も44歳前後だが、地域によっては市内でも平均年齢が50歳前後というところもある。で、そうした地域では子供の数も減ってくるため、「幼稚園や学校を減らしてしまおう」といった後ろ向きの議論が多い。また、人口減に伴ってバスの路線を維持出来なくなってきた地域もあり、そうなると市がお金を出して路線を維持する。だから市の支出が増えていく。これが平均年齢50歳前後の地域で実際に起きていることであり、10年後はそれが日本全体で起きるようになる。そう考えると大変怖いと感じる。(16:24)
鈴木:「こういった良いこともあるよね」というものはないのだろうか。(17:26)
越:今のままでは暗い状態だが、そうした将来に備えるだけでなく徹底的に抗っていきたい。「抗う」というのは人口減少にならないよう頑張るということだ。今のところ大津市ではなんとか人口が増えている。これが人口減に転じないよう何をしていくかという話になるが、まずは子供を増やす。自然増を目指し、ひとりでも多くの方に子供を産んで貰えるようにしたい。また、子育てのしやすさで他の地域から大津へ引っ越して貰えるようにもしたい。従って今は子育て施策の充実に最も力を入れている。(17:49)
鈴木:では続いて、神保さんには外交の専門家として世界の環境変化についても伺いたい。10年後の予測、思い、あるいは“べき論”でも結構だ。(20:03)
神保謙氏(以下、敬称略):外交の10年後というと、なかんずく世界の潮流をどう見るかという話になると思う。非常に重要なのは我々が今立っている時代、そして過去と未来をどう区分けするかだと思う。たとえばベルリンの壁が崩壊した1989年から1991年のソ連解体まではひとつの大きな区切りだった。そしてその10年後に9.11が起きた訳だが、この事件はその後10年におよぶアメリカ外交を決める時代の大きな分岐点になったと思う。同様に、これからの10年も非常に大きな潮流変化が訪れるのではないか。そしてその変化が我々の目の前に迫っているという観点から今日はお話ししたい。(20:31)
ひとつの大きな潮流変化は、「力の拡散」または「パワーバランスの変化」という概念だ。私たちは戦後、常に先進国と途上国といった分類で世界を見てきた。世界をリードするのはG8のような先進国であり、たとえば「将来何になりたいですか?」と聞かれた子供は、「アジアやアフリカの貧しい人を助けたい」と答えるような、そんなひとつのモデルがあった。(21:38)
この構図が大きく変化する。10年前の世界GDPはおよそ38兆ドルで、その87%が先進国で占められていた。しかし今日はこのGDPが倍増した一方、その割合が先進国と途上国でおよそ2:1に変化した。そしてさらに10年後はGDP全体で10年前のおよそ3倍となる120兆ドル前後にまで増える一方、その割合は先進国と途上国でだいたい1対1になると言われている。(22:11)
つまり先進国が経済や政治のルールを決めていた時代から、途上国と先進国がほぼイコールステータスのなかで世界の秩序が決まる時代に変化するということだ。我々はそんな世界のあり方を外交のなかでも見ていかなければいけない。当然、日本外交が投資しなければいけない領域や相手も大きく変わるだろう。(22:55)
そして2番目の潮流だが、そうした新興途上国のなかの大きなポーションを占めるのがアジアということだ。「アジアの世紀」とはよく言われているが、つまり‘center of gravity’、引力の中心がアジアに移行していく。そこで中心を占めるのが当然ながら中国となる訳だが、成長しているのは中国だけではない。インド、あるいはASEANのなかでも特にインドネシアやベトナムといった国々が急速に伸びている。かつてEUとアメリカそして日本という3局構造で捉えていた時代から、欧米社会および途上国といった時代になり、そしてそのなかでもアジアのポーションが一層大きくなっていく時代になる。これは大変重要なポイントだ。(23:22)
そして今後10年間で、世界には新たに10億の中間層が出現していく。そうした10億人の中間層とともにどう発展していくかという風に考えることが、日本外交にとって大変重要になると思う。我たちは小さい頃、「ご飯を残したらアジアやアフリカの貧しい人々に失礼でしょ?」と言われていた。しかし、恐らく我々が父親・母親として今言わなければいけないのは、「気を抜いてはいけませんよ」ということだ。何故なら、‘Asian and African people are starving.’でなく、‘They are starving for our job. ’だから。大競争時代のなか、彼らが我々の競争領域に入ってくる。そのなかでどのように外交を組み立てていくかが重要だ。(24:11)
