エステー会長 鈴木喬氏 「社長の仕事—危機の時代のリーダーシップ」(講演) 

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鈴木喬氏(以下、敬称略):今日の演題に「危機の時代のリーダーシップ」などとありますが、僕のところの商売は、まぁ、年がら年中危機ですな。政府なんか何も助けてくれない。アベノミクスなんか関係ない。だから打たれ強いというか、打たれ弱いやつは皆、いなくなっちゃったんですね(笑)。どうってことないです。多少のことが起ころうと命までは取られない。そんな感じでございます。

まず、エステーという会社で私がどんなことをやっているのか。我々が掲げているのは「グローバル・ニッチ・No.1」です。ニッチというのは壁にある窪みなんですよ。世界一の窪みになる。壁に、なにかこう…、五寸釘か何かで“ちゃっちゃっ”と窪みをつくる。それでマーケットを築くんです。

たとえば「ムシューダ」という商品は防虫剤で世界一のシェアを獲得しています。冷蔵庫に入れる「脱臭炭」もそうですね。シェア70%で世界一。ウォルマート約3500店舗にも入っています。それから「米唐番」。こんなものをやる会社はほかにありませんな。これもシェア70%。あと、「ドライペット」。つくった当初は「空気から水をとってどうすんだ」と言われて、出荷よりも返品のほうが多かった。ぜんぜん売れなかったんです。でも今では水が貯まっていくのが確認できるから嬉しいと言われる。世の中、不思議なもんですな。情緒的な安心感というか、満足感を得ることが出来る商品なんです。

世界一でなくても2番目、あるいは日本で2番目にするんですよ。たとえば「消臭力」という商品。これ、13年前に出したときは馬鹿にされていたんです。「こんな普通名詞で商標登録なんて出来っこない」と、当時は皆に言われました。けれども「これは固有名詞なんだ。これで(商標を)取れ」って。それで取れた。まぁ、なんでも言ってみるもんですな。皆さん、下のやつがなんと言ったって、社長はとにかく無理難題を言わないと駄目だ。無理難題を言わない社長というのはたいしたことがない。

「はるオンパックス」というのもあります。これは使い捨てカイロです。これも日本で2番目、世界で2番目のシェア。使い捨てカイロなんて世界中でなかったんですよ。それから薄手のビニール手袋。安いゴム手袋は世界中にありますが、ゴムでアレルギーが起こる人のためにビニールを使っています。私はこれを北欧へひとりで売りに行って、すごく高いシェアをとりました。こういう商品は、まあ、はじめはだいたい空想から創り出していくんですね。それで「絶対に出来ない」と周囲に言われたら余計に「やってやろう」と。逆に、皆が「やろう」とか「出来る」と言ったら、これは危ない。

そんな感じでやっていますが、今日は三つの視点でお話をします。「1:世にないことをやる」、「2:社長は社長業をやる」、「3:心意気と算盤」。

「無理難題を言う。よく考えずに言うことが大事です。じゃなきゃ情が移って実行なんかできない」

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まず、「世にないことをやる」。普通のことをやっていたらエステーのような中堅企業は生き残れません。

今は約500名の従業員で売上高およそ500億の会社ですが、私が社長になったのは15年前で、そのときすでに63歳でした。それまでの私は「俺が世界で一番有能だ」と誤解して、あちこちで喧嘩ばかりしていた。喧嘩をすると出世の妨げになるから…喧嘩のやり方も時間があればレクチャーするけれども、その代わり高いですよ?(会場笑)。とにかく全員敵に回すと私みたいになる。で、63にしてやっと社長になって、そこから「全社員がらがらぽんだ。皆殺しだ」なんて言っていました。そんなことを言う人間だから、昔から皆に「あの野郎だけは社長にするな」と言われていたんです。ですから最近は「シンパをつくらんといかん」と、方向を変えているんですが。

とにかく、社長になった当時のエステーはバブルの延長で“いけいけどんどん”。「なんでも良いからたくさんつくって売る」という会社でした。だから「これは駄目だ」ってことでコンパクトで筋肉質な会社を目指しました。私は今でこそ少しぶよぶよになっていますが、当時は懸垂も15回ぐらいは軽く出来たんですよ。それで皆の前で裸になって懸垂をして「どうだ」って。連中に目にものを見せる訳ですね。とにかく戦略転換をしていった。

そもそも会社というのは何をするものなのか。「売上、利益、マーケットシェア、そして株価も高めて」って…、それだけではやってられませんわ。ちゃんちゃら可笑しい。まずは「固定客の創造と維持・拡大」ですよ。一見さんだけを相手に商売をいくら廻しても、そんなの回転ビジネスみたいなものです。かったるくてやってられない。

それよりも、まずは新製品を出して一見さんを虜にする。そうするとその人が「これがいいわ」と宣伝してくれます。私のところはほとんどが女性客ですから口コミでやってくれる訳ですね。それで固定客を、創造、維持、拡大していく。その無限循環運動をやっているんですよ。だから私どもの工場は製品をつくっている訳ではないんです。お客さまの信頼や、お客さまそのものをつくっているんです。

それともうひとつ。いつもイノベーションをやっている。皆に反対されたり、世間様に「絶対に出来ない」と言われるようなことがあれば、それを絶対にやってみせる。役員会で全員に反対されたりすると、もう嬉しくなって進めるんです。逆に全員賛成なら止める。だから最近は役員会も私の手口を分かってきて、「おっさんを凹ますには全員賛成でいくか」と、皆で談合していますが(会場笑)。

とにかく世にない商品をつくる。同じことをやっていたら価格競争になるんですよ。非価格競争をしなければ駄目。「脱臭炭」も当時は全員反対でした。冷蔵庫の脱臭剤はそれまで3社寡占状態で、そこに我々は13年前に最後発で入っていこうとしていた訳ですから。でも、「どうせ年中反対されるんだから」と。反対というのはリトマス試験紙みたいもので、私にとっては「やれ」というゴーサインです。

当時はバイヤーの方々にも「こんな黒いものを冷蔵庫に入れて、売れてたまるか」と言われてしまいましたが、私はその辺が得意なんですね。かつて日本生命保険(以下、日本生命)で企業保険のトップセールスマンだったから。どこにでも行って、土下座も厭いません。皆さん、これから独立して何かをやろうと思ったら、営業力がないと駄目。営業力のない社長なんて大抵ゴミみたいに弾かれちゃうね。「社長殺すにゃ刃物は要らぬ」という歌、知ってる?…そんな歌ないよ(会場笑)。私の話に誤魔化されちゃいけない(会場笑)。社員にも「社長、今朝言ったことと3時間後に言ったことが違います」と言われるから、「そりゃそうだ。お前、俺に騙されるようだったら、世間に出たら全員から騙される。そんなじゃ、やっていけんぞ」と言うんですよ。

で、非価格競争に持ち込むために、社員に無理難題を言う訳です。「脱臭炭」のときも、「いいか、2年後に発売するぞ」と言いました。「炭で一番良いのはなんだ?」と聞いたら「紀州の備長炭です」と言うから、「ならそれをつくれ」と。ただ、「それだけなら誰にでも出来る。使っていくうちにだんだん気化して、最後は炭の形となるようにするんだ。最後に落ちて、“カランコロン”と備長炭の音がするようにしろ」と。無理難題ですが、こっちは知ったことじゃないからね(会場笑)。「2年経って出来ていなかったら君は要らないよ」と言ったら死に物狂いでつくっていました。

それで2年後に出来るんですな。よく考えずにものを言うことが大事です(会場笑)。トップが考えていたら情が移って実行出来ません。社長は世間様の期待を一身に背負って、会社に戻ったら無理難題を押し付け、そして解決をしていく。こういうことをやらなきゃ駄目です。それが出来ないなら辞めたら良い。

商品に関する私の信念は、「聞いて分かる」「見て分かる」「使って分かる」。まずはネーミングから入るんです。ほとんど私がやる。多少デタラメでも良いから付けちゃう。それで次の日に「昨日のやつは全部でたらめ。止めた」とか言うんです。すると、「またおっさんにでたらめ言われちゃかなわない」と、皆が死に物狂いでネーミングを考える。名前を決めたらあとは簡単です。たとえば「消臭力」。「力があるような姿形にするんだ。ごっついやつをつくれ」ってね。「よく効くやつをつくるんだよ」と。だから「(消臭効力は当社比で)200%」と書いてある(会場笑)。とにかくそういう風に言うんです。中身は誰かが考えますから。