そしてもうひとつ。これから明るい未来が待っているように見えるアジアで、実は安全保障や国防の問題が山積している。アジアにはそうした領域で国際関係を規定するような制度がヨーロッパと比べてもまったく未整備だ。特に気になるのが海洋安全保障を巡る問題。離島という言葉を聞くと「琵琶湖に排他的経済水域はあるのかな」なんていう発想になってしまうが(会場笑)、とにかくそうしたルールがアジアのなかで整備されていない。北朝鮮を含めた核兵器の問題も重大だ。この辺りの問題に10年スパンでどう取り組んでいくのか。そう考えるとやはりアジアには期待がかかる一方、非常に厳しい外交上のアジェンダがあると思う。 (25:08)
鈴木:神保さんがアジアのなかでも特に注目している国はあるだろうか。 (26:15)
神保:意外とASEAN諸国になる。数年前に行った、「10〜20年後に各国の軍事費はどうなるか」というシミュレーションでは、やはりアメリカが圧倒的で、そのあと中国がぐっと伸びてくるという結果が出た。だから、「他のアジアは米中2カ国にまったく追いつかないのでは?」と思っていた。従って「アメリカにしがみつくか中国に擦り寄るか」しかないと。しかしASEANとインドにおける国防費の伸びをすべて足してみると、中国における国防費の伸びとほぼ一緒になると分かった。 (26:38)
要するにアジアのなかで出来ることは非常に大きいということだ。仮に中国が我々の望まない方向へ行ったとき、アジアがまとまってコアリションを組めば中国政府に対する大きなプレッシャーになる。従ってアジア内部での協力というものに我々はもっと期待をかけて良いと思っている。 (27:31)
「課題解決が夢や希望に変わる。地方では人口減、高齢化に精一杯に抗っていく」(越)
鈴木:さて、ここまでいくつかの論点を提示していただいたが、今度はそのなかで僕らが今やるべきことは何かという議論したい。まずは目的を設定しよう。何をなすべきかだけを議論していても仕方がない。そうした目的とともに、今、私たちあるいは会場にいらっしゃる皆さんがなすべきかを順に伺いたい。 (27:58)
神保:今後10年で考えるべきことは、大きく言えば「パワーの世界で何をするか」という話と「制度の世界で何をするか」という話に分けられると思う。まずパワーの世界についてだが、先ほどお話しした通り、先進国と新興国のバランスが大きく変わってくる。従って、当然ながら先進国をリードするアメリカの役割は依然重要だ。日米関係とアメリカのアジア関与を今後10年も安定的なものにしていく。政治の世界でも常に言われている通り、これはひとつの座標軸として大変重要な課題だ。 (29:04)
で、それと同時に、今後伸びていく新興国をどれだけ日本の味方につけていくか。日本は相対的に力が低下していると言われているが、外交というのは一国でやるものではない。いかに味方をつけて自分たちのパワーを相乗的に伸ばしていくか。従って、伸びていく国々を日本の味方にしていく発想が欠かせないだと考えている。(29:47)
また、日本自身もパワーをつける必要がある。防衛の面でも外交の面でも日本が独自にやらなければいけない領域は非常に増えてきた。そこでしっかりプレゼンスを発揮して欲しいというのがパワーの世界におけるお話だ。(30:13)
一方、制度の世界も重要だ。たとえばシリア問題は現在大変深刻化していて、アサド政権は化学兵器を使ったように思われる。従って、「看過出来ないので武力行使止むなし」とのことで国連安保理にかける訳だが、恐らく中国とロシアは拒否権を投じると。イギリスとドイツも国内で反対にあっており、上手くマネージ出来ていない。(30:28)
何が言いたいかというと、アメリカは圧倒的なパワーを持っているものの、制度の世界では常任理事席の一議席を占める状態に過ぎないということだ。2003年、フランスがイラク攻撃に関してあれほど強硬に「安保理を通すべきだ」と言ったのも同じ理由になる。剥き出しのパワーではアメリカに絶対適わない。しかし安保理という制度のなかではアメリカとまったくのイコールステータスとなる。従って自分たちに有利な制度をつくるということが日本にとっても大変重要になる。(30:55)
戦後長らく続いてきた制度の多くは戦勝国および先進国のためものだった。しかしそれらが今、先進国と途上国のパワーバランスと大きなミスマッチを起こしている。これを解消しなければ制度の世界は成り立たない。パワーの世界がむき出しとなっている状態が日本にとって良いことではないのなら、日本は制度構築の面で積極的に加わらなければいけないと考えている。(31:40)