それから「見て分かる」。「米唐番」もそうでした。広告担当やら研究開発担当やら営業担当やら、70〜80人集まった場で「米が上手いよ米唐番、虫が来ないよ米唐番。どんどんひゃらら、どんひゃらら」と歌って、「今のがコンセプトだ」と。「え、どういう意味ですか?」と言うから、「うるせえ!」ってね(会場笑)。で、当時、どこかの雑誌の宣伝か何かで赤い唐辛子のぬいぐるみを着た人がチラシを配っていたのを見かけたんです。それで、「おい、ちょっといくらか出すから顔貸してくれ」と言って…、後で半分に値切っときましたが(会場笑)、会社に連れてきて、「皆、よく見ろ。姿形はこれだよ」と。見て分かる姿形が一番大事なんです。

あとは「使って分かる」。効果・効能がなければリピーターは生まれないでしょ?ただ、効果・効能だけでも売れない。心理的・情緒的な満足感がないと駄目です。だからすべて3〜4カ月で消えてなくなる商品にしています。鍋だの釜だのなんて縄文時代から売ってるって話になるし(会場笑)、固定客なんて増やせない。だから使っていくうちに減ることが、見て分かるようにする。

そんな風にグローバル・ニッチ・No.1を目指しています。世界一にならないと駄目なんです。今やまったく油断ならんですよ。当業界で世界一のグローバル企業が突然、参入してくる訳ですな。「こんにちは」とも言わずに(会場笑)。ああいうの、困るんだよね。100億〜200億ぐらいのマーケットにするっと入ってくるから、それでまた大喧嘩になる。なかなかラクにしてくれません。

「社長業は火消しの棟梁みたいなもの。先見力、人心掌握力、度胸・・・」

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次に、「社長とは何か」、「社長業とは何か」。社長業とは、要するに火消しの棟梁みたいなものです。「火事はどこだい、牛込だい」って言って、半鐘鳴らしてすっ飛んで来るでしょ?そして最終防御ラインの屋根に昇って纏(まとい)を持つ。纏で火を払う訳です。となると、その人に先見力がないと火にまかれて死んじゃう。社長も同じで、先見力を持っていないと駄目。それで火消し人足の連中が龍吐水をかける訳ですよ。ただ、昔の龍吐水なんてちょろこいからね。人足連中が「面白くねえから手抜きして棟梁蒸し焼きにしてやるか」なんて考えるようになったらたまったもんじゃない。だからリーダーシップも必要です。「オヤジのためなら火の中・水の中」と言わせる人身掌握力がいる。

それから度胸が必要ですな。そもそも「止める」「切る」「撤退する」というような、嫌なことを決断するのが社長の商売ですよ。良いことは誰にでも出来る。そこを勘違いする人が多いね。先日、ある会社社長に聞いたら、「支店長たちと毎晩一緒に、朝まで酒を飲んでる」と言うんですね。だから「そりゃ駄目だ」と。「そういうことをやるから次の日によたるんだ。朝会った部下に“お前気に入らねえから、今日からお家帰って寝ててくれ”ぐらいのことが言えなきゃ社長じゃないぜ」と僕は言いました。

じゃあ、そういうことを言えるようにするにはどうするか。遠交近攻です。私は新入社員を含む下の連中と付き合うんですよ。どこかのセクションに行けば、昼飯は必ず彼らと食べる。それで上の連中は皆「油断も隙もならねえ」と思って警戒します。そのぐらいビクビクさせると良いね。別に脅かしてる訳じゃないけど(会場笑)。

とにかく、そうでないと、「君の顔はもう見飽きたから、ちょっとお家に帰って何年か昼寝をしててくれ」なんて、なかなか言えないでしょ?「小事は情をもって決し、大事は理をもって処す」。そのためにもあまり近づくと駄目なんですよ。大事なのは社員との距離感。途方もなく遠いところにいるとクーデターを起こされて死んじゃいますが(会場笑)、この距離感が自分でやっていても一番難しいと思うね。

それともうひとつ。三つ目の話になりますが、「心意気と算盤」です。私は堀学長先生とすごくお会いしたかったんですよ。ベンチャーで大学院をつくるというのはすごいことですよ。ビジネスなら「止めた」と言って精算すれば基本的にはそれで終わりですよね。ところが大学院までつくってしまったら止める訳にいかないでしょ?これは恐ろしいことですよ。会場の皆さんも気合いは入っていると思うけど、学長先生ほどの気合いは驚異的だね。まさしく心意気だよ。私と同じだ。私なんて追いつかないけれども。

とにかくビジネスでは心意気と算盤の両方が大事です。算盤玉だけだと面白くない。社長である私の気持ちが続かないやね。月次決算、財務諸表、P/L、株価、シェア、etc…、こんなのばかりやっていたら5年ともたないね。それ以上もつ社長はだいたい手抜きをしてるよ(会場笑)。皆さんの親分を見てごらん。相当手を抜いているんちゃう?…そんなことないか(会場笑)。私が一番手を抜いている気もするけどね。ただ、心意気だけでやってしまうと今度はまたそれにのめり込んじゃうんだよね。算盤玉がどこかに行っちゃう。その典型的な例がありました。2年前の3月11日です。

エステーは私が社長になった15年前から、ミュージカルをプロデュースしているんです。私はミュージカルが好きで、まあ、道楽ですわ。ここ10年ぐらいは『赤毛のアン』をやっています。毎年8月、全国8大都市で公演を行なって、そこに毎年約2万人を抽選でご招待する。15年立っているから、延べ30万人。すべて無料です。

ところが3.11以降、困ったことになった。それまで、そういったミュージカルの子役は各都市からオーディションで選んでいたんです。そうすると、「自分の娘は将来アイドルに」と願っているお母さんたちにとっては貴重なチャンスだから、皆、エステーに応募してくる。応募してくるんですが、私たちも3.11で福島工場が被災した訳です。ほかにも工場はあったけれど、福島には春の新製品をつくる主力工場があった。だから売るものが無い状態になって、もう「潰れるかな」と。

それで経営企画の連中に「ちょっと算盤弾いてみろ」と言ったら、「1番悪いケース、2番目に悪いケース、普通のケースと、三つあります。で、1番悪いのはすぐに死んじゃうケースです」と言う。「え!?2番目は?」と聞いたら、「3年ぐらい再起不能のケースですね」と。で、「普通のは、50億ぐらいの赤字で死ぬ苦しみを味わうケースです」と言われました。それで、「まあ、しょうがねえな。そんときはそんときだ。(公演も)やろう。どうせ死ぬなら、このぐらいの金なら大したことない」と。それで8月に全国で公演をしました。仙台では役者さんが1日、ボランティアで残ってくれましたね。そこで追加公演をやって、被災者の子どもたちも呼んで大いに盛りあがりました。

ただ、震災直後は社員も皆、「社長、どうしましょう」という状態だった。こんなときはハッタリをかまさなきゃ。危機の時代のリーダーシップはハッタリでいくんです。それで「こういうことはいくらでもあるんだ」と言いました。よく考えたら僕は10歳から働いているんだよね。戦争で家が焼け、家で営んでいた雑貨屋も無くなった。でも親父が生命力のある人で、焼け跡から1〜2畳ぶんの掘っ立て小屋をつくった。で、一番下の弟だった僕も親父を手伝って戸板で露天商をやっていたんです。ポマードや石鹸やチリ紙を焼け野原で10歳から売っていました。こんなことをいうと怒られちゃうけれども、「あのときを思えばたいしたことない」と。あのときは日本中が焼けて三百数十万亡くなったのに、それでも日本は再建したんだから。

とにかく震災直後はそんな風にぶちかました。「駄目ならまた潰してゼロからやればいいんだ。皆はそのあいだ、どこかに務めてくれ。また呼ぶから」って。社員からすればたまったもんじゃないね。「え!?」っていう感じだったけれども、だいたいなんとかなるもんだ。なんとかするんだよ。会場の皆さんは経営企画等の部署にいる人が多いと思います。ただ、そういう立場でじっと算盤玉ばかり弾いているとペシミストになっちまうんだね。だけど、世の中は上手くしたもので、大抵は上手くいく。思い切り飛ばしてりゃ本当に上手くいくんだ。上手くしてみせるんだ。

「心意気というのは金にならないね。私は調子が良過ぎてどうも算盤玉を忘れてしまう」

うちには鹿毛(康司氏:執行役宣伝担当)という特命宣伝部長がいるんです。彼は元雪印(現雪印メグミルク)の人間で、以前、例の食中毒事件を扱ったNHKの特番で彼が社長を脅かしているのを見て、「あいつをとろう」と思いました。ただ、彼のことを調べてみると、もうどこかの外資に決まっていた。それで彼を一度蕎麦屋に呼び出したんです。何故蕎麦屋かというと、アテっていうか、オードブル一番少ないんだよ(会場笑)。で、そこで死ぬほど酒を飲ました。それで私も次の日死ぬかと思ったけど(会場笑)。