小泉:大事なのは20〜30代そして40代が、「これからの時代をつくるのは自分たちだ」という自覚を持つことだと思う。神保さんがおっしゃる通り、これからは激動の時代だ。日本にあれほど大きな地震と津波、そして原発事故が起きて未だ収束の目処がつかない状態になると、10年前に誰が予想したか。ビジネスの世界でリーマンショックのようなことが起きると、5年前に誰が予想したか。やはり分岐点に来ていると思う。サザンオールスターズが東アジア情勢について歌い、宮崎駿監督が零戦の設計者を題材にした映画をつくり、そして古市君が社会学者として「ももいろクローバーZ」と政治と歴史を語るという(会場笑)、そんな時代は今までなかったと思う。(32:16)
一方では民意というものがかつてないほど大きくなっている。シリアの問題で英キャメロン首相は武力介入を行わないと決断した。本来であれば議会に諮るという手段を取らずとも介入出来た筈だ。しかし国民や議会の意見を聞くという選択肢を敢えてとった結果、議会では反対のほうが多く、武力介入もなくなった。その民意の大きさ。アラブの春も…、今は春どころか冬の時代へ逆戻りというようになっているが、民意がそうした状況をつくったことは間違いない。(34:06)
しかし日本では投票率が軒並み下がっている。最近行われた横浜市長選では29%だ。また、これはかなり深刻だと思っているが、震災以降に被災地で行われた選挙でも軒並み投票率が下がっている。僕自身の感覚としては相当上がるだろうと思っていた。自分の街があれだけの災害に襲われた訳だ。その復興について真剣に考えたとき、票を投じるというアクションに変わると思っていた。(34:54)
しかし今被災地で起きているのは失望と諦めの蔓延だ。「誰がやっても変わらない」と。世界では民意が大きくなっているが、日本では国民の力が投影されていない。何故なら政治が信頼を失ったから。「期待をしたけれども何も変わらなかったじゃないか」という思いが相当強いのだと思う。(35:35)
これをなんとか変えていかなければいけないのがこれからの10年だと思う。続くビジネスや文化のセッションに繋がるよう、これはフロアの方々への問いという意味も含めて申しあげたい。私はこれからの時代、課題解決が夢や希望に変わるのではないかと思う。今までは、「何か大きなものをつくろう」「良い生活をしよう」というのが夢や希望であったし、国民が共同で目指していたような道だったと思う。(36:36)
しかし、これからは違うのではないか。もし白木(夏子氏・HASUNA代表取締役社長)さんが「稼ぎたい」と考えるだけであれば、敢えて入手困難なアクセサリー材料を求めて原産国を訪れる必要はない。税所(篤快氏・e-Education代表)さんも19歳でバングラデシュへ行ってビジネスをやる必要はない。何故そうした取り組みをするのかと言えば、自分たちの力を社会に還元したいという思いがあるから。僕らの世代はその思いが相当強いのだと思う。(36:48)
今、日本は数多くの問題を抱えている。たとえば人口減少や少子化の問題。また、健康長寿社会を実現しながらも、膨張する社会保障予算のなかで無駄なところをどうやって切っていくか。もちろん、原発の問題もある。合理的に減らすところは減らし、かつ原発の問題で避けられない雇用問題も解決しなければいけない。当然、日本の原子力産業は世界の原子力産業に組み込まれている訳で、外交関係が絡み合うこの問題をどうやって解いていくのか。(37:29)
そうした問題を一つひとつ解決していくことが、僕らの世代にとって夢や希望なのではないか。そのうえで、僕らよりも下の世代、10代や子供たち、そしてまだ生まれていない世代のために少しでも借金を減らしていく。そしてこれからの日本をつくるための自由度を高めた状態でバトンを渡していく。それがこれからの10年間で僕らの世代がやるべきことではないかと思う。(38:13)
越:課題解決が夢や希望に変わるというのはその通りだと思う。地方の課題は人口減や高齢化だ。今はそれに抗って人口増を目指しているが、具体的には子育て政策であり、「どうやって子供を産みやすく、育てやすい環境をつくっていくか」ということになる訳で、これは夢のある話だと思う。(39:18)
大津市では現在、国としても大きな課題と言われている待機児童問題の解消に取り組んでいる。保育園を増やし、女性が仕事を辞めなくても子供を持つことの出来る社会にして子供を増やしていきたい。それを解決すれば女性が働き続けられるという以外の効果も出てくる。労働人口が10年後にはおよそ3%減ってしまうと言われているなか、女性が働き続けることでそれを補うことが出来る訳だ。場合によっては労働人口増に転じることも可能だと思うし、そうした夢のある話に繋がると思う。38歳の私は現在、日本で最も若い女性市長だ。その私が出来ることとして、若い女性が働きやすい社会をつくっていきたい。(40:23)
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