とにかく、「こいつをちょろまかしてやれ」と思ってね。「いいかお前、外資へ行ったら君の給料は2倍になるけど鈴木喬がいない。エステーに来たら鈴木喬はいるが給料は半分になる。どっちをとるのか」って。「もちろんエステーに行きます」ってことで(会場笑)。それで次の日しらふになってから「騙された」と言うから、「いい歳こいて騙されたはないだろ。騙されるほうが悪いんだよ」と言いました(会場笑)。

で、その彼が震災後、「今までのCMじゃ駄目だ。リスボンへ撮影に行きたい」と言う訳です。それで「よかろう。よく分かったな」と答えたら、「え?何の話ですか?」と言う。私は「知らないの?」って…、仰天したね。たまには歴史の本を読むべきだ。それで「リスボンでも1755年に大地震があったんだ。それでリスボン市民の1/3、6万とも8万とも言われる人が津波で亡くなった。その後1週間燃え続けたんだよ。知らないの?ゲーテの詩にも書いてあるだろ」と。ときどき本当のことを言ったほうが良いね(会場笑)。でも「ゲーテなんて読んだことないです」と言うから、「なんちゅう野郎だお前は」って脅かしておきました。やっぱり給料は半値で良かったよな(会場笑)。

そうして制作したCMを4月22日に放映したんですよ。ミゲル君が歌う「消臭力」のCMです。CMについては全権委任しています。絵コンテなんて見たこともない。視聴率も聞かないことにしています。視聴率なんてものは広告代理店の…、あ、会場にいらっしゃるとまずいか(会場笑)。でも、あんなの。私は投資効率を見ています。私の信念は「宣伝は儲かる」。いくら投資していくら儲かるか。その辺は割と厳しく見ますが、あとは何も見ていません。

エステーのルールはサッカーと同じなんですよ。イエローカード2枚で退場。「このステージは許す。次のステージが危ない」と。ステージはいつはじまっていつ終わるか分からない。で、それを決めるレフェリーが私だから皆は困っちゃんだけどね。まあ、「適当にやってろ」ってことですわ(会場笑)。で、とにかくそのCMを4月22日に放映した訳ですが、鹿毛が「社長、バッシングされますよ」と言う。だから「いいよ、バッシングなんて。命までとられねえ」と。あとで聞いたんですが、彼はバッシングが来たら辞めるつもりだったそうです。「そんなもの大したことないわ。よくあるこっちゃ。頭すくめてりゃ、そのうち通りすぎる」ってね。ま、あんまり続くと潰れちゃうけど(笑)。

で、確かに「潰れるかもしれない」とは思いました。皆が喪に服しているあのとき、平気な顔で「『消臭力』〜」なんて歌う訳だから。でも私はあのとき、「このままじゃ日本は駄目になる。皆、喪に服しちゃう。そんなものすっ飛ばさなきゃ」と思ったんですよ。だから東北への鎮魂歌と日本へのエールを送ろうと。「絆が云々だとか、聞いたふうなことは止めろ」と。我々の本業でやった訳です。

ところが、これがなんとCMの賞を独占しました。その年の「ブランドオブザイヤー」(CM総合研究所)にも輝いて、おかげさまで「消臭力」の売上も2割伸びました。何百万通という反響がありました。「エステーの野郎はふざけやがってふてえ野郎だ」と。ただ、「〜と思ったけれども」と続くんですね。「聴いているうち、なんだか妙に可笑しくて久しぶりに笑っちゃったよ」「どういうわけだか、久しぶりに心の底から泣けたよ」と。ほとんどの声が好意的でした。たまには博打を打つもんですな。

それともうひとつ。あのときは福島工場の心配もありました。だから「エアカウンター」という商品をつくった。何が怖いかと言えば、放射能ですよね。それで重電メーカーが放射線測定器を売ると思っていたんですが、どこも売ってくれない。日本では3社がそれをつくっていたんですが、すべて政府・東電に納めていたんです。しかもあれは何十万円もする。だから「それならつくっちゃえ」と。全員に反対されましたが、私は昔から趣味で色々なものをつくっていたんです。見様見真似で鉱石ラジオから真空管ラジオから、なんでもつくっていました。ポマードも石鹸も全部、自分で作った。だからエレクトロニクス担当者を集めて、「そんなもの出来っこない」と皆が言っていましたが、「観念しろ!つくれ」ってね。

大学の先生にヒアリングもしました。分からなくたっていいんですよ。「先生お願いします」と聞けばいい。そうしたら、「そうか。どこでもつくれないなら君のところでやるべきだ」と言われました。そういう先生や半導体メーカーを廻った。だいたい、ガイガーカウンターなんて嘘っぱちなんだ(会場笑)。真空管にArガスを入れただけですよ。120年も前の技術だ。あんなものは1000時間経ったら必ず1回壊れるんだから欠陥商品です。それより、日本は世界一の半導体国家であった訳だから、「よし、半導体でつくっちゃおう」ということになりました。

簡単ですわ。いかにもつくれるようなことを言ってアジり倒す。それで夏に出来ましたね。で、発表後は株価がストップ高になった。はじめは2万円くらいで売るつもりだったんですよ。そうしたら「2万円だと小さな子どもを持つ私たちは買えない。9800円にしてよ」という声がお母さんたちからあがってきた。それで「はい」なんて言っちゃって(会場笑)。

で、「まあ、そんなに売れないだろう」と思って出してみたら、なんと爆発的に売れちゃいました。「本当につくれるんだ」という話になると色々な人がさらに協力してくれて、しゃかりきになってつくりました。その次の小さいタイプのものは7900円で売りましたが、これも半値です。飛ぶように売れたから皆嬉しくなって一生懸命つくるから、困っちゃってね。もっと良いものをつくっちゃった。ドイツ製で300万円する線量計と同じものを2万円で「除染用だ」なんて言って売り出したんです。

だから心意気というのはなかなか金にならないね。私は調子が良過ぎてどうも算盤玉を忘れてしまうけれども、「まあ、しょうがねえなあ」と。ただ、おかげさまで全体の売上は9%伸びました。工場がないから利益は吹っ飛んだけどね。どうやって売ったのか自分たちでもよく分からない。私は社員に「石でも木でも売れ」といつも言っているんだけど、皆、本当に石でも木でも売っちゃったんじゃないかと思って心配になる(会場笑)。

あと、今は「クリアフォレスト」という事業をやっています。私はアウトドアが大好きで、山の中にいるとどうも元気になる。だからその元気の源を調べようと、研究員を何名か、博士クラスの一番優秀な連中を国の森林総合研究所に派遣しました。そうしたら科学振興機構が研究開発費を助成してくれた。私はタダじゃ何もやりません。日本国中を巻き込む。それで樹木の精水から空気浄化剤をつくりました。これでBBCからCNNから皆集めて、世界中の空気をきれいにするとぶち上げたい。「また安売りして損しちゃうんじゃないか」と、皆は心配しているみたいですが(会場笑)。

また、今は社長を女性にしています。で、これは私の基本的な信念ですが、社長は暴走するぐらいの権力を持っていないといけないんですよ。人の顔を見てやっているようでは駄目。ただ、暴走して社会的な問題を起こしても困るから委員会設置会社にしました。だから社外役員のほうが多い。社外が5人、社内が4人。社外5人のうち2人は女性です。人事総務の役員も女性ですね。彼女は曲がったことが大嫌いなもので、私をやたらと見張っていてすぐ脅かすんだよね。「俺だけは見過ごしてくれ」って言うんですが(会場笑)。IT部長も女性です。すごく女性優位型の会社です。

何故なら私どものお客さまは女性だから。社員にも「何故女性優位型なのか」とよく聞かれますが、「悔しかったらお前ら全員女になりゃいいんだ」って(会場笑)。「話は簡単なんだ」と。社長になった15年前、ある新聞記者に「全社員女性化計画」という話をしたら、「雇用機会均等法で逆にアウトだ」と言われましたが(会場笑)。

とにかく今は「空気をかえよう」ということで途方もないことをやっています。本当にマンガみたいなことをやっている。ただ、すぐ算盤玉が合わなくなるんですね。どうも、上手く行かないね。だけどしょうがない。企業は騒いでいないと、なにかこう、駄目になっちゃう。だから皆さんみたいに志を持ってやっています。堀学長のような志を持っている人、僕は大好きなんですよ。どんどん進むでしょ?私のとこはなかなか志と算盤が両立しないんだな。皆、俺んとこ来ない?給料は半値だけど(会場笑)。とにかくそういうことで、日本の社会の空気まで変えたいというのが我々の志です。「淀んだ空気を全部変えてやる」ってね。まあ、今日のお話は“ほら吹き喬”のほら話ですから、皆、このあと、ちょっとは私のことを叩いてよ?以上!(会場拍手)。

 

